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寄稿

北海道弁護士会連合会定期大会記念シンポジウム
「再生可能エネルギー基地北海道−北海道の新たなる可能性−」報告

札幌弁護士会公害対策・環境保全委員会委員  芦田 和真
(道弁連会報 2012年9月号)

平成24年7月20日(金),ロイトン札幌において北海道弁護士会連合会定期大会記念シンポジウムとして,「再生可能エネルギー基地北海道−北海道の新たなる可能性−」が開催されましたので,ご報告します。

  1. はじめに
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    上田文雄札幌市長によるご挨拶

    再生可能エネルギーとは,太陽光,太陽熱,風力,水力,地熱,農作物残渣や家畜の排泄物・林地残材・食品廃棄物などの生物資源(バイオマス)等,自然界で繰り返し起こる現象から取り出すことができ,枯渇することなく持続的に利用できるエネルギーのことです。

    昨年の東日本大震災以降,日本における原子力発電所の危険性が次々と明らかとなり,全国規模で原発の速やかなる撤廃及び代替エネルギーの早期普及の機運が高まりつつあります。
    とりわけ北海道には気象条件,人口密度等の諸条件から,再生可能エネルギー資源が豊富に存在すると言われており,今回のシンポジウムにおいてはそうした北海道の新たなる可能性にスポットを当て,再生可能エネルギー基地としてどれだけの未来があるのかを専門家を招いてご報告及びディスカッションをしていただきました。
    当日は,午前9時という早めの開催にもかかわらず,20代から70代まで幅広い世代から250人以上もご参加くださいました。
  2. 基調報告
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    高杉委員による基調報告

    はじめに,高杉眞委員(札幌弁護士会所属)より基調報告が行われました。
    まず道内の事例として稚内のメガソーラー発電所と宗谷岬ウィンドファームの紹介がされました。稚内を含む道北地域は北海道でも有数の再生可能エネルギー資源が豊富な都市であり,太陽光,風力,バイオマス,雪氷熱等再生可能エネルギーの普及促進に精力的に取り組んでいる地域です。
    中でも,メガソーラー発電所は5メガワットの発電容量を誇り国内でも有数の発電所として機能しており,昨年度の収支は約1500万円の黒字となっているとのことでした。また,宗谷岬の大規模ウィンドファームには,現在57基の風車が設置されており,発電容量は実に57メガワットに上ります。発電効率は採算の取れる20%を優に超え,稚内市の全消費電力量の6ないし7割に至るほどの優秀な成績を収めているとのことでした。

    次に,海外の事例としてドイツとスペインの再生可能エネルギーの普及状況について視察報告がされました。
    まずドイツでは,環境政策に力を入れているザクセンハルツ州のダルデスハイムという地方都市の事例が報告されました。ダルデスハイムには風車が31基ありますが,地域住民の共同出資という形を取っており,全量固定価格買取り制度によって出資者には年8%の配当が保障されています。また維持管理に地域住民が雇用されており,雇用創出にも効果を挙げており,再生可能エネルギーが地域の経済を活性化させている好例であるとのことでした。

    次にスペインですが,スペインでは2011年の国内総発電量の約32%が水力,風力,太陽,バイオマス等の再生可能エネルギーで賄われているなど,有数の再生可能エネルギー推進国家です。
    スペインでは,国内の送電網が一括制御されており,必要となる電力量を瞬時にコンピュータで算出し,どこの発電所をどれだけ稼動させて電気を確保するか判断し,全国の発電量と送電網を制御しています。こうすることで,気象条件に左右されがちな再生可能エネルギーであっても,全体として安定して電気を供給することが可能になっています。今後は,2020年時点で発電量の40%を再生可能エネルギー由来とする計画が進められているとのことです。

    三つ目に,木質バイオマスを利用した熱エネルギーについての報告がされました。
    北海道では,足寄町や津別町等林業が盛んな地域が多く,残材やおが屑を木質チップ,ペレットに加工して販売し,公共施設を中心に熱エネルギーとして利用する取り組みが行われています。こうした木質バイオマスは,地域にある木質資源を用いて化石燃料を代替するため,それまで大手の石油会社に支払っていた化石燃料コストが地域に還元することになる上,新たな地域の雇用を創出する効果もあり,地域の活性化に繋がる産業として期待されます。

    四つ目に,ドイツのフライアムト村における畜産バイオマスの利用について報告されました。フライアムト村の農家では,農業の傍ら,家畜の糞尿と牧草を混ぜて発酵させ,メタンガスを発生させてエンジンで燃やして発電機を作動させて電気を作り,更にエンジンの余熱で温水を作り,循環パイプを使って地域内に提供しています(コージェネレーション)。
    この村では,木質バイオマスによる熱エネルギーの供給や風力発電も盛んであり,地域が一体となって様々な再生可能エネルギーを利用しているとのことでした。
    ドイツとスペインの再生可能エネルギーの普及状況の報告を比較すると,ドイツでは小規模な地域自治体での効率的なエネルギー利用,特にバイオマスによる熱エネルギーが多く普及しているのに対し(勿論,ドイツでも北海における大規模風力発電などもありますが),スペインでは国家規模で電力を管理し,大資本が太陽光や風力などの再生可能エネルギー導入をどんどん普及させているという印象でした。
    一口に再生可能エネルギー推進と言っても様々な方法があり,北海道にとっていずれが相応しいのか考えさせられる基調報告でした。
  3. パネリスト報告
    続いて,3人のパネリストによるプレゼンテーションが行われました。
    一人目は,梶山恵司氏(元内閣官房国家戦略室員・内閣審議官,現富士通想見主任研究員)で,日本におけるグリーン成長(環境保護と経済成長の両立)の潜在性というテーマで講演をいただきました。
    まず,これまでの日本においては,原子力発電の依存度が高まりこの20年でエネルギー効率が著しく悪化し,GDPも下降していることが指摘されました。他方,ドイツにおいては2000年代に入り本格的に再生可能エネルギーの普及に取り組み,固定価格買取り制度等を実施した結果,再生可能エネルギーの普及が急速に高まる一方で,GDPが順調に伸びているということで,グリーン成長の成功例として評価できると示しました。
    このように,再生可能エネルギーは国家を挙げて計画的に取り組めば経済成長をも実現できる膨大なビジネスチャンスであるとも言え,環境資源の豊富な日本でこそ実現可能であるとのことでした。
    そのためには,脱原発によるエネルギー効率の向上,エネルギー消費制限,地域分散型の再生可能エネルギー普及,及びそのための技術・理論の整理,知見の共有化等の条件を整備が必要であるとのことでした。
    たとえば,ドイツでグリーン成長が成功した大きな切っ掛けの一つに固定価格買取り制度の実施があり,今後日本でも実施されることでグリーン成長の実現にとって大きなインパクトになるとのことでした(本シンポジウム時は実施前でした)。
    他方,昨今日本では太陽光パネルの設置がどんどん普及してきていますが,各企業が独自に行っているだけで情報や技術の共有が無く,極めて非効率な状態に陥っていることを指摘され,これらの技術・知見の共有化が急務であると指摘されていました。

    二人目は,大友詔雄氏(自然エネルギー研究センター長)で,北海道における自然エネルギーの循環型社会への展望について講演をいただきました。一例として,芦別市内のホテルにおいて暖房設備を重油からペレットボイラーに切り換えたことで,それまで5,000万円以上市外に流出していたコストが,1億7,000万円以上を市内に留保させる結果となるという大きな成果を収めた事例や,足寄町において役場にペレットボイラーを設置することで,139人(住民の約4%)もの新たな雇用を創出したという事例が報告されました。
    再生可能エネルギーというと大規模資本の主導による風力発電や太陽光発電が注目されがちですが,こと北海道においては豊富な木材資源があり,これを地域内で熱エネルギーとして活用することで地域の経済活性化・雇用創出に繋がる可能性があるとのことでした。

    三人目は,鈴木亨氏(NPO法人北海道グリーンファンド理事長)で,風力発電事業の取り組みについて講演をいただきました。鈴木氏は,日本初の市民出資型の風力発電事業を行い,市民風車のパイオニアとして各地の取り組みを支援されています。
    北海道では石狩市や浜頓別町に合計4機の風車を設置されています。
    市民風車の場合,市民の出資により事業を運営することから,採算性を非常に重視しており,場所の選定,風況調査を厳格に行い,安定した風力が得られる場所を十分に選定した上で着工するとのことです。これにより,現在では出資者への配当利回りが2.5%を保っており事業は好調であるとのことです。自治体主導の風力発電事業の多くが赤字であるのに比べて,大変なご健闘振りと言えます。
    従来の日本における再生可能エネルギーに対する取り組み方は,企業の営利活動の一環として行うものが殆どであり,市民の自発的・自覚的な参加は無く,また参加する手段もありませんでした。北海道グリーンファンドは,そうした状況を憂い,ヨーロッパのように市民が積極的に発電事業に関われる仕組みを作ることで,地域の活性化を促進させ,引いては日本のエネルギー政策の転換をも目指しているとのことです。

    基調報告でのドイツの農村の事例のように,地域が再生可能エネルギーに熱心に取り組むことで,グリーン成長を実現させているケースもあり,北海道グリーンファンドは日本におけるこうした活動の嚆矢となることでしょう。
  4. パネルディスカッション
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    パネルディスカッションの様子

    最後に,3人のパネリストと菅澤紀生委員(札幌弁護士会)を交えてパネルディスカッションが行われました。
    始めに,そもそも再生可能エネルギーは頼りになるのかというテーマで討論が行われました。
    再生可能エネルギーは,気候条件に左右されやすく安定供給が難しいのではないかという意見がありますが,これに対しては,基調報告で述べられたスペインの一括制御システムが参考になりますが,太陽光が使えない夜間には風力で補う等様々な電源を効率よく使うことが重要で,総合的に見れば気候条件による影響は平滑化されるということでした。
    また,電気料金が値上がりするのではないかという指摘に対しては,確かに再生可能エネルギーの導入により一時的には上昇するものの,反対に,現在の電気料金に含まれている原発開発のための電源開発促進税や,化石燃料価格の変動によって電気料金が変わる燃料費調整制度の影響も低下するため,電気料金を下げることも十分可能であるとのことでした。
    さらに,コスト面の問題については,今後の技術革新により風力や太陽光の発電効率はまだ上昇の余地があるとのことで,コストカットの余地は十分にあるとのことでした。

    次に,制度設計,インフラ整備等の問題について議論がされました。
    まず,固定価格買取り制度は,再生可能エネルギー普及促進の目玉となる制度ですが,梶山氏によれば,今回の買取り価格設定は高額であるとの指摘があり,この価格が何年も維持できるものではないとのことでした。
    また,特に風力発電に関しては北海道では道北地域の送電網が不十分であるという問題があります。
    これについては,公的な負担をしてでも再生可能エネルギー拡大のためのインフラ整備を進める必要があるとの指摘がある一方で,資源エネルギー庁の試算では1300億円の設備費用がかかるとの指摘もあり,他方,鈴木氏の試算では国鉄の軌道跡地に建設すれば400億円くらいで済むとの指摘や,何でも役所任せにすると高コスト体質から結局費用が高くかかってしまうという梶山氏の厳しい指摘もありました。

    三つ目に,熱エネルギーの利用促進について議論がされました。再生可能エネルギーというと電気ばかりが注目されがちですが,実は熱エネルギーも非常に重要なエネルギー源です。
    この点については,熱エネルギーの普及促進が急務であるとの見解で一致しました。特に北海道では林地残材が豊富にあるためいくらでも利用可能であり,木質バイオマスに対してもっと関心を高める必要があるものの,専門的に助言を出来る人がいなく普及が進んでおらず,非常に勿体ないとのことでした。
    また,発電の際に生じる余熱の利用,いわゆるコージェネレーションについても日本では関心が少なく,これについても早急に利用を促進する必要があるとのことでした。

    最後に,日本における再生可能エネルギーの普及は固定価格買取り制度の実施が決まり,ようやく本格的に始まったものの,技術・知識の共有が乏しいため統一的な普及が出来ておらず横断的な活動が必要であること,国による経済的支援は必要だが高コスト体質に繋がりかねないこと,熱エネルギーの利用についてはまだまだ改善の余地があること等が指摘され,特にエネルギー資源が豊富な北海道においては,自治体を含めて経済,環境の横断的な活動が必要であることが指摘され,閉幕しました。
  5. 感想等
    参加者の感想は概ね好評で,特に海外視察の基調報告や,再生可能エネルギーによる地域経済の活性化などのテーマについては,「興味深く勉強になった」,「もっと細かく知りたい」,「地域の活性化の視点がよく分かった」との好意的な感想が多数寄せられました。
    また,今後の再生可能エネルギーの導入についてという質問に対しては,太陽光パネルやペレットストーブの設置,市民風車への出資を検討したいという回答も少なからず見られ,参加者の中には実際に再生可能エネルギーを積極的に利用したいと考えている方もいらっしゃることが窺えました。
  6. まとめ
    再生可能エネルギーの普及はタイムリーなテーマと言うこともあり,平日の午前開催にも拘わらず多くの方々にご参加いただきました。
    今回のシンポジウムを通して,北海道における再生可能エネルギーの潜在性が非常によく分かった一方で,地域経済の活性化という視点からすると,これをただ拱手傍観しているのではなくもっと積極的に普及促進活動をしていく必要があるのではないかと,強く感じさせられました。
    午後の道弁連定期大会では,再生可能エネルギーの普及促進に関する提言が採択されましたが,今後は各弁護士会,各弁護士一人一人が,再生可能エネルギーの普及促進を自らの問題と捉え,積極的に関わって行く必要があると感じられました。
    皆さんも,自宅に太陽光パネルや,ペレットストーブを設置するところから始めてみませんか。

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