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道弁連大会

犯罪被害者支援に携わる関係機関・団体、専門家との連携をより強化し、支援の充実をめざす宣言

当連合会は、犯罪被害者の置かれた状況や心理等への理解を更に深め、犯罪被害者に対する支援をより充実させるため、各弁護士会相互の協力・連携を構築し、犯罪被害者の支援を行う関係機関・団体、専門家とのより緊密な協力・連携体制を構築することをここに宣言する。

2016(平成28)年7月22日
北海道弁護士会連合会

提案理由

  1. 犯罪被害者への多様な支援の必要性について
     犯罪被害者は、自己の意思に反して、ある日突然犯罪に巻き込まれ、生命や身体、性的自由など重要な基本的人権を侵害される。
     それまでの平穏な生活が失われ、事件後の生活への不安感、無力感、絶望感に苛まれるなどして、事件による直接の被害のみならず、被害の後遺症ともいうべき様々な身体的・精神的・経済的な負担を背負う。
     こうした犯罪被害者の権利利益の保護を図るため、2004(平成16)年には犯罪被害者等基本法が成立し、2005(平成17)年12月に犯罪被害者等基本計画が閣議決定され、2007(平成19)年6月20日には被害者参加制度、損害賠償命令などを含む犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事訴訟法等の一部を改正する法律が成立するなど、法制度は拡充されるに至った。特に性犯罪においては、告訴期間の撤廃がなされ、性暴力被害者支援センター北海道による性暴力被害者専用の相談窓口が開設された。さらに、本年5月27日の総合法律支援法の改正により、法テラスによる相談の対象がDVやストーカーの犯罪被害者にまで拡大された。
     かかる法制度により、犯罪被害者がその心情や意見を直接裁判の場で訴えることができるようになり、証人尋問の際の付添や遮蔽措置が認められる等、刑事裁判における犯罪被害者の地位はある程度向上している。また未だ多くの課題は残すものの、犯罪被害者給付金制度や損害賠償命令制度等の経済的回復に関する制度も設置され、犯罪被害者への法的支援は一定程度拡充しているところである。
     しかし、犯罪被害者を真に支援するためには、このような刑事司法における地位や経済的回復に関する法制度の拡充だけでは十分とはいえない。
     特に性犯罪被害は「魂の殺人」ともいわれるように、その精神的被害は極めて甚大であり、被害後もレイプ外傷症候群(いわゆる「RTS」)とも呼ばれる後遺症(鬱、解離性障害、性障害、摂食障害や、自殺念慮等)に長期間にわたり苦しむ。
     それにもかかわらず、性犯罪被害者に対しては、挑発的な服装や行動など被害者側に落ち度があるのではないか、必死に抵抗しなかったのは同意していたからだなどといった、いわゆる「強姦神話」と呼ばれる偏見や誤解の目が向けられ、そのような偏見や誤解に基づく対応が刑事民事上の手続においてなされることにより、さらにその精神的被害が拡大する場合も存在する。
     また、誰にも知られたくない思い出す度に苦しくなる事実を、それを話さなければいけない理由も十分に説明されないまま、警察、検察、裁判所それぞれに繰り返し話さなければならず、マスコミによって事実と異なる報道がなされ、そのことでいわれのない中傷をインターネットで受け、一番身近にいて守って貰いたい人から落ち度がないにもかかわらず落ち度があると指摘されるなど、多くの二次被害を受ける。
     このように様々な問題を抱えた性犯罪被害者は、事件発生直後から、被害事実を捜査機関に申告するか、治療の費用をどのように確保するか、身体的・精神的な安全をどのように確保するか、今後の就労や生活をどのように維持するか、マスコミ取材やインターネット上の中傷などに対する様々な対応や、それに伴う緊急かつ難しい判断を迫られる。
     以上のような状況にある性犯罪被害者を真に支援するには、民事刑事の裁判手続における支援だけではなく、長期間にわたる精神的ケア等の専門的かつ多様な支援が必要不可欠である。そして、かかる多様な支援の必要性は、性犯罪被害者のみならず、犯罪被害者全般にも当てはまるものである。 通常の状況であっても、一人の人間が一度にそれらの対応や判断を行うのは困難であるが、犯罪被害者においては、犯罪そのものによって強い精神的衝撃を受け、畏怖や怒り、不安感、無力感、絶望感、後悔、自責の念に苛まれるなどの混乱状態にあるため、冷静な判断や的確な対応は極めて困難である。
     さらに、被害から相当期間経過後も、加害者側の無資力により犯罪被害者の経済的な損失が解消されないことが大半である。経済的に困窮したり、さらに心的外傷後ストレス障害(いわゆる「PTSD」)などの後遺障害に苦しむ犯罪被害者も多い。時には、被害時も被害後も社会から守られなかったことを理由として、社会への信頼自体を失う犯罪被害者もいる。
     このような犯罪被害者が直面する課題は多岐にわたるものであり、犯罪被害者が自己の尊厳を回復し、再び日常生活を取り戻すためには、犯罪被害者自身の自助努力と時間の経過だけに任せるのではなく、司法の枠を超えた、被害直後から相当期間にわたる多様な支援が必要不可欠なのである。
  2. 弁護士会相互の協力・連携構築の必要性
     北海道は広域であり、その中に4つの弁護士会が存するという他都府県にはない地理的特徴を有する。また、北海道警察本部の管轄地域には、各方面本部の管轄と各弁護士会の管轄が交錯している地域も存する。
     かかる特徴の下、各弁護士会は各地域の関係機関・団体とそれぞれの方法で連携している状況であり、弁護士会ごとの相互の情報共有はなされてはおらず、一部の弁護士による個別の人脈でつながっている場合が多い。
     しかしながら、犯罪被害者に対する多様な支援を実現するためには、北海道内において、各弁護士会が経験交流や意見交換を行い、支援活動で得た経験を研修で報告するなどして、犯罪被害者の心理や被害の実態等に精通する弁護士を増やし、弁護士間の情報共有及び連携体制の運用のシステム化を図っていく必要がある。
     また、現状では、全道を対象に活動する関係機関・団体に対して、各弁護士会ごとにしか働きかけを行うことができず、提言や立法に向けた活動、連携体制の構築を行うことは困難である。例えば、北海道は犯罪被害者支援等の施策に関する条例を未だ制定していないが、北海道に対して早期の経済的支援等を内容とする条例の制定を求めるためには、弁護士会としても全道的に連携をとる必要がある。
      更に、犯罪被害者が居住地から離れた場所で犯罪被害に遭った場合や、犯罪被害者や遺族が複数存在する場合には、犯罪被害者が居住地から離れた地域で捜査・公判手続に応じなければならない場合がある。
     このような場合に犯罪被害者の負担を少しでも軽減するため、管轄の警察・検察庁との折衝や公判活動・傍聴を行う弁護士と、犯罪被害者の身近にいて各種貸付制度や生活保護制度を利用するための援助をしたり、マスコミ対応をしたり、公判準備のために犯罪被害者と入念な打合せを行う弁護士とで役割分担をした支援が必要な場合もある。
     このように、多様な犯罪被害者支援を実現するためには、犯罪被害者支援に理解のある弁護士を増やし、4つの弁護士会が連携して活動していく体制を構築していく必要がある。
  3. 関係機関・団体との連携の必要性
     犯罪被害者に対しては多様な支援が必要不可欠である。犯罪被害者にとって望ましいのは、個別具体的な事情に合わせて、速やかに適切な専門家につながることができ、各分野の専門家がそれぞれの分野で最も実効性のある犯罪被害者支援を行うことである。そのためには、関係機関・団体とのネットワーク作りを行って、連携のシステムを構築する必要がある。
     このような関係機関・団体との連携について、犯罪被害者等基本法が、前文で「国、地方公共団体及びその他の関係機関並びに民間の団体などの連携の下、犯罪被害者等のための施策を総合的かつ計画的に推進する」と宣言している。そして、実際に連携がなされている例もある。神奈川県では、2009(平成21)年6月に「かながわ犯罪被害者サポートステーション」が開設され、神奈川県、神奈川県警察、民間支援団体の三者が一体となって運営している。そこでは三者が情報を共有しながら犯罪被害者等の支援にあたり、法律相談に臨床心理士等が同席するなどの連携がとられているが、北海道においてはこのような連携体制がなく、未だ不十分な状態である。
     この点、犯罪被害者の迅速な支援という観点からは、被害発生直後に犯罪被害者が相談を行う捜査機関、各種相談機関及び児童相談所等と弁護士とが連携することが効果的である。具体的には、連携することで、相続に伴う諸手続(名義変更や、資格喪失、健康保険の葬祭費請求や遺族年金の請求、死亡保険金や死亡退職金などの請求)、高額療養費や入院給付金等の請求、相続放棄や債務整理の問題、マスコミへの取材自粛要請、犯行現場の確認や入通院の付添、事情聴取への同行等について早期に対応することが可能となる。
     また、犯罪被害者の総合的な支援という観点からは、弁護士が警察・検察庁等の捜査機関、犯罪被害者を診察した病院・医師・看護師、生活支援のための自治体の保護課、保健センター等の関係機関、さらには犯罪被害者特有の精神的不安を軽減するための精神科医や臨床心理士やカウンセラーなどの専門家と相互に連携し、必要な協力を求め合い情報を共有する必要がある。
     このように、犯罪被害者の総合的な支援のためには、幅広い分野の関係機関・団体や専門家と緊密に連携することが重要である。
     そして、刑事・民事・行政いずれの法的手続にも精通している弁護士は、官民の垣根を越えて関係機関・団体、専門家に働きかけを行い、適正かつ円滑な協力・連携体制を調整し、切れ目のない支援を行うために積極的な役割を果たすことができる。
  4. まとめ
     犯罪被害者がその被害から立ち直り、人間としての幸福を求めて再び歩み始めることができるように、犯罪被害者の支援を充実させることは、単に一人の犯罪被害者の基本的人権の尊重の観点から必要であるばかりでなく、国民の司法に対する信頼を高め、社会全体の利益につながるものである。
     弁護士が犯罪被害者に寄り添って支援を行う場面は多様であり、また、関係機関・団体、専門家との連携においても弁護士の果たす役割は大きく、そのネットワーク作りにおいて重要な役割を果たすことが期待されている。
     当連合会は、以上のような認識に基づき、北海道内における犯罪被害者が等しく充実した支援を受けるために、各弁護士会相互において、その協力・連携を強化させるための必要な諸施策を講じ、犯罪被害者の支援を行う関係機関・団体、専門家とのより緊密な協力・連携体制を構築することをここに宣言する。

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