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道弁連大会

司法試験年間合格者数を現状から大幅に減員することを求める決議

当連合会は、政府に対し、司法試験年間合格者数を現状から大幅に減員するとともに、法曹人口を含む法曹養成制度のあり方について適切に検証し検討を続けていくことを求める。
 以上、決議する。

2015年(平成27年)7月24日
北海道弁護士会連合会

提案理由

  1. 法曹養成制度改革推進会議は、2015年(平成27年)6月30日、約2年間の協議を経て、「法曹養成制度改革の更なる推進について」を決定した(以下「推進会議決定」という。)。法曹養成制度改革推進室が同年5月21日に取りまとめた「法曹人口の在り方について(検討結果取りまとめ案)」において、司法試験合格者数について、法曹の輩出規模が現行の法曹養成制度を実施する以前の司法試験合格者数である1500人程度にまで縮小する事態も想定せざるを得ないとの認識を示す一方で、推進会議決定では、直近でも1800人程度の有為な人材が輩出されてきた現状を踏まえ、当面、これより規模が縮小するとしても、1500人程度は輩出されるよう必要な取組を進め、さらにはこれにとどまることなく、社会の法的需要に応えるために今後もより多くの質の高い法曹が輩出され、活躍する状況になることを目指すべきである、とされた。
    司法試験年間合格者数として1500人の数字が明示され、なお書きで法曹の質の確保を考慮せずに達成されるべきものでないと結ばれている点については、今後の取組を進めるにあたって一定の意義を認めることができる。
    しかし、司法試験年間合格者数を直ちに1500人にまで減員することの明言はなく、1500人に減員するにしてもその期限も明示されていない。

  2. 推進会議決定の実質的な根拠となったのは、法曹養成制度改革推進室が2015年(平成27年)4月16日に公表した法曹人口調査報告書である。同報告書は、2013年(平成25年)6月、法曹養成制度検討会議の取りまとめにおいて「このままでは法曹志願者が減少し、多様で有為な人材を法曹に確保することが困難となる危機に直面している」とされ、同年9月の閣議決定により設置された法曹養成制度改革推進会議が設置後2年間の法曹人口に関する調査を実施した結果に基づいて作成されたものである。しかし、同報告書の内容には特段客観的データの裏付けがなく、単にアンケート調査をもとに弁護士に対する需要の検討を行っているに過ぎず、具体的・現実的な潜在的需要とは言い難い。
    例えば、同報告書で示された市民における法的需要も、インターネット調査における分析では、トラブルで弁護士の相談を考えたことのある人は全回答者のうち20.7%、そのうち依頼しようと思ったが結局依頼しなかった人は54.7%であったことを前提に、依頼しなかった人については法曹に対する潜在的需要を有する市民が一定程度含まれていると分析する。しかし、依頼しようと思って依頼しなかった市民は全体の約11%に過ぎないばかりか、トラブルの内容が全く検討されていないため、これが弁護士による解決が必要とされる現実の法的需要であるか否かの分析が極めて不十分である。
    仮にこれが現実の法的需要であったとしても、それを顕在化させるためには、コストや証拠の偏在の問題など司法制度基盤の整備も合わせて検討されなければならないにもかかわらず、同報告書ではこの点の分析が欠落している。

  3. そもそも法曹人口の増員政策は、2002年(平成14年)3月に閣議決定された「司法制度改革推進計画」がその根拠となっていた。同計画では、今後、事前規制から事後救済型社会への転換に伴い法的需要が増加し続けるという予測のもと、当時年間1000人程度であった司法試験の合格者数を2012年(平成22年)ころには年間3000人程度とすることなどの目標が掲げられた。
    その後、司法試験年間合格者数は、2007年(平成19年)以降、2000人超で推移し、昨年度は1810人と若干減少はしたものの、2002年(平成14年)当時と比較して倍増した。しかしながら、上記計画において必要な増員を行うとされていた裁判官及び検察官数はいずれもほぼ横ばいのまま今日に至っており、その余の修習終了者は、ほぼすべてが弁護士となった結果、2001年(平成13年)に約1万8000人だった弁護士数は、2015年(平成27年)5月1日時点で3万6000人超とほぼ倍増した。

  4. 他方、訴訟事件数(地方裁判所及び簡易裁判所における新受件数(調停事件を含まない))は、2009年(平成21年)の89万3735件をピークに減少の一途を辿った。この2009年(平成21年)までの訴訟件数の増加も、いわゆる消費者金融に対する過払金返還訴訟事件の増加が主な要因であったが、同事件も既に収束に向かっており、現状では、上記新受件数は司法制度改革が始まった2001年(平成13年)以前の水準となり、2013年(平成25年)では48万1136件にまで減少した。
    また、全国の弁護士会が運営する法律相談センターなどにおける法律相談件数は、有料相談を中心に減少傾向を示している。日本司法支援センターが実施する法律相談(サポートダイヤル受電状況)も、34万件程度で頭打ちである。法律相談の無料化などにより、相談件数自体は一定程度増加したにもかかわらず、前述したとおり訴訟件数は増加していないのが実情である。
    さらに、組織内弁護士の採用数も、増加傾向にあるとはいえ、急増する弁護士数を吸収するほどの需要はなく、前掲法曹人口調査報告書においても、「法曹有資格者を採用しているか」との問いに対し、大企業においては76.2%、中小企業においては98.1%もの企業が「法曹有資格者を採用していないし、今後も採用する予定はない」と回答している。そのため、組織内弁護士の需要も顕在化しているとは言えない状況にある。
    地方自治体においても同様の傾向を示しており、同調査報告書では地方自治体の89.9%が「法曹有資格者を採用していないし、今後も採用する予定はない」と回答しており、地方自治体にも大幅な需要を見込むことはできない。

  5. このように法的需要は想定されたほど増加しなかったにもかかわらず、弁護士数のみが急増した結果、司法修習生の就職難が年々深刻化し、法律事務所に籍を置くだけで給与が支給されない軒先弁護士や弁護士登録後直ちに単独で独立開業することを余儀なくされる即独弁護士が急増しており、年を追うごとに司法修習終了者の一斉登録時における弁護士登録を見送る者も増加している。この就職難により、新人弁護士は、法律事務所の先輩弁護士から法律実務家としての技能や弁護士倫理を体得する機会を得られなくなり、法曹の質の低下も危惧される状況となっている。日本弁護士連合会(以下「日弁連」という)は、2012年(平成24年)3月に、「司法試験合格者数をまず1500人にまで減員し、更なる減員については法曹養成制度の成熟度や現実の法的需要、問題点の改善状況を検証しつつ対処していくべきである。」と提言した。総務省も、2012年(平成24年)4月に「法曹人口の拡大及び法曹養成制度の改革に関する政策評価」において、年間3000人の合格目標は未達成であるが、国民の立場からは、未達成による大きな支障は認められないとしただけでなく、現在の年間2000人の増員を吸収する需要の顕在化はなく、弁護士の供給過多により就職難が発生し、OJT不足による質の低下の懸念を指摘している。 また、法科大学院から司法試験合格までの学費、生活費の負担に加えて、司法修習生への「給費制」が「貸与制」に移行されたことで、新規登録時に多額の負債を抱える弁護士が生じている。
    そして、かかる状況を背景として、法曹として活動することへの魅力が低下しその結果、法科大学院の志願者数は年々激減し、2015年度(平成27年度)の法科大学院志願者数は1万0370人と、前年度の1万1450人を1000人以上(9.4%)も下回っている(本年6月8日に開催された中央教育審議会大学分科会第69回法科大学院特別委員会の資料より)。さらに、2015年(平成27年)法科大学院全国統一適性試験の志願者数(同速報値)も、第1回が3153人(対前年比12.4%減)、第2回が3541人(対前年比13.0%減)となっており、 同受験者数の実人数も前年比10%以上の減少となっていることが推察される。 今後、有為な人材が法曹界を目指さない状況が継続するならば、司法の崩壊を招きかねない状況にまで至っており、かかる極めて深刻な状況を踏まえ、2013年(平成25年)6月には、北海道議会においても「適正な法曹人口のための法曹養成制度の抜本的な見直しを求める意見書」 が全会一致で可決された。

  6. このような状況下においても、当連合会は、法的需要へのアクセス障害に対して率先してその解消に努めてきた。 北海道においては、地方裁判所の支部が設置されている地域に弁護士が不在であったいわゆるゼロワン地域が長らく存在していたが、2011年(平成23年)12月には、ゼロワン地域が解消された。
    すなわち、当連合会は、ひまわり基金法律事務所設置に尽力することと並行して、2004年(平成16年)2月に、弁護士過疎地域において業務を行う弁護士の育成と確保を図ることにより北海道民などに対し弁護士による法的サービスを提供することを目指し、道内の全会員から特別会費を徴収して「すずらん基金」を設置するとともに、2005年(平成17年)3月には「弁護士法人すずらん基金法律事務所」を設置して人材を育成しており、ゼロワン地域の解消もこうした取組を続けた所産であると評価されている。
    これらは、当連合会が制度として実現したものであるが、司法過疎問題の解消は、司法試験合格者数を増加させることによって実現しうる問題ではなく、制度と財政的裏付こそが必要なものである。
    当連合会は、法曹人口問題に関わりなく、日弁連と共に、今後も引き続き適時に必要な制度や財政的支援を行い道内における司法過疎問題や弁護士アクセス問題に取り組む所存である。
  7. 日弁連が、司法試験合格者の急増のため現場の問題が深刻化した事実と時期を踏まえ、「法曹人口政策に関する提言」において、まず司法試験年間合格者数を1500人にまで減員すべきであると提言したのは、すでに3年前の2012年(平成24年)3月のことである。そして、同提言は、さらなる減員について、法曹養成制度の成熟度や現実の法的需要とともに、新人弁護士の就職難や法曹の質の低下の懸念、さらには法曹志望者の減少傾向の歯止め等の観点も含めた問題点の改善状況を検証しながら対処していくべきであるとしているところ、この3年間、司法試験年間合格者数が1500人を大きく上回ったことにより、就職難は拡大し、法曹の質の低下に対する懸念の憂慮は続き、とりわけ法曹志望者の減少傾向には全く歯止めがかかっていない。
    推進会議決定は、法曹志望者が激減している状況において、十分な解決策となるものではない。既にOJTを確保する形での新規登録弁護士の受け入れが困難な状態のもとで、司法試験年間合格者数を現状(2014年度の合格者数は約1800人)のまま維持することは、今後もより一層の法曹離れを招くだけである。上記第5項の弁護士数が急増したことに基づく歪みを解消するためには、速やかに司法試験年間合格者数を現状から大幅に減員するほかない。
    法曹人口を含む法曹養成制度のあり方は、その成熟度や現実の法的需要、司法制度基盤の整備状況、問題点の改善状況等を検証しつつ検討されるべきであるが、まずは司法試験年間合格者数が現状から大幅に減員されなければならない。

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