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道弁連大会

議案第3号(決議)

4会共同提案

消費者の視点に立つ社会を実現するための宣言

2009(平成21)年5月29日の参議院本会議にて,消費者庁関連3法案が全会一致で可決され,本年9月には消費者庁の設置が予定されている。地方消費者行政活性化基金など一定の財政的手当もなされており,地方消費者行政のある程度の拡充も見込まれる状況となっている。

しかしながら,消費者行政における制度的・財政的基盤を整えることだけで,直ちに全ての消費者問題がなくなるわけではない。消費者問題の解消のためには,消費者行政の拡充とともに,消費者自身の知識や能力の向上を図り,社会全体の意識も変えることによって,消費者の視点に立つ社会を実現する必要がある。

そこで,我々は,次のとおり宣言する。

  1. 「消費者教育推進法」(仮称)を制定し,消費者庁において消費者教育を総合的かつ計画的に推進する制度を整えることを国に求める。
  2. 消費者の権利が広く認識され,その権利を行使することが当然であるとの意識が共有される社会の実現を目指して,積極的に消費者教育や啓発活動に取り組む。
  3. 消費者と事業者との間に情報の質及び量,知識並びに交渉力に圧倒的な格差がある実態を踏まえ,裁判実務においても,そのような実態を前提とした審理や判断を求め,消費者事件の正当な解決を目指す。

2009年7月24日
北海道弁護士会連合会

提 案 理 由

  1. 近年,現代社会における取引はますます多様化・複雑化し,古典的な悪質商法のみならず,新たな類型の悪質商法や消費者問題が次々と出現している。その根底には,消費者と事業者との間の情報の質及び量,知識並びに交渉力の圧倒的な格差がある。このような格差を解消し,消費者が社会の発展と改善に積極的に参加する「消費者市民社会」を実現するためには,消費者教育が重要であり,消費者基本法においても,必要な情報及び教育の機会の提供を受けることが消費者の権利であると規定し(第2条),消費者教育推進のための施策を国及び地方公共団体に求めている(第17条)。これを受けて,政府が2005(平成17)年4月に閣議決定した「消費者基本計画」においても,消費者教育推進のための諸施策が講じられているところである。
    しかしながら,これまでのところ,消費者教育を総合的・計画的に推進するための制度が整備されておらず,現在の消費者教育は到底十分とはいえない。2008(平成20)年12月に内閣府より公表された平成20年版国民生活白書「消費者市民社会への展望−ゆとりと成熟した社会構築に向けて−」によると,学習指導要領によって本格的に消費者教育が導入されてからの若い年齢層においても,契約や悪質商法についての知識が不十分で,そもそも消費者教育を受けたという認識すら持っていない者が多数に及ぶなどの状況であり,教育方法について検討が必要であることが指摘されている(同書155頁)。
    そこで,消費者教育を総合的かつ計画的に推進し,「消費者市民社会」の理念を実現するために,日本弁護士連合会が2009(平成21)年2月19日付け「消費者教育推進法の制定を求める意見書」で提唱するような「消費者教育推進法」(仮称)を制定する必要がある。同法には,消費者教育を受けることが国民の権利であることを明記するとともに,自らの権利を守ることができるための知識や能力を育むこと,単なる商品・サービスの受け手ではなく能動的・主体的な態度を助長すること等の消費者教育の基本理念を定め,そうした理念に則った消費者教育を推進すべき国及び地方公共団体の責務などを規定すべきである。ただし,消費者が自ら主体的な消費生活を営むことが,消費者の権利が制限される意味での「消費者の責任」につながることは許されない。「消費者の責任」が対事業者との関係で捉えられてはならず,この点については消費者教育においても十分な配慮が必要であり,そうした誤った解釈がなされる危険が存在することからすれば,同法においては消費者の責務に関する規定は置くべきではない。
    従来,消費者教育は,内閣府国民生活局において担当されてきたが,学校教育を管掌する文部科学省や金融庁をはじめとする他省庁との関係等から,総合的・計画的な企画立案が行われていなかったという経緯がある。しかるに,2009(平成21)年5月29日の参議院本会議において,消費者庁関連3法案が全会一致で可決され,消費者庁の設置が決定された。消費者庁では,消費者問題の情報収集や分析・調査が一元的に行われるとともに,各省庁に分散している消費者行政を総合的に担うことが予定されている。そうすると,今後は,消費者庁が,自ら収集した消費者問題に関する情報を基に消費者教育に関する総合的・計画的な企画立案を行い,推進していくことが最も望ましい。
  2. 消費者教育とは,単に,契約ということの法律的意味を知らせたり,契約書等に署名・捺印することに注意深くなることを求めるだけに止まるものではない。消費者教育の最大の目的は,消費者としての権利があること,その権利を行使することが正当であることの意識や知識を育むことにあると言っても過言ではない。消費者が皆このような意識の下に行動することができるようになれば,自ずと消費者の視点に立つ社会の実現に向けて大きく前進することとなろう。
    しかしながら,現在の日本社会には,「うまい話に騙される方が悪い」,「法律を知らない方が悪い」などといった消費者の責任を過度にとらえる意識が残っていることを実感せざるを得ない。このような意識は,消費者に,相談すること,自らの権利を行使することを躊躇させるとともに,消費者問題を拡大し,深刻なものにすることにもなりかねない。消費者契約において,違法・不当な取引や,消費者の解約権が留保されている契約であれば,たとえ一度は意思表示をしたとしても,それを取り消し,解除し又は撤回することは消費者の正当な権利であるといったことが,広く社会の共通認識となる必要がある。
    前項で述べたとおり,我々は,「消費者教育推進法」の制定と消費者教育制度の整備を求めるものであるが,実際の消費者教育・啓発が内実を伴ったものとなり,また,消費者の権利とその行使についての共通認識を持った社会を実現するためには,専門家である我々自身が,教育・啓発の主体として参画していかなくてはならないことを自覚し,教育プログラムの作成,講演,市民集会その他の情報提供や他機関・団体との連携など様々な場面において積極的に関与していかなければならない。
  3. 消費者事件の裁判において,その取引の実態は,正しく裁判所に認識され,それに基づいた結論が導き出されているであろうか。
    すでに述べているとおり,現代社会における取引はますます多様化・複雑化し,新たな類型の消費者問題が次々と現れているが,その根底には,消費者と事業者との間の情報の質及び量,知識並びに交渉力の圧倒的な格差がある。これまでの消費者事件の裁判例において,この実態を反映しない判断がなされた事例が存在することは我々の実感するところである。
    このような事例をなくするためには,裁判所に,消費者取引の実態についての認識を持ってもらうことの必要性が指摘されよう。そのためには,我々が一つ一つの訴訟活動において,消費者取引の実態を裁判所に理解してもらい,事実認定と法律の適用に反映させるための努力を積み重ね,裁判所の認識を変えてゆくことが欠かせない。
    社会の複雑化・高度化に応じて様々な問題が生じてきた消費者事件の分野では,法律が明確に規定していない新たな問題も多く発生し,裁判の積み重ねによって社会におけるルールが定まっていく面がある。当初は消費者側にとって厳しい結果でありながらも,裁判が積み重ねられた結果,被害救済の途が開かれた例も少なくない。我々は,裁判実務においても,消費者の権利の実現を図り,消費者事件の正当な解決を目指して,熱意ある活動を続けていく決意である。

以 上

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