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道弁連大会

「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」(いわゆる「カジノ解禁推進法」)の廃止を求め、北海道へのカジノ誘致に反対する決議

 「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」の成立に抗議し、その廃止を求めるとともに、北海道へのカジノ誘致に反対する。

 以上、決議する。

2017年(平成29年)7月28日
北海道弁護士会連合会

提案理由

  1. 2016年(平成28年)12月15日、「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」(以下「カジノ解禁推進法」という。)が成立した。
     これを受けて、全国各地の自治体がカジノ誘致に名乗りを上げており、北海道においても、複数の地域がカジノを誘致する姿勢を示している。
     これに対し、当連合会は、既に2017年(平成29年)3月21日付でこれに抗議しカジノ解禁推進法の廃止を求める理事長声明を発出した。また、当連合会を構成する各弁護士会においても、2014年(平成26年)5月29日付札幌弁護士会、2015年(平成27年)10月9日付釧路弁護士会、同年12月9日付函館弁護士会、2016年(平成28年)1月19日付旭川弁護士会、2017年(平成29年)1月31日付札幌弁護士会から、それぞれカジノ解禁に反対する会長声明が発出されている。
  2. 上記各声明も述べているとおり、カジノの解禁には、ギャンブル依存症患者の増加やこれに伴う多重債務問題の再燃、家庭崩壊、自殺者増の懸念、犯罪増加と周辺地域の治安悪化の問題、カジノを資金源とする暴力団対策やマネーロンダリング対策の問題といった看過できない重大な問題点が多数含まれている。また、カジノ解禁推進法では、カジノのみならず、ホテル、アミューズメントパーク、会議場等が一体となった施設(IR方式)を予定していることから、家族連れが訪れることによる青少年の健全育成に対する悪影響も指摘されている。
     加えて、カジノ解禁推進法には、我が国の刑事司法政策上においても重大な問題が含まれている。すなわち、民間の「賭博」は、歴史的にもたびたび禁止令が出され現行刑法においても処罰の対象とされてきたものであるが、カジノ解禁推進法は、一定限度ではあるものの、これを正面から認めようとするものであるから、違法性阻却の根拠がいずれに求められるか等について慎重な審議を要するものであった。
  3. ところが、カジノ解禁推進法の法案は、2015年(平成27年)4月に国会に対して提出された後、1年半以上もの間、審議されないまま放置された上、2016年(平成28年)11月30日、衆議院内閣委員会において突如審議入りし、わずか6時間という短い審議のみで3日後に採決が強行された。さらに、参議院内閣委員会においても十分に審議されることなく、修正動議の後、わずか数十分の審議で可決された。
     国会がかくも拙速な審議過程でカジノ解禁推進法を成立させたことは、国民各層の意見を慎重に吸い上げるべき役割を事実上放棄したに等しい。カジノ解禁に伴う弊害について対策をとるべき旨の附帯決議がなされたものの、いかなる弊害・問題点があり、これらに対していかなる予防策・解決策を講じるべきかについて具体的な内容は示されておらず「カジノ解禁」という結論ありきで強引に成立させたものとの評価は免れない。
  4. ところで、カジノ解禁を推進する目的として経済的効果や地域振興が挙げられるが、必ずしも期待どおりに目的が達成されるとは限らない。
     米国アトランティックシティでは大型カジノ施設が相次いで閉鎖し、韓国・江原ランド(カンウォンランド)では、治安、風俗環境の悪化とこれに伴う人口減少、ギャンブル依存症患者や多重債務を苦にした自殺者の増加等、地域経済と市民生活への深刻なダメージが指摘されている。このように、他国の先行事例では、期待した経済効果や地域振興が得られていないばかりか、前述のような多数の問題点が現実化している。
     日本において、日本国民も利用できるカジノを解禁するならば、仮に、これによってもたらされる税収や雇用の増加という側面があるとしても、これに伴う弊害、すなわち地域住民を中心に増加するであろうギャンブル依存症や多重債務問題、犯罪の増加と治安の悪化、従来からの観光産業の衰退、ひいては地域における市民生活それ自体が荒廃する懸念等、負の側面も慎重に検討しなければならない。カジノを立地した自治体においてこのような負の側面が現実化したときには、既に経済構造・税収が「カジノ依存症」となってしまっており、健全な構造へ引き返すことができなくなることも懸念される。
     特に、ギャンブル依存症は、多くの国民が危惧する問題である。2017年(平成29年)3月の厚生労働省研究班の発表によれば、日本の都市部におけるギャンブル依存症が疑われる成人の割合は2.7パーセント(全国推計では283万人)であり、これはアルコール依存症の1.0パーセントよりも高い割合である。ギャンブル依存症に関する海外の同様の調査において、米国1.58パーセント(2002年)、香港1.8パーセント(2001年)、韓国0.8パーセント(2006年)と報告されていることと比較しても、やはり高い割合である。
     しかるに、政府が検討しているギャンブル依存症対策は、依存症を治す意思を持つ本人や家族からの申出を受けて事業者の判断により入場回数の制限や入場禁止の通告を行うなどという内容である。これは、その規制を発動する契機や判断を依存症問題の当事者や運営主体となる民間事業者に委ねるというものであり、本質的な対策とは到底なりえないものである。
  5. 本来、経済の活性化は、ギャンブルではなく勤労によるべきである。観光立国や地域振興は、カジノ解禁ではなく我が国の豊かな自然や文化と、その地域に住んで守り続ける人々の活発な交流によって推進されるべきである。
     とりわけ、我が北海道は、北方圏ならではの独自の自然や豊かな風土が本州以南の日本や海外からの観光客をひきつけているのであって、その対極にある人工的なカジノを持ち込めば、これまで育まれてきた北海道ならではのイメージが破壊され、北海道が独自に持つ魅力を失いかねない。

 よって、当連合会は、カジノ解禁推進法の成立に強く抗議し、その廃止を求めるとともに、北海道へのカジノ誘致に反対する。

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