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寄稿

北海道弁護士ホッとライン開設奮闘記

札幌弁護士会  関口 和矢
(道弁連会報 2010年9月号)

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平成22年8月2日、高齢者・障がい者のための無料電話法律相談、通称「北海道弁護士ホッとライン」がスタートしました。
開設初日ということもあり、道内4会から各会を代表する弁護士が相談担当として集結し、電話回線を4本引いて万全の体制を整えておりましたが、相談開始の午後1時ジャストに電話が鳴り出し、その2分後には4回線とも埋まってしまうという状況になりました。その後も相談終了時刻の午後3時まで電話が鳴りやむことはなく、受話器を置くとすぐに電話が鳴るという状態が続いたのでした。
相談初日は、2時間で20件もの電話相談を受けることとなり、上々な滑り出しとなりましたが(その翌週9日は2回線で10件、翌々週16日は2回線で12件の相談を受けています。)、この電話相談事業が始まるまでには、2年以上にわたる準備期間を要しました。
その道のりを時系列に沿って、振り返ってみたいと思います。

  1. 黎明期
    そもそも電話相談事業が始まるきっかけとなったのは、平成19年9月に札幌で開催された高齢者・障害者権利擁護の集いです。
    権利擁護の集いのメインテーマとして「高齢者・障害者を支援するネットワーク作り」が掲げられていたのですが、日弁連の高齢者・障害者支援委員会に委員として参加している先生たちが中心となり、当時の権利擁護の集い実行委員会において、北海道全体における高齢者・障がい者の権利擁護のための道内4会の連携の必要性についての議論がなされたのです。
    また、高齢者・障がい者の司法アクセスの簡便化についても議論され、特に、高齢者・障がい者を対象とした電話相談の必要性についての議論がなされておりました。
    このような議論を受けて、札幌弁護士会高齢者・障害者支援委員会内において、当時の肘井博行委員長を中心として、電話相談実施プロジェクトチームが立ち上がり、札幌弁護士会が実施している高齢者・障がい者法律相談(通称「ホッと相談」)について、来館相談、出張相談のみならず、電話相談を実施するための準備が始まったのです。
    この頃は、道内4会の連携の必要性について議論されてはいたものの、具体的に道内4会共同で電話相談を行うという方向ではなく、まずは、札幌弁護士会において、高齢者・障がい者を対象とする電話相談事業を行うということで準備が進められておりました。
  2. 調査・研鑽期
    電話相談事業開始にあたって、相談の対象をどうすべきかという議論がありました。相談対象を高齢者・障がい者本人に限定して良いのかという議論です。高齢者・障がい者本人は、自身が問題に巻き込まれているのか否かを認識していないというケースが多々あるはずです。相談対象を本人に限定すべきか、家族に広げるべきか、さらに、生活支援者(行政の福祉担当、病院や施設の職員等)まで広げるべきかについて、福祉の現場に立っておられる方々からの意見聴取を行った上で、相談対象範囲を検討することとなりました。
    札幌弁護士会高齢者・障害者支援委員会においては、社会福祉士、ケースワーカー、メディカルソーシャルワーカー等の異業種交流会が活発に行われておりますが、その中で、入院患者や入所者及び通所者に関する法律問題が、病院や施設の職員に持ち込まれ、彼らがそうした問題を少なからず抱え込んでいる実態がみえてきました。
    こうした異業種交流会での議論を経て、高齢者・障がい者の権利擁護を実現するためには、電話相談対象を高齢者・障がい者本人だけでなく、その家族、さらには、生活支援者まで拡大する必要があるという結論に至りました。
    また、こうした異業種交流は、法律問題ではなく、福祉への連携が必要となる事案が持ち込まれた際に、問題を解決するためのネットワーク作りの構築という効果も生んだのでした。
  3. 具体的準備開始期
    平成21年度に入り、札幌弁護士会高齢者・障害者支援委員会の委員長が内田信也弁護士に替わり、内田信也弁護士が札幌弁護士会子どもの権利110番という電話相談事業を開始したときのノウハウを活かして、高齢者・障がい者電話相談の準備が具体的に進められていきました。
    プロジェクトチームの人員を増員し、役割分担を進め、平成22年度より正式に電話相談事業を発足することを目指して、各委員が準備活動を進めておりました。
  4. 急展開期
    平成21年夏、道弁連に高齢者・障がい者支援委員会が新たに設置されることが決議され、平成21年10月7日に第1回の委員会が開かれることとなりました。
    従前、電話相談事業については、札幌弁護士会が「ホッと相談」の拡大という形で、まずは単独実施する方向で議論が進んでいたのですが、札幌弁護士会が準備を進めている電話相談事業について、その相談範囲を北海道全域とし、道内3会管轄地域の事案については、札幌弁護士会から3会を紹介するという連携作りを行っていく方向で準備を進めていくことが確認されたのです。
    また、そうすることで、全国初のブロック単位での事業開始ということとなり、日弁連高齢社会対策本部モデル事業の指定を受けることとなるという見通しも立てられたのです。
    「ホッと相談」の拡大としての作業から、日弁連モデル事業としての作業という形に変わり、改めて気合いを入れ直して準備作業に従事したことを思い出します。
    従来は、平成22年4月6日に年度の変わりと合わせての事業開始予定だったのですが、このような事情の変化もあり、一旦延期という形をとり、平成22年8月2日を事業開始日と決めて、最終的な準備活動を進めることとなりました。
  5. 最終準備期
    最終的な準備、それは、電話回線や広報活動等の作業もあるのですが、何より重要だったのは、道内4会のそれぞれの弁護士が高齢者問題及び障がい者問題(とりわけ精神保健福祉関係)について有していた漠然とした苦手意識を取り除くための研修活動でした。
    道弁連高齢者・障がい者支援委員会が中心となって研修を重ね、それに加えて、4会が独自に、精神科医、市の職員、ソーシャルワーカーの方々等を講師に招いたり、講義視聴をするなどして、積極的に研修や勉強会を実施しました。研修に参加した会員の高齢者問題・障がい者問題への認識は次第に変わっていったようでした。
    こうした会員の意識の変化こそが、道弁連高齢者障がい者電話相談事業の最も大きな意義なのかもしれません。
    このようなそれぞれの委員の努力の結果、何とか平成22年8月2日に電話相談事業を開始する土台が整いました。
    また、函館の平井喜一弁護士の尽力のお陰で、無事に日弁連高齢社会対策本部のモデル事業の指定も受け、8月2日の事業開始日には、日弁連から錦織正二副会長や日弁連委員6名が来札することも決まり、万全な体制を整えることができたのです。
    私自身も、道弁連高齢者・障がい者支援委員会を代表して、テレビ局の取材を受け、テレビのニュース番組において、電話相談事業開始の意義・特長を述べさせてもらう機会をいただきました。どれほど電話相談事業の広報に資したかは分かりませんが、私の親は、当該放送部分を録画して、何度も見返しておりました。
  6. 電話相談事業開始〜今後へ向けて
    電話相談事業開始日である8月2日の模様は冒頭に書いたとおりです。
    正直なところ、電話が全く鳴らない状態だったらどうしようという不安はかなり強くありました。
    ところが、蓋を開けてみれば、開始2分で4回線が埋まり、その後は受話器を置くとすぐに電話が鳴る状態が続きました。私も、2時間の間、電話相談を実施してる部屋で様子を見させていただいたのですが、あの電話が鳴りやまない光景には感動を覚えました。
    高齢者・障がい者の方々が、どれほど弁護士に対する相談の機会を求めていたかという現実を実感し、今後も北海道における高齢者・障がい者の権利擁護の拡充に身を投じていかなければならないという気持ちを強く固めました。
    また、8月2日には、約70名の会員が参加する中、大阪弁護士会の青木佳史弁護士より、「高齢者・障がい者の相談支援の基本的視点」と題した基調講演をいただき、まさに電話相談開始に際して、押さえておくべき相談の視点や心構えについてご教示いただきました。
    さらに、高齢社会対策本部本部長代行高野範城弁護士より、高齢者問題に取り組む弁護士が忘れてはならないマインドについて、心奮わせられる熱い講演をいただきました。
    その後に行われた懇親会においても、活発な意見交換がなされ、まさに北海道弁護士会連合会が、高齢者・障がい者の権利擁護のために大きく一歩踏み出した日であったという実感が得られた一日でした。
    今後については、受けた相談内容の分析を進めながら、さらなる会内研修に努め、電話相談事業のさらなる拡大を目指していきたいと考えております。
    その際には、皆様にご協力お願いすることとなるとは思いますが、何卒よろしくお願い申し上げます。

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