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道弁連大会

議案第1号(決議)

4会共同提案

日本国憲法の基本原理の堅持とさらなる実践を求める宣言

日本国憲法は、本年5月3日に施行60年を迎えた。憲法のもとで、主権者であるわれわれ国民は、基本的人権が尊重され、平和のうちに暮らすことのできる社会の実現を目指してきた。しかし、憲法の精神が定着した社会の実現は未だ不十分であり、昨今においては憲法の基本原理に逆行する状況が生じている。

平和の問題をめぐっては、ここ10年間に、周辺事態法、テロ対策特別措置法、イラク復興支援特別措置法などが次々と制定され、自衛隊の海外派遣がなされるとともに、国内では武力攻撃事態法をはじめとする有事法制三法、国民保護法などの有事関連七法等が制定されるなど、有事に備えた体制作りが進められ、恒久平和主義が大きく後退する状況が出現している。

人権をめぐる状況としては、犯罪捜査のための通信傍受に関する法律(盗聴法)の制定等による監視社会が出現し、また教育基本法の改正により教育現場の自主性・自律性が失われる懸念が生じていることに加え、近年、公立学校の現場における国旗掲揚や国歌斉唱に関しての不利益処分を伴う強制や、政治的意見に関するビラを投函した者に対する逮捕・勾留・起訴など、思想・信条の自由や表現の自由等に対し公権力が不当に介入するという事態が発生している。更に、生活保護の受給資格等の制限的運用にみられるような福祉国家の役割の後退や経済的格差の拡大という問題も生じており、国民が健康で文化的な生活を送ることすら危ぶまれている。

憲法改正をめぐる状況としては、本年5月14日、「日本国憲法の改正手続きに関する法律」が制定されたが、最低投票率の定めはなく、公務員や教育者の投票運動を制限したり、発議から投票までの期間が短いなど、当連合会がこれまで二度にわたる定期大会決議で指摘してきた国民主権及び基本的人権の尊重の原理からみた法案段階での多くの問題点が何ら解消されておらず、抜本的な見直しがなされる必要がある。

そして、ここ数年、政党、財界、新聞社などから改憲案が提示されてきているが、それらの中には、国民の「国や社会を自ら支え守る責務」、「公益」及び「公の秩序」による国民の自由及び権利に対する制限などを設けているものがあり、そのような改正がなされれば、憲法が国家権力を制限して主権者である国民の権利を実現するという立憲主義の理念が大きく変容させられる虞がある。また、改憲案の中には、戦力の不保持と交戦権の否認規定の削除、自衛軍の保持の明記、自衛軍の国際紛争への参加の容認、軍事裁判所の設置といった規定を設けているものがあり、そのような改正がなされれば、恒久平和主義の原則そのものが崩れる危険性がある。

このような状況に鑑みれば、憲法は、その基本原理までが大きく変容させられる危険性が生じており、まさに重大な岐路に立たされている。

今求められているのは、立法、行政、司法、地方自治の中で憲法が生かされ、社会の隅々にまで憲法の精神を浸透させることである。

当連合会は、憲法施行60年を迎えた今こそ、憲法の基本原理である国民主権、基本的人権の尊重、恒久平和主義と、その根底にある個人の尊重、法の支配、立憲主義が堅持・実践されること、そして、21世紀が、全世界の人々に平和のうちに生存する権利が保障され、恒久平和が実現される世紀となることを求めて、全力を尽くすことを誓うものである。

以上のとおり、宣言する。

2007年7月27日
北海道弁護士会連合会

提 案 理 由

  1. 国民主権、基本的人権の尊重、恒久平和主義を基本理念とする日本国憲法は、本年5月3日に施行60年を迎えた。
    この60年間、憲法が、民主的で平和な社会の実現に果たしてきた役割は極めて大きなものがある。われわれ国民は、憲法のもとで、主権者として自由闊達に政治や社会のあり方について議論し、また戦争に巻き込まれることなく平和を享受してきたものであり、まさに憲法により支えられ育まれてきたといってよい。
    しかしながら、すべての人が、個人として尊重され、人権が保障されて、平和で安全な社会のもとで、健康で文化的な暮らしを送りながら、幸福を追求していくことができるという憲法の目標は、未だ実現されるには至っていない。
    それどころか、近年、憲法の理念や基本原則を揺るがし、あるいは大きく後退させるような動きが生じてきており、憲法が保障する自由と権利を国民の不断の努力によって保持することの重要性が、今改めて認識される状況にある。
  2. 憲法は、わが国が植民地支配と第二次世界大戦によりアジア諸国をはじめとして内外に多大な惨禍を与えたことに対する反省と教訓に基づいて、全世界の国民が平和のうちに生存する権利を有することを確認し、戦争の放棄のみならず、戦力の不保持、交戦権の否認を定め、徹底した恒久平和主義をとることを宣言した。この恒久平和主義は、武力によらない世界の平和の実現をめざすものとして、世界に誇りうる先駆的な意義を有し、世界的にも高い評価を得ているものである。
    ところが、わが国の平和をめぐる状況をみると、1999年5月に周辺事態法をはじめとする新ガイドライン関連法、2001年10月にテロ対策特別措置法、2003年7月にイラク復興支援特別措置法などが次々に制定され、2004年1月には自衛隊がイラクに派遣され、いまだに航空自衛隊がイラクに派遣された状態が続いている。
    また、2003年6月に武力攻撃事態法をはじめとする有事法制三法、2004年6月には国民保護法などの有事関連七法案と三条約が成立し、国民保護法に基づき自治体レベルでの国民保護計画の策定がなされ、有事に備えた体制作りが進められつつある。
    これらの現状は、憲法が定める恒久平和主義を大きく後退させるものと指摘せざるを得ない。
  3. 人権をめぐる状況としては、2000年8月に施行されたいわゆる盗聴法(犯罪捜査のための通信傍受に関する法律)にみられるように、社会の安全を図るという名目のもとにいわゆる監視社会が出現し、個人のプライバシーが侵害される危険性が生じている。
    また、2006年12月の教育基本法の改正及びそれに伴う本年6月の教育改革関連三法案の制定に伴い、教育現場の自主性・自律性が失われる懸念が生じていることに加えて、近年、公立学校における教職員に対し国旗掲揚や国歌斉唱に関し不利益処分を課することによって強制しようとする動きや、2004年2月に自衛隊のイラク派遣反対のビラ配布のために自衛隊官舎の敷地内に入った立川テント村のメンバーが住居侵入罪で、また同年3月休日に新聞を配布した社会保険庁職員が国家公務員法違反で、それぞれ逮捕、起訴された事件が生じていること等、思想・信条の自由や表現の自由といった精神的自由に対し公権力が不当に介入するといった重大な事態が発生している。
    更に、失業や不安定就労、低賃金労働の増大等による生活困難者、多重債務者、自殺者の増大にみられるような貧困や格差の増大と、このような状況下での生活保護の受給資格等の制限的な運用などのもとで、健康で文化的な最低限度の生活すら維持できない人々が増加しているという由々しき事態も生じている。
  4. 憲法改正をめぐる情勢としては、去る5月14日、憲法の改正手続を定める憲法改正国民投票法(日本国憲法の改正手続きに関する法律)が制定された。当連合会は、一昨年の定期大会で「憲法の基本原則に違背する憲法改正国民投票法案の国会提出に反対する決議」を、また昨年の定期大会で「憲法の基本原則に抵触する『憲法改正国民投票法案』の成立に反対する決議」をそれぞれ採択し、国民主権と基本的人権の尊重という憲法の基本原理からの問題点を指摘してきたところであるが、今回の憲法改正国民投票法の制定にあたっては、衆参両議院での審議が十分に尽くされたとは言い難いうえ、その内容については、最低投票率が設けられていないこと、公務員や教育者の投票運動の規制を設けていること、憲法改正の発議につき個別条文ごとを原則とすることが明記されていないこと、投票期日が発議から60日以降180日以内とされ十分な期間が確保されていないこと等、国民主権及び基本的人権の尊重の原理からみて重大な問題点が存在する。
    参議院では、付帯決議がなされ、そこでは、低投票率により憲法改正の正当性に疑義が生じないよう最低投票率制度の意義・是非について検討すること、国民投票広報協議会の運営に際しては客観性・正確性・中立性・公平性が確保されるように十分留意すること、公務員等及び教育者の地位利用による国民投票運動の規制については意見表明の自由・学問の自由・教育の自由を侵害することとならないよう基準と表現を検討すること等、当連合会がこれまで指摘してきた問題点に関するものが含まれている。このような付帯決議がなされたこと自体、問題点を解消するための十分な審議がなされず、重大な問題点が残存したまま法案が採決されたことを示すものである。
    同法は、附則で、憲法改正の発議は3年間は行わないと定めているが、この間に、同法の問題点について国民各層からの意見を集約し、国会においてさらなる審議を行って、同法の抜本的な見直しが図られるべきである。
  5. また、2005年10月に発表された自民党の新憲法草案など、近年、政党、経済界、新聞社などから、憲法改正に向けた意見が表明されている。
    これらの改憲案の中には、国民に「帰属する国や社会を愛情と責任感と気概をもって自ら支え守る責務」を定めたり、国民は「常に公益及び公の秩序に反しないように自由を享受し、権利を行使する責務を負う」と定めるなど、憲法を、国家権力を制限する規範にとどめず、国民の権利を制限し義務を課すための規範とするという見解に立っているものがあり、このような改正がなされるならば立憲主義の理念が大きく変容し、国民の基本的人権が侵害されることにつながる危険性がある。
    さらに、改憲案の中には、憲法第9条2項の戦力の不保持や交戦権の否認規定を削除して、自衛軍の設置を明記し、自衛軍が国際紛争へ参加することも容認し、さらには下級裁判所として軍事裁判所を設けるといったものが見られ、このような改憲が実現されたならば、恒久平和主義の原則そのものが崩れる危険性がある。
    従って、これらの改憲案が実現されたならば、憲法との基本原則等との関係でどのような問題が生じてくるのかについて、国民の中で十分な検討と議論がなされなければならない。
  6. 以上のような現状をみると、憲法は、今まさに重大な局面にあり、基本原則そのものすら変容、あるいは大きく後退する危険性がある。
    今求められていることは、立法、司法、行政、地方自治の中で、憲法が生かされ、社会の隅々まで憲法の精神が浸透することである。
    当連合会は、本年4月、憲法問題に関して調査・研究・提言や市民に対する適切な情報の提供等を行うために憲法委員会を設置したところであり、憲法施行60年を迎えて、憲法の基本原理である国民主権、基本的人権の尊重、恒久平和主義、そしてその根底にある個人の尊重、法の支配、立憲主義が堅持・実践されること及び全世界の人々が平和のうちに生存する権利を保障する憲法の崇高な理念が実現されることに向けて、全力を尽くす決意である。
    よって、宣言案のとおり宣言することを提案するものである。

以 上

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