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道弁連大会

議案第2号(決議)

北海道内の病院への指定入院医療機関の指定を求める決議

当連合会は、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律により入院決定を受けた対象者の早期社会復帰を実現するため、国に対しては、北海道内の病院への指定入院医療機関の指定をすることを、北海道に対しては、国及び関係機関と連携の上指定入院医療機関を指定するために必要な条件整備を進めることを、それぞれ求める。
以上、決議する。

2014年(平成26年)7月25日
北海道弁護士会連合会

提案理由

  1. 北海道における指定入院医療機関の不存在
    (1)心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律(以下「医療観察法」という。)は、2005年7月に施行されてから、9年が経過した。
    医療観察法においては、「この法律は、心神喪失等の状態で重大な他害行為(他人に害を及ぼす行為をいう。以下同じ。)を行った者に対し、その適切な処遇を決定するための手続等を定めることにより、継続的かつ適切な医療並びにその確保のために必要な観察及び指導を行うことによって、その病状の改善及びこれに伴う同様の行為の再発の防止を図り、もってその社会復帰を促進することを目的とする。」(法1条1項)とされ、また「この法律による処遇に携わる者は、前項に規定する目的を踏まえ、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者が円滑に社会復帰をすることができるように努めなければならない。」とされており(法1条2項)、対象者の社会復帰を目的としていることが明記されている。

    (2)医療観察法33条に基づき検察官により申し立てられた対象者は、審判の結果、「対象行為を行った際の精神障害を改善し、これに伴って同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するため、入院をさせてこの法律による医療を受けさせる必要があると認める場合」には、入院させる旨の決定を受けることとなり(法42条1項1号)、厚生労働大臣が定める指定入院医療機関において入院による医療を受けなければならないとされる(法43条1項)。
    この指定入院医療機関の指定は、国、都道府県等が開設する病院であって厚生労働省令で定める基準に適合するものの全部又は一部について、その開設者の同意を得て、厚生労働大臣が行うとされており(法16条1項)、現在全国で合計30の病院が指定されている(国立病院15院、都府県立病院15院。なお、その他山形県立鶴岡病院、愛知県立城山病院が整備中とのことである)。しかしながら、北海道内の病院は1件も指定を受けていないのみならず、整備中という状況にもない。
    本決議は、この現状を踏まえ、入院決定を受けた対象者の早期社会復帰を実現するため、北海道内の病院への指定入院医療機関の指定をすること等を求めるものである。

  2. 指定入院医療機関の指定によって改められるべき現状
    (1)厚生労働省によると、2005年7月15日から2012年12月31日までの医療観察法の地方裁判所の審判の終局処理の状況は、
    終局処理人員総数2724件
    ・入院決定1719件(約63%)
    ・通院決定425件(約16%)
    ・医療を行わない旨の決定464件(約17%)
    ・却下95件
    ‐対象行為を行ったとは認められない9件
    ‐心神喪失者等ではない86件
    ・取り下げ19件
    ・申し立て不適法による却下2件
    とされている(厚生労働省「医療観察法の地方裁判所の審判の終局処理の状況」より)。
    ここから明らかなとおり、医療観察法による終局処理の状況は、入院決定を受けるケースが圧倒的に多く、この傾向は北海道においても変わらない。北海道における2005年度から2012年度までの終局処理状況は、これまで終局処理人員総数128件のうち入院決定が79件(約62%)である。
    このように、北海道内においても相当数の入院処遇対象者が存在するが、これらの者は、すべて北海道から離れた場所にある指定入院医療機関への入院を余儀なくされている。なお、北海道から最も近い距離にある指定入院医療機関としては国立病院機構花巻病院(岩手県)があるが、北海道の入院処遇対象者が必ず同病院に入院するというものではなく、最も遠い距離にある国立病院機構琉球病院(沖縄県)に入院しているケースもある。

    (2)指定入院医療機関が北海道に存在しないという現状は、北海道の入院処遇対象者の社会復帰の困難さに繋がっている。
    すなわち、入院処遇対象者に対しては、社会復帰を目的として入院当初より退院に向けた取り組みを継続的に行うこととされ、保護観察所がその中心的役割を担っているところ、現状においては、北海道の保護観察所から北海道外の指定入院医療機関に赴く必要があり、上記取り組みを効果的に行うのに適さない状況にある。
    また、入院処遇対象者の早期の社会復帰のためには、退院後に安定した生活を送ることのできる環境を整備することが必要であり、退院後にかかわる関係機関のスタッフや対象者の家族等が、入院期間中から対象者と面談で相談できる状況を確保することが肝要である。実際、退院予定地の社会復帰調整官が入院当初から対象者と面談して退院後の生活に関する希望を聴取し、指定入院医療機関のスタッフと調整方針などについて協議されており、また外泊等の機会を利用して対象者と退院後にかかわる関係機関のスタッフとが面談する機会を設けるなど、地域処遇への円滑な移行を可能とするよう配慮がなされているが、北海道に指定入院医療機関のない現状は、このような配慮を困難にしている。

    (3)さらに、入院決定を受けた対象者の権利擁護の観点からも、現状には問題がある。
    すなわち、対象者や付添人等は、決定に影響を及ぼす法令の違反、重大な事実の誤認又は処分の著しい不当を理由とする場合には、入院等の決定に対し、2週間以内に抗告できる旨定められている(法64条2項。なお、再抗告につき法70条。)。しかし、入院決定を受けた対象者は直ちに指定入院医療機関へ入院させられ、北海道から離れることとなってしまっている。そのため、入院決定に対して抗告等の申立をするか否かについて、また申立をする場合にはその内容について、当初審判の付添人を務めた弁護士と面談での打ち合わせをするには、北海道外にあるその指定入院医療機関まで当該弁護士が赴かなければならない。
    対象者の自由を制約することとなる入院決定に対しては、その適正手続が担保されなければならないところ、現状においては適正手続が担保されているとは到底いえない。

    (4)北海道内に指定入院医療機関が存在しないことで必然的にもたらされている各状況は、北海道内の病院への指定入院医療機関の指定によって改めるほかないのである。

  3. 国及び北海道に求めること
    以上みたとおり、北海道内に指定入院医療機関がない現状は、医療観察法の目的及び適正手続に照らして到底許容できるものではなく、また法の施行より9年が経過していることを踏まえれば、新制度に伴う環境整備に必要となる時間を考慮してもなお遅きに過ぎるものといわざるを得ない。
    (1)そこで、当連合会は、国に対し、北海道内の病院への指定入院医療機関の指定をすることを、北海道に対し、北海道立病院が指定を受けられるための施設拡充や各病院への協力要請、地域住民の理解の深化のための情報提供等、必要な条件整備を進めることをそれぞれ求めるものである。
    なお、北海道が広大な面積を有することにかんがみれば、指定入院医療機関については、地域的なバランスに配慮した複数指定が望ましい。

  4. 結語
    以上の理由から、当連合会は、医療観察法により入院決定を受けた対象者の早期社会復帰を実現するため、国に対しては、北海道内の病院への指定入院医療機関の指定をすることを、北海道に対しては、国及び関係機関と連携の上指定入院医療機関を指定するために必要な条件整備を進めることを、それぞれ求めるものである。
    なお、本決議は、医療観察法に基づく入院処遇対象者が増加する結果となることを許容するものではなく、医療観察法が保安処分的に運用されることのないよう慎重に判断、運用されるべきであるとの基本的視座のもと、北海道内に指定入院医療機関が存在していないことが入院処遇対象者の社会復帰を困難としている実情にかんがみ、住み慣れた環境から隔絶されることなく、また社会資源を継続的に活用できる環境を整えることで、早期の社会復帰の実現を目指すものである。
    以上の理由から、本決議案を提案する次第である。

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