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道弁連大会

議案第3号(決議)

裁判員裁判3年後検証に関する決議

  1. 裁判員裁判についての3年後検証は、我が国の刑事裁判に裁判員裁判を導入した趣旨、すなわち、刑事裁判を憲法の本来予定する姿(「無罪推定」の原則を厳格に貫くことなど)へ転換させること、重大な刑事事件の事実認定等に国民の健全な社会常識を反映させること、及び多数の国民が裁判員として司法に携わる経験を積むことによって司法に対する国民の理解を深め信頼を高めること、を踏まえてなされるべきである。
    そして国会、政府、最高裁判所は、裁判員裁判における被疑者、被告人の防御権の保障を確立し、裁判員の負担を軽減するために、法改正等の適切な措置を講ずるべきである。
  2. とりわけ北海道は、各地方裁判所の管轄面積が広大である。裁判員等の負担軽減及び被疑者、被告人の防御権の保障という観点から、各地裁本庁のみならず、地方の実情に応じて道内の各地裁支部においても裁判員裁判を実施すべきである。

以上、決議する。

2012年(平成24年)7月20日
北海道弁護士会連合会

提案理由

  1. 裁判員の参加する刑事裁判に関する法律(以下「裁判員法」という。)が2009年5月21日に施行されてから3年が経過した。
    裁判員法施行から2012年3月末日までに、全国において、裁判員裁判は5、133件起訴され、3、685件に判決等の終局処分がなされた。北海道内において裁判員裁判が実施されている、札幌地方裁判所、函館地方裁判所、旭川地方裁判所及び釧路地方裁判所各本庁においては、裁判員裁判は164件が起訴され、うち132件に判決等の終局処分がなされた(最高裁判所ホームページ「裁判員裁判の実施状況について(制度施行xA景神・4年3月末)」より)。
  2. 裁判員法附則第9条は、「政府は、この法律の施行後3年を経過した場合において、この法律の施行の状況について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて、裁判員の参加する刑事裁判の制度が我が国の司法制度の基盤としての役割を十全に果たすことができるよう、所要の措置を講ずるものとする。」と規定し、施行3年 後における検討を義務付けている(いわゆる「3年後検証」)。
    この3年後検証を行うにあたっては、今一度裁判員裁判を導入した趣旨に立ち返って十分な検証がなされるべきである。
    すなわち、裁判員裁判が導入された趣旨とは、それまで職業裁判官のみの裁判では刑事裁判の大原則である無罪の推定が実質的に機能していなかったことから、刑事裁判において憲法が予定する「無罪推定の原則」が働くこと、一般市民である裁判員が職業裁判官とともに事実認定及び量刑について判断することによって国民の健全な社会常識が反映されること、さらに、多数の国民が裁判員として司法に携わる経験を積むことによって、司法に対する国民の理解が深まり、信頼が高まること、にある。
    我々は、3年を経た施行の状況が、これらの趣旨を実現するという目的に近づいているかどうか、絶えず制度導入の原点に立ち返る必要がある。
  3. 日本弁護士連合会及び各弁護士会は、裁判員裁判の実施状況を踏まえ、裁判員裁判についての検証を行ってきた。日本弁護士連合会は、本年(2012年)3月22日、6つの意見書等により構成される「裁判員法施行3年後の検証を踏まえた裁判員裁判に関する改革提案」を取りまとめ、法務大臣に提出した。同改革提案は、①裁判員の参加する公判手続等に関する意見書、②裁判員の負担軽減化に関する意見書、③死刑の量刑判断における評決要件に関する意見書、④少年逆送事件の裁判員裁判に関する意見書、⑤ 裁判員法における守秘義務規定の改正に関する立法提言、⑥裁判員制度を検討するための検証機関設置を求める提言からなるものである。
    裁判員の参加する公判手続等に関する意見書(上記①)では、公訴事実等に争いのある事件についての裁判員裁判対象事件を拡大すること、公判前整理手続における証拠開示規定を改正すること、被告人側に公判前整理手続に付することの請求権を認めるよう法律を改正すること、公訴事実等に争いのある事件における公判手続を二分する規定を新設すること、裁判員及び補充裁判員に対する説明に関する規定を改正すること、裁判員裁判における評決要件を改正することを求めた。裁判員の負担軽減化に関する意見書(上記②)では、裁判員の連絡先交換等をすることによる裁判員等の心理的負担を軽減 させるための措置に関する規定を新設することを求めた。死刑の量刑判断における評決 要件に関する意見書(上記③)では、裁判員法67条1項を改正し、死刑の量刑判断について全員一致制を導入することを求めた。少年逆送事件の裁判員裁判に関する意見書(上記④)では、少年逆送事件を裁判員制度のもとで審理するにあたって、少年法の理念に則って、少年の成長発達権保障に配慮した審理方法が貫徹されるよう、弁護人の請求により公開を停止することができること等の規定を新設することを求めた。裁判員法における守秘義務規定の改正に関する立法提言(上記⑤)では、現在の守秘義務規定を 改正し、罰則の対象を、評議の秘密のうち「裁判官又は裁判員の意見」を「当該意見を述べた者」の特定に結びつく形で漏らす行為等に限定すること等を求めた。裁判員制度を検討するための検証機関設置を求める提言(上記⑥)では、裁判員制度の施行状況を検討し、法制度上あるいは運用上必要と認める措置を提案するための有識者等と法曹三者で構成された検証機関を設置することを求めた。
    これらの意見書等は、弁護人として裁判員裁判の一翼を担う弁護士の視点から、裁判員裁判の運用状況を検討したものであり、被告人の防御権保障をより万全なものにする見地及び裁判員の負担を軽減化することにより市民参加を積極的なものとする見地からの法改正等を提言するものである。
    政府においては、これらの意見書の内容を取り入れ、法改正等の適切な措置を講ずべきである。
  4. 北海道においては、旭川、釧路、札幌及び函館の4地方裁判所の本庁のみでしか裁判員裁判は行われていない。
    このことは、各地方裁判所の管轄面積がその他の地域に比して広大である北海道において、次の2点において問題が生じる。
    一つは裁判員候補者や選任された裁判員に遠距離移動という物理的負担を強いるという点である。
    裁判員裁判が地裁の本庁でしか実施されていないため、地裁本庁から相当遠距離に離れた地域に居住する者でも、裁判員候補者としての呼出があれば、数時間をかけて地裁 本庁に赴き、選任手続きに出頭しなければならない。さらに裁判員に選任された場合は、公判期間中、宿泊を余儀なくされることとなる。裁判員候補者や裁判員等の移動に伴う負担は、時間的にも肉体的にも大きなものであることは明らかである。
    報道によれば、選任手続における欠席率は、全国平均が20.4%であるのに対して、函館27.4%、釧路25.4%、札幌23.7%であり、いずれも全国平均よりも高い割合となっている。この高い欠席率の理由が、長距離移動だけにあるとはいえないが、これが一因となっていることは否定できない。
    仮に地裁支部において裁判員裁判が実施される場合には、同支部の管轄若しくは、その近郊に居住する者から裁判員が選任されることが期待され、裁判員の負担軽減に繋がる。実際に、裁判員裁判を実施している地裁支部(立川、小田原、沼津、浜松、松本、堺、姫路、岡崎、小倉、郡山の10支部)において、裁判員は地裁支部管内もしくはその近郊に居住する者から選任されている。
    もう一つは、被疑者、被告人の権利、利益や弁護人の弁護活動に対する影響である。
    地裁本庁においてしか裁判員裁判が行われないことは、被告人にとっても不利益が生じている。被告人は、起訴された後、速やかに地裁本庁の管轄する拘置支所等へ移監される。移監された後は、もともとの居住地域と遠く離れることとなり、長距離移動に伴う時間的・肉体的・経済的負担が大きいことから、家族等の面会の機会が少なくなるのが実態である。また、地裁支部管轄において逮捕勾留された被疑者の場合、同支部に事務所が存する弁護士が弁護人に選任されることとなるが、地裁本庁を管轄する拘置支所等へ移監された場合、弁護人が接見のために長距離移動をしなければならなくなる。そ の時間的制約が、弁護人としてのもっとも重要な弁護活動の一つである接見に少なからず影響を与えることは明らかである。支部において裁判員裁判がなされれば、移動に伴う負担が少なくなることから、十分な接見を行うことが可能となり、被告人の防御が十全なものとなる。
    なお、札幌地裁における2012年6月15日までに公判請求された裁判員裁判のうち、逮捕された場所が室蘭支部管内の事件は6件、苫小牧支部管内の事件は5件であり、1割近い事件が支部において発生している。また、釧路地裁における2012年6月15日までに判決等の終局処分を得た裁判員裁判20件のうち、逮捕された場所が帯広支部管内の事件は7件、北見支部管内の事件は5件であり、その半数以上が支部管内で発生している。
    裁判員裁判を地裁本庁のみで行うことは、裁判員に多大な時間的肉体的負担を負わせることとなり、国民の司法参加という観点からは改善が必要である。また、被疑者、被告人の防御権の確立の観点からも、支部における裁判員裁判の実施は必要である。実際に支部管内の事件も相当数存することからすれば、釧路地方裁判所帯広支部をはじめ地方の実情に応じて、できるだけ多くの支部において、裁判員裁判が実施されるべきである。そして、国会、政府、最高裁判所は、その実施に向けた各種方策を早急に執るべきである。

以上

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