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道弁連大会

北海道内の地方・家庭裁判所支部の機能強化、帯広・北見をはじめ主な地裁支部での労働審判の実施及び裁判所予算の大幅増額を求める決議

当連合会は、

  1. 最高裁判所に対し、
    (1) 道内の地方・家庭裁判所の全ての支部の機能を強化し、本庁と遜色ない司法サービスを提供できるようにすること
    (2) 特に、釧路地方裁判所帯広・北見両支部をはじめ道内の主要な地方裁判所支部において労働審判を実施すること
  2. 最高裁判所及び政府に対し、道内の地方・家庭裁判所支部の人的・物的機能を強化するためにも、裁判所予算を大幅に増額することを求める。

 以上、決議する。

2015年(平成27年)7月24日
北海道弁護士会連合会

提案理由

  1. 裁判所は国の三権の一翼を担い、様々な紛争を公正かつ適正に解決する機能とともに、社会正義を実現し、少数者・弱者の権利擁護の最後の砦としての役割を担う機関である。
    しかるに、わが国の裁判所予算は、平成27年度予算では約3131億円、一般会計予算の歳出総額のわずか約0.32%であり、しかもその割合は年々減少傾向にある。
    このため、下級裁判所裁判官の員数(高裁長官・簡裁判事を除く)は平成26年4月時点で2921人と、漸増傾向にあるとはいえ、対人口10万人比では2.25人と、ドイツの24.97人、アメリカ合衆国の10.43人など欧米諸国に比べて圧倒的に少ない。このため、1人当たりの裁判官にかかる負担はなかなか軽減されず、証人尋問や鑑定、検証の実施率が顕著に低下し続けているのもこれと無関係とは思われない。とりわけ、新受件数の増加が今なお続いている家庭裁判所においては、裁判官のみならず調査官や書記官も多忙を極めており、調停期日の指定に遅れが生じる等の影響が生じている。

  2. こうした人員不足の下、裁判官をはじめとする裁判所職員は大規模庁に重点的に配置されており、全国の地方・家庭裁判所支部203か所のうち46か所(23%)、とりわけ道内では支部16か所のうち実に10か所(63%)には裁判官が常駐していない。しかも、道内の裁判官非常駐支部が管轄する地域の合計面積は、北海道全体の面積の約4割を占め、関東地方1都6県の合計面積に相当するほど広大である。
    このような非常駐支部の中には、1か月に2日ないし3日の連続した日にしか裁判官が来ないため、その日にあらゆる種類の事件の期日が集中してしまい、十分な審理時間が確保できずに、裁判官が証人尋問を中断して調停成立に立ち会わざるを得ないことも少なくない。また、とりわけ冬期間の悪天候下では裁判官や当事者の長距離移動もままならず、せっかくの期日が空転してしまうことも稀ではない。さらに、刑事事件では、迅速な判断が求められるはずの準抗告の申立書や事件記録一式を遠方の本庁まで届けなければならないであるとか、勾留された被告人の事件を扱わない支部管内の事件は本庁に起訴されるため、弁護人は接見や記録謄写のため長距離移動を余儀なくされ、近親者の接見や差し入れも困難になるなどといった弊害が生じている。

  3. また、裁判官が常駐する道内の地方裁判所支部にあっても、時代の要請に応えて創設された制度である労働審判が全く実施されていない。
    労働審判は、地方でも頻発する労働紛争を迅速かつ適切に解決できる点で、訴訟に比べても利用者にとって満足度が高い制度であり、中小企業の労使関係に労働法の規律が浸透する効果も高いこと、そして、支部においてこそ、地域の労使紛争に関する知識と経験を有する労働審判員が大きな役割を発揮できる効果が期待できることが、東京大学社会科学研究所による労働審判制度の利用者調査(2010年7月から11月まで)の結果によっても明らかにされている。
    にもかかわらず、かかる労働審判が道内では地裁本庁(旭川・釧路・札幌・函館の4か所)でしか実施されていないため、支部管内に住む労使の当事者が本庁への長距離移動、特に冬期間は宿泊を伴う移動を余儀なくされることから、労働審判の申立てそのものを断念してしまう、あるいは、いったん申し立てた後も期日を重ねることを避けるために不本意な内容の和解に応じてしまうという事例が少なからず報告されている。
    本年1月30日に開催された「日弁連地域司法キャラバンin帯広」において報告されたところによれば、管轄地域の面積が広く管内人口も多い釧路地裁帯広支部(前記の管轄面積順位第1位・管内人口約35万人)及び同北見支部(同第7位・約26万人)の両支部管内では、労働審判に対する需要も釧路地裁本庁に比べて少なくない上、労使双方の労働審判員の確保も十分に可能であり、労働審判を実施するために必要な裁判所の人的・物的負担はさほど大きなものではない。

  4. こうした問題をこのまま放置することは、憲法で保障された「裁判を受ける権利」(第32条)を実質的に侵害するものであって、単に新受事件数が少ないとか、裁判所予算が足りないといった理由で正当化されるものではない。
    司法制度改革審議会意見書(2001年)において、「当審議会としては、司法関連予算の拡充については、それを求める世論がすでに国民的に大きな高まりを持つに至っていることを確信しており、政府に対して、司法制度改革に関する施策を実施するために必要な財政上の措置について、特段の配慮をなされるよう求める」とうたわれてから既に14年が経過しているにもかかわらず、政府や最高裁がこれに応えようとしないことは、由々しき事態である。

  5. 2011年(平成23年)3月、北海道議会で「北海道内のすべての裁判所に裁判官の常駐を求める意見書」が、裁判官非常駐支部が所在する10市町の全ての議会で、地元支部に裁判官を常駐させることを求める意見書が、それぞれ採択された。
    2013年(平成25年)7月、北海道議会で「司法制度改革推進計画が予定していた裁判官及び検察官の増員を行い、裁判官の非常駐支部の解消を確実に図ること」等を求める意見書が採択された。
    また、2014年(平成26年)9月から翌年3月にかけて、帯広支部管内(19市町村)と、北見支部管内(6市町)、隣接する網走支部管内(7市町)の全ての議会において、帯広・北見の両支部での労働審判の実施を求める意見書が採択された。 最高裁判所と政府は、こうした世論の要請に応えて、ただちに所要の措置を講じるべきである。

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