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道弁連大会

議案第1号(決議)

4会共同提案

裁判所支部の機能の充実を求める決議

裁判所は,法的紛争を解決し,基本的人権の擁護と社会正義の実現をはかる最後の砦であり,国民の裁判を受ける権利を実現する場であるから,地域住民が何時でも容易に利用できるような身近な存在であること及び地域住民の権利擁護を適正かつ迅速に行う機能を有していることが必要である。

ところが,北海道内の裁判所支部では,人的体制の拡充がなされていないため,裁判期日が入りづらい,配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律に基づく保護命令が速やかに出ない,成年後見人の選任に長時間を要する等の事態が生じている。また,裁判所支部の物的設備の充実も行われていないため,待合室が狭い,調停室が足りない等住民に利用しやすい裁判所とは言えない状況が続いている。さらに,近時,不動産競売事件や債権執行事件の本庁集約化,医療過誤事件や破産管財事件の本庁集中化が進められているほか,刑事事件では重大事件・合議事件などが本庁で起訴されるなど裁判所支部の機能はますます縮小化している。

このような裁判所支部の状況は,各地域の住民の裁判を受ける権利が十分に実現されていないと評価せざるを得ないほど重大な事態となっている。

当連合会は,2004(平成16)年すずらん基金を創設し,2005(平成17)年3月,すずらん基金法律事務所を開設して,司法過疎地に設立されるひまわり基金法律事務所への弁護士派遣や弁護士過疎地・偏在地で事務所を開設する弁護士の輩出を継続的に行ってきた。また,すずらん基金の目的を拡大して,過疎地における法律相談業務の拡大・充実をはじめ,司法過疎の解消にむけた具体的な取組みにすずらん基金を使用することを決定し,今後上記の取組みを精力的に行うことを予定している。ところが,裁判所の支部において人的物的体制の拡充が行われないばかりかその機能が縮小されている現状では,司法過疎の解消はなお困難であると言わざるを得ない。

よって,当連合会は,国会,政府及び最高裁判所に対し,司法予算を十分に確保し,裁判所支部において,裁判官等を増員するとともに物的設備を充実させ,本庁と変わらない機能を果し,もって地域住民の裁判を受ける権利を実現する措置を講じることを強く求める。

以上,決議する。

2009年7月24日
北海道弁護士会連合会

提 案 理 由

  1. 裁判所は,法的紛争を解決し,基本的人権の擁護と社会正義の実現をはかる最後の砦であり,国民の裁判を受ける権利を実現する場であるから,地域住民が,何時でも容易に利用できるような身近な存在であること及び地域住民の権利擁護を適正かつ迅速に行う機能を有していることが必要であることは言うまでもない。
    当連合会は,2000(平成12)年度定期大会において「裁判所の抜本的な改革を求める決議」,2001(平成13)年度定期大会において「国民の司法参加を実現し,裁判所の抜本的な改革を求める決議」,2002(平成14)年度定期大会において「『市民の司法』を実現するため,裁判所・裁判制度の改革並びに抜本的な予算措置を求める決議」を相次いで採択したが,これは,裁判所が,国民に身近で利用しやすいものであること,納得できる裁判が行われる場であること及び基本的人権の擁護と社会正義の実現を図る最後の砦であることを強く期待したからである。
    司法制度改革審議会が2001(平成13)年6月に発表した意見書において,司法基盤の拡充・整備を求める中で,裁判所の配置や裁判所の人的体制の充実が求められたのも,このような裁判所の役割を十分に果たすことが期待されたからである。
    また,当連合会は,2000(平成12)年度定期大会において「北海道における司法過疎の解消を求める決議」を採択し,司法過疎の早期解消のために裁判所の増設,裁判官の増員とその適正配置に必要な方策を立案・実施することを強く求めた。
    日弁連も,2005(平成17)年11月15日,司法改革の理念を実現するため,次の事項を要望する「裁判所支部の充実を求める要望書」を発表した。
    (1) 全ての地方裁判所及び家庭裁判所の支部に1名以上の裁判官を常駐させ,裁判官非常駐の裁判所支部をなくすこと (2) 非常駐の裁判所支部をなくすまでに時間がかかる場合は,過渡的な措置として,当該支部の開廷日,執務日を増やすこと (3) 現在1人以上の裁判官が常駐しており,極めて多忙である裁判所支部には,現数を上回る複数の裁判官を常駐させること (4) 裁判所支部における書記官・事務官の増員,調停室・待合室の拡充,エレベーターの設置など,裁判所支部の人的・物的基盤を充実させること (5) 地域住民の利便性及び当該地域の司法機能の強化等のため,裁判所支部の新設を含めた配置の見直し,管轄区域の見直しを検討するとともに,規模に応じて行政事件や上訴事件を取り扱うことができるように検討すること
  2. 2008(平成20)年12月,日弁連で開催された裁判所支部シンポジウムに向けて当連合会が管内の全ての弁護士会支部に所属する会員に行ったアンケートに対し,31名の会員から回答が寄せられ,その結果,北海道内の裁判所支部におけるさまざまな問題が明らかになった。
    (1) 第1に,裁判所における人的体制が不十分である点である。
    裁判所支部の裁判官は足りていると思うかという質問に対し,77%の会員が否定的な回答をしており,その理由として,裁判官が民事・刑事・家事の各事件を兼務している,期日が入りにくい,裁判官一人当たりの手持ち事件数が多い,民事調停・家事調停の成立時に裁判官が来るのを待たされる,裁判官が常駐していない,合議体を構成できない,多少複雑な事件だと本庁に回付される,DV法に基づく保護命令が速やかに出ず重大な結果が生じるのではないかという危惧がある等が挙げられている。また,日弁連が上記要望書を発表した2005(平成17)年12月以降改善されたことがあるかとの質問に対し,改善されたことがあると回答した会員は0支部,ないと回答した会員が9支部,不明と回答した会員が8支部であって,裁判所支部における上記問題が先送りされてきた実態も明らかになった。
    (2) 第2に,裁判所における物的設備の点である。
    裁判所支部の庁舎その他の設備に不便な点はあるかとの質問に対し,46%の会員があると回答しており,その理由として,エレベーターがない,接見施設がない,待合室が狭い,調停室が足りない,弁護士控室に相談室又は相談スペースがない等が挙げられている。また,2005(平成17)年12月以降改善されたことがあるかとの質問に対し,あると回答した会員は1支部,ないと回答した会員が8支部,不明と回答した会員が7支部であって,物的設備の問題についても先送りされてきた実態が明らかになった。
    (3) 第3に,裁判所支部機能の縮小化の点である。
    ① 裁判所支部で行政事件,簡裁控訴事件,労働審判ないし合議事件を取り扱わないことによる不都合があるかとの質問に対し,80%の会員が不都合があると回答しており,その理由として,本庁に出向く時間や労力が負担である,依頼者が裁判所の利用を諦めてしまったことがある,本庁が遠距離にあるため控訴を断念する可能性がある等が挙げられている。
    ② また,不動産執行事件を扱っていない支部は帯広支部及び北見支部以外の11支部,債権執行事件を扱っていない支部は帯広支部,北見支部及び根室支部以外の10支部があり,裁判所支部が不動産執行事件又は債権執行事件の取扱いをやめたことによる不都合として,執行事件は書式の形式が厳格なために細かい字句にまで訂正を求められており,これまでは支部窓口に出向いて訂正をしていたが,それが本庁まで出向くとなると申し立ての事務的なことにまで丸1日を要してしまう,財産開示手続などが事実上使えない制度となってしまった,申立費用がかさむ等が挙げられている。
    ③ 刑事事件の取扱いについて,全ての刑事事件を裁判所支部で取り扱っているとの回答は1支部の会員だけであり,他の支部は重大事件或いは合議事件等は本庁ないし最寄りの他の支部で取り扱われている。
    裁判所支部が重大事件,合議事件,身柄事件を取り扱わないことにより,被疑者・被告人又は弁護人に不都合な点が生じているかとの質問に対し,管轄内警察署に勾留されている被告人も本庁に起訴されるので弁護人の弁護活動に支障が出る,被疑者弁護から継続して弁護活動ができない,本庁が遠いので公判の準備に困難を来す可能性が高い,被告人が家族に面会しづらい状況におかれる,裁判員裁判が支部で実施されない等の回答がなされている。
    ④ 医療過誤,建築紛争その他の専門的訴訟や破産管財事件等について,裁判所支部での取扱いをやめて本庁ないし最寄りの支部に集中する動きがあるかとの質問に対し,8支部の会員があると回答している。
    また,本庁等に集中された結果生じている不都合については,片道自動車で2時間半かかる本庁に代理人・依頼者ともに出頭しなければならない,自然人の少額管財事件であっても遠距離にある本庁に申し立てしなければならず時間と費用がかかる,期日調整が不便である等の回答がなされている。
    ⑤ 裁判所支部は1990(平成2)年に,簡易裁判所は1988(昭和63)年に,それぞれ統廃合が行われているが,その際に廃止された北海道内の裁判所支部又は簡易裁判所で復活させた方が良いと思われる裁判所としては,函館地裁寿都支部のほか羽幌簡裁・広尾簡裁との回答があり,また新設した方が良いと思われる裁判所支部としては,函館地裁八雲支部,旭川地裁富良野支部,釧路地裁中標津支部,札幌地裁静内支部,同地裁倶知安支部との回答があった。
  3. 当連合会管内の支部会員を対象に行われた上記アンケート結果からうかがわれる裁判所支部の状況は,各地域の住民の裁判を受ける権利が十分に実現されていないと評価せざるを得ないほど重大な事態となっている。
    また,裁判所支部が抱えている人的体制・物的設備の問題及び機能縮小化の問題が当連合会管内だけの特有な問題ではなく全国的に改善すべき問題であることは,上記日弁連の支部シンポにおける報告によって明らかになっている。
  4. 当連合会は,2004(平成16)年にすずらん基金を創設し,2005(平成17)年3月にすずらん基金法律事務所を開設して,現在まで,9名の弁護士を司法過疎地に設立されるひまわり基金法律事務所へ派遣するとともに弁護士過疎地・偏在地で事務所を開設する弁護士の輩出を継続的に行っている。また,本年5月の理事会において,すずらん基金の目的を拡大して,過疎地における法律相談業務の拡大・充実をはじめ,司法過疎の解消にむけた具体的な取り組みにすずらん基金を使用することを決定し,今後上記の取組みを精力的に行うことを予定している。ところが,上記のとおり裁判所の支部において人的物的体制の拡充が行われないばかりかその機能が縮小されている現状では,司法過疎の解消の実現はなお困難であると言わざるを得ない。司法過疎の解消は弁護士・弁護士会の重要な責務であるが,弁護士・弁護士会だけで実現できるものではなく,国が裁判所支部の人的物的体制及び機能の充実を図り全国津々浦々の住民が等しく法的サービスを受けることができるようにすることによってこそ実現できるものである。司法制度改革審議会が,その意見書において,政府に対して,司法制度改革に関する施策を実施するために必要な財政上の措置について,特段の配慮をなされるよう求めていることが想起されるべきである。
  5. よって,当連合会は,国会,政府及び最高裁判所に対し,司法予算を十分に確保し,裁判所支部の裁判官等を増員させるとともにその物的設備を充実させ,裁判所として支部が本庁と変わらない機能を果すようにし,もって地域住民の裁判を受ける権利を実現するための措置を講じることを強く求める。

以 上

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