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道弁連大会

議案第2号(決議)

地方消費者行政の強化を求め、消費者被害の撲滅と救済のために尽力することの宣言

  1. 当連合会は、2012年1月30日に、「消費生活相談推進員体制の早急な廃止に反対する意見書」を発表し、北海道に対して、消費生活相談推進員制度の早急な廃止に反対し、地域における消費生活相談体制、市町村支援体制のあり方の抜本的な検討を先ず行うことを求めた。
    ところが北海道は、同年3月、市町村の消費生活相談の要として各振興局に配置していた消費生活相談推進員体制を廃止し、地方消費者行政の強化に逆行した政策を行っており、誠に遺憾である。
  2. 住民の消費者被害の発生を防ぎ、その被害の回復を図るために、地方自治体は、消費者行政にこそ力を注がなければならない。
    近時増加している悪質業者による投資詐欺やサクラサイト被害は、被害救済が困難な事例であるが、消費者被害の特徴は、一旦発生してしまうとその被害を回復できない場合が少なくないということにある。そのため、消費者被害を考える上で一番重要なことは、被害を出させないということであり、そこに消費者行政の存在意義がある。
    北海道は、これまでも特定商取引法に基づく悪質業者に対する業務停止命令や北海道消費生活条例に基づく悪質業者名の公表などにより、被害の発生を防止するために尽力してきた。こうした対応は、消費生活相談体制のもとで相談を受け情報を蓄積し、現実の処分や公表へと結びついているのであって、それにより消費者被害の防止が実現しているのであるが、このようなことができるのは行政(北海道)である。
    このように北海道の地方消費者行政は、その情報の蓄積と権限を背景にした対応により、被害の発生防止や消費者被害回復のための第一線を担い実績を重ねてきたが、なお一層、消費者被害の防止と救済のために消費者行政を強化することが求められている。
  3. ところが地方分権の名の下に推進されてきた構造改革は、地方行政を衰退させ、とりわけ消費者行政に対する配慮はなおざりにされてきた。その結果、本来地方自治体が取り組むべきである消費者行政が、後退を続けているという現実がある。北海道の消費者行政においても例外ではなく、一貫して相談体制の縮小や予算を削減させてきたことは、冒頭で指摘したとおりである。
  4. 過疎地域や財政基盤の弱い地方自治体を多数抱える北海道内においては、地方消費者行政の後退により、北海道民が等しく消費者行政サービスを受けられない恐れが現実のものとなっている。今こそ地方を切り捨てる政策そのものの転換が必要である。
    このような現状に鑑み、当連合会は、北海道に対し、広大な北海道における地方消費者行政を充実させるために、各振興局における相談体制と道内各市町村への支援体制の確立、消費者相談員などの人材育成を含む消費者行政の強化を求めるとともに、今後も当連合会として、個別の被害救済はもとより、消費者被害の発生の防止と被害救済のための責務を果たすため、必要な立法提言やその実現への働きかけ、さらには地方消費者行政のあるべき提言を行うと同時に、行政との適正な役割分担のもと、なお一層、消費者被害の撲滅と救済に尽力することを宣言する。

2012年(平成24年)7月20日
北海道弁護士会連合会

提案理由

  1. 地方消費者行政の強化が必要不可欠であること
    消費者被害の救済の視点で一番重要なのは、消費者被害を出さないということである。
    投資詐欺やサクラサイト被害では、一旦、被害が発生するとその被害救済が難しいことは明らかである。被害相談を受けた段階で、送金した口座から現金は引き出されていることが多いであろうし、首謀者も特定し得ない場合には民事訴訟手続で被害回復を図ることも困難である。このような消費者被害は、発生させないことこそ重要である。
    この点からすれば、消費者の身近な地域において日常的な啓蒙活動や、消費者被害の相談等の地方消費者行政を担当している地方自治体こそが、被害の実態をつぶさに目の当たりにしていることから、被害発生を防止するための積極的な対応が可能である。
    そして、特定商取引法に基づく悪質業者に対する業務停止命令や北海道消費生活条例に基づく悪質業者名の公表などにおいては、さらなる被害者の発生を防ぐという意味で、北海道の果たしてきた役割は非常に重要なものであった。
    消費生活相談の体制についていうならば、広大な北海道にあっては、各地域の消費者被害の実態を確実に把握し、それに対応する措置を適切に行っていくことが求められていることから、消費生活相談は各地域においてきめ細かくなされる必要がある。
    被害回復の点からしても、被害額が少額なときなどは、実際に消費者自らの負担で回収することは難しく、このような場合は特に消費者行政の果たす役割が大きい。
    こうした地方消費者行政が充実、強化されることで、消費者被害の発生を防止し、早期の被害回復が実現するのであり、多くの消費者の利益につながっているのであるから、北海道は応分の費用を負担し、地方消費者行政の充実、強化を推進すべきである。
  2. 構造改革のための地方分権と消費者行政
    近時、地方分権ということが議論されることが多くなり、地方分権こそが理想であるかのように主張されることがある。
    しかし、そこで議論されている地方分権は、憲法第92条で保障された地方自治の本旨を実現するために主張されたというよりも、新自由主義に基づく構造改革を断行する中で提唱されたものである。
    構造改革の中における地方分権に関しては、いわゆる三位一体の改革が行われた。それは、国からの使途を特定した補助金に代えて、一括して地方自治体に交付し、当該地方自治体の裁量によって使途を決めることができるという、一見すると地方自治の本旨にかなっているかのような改革を含むものであった。
    しかしながら、改革の実態は国民の人権保障の最低限の基準を取り払い、各自治体に責任を転嫁するものであるばかりか、交付金の額自体を減額することによって、地方自治そのものを骨抜きにする危険性のあるものであった。
    地方交付税の消費者行政に関する基準財政需要額(各自治体が標準的な行政を合理的水準で実施したと考えたときに必要と想定される一般財源の額のこと)は、2008年度(平成20年度)が総額約90億円であったのに対し、2009年度(平成21年度)は総額約180億円に倍増し、消費生活相談員の報酬単価基準についても、年額約150万円から約300万円へと倍増された。しかし、現実には、2009年度(平成21年度)の消費者行政予算(基金を除く自主財源)は総額約129億円にとどまり、2010年度(平成22年度)には総額約125億円に減少している。また、消費生活相談員の報酬が引き上げられた地方自治体は、2年間で180程度となる見込みであり、全国の地方自治体数の約1割にすぎない。つまり、使途自由な地方交付税について配分の目安となる基準財政需要額を倍増しても、ほとんど実効性がなかったことが明らかである。
    その結果、消費者行政は、本来の消費者被害救済のみならず、消費者被害の発生を防止するという観点からも極めて厳しい状況に置かれている。
    消費者庁発足当時こそ、地方消費者行政活性化基金が交付されたものの、それは時限的な処置にすぎず、例外はあるものの、既に2012年3月に終了している。
    消費者行政のための予算は、何らの後ろ盾のない分野であり、削減の対象となりやすい分野であったが、北海道においては、それが顕著に現れている。
  3. 北海道における消費者行政の後退
    これまで当連合会は、北海道が、2005年には、道立消費生活センターを指定管理者に移行させ、予算の縮小を断行し、北海道内各支庁(現振興局)に設置された消費生活相談窓口を廃止し、代わって消費生活相談推進員体制に移行させた(直接の消費生活相談及び斡旋の廃止)ことに対し、同年7月には「支庁相談窓口の廃止に反対し、地方における消費者相談体制の強化を求める決議」を、2008年7月には「消費者行政一元化と北海道における消費生活相談の拡充を求める決議」を、2009年7月には「消費者の視点に立つ社会を実現するための宣言」等を、それぞれ採択するなど、消費者行政の強化を提言してきた。
    しかし北海道では、その体制も、2012年3月には廃止し、札幌一極集中の体制を推進した。このような消費生活相談体制では、北海道内各地域に居住する消費者に対するきめ細やかな相談、消費者被害の発生の防止、被害回復の実現が困難であることは明らかである。
    また、2005年7月の決議において問題としていた支庁相談窓口にかかる予算は年額で700万円と言われていたが、それですら削減の対象となっていたものであり、北海道における消費者行政の後退は看過し得ないものである。
  4. 弁護士、弁護士会の果たすべき役割
    弁護士、弁護士会の果たすべき役割は、弁護士法第1条に規定された基本的人権の擁護と社会正義の実現であり、当連合会及び道内の四つの弁護士会は、これまで、一貫して委員会活動、弁護団活動等を通して消費者保護及び消費者被害救済のために尽力し、また必要な立法改正の提言も行い、その実現にも尽力してきた。
    もとより個別の被害や集団的被害に対しても、弁護士、弁護士会としてその救済に向けて努力してきたところである。
    しかしながら、具体的な消費者被害は、弁護士、弁護士会だけの力では、救済しがたいのであり、地方消費者行政の強化は不可欠である。このような消費者被害救済は、行政ではなく弁護士の役割だという一面的な見方に基づく意見もあるが、消費者被害の実態を見ることなく、個人の自己責任として地方消費者行政を後退させてしまうことは、消費者被害の未然の発生の防止と救済という行政の果たすべき役割を看過したものというべきである。この問題は、行政と弁護士の適正な役割分担により解決すべきものである。
    一般的に生じうる消費者被害については、広く社会全体の負担により被害回復を図ることが相当であり、一般消費者では泣き寝入りしなければならないような低額事件であれば、なおのこと社会全体の負担による解決が求められる。また、多数の少額被害が発生したような場合には、現在、消費者庁で法案化している集団的消費者被害救済制度の早期の実現もあわせて求められるところである。
    他方で、大型の消費者事件が発生したときは、弁護士会は、地元消費者センターと協力しながら、公益事件として対応してきた。それが弁護士会が行う立法提言の原動力でもあり、今後もその重要性に変わりはない。
  5. 消費者被害の発生の防止と救済のためには、弁護士、弁護士会と消費者行政との協力が不可欠である。
    当連合会は、北海道に対し、地域住民の消費者被害を防止し、あるいは回復するために、実効性のある消費生活相談体制を直ちに復活させ、各振興局における相談体制と道内各市町村への支援体制を確立することや消費者相談員などの人材育成を含む抜本的な消費者行政の強化を求めるとともに、今後も当連合会として消費者被害の発生の防止と被害回復のための責務を果たすため、個別の被害救済はもとより、必要な立法提言やその実現への働きかけ、さらには地方消費者行政のあるべき提言を今後も行うと同時に、行政との適正な役割分担のもと、なお一層、消費者被害の撲滅と救済に尽力することを宣言する。

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