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道弁連大会

すべての子どもが恵まれた環境で心身ともに健やかに成長・発達する社会の実現のため、これに関わる施策の一層の充実と財政措置の拡充を求める決議

 すべての子どもは適切な養育を受ける権利を有しており、子どもの健全な成育を保障することは社会全体の責務である。しかし、遺憾ながらこのような子どもたちの権利が奪われている現状が厳然として存在することは、2017年(平成29年)3月に厚生労働省が実施した調査において、社会的養護が必要な児童が約4万5000人にのぼると試算されていることからも明らかである。虐待・家庭の貧困・いじめ等といった事情から、健全な養育を受けられない子どもは決して特別な存在ではない。
 また、児童福祉政策の根拠法令である児童福祉法においては、「児童」を「満十八歳に満たない者」と定義しており(同法第4条)、原則として、18歳以上の子どもたちに対しては、同法による支援が及ばず、「自立」を余儀なくされている現状にある。虐待・家庭の貧困・いじめといった困難を抱えていた子どもたちが、10代のうちに自立することは容易でなく、充分な支援もないままに、社会にいわば「放り出されて」しまうことは看過できるものではない。公的支援からこぼれ落ちる子どもたちに対して、民間団体が種々の支援活動を行っているところではあるが、多くの組織・団体は財政面に不安を抱えており、持続的な支援活動の展開に支障が生じている。
 この状態を一刻も早く解消し、すべての子どもが健全な養育環境を享受する権利を十全に実現するために、当連合会は国及び北海道に対し、現状の仕組みからこぼれ落ちてしまう子どもたちの自立へ向けた就学・就労支援等の施策を一層充実させる一方で、子どもたちへの支援活動を持続可能なものにするための十分な財政措置を求める。
 当連合会も、公的機関・民間団体の別を問わず、適切な養育環境にない子どもたちへの支援活動に会を挙げて協力するとともに、その活動の中で生じる種々の法律問題に迅速適切に対応できるように、社会的養護を必要としている子どもの現状の把握と、関連する法的知識の研鑽に勤しんで、すべての子どもが健全に発達できる社会の実現に取り組む決意である。

 以上、決議する。

2017年(平成29年)7月28日
北海道弁護士会連合会

提案理由

  1. 子どもの「権利」としての養育環境の充実
     すべての子どもは、適切な養育を受け、健やかな成長・発達や自立が図れるよう求める権利を有しており、子どもの健全な育成を保障することは社会全体の責務である。
     1989年(平成元年)に第44回国際連合総会において採択され、1994年(平成6年)にわが国が批准した児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)も、子どもが権利の主体であるとの発想を基礎に置いている。同条約第2条は締約国にいかなる差別もなく子どもが自ら持つ権利を尊重・確保する義務を課し、これを基礎に子どもの具体的な権利の一つとして、生存権及び発達する権利を保障している(同条約第6条)。
     この考え方は、当然ながら日本国憲法をはじめとする国内法規にも表れている。憲法上保障されている幸福追求権(憲法第13条)、生存権(同第25条)、教育を受ける権利(同第26条)は当然子ども自身もその手に握持している権利であり、本来子どもが享受すべき適切な養育環境を理由なく奪うことは、憲法もその禁ずるところである。児童福祉法第1条も、「すべて児童は、児童の権利に関する条約の精神にのっとり、適切に養育されること、その生活を保障されること、愛され、保護されること、その心身の健やかな成長及び発達並びにその自立が図られることその他の福祉を等しく保障される権利を有する」と高らかに謳っている。
  2. 子どもを取り巻く状況
     我が国の子どもを取り巻く状況は深刻化の一途をたどっており、親権者・監護者による虐待・ネグレクトや、家庭の貧困、いじめ等が原因で健全なる心身の養育環境が整っていない児童は決して特別な存在ではない。2017年(平成29年)3月に厚生労働省が「社会的養護の現状について」と題してまとめた調査においても、わが国に社会的養護が必要な児童は約4万5000人にのぼると試算されている。社会的養護とは、家庭による適切な養育を受けられない子どもたちを、公的責任で社会的に養育し、保護するとともに、養育に大きな困難を抱える家庭への支援を行うことをいうが、この試算も、里親・乳児院・児童養護施設等のわが国で現在用意されている社会的養護の仕組みに接触できた児童をもとに算出されたものに過ぎず、実際にはまだまだ救いの手が届かないおびただしい「暗数」が背後に隠れていることも推察される。
     北海道における状況も深刻であり、2014年(平成26年)に北海道管内の児童相談所に寄せられた相談受付件数は1万2168件(うち児童虐待の相談は2143件)である。相談受付件数が1万件を超えているのは、北海道のほかは東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県・群馬県・大阪府・兵庫県という大都市圏のみであった。また同年に北海道管内の市町村に寄せられた相談受付件数は1万7134件(うち児童虐待の相談は3160件)であって、こちらも相談受付件数が1万件を超えているのは、やはり東京都・埼玉県・千葉県・大阪府・兵庫県という大都市圏のみだった。
     家庭の貧困や虐待、いじめといった子どもから健全な養育環境を奪う問題について、早期の解決が必要であることはいうまでもない。例えば、親から暴力や暴言といった身体的・精神的虐待を受けた子どもは、多大な心理的外傷を受け、その心理的外傷を放置されたまま育つと、その子が親になったとき、今度は自らが同じように虐待に及んでしまうケースもあると言われている。このような負の連鎖を断ち切るためにも、早期にすべての子どもが健全な成長・発達の「場」を享受できるような外からの整備・支援の仕組みが必要である。
  3. 公的支援の現状
     児童福祉法は2016年(平成28年)から2017年(平成29年)にかけて大きな改正が相次いだほか、2016年(平成28年)には障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(総合支援法)も併せて改正され、障がいをもった子どもに対する公的なケアの充実も図られる方向にはあるものの、未だ国や地方公共団体による公的支援の手は「生きづらさ」を抱えるすべての子どもには及んでいるとは言えない。そもそも、児童福祉法は、「児童」を「満十八歳に満たない者」と定義しており(同法第4条)、18歳に至った子どもたちに対しては同法による支援が及びにくい構造になっており、まだ10代の子どもが十分な支援もないままに社会にいわば「放り出されて」しまうという現状がある。
     2012年(平成24年)10月には、札幌市で弁護士が中心となって特定非営利活動法人子どもシェルターレラピリカを発足させ、行き場のない子どもたちのセーフティネットの役割を果たそうとしているが、主たる設立の趣旨も、現行の法制度のもとでは十分な支援の及ばない子どもを保護するところにある。他にも、道内では様々な民間団体が子どもたちの居場所を作り出すべく日々弛まぬ取り組みを行っており、弁護士もこれらの団体の設立や日々の活動において生じる法的問題への対応などといった形で深く関わっている。しかし、これらの子どもたちは、本来であれば、将来の自立に向けた就学・就労等の支援等の法制度を整備して保護されなければならないはずである。
     加えて、制度のはざまをカバーするこれら民間組織・団体の活動を持続的にするためには、財政基盤の安定が求められるが、現在の公的支援が十分なものとは言い難い。財政措置の不十分さは、国が新たに設けた仕組みにも表れている。一例として、2016年(平成28年)10月1日から施行された改正児童福祉法により、児童相談所には「弁護士の配置又はこれに準ずる措置」が義務付けられることとなった(同法第12条第3項)。この改正は、虐待を受けている児童等に対する一時保護の適法性の判断を機動的に行うために、児童相談所が弁護士に相談しやすい仕組みを設ける趣旨で行われたものである。しかし、現状函館では2人の弁護士が交互に隔月で1回ずつ児童相談所に赴いて相談等を受けているに過ぎないし、道内の他の児童相談所においても、従来児童相談所が個々の問題事案についてその都度弁護士に相談を行っていたときと大差がない現状にある。このように、弁護士配置が稀薄な形でしか実現できていない背景には、十分な予算措置がとられていないことがひとつの原因としてある。  
  4. 結論
     当連合会は、十分な養育環境を享受できない子どもたちが一人もいなくなるように、公的な制度整備と施策のより一層の充実と、裏付けとなる予算措置のより一層の拡充を求めるとともに、これと並行して、社会的養護を必要とする子どもたちの現状の把握と必要な法的知識の研鑽に絶え間なく勤しみ、すべての子どもが等しく健全な発達を遂げられる社会の一刻も早い実現を期すものである。

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