2024年10月8日、「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者等に対する補償金等の支給等に関する法律」(以下、「本法律」という。)が成立した。また、「旧優生保護法に基づく優生手術等の被害者に対する謝罪とその被害の回復に関する決議」が衆参両議院で採択された。
 2024年7月3日に、最高裁判所大法廷が、旧優生保護法下の強制不妊手術に関する国家賠償請求訴訟の上告審において、国による除斥期間(改正前民法724条後段)の主張を認めず、国に対して被害者への損害賠償を命じる判決を言い渡したことを受けて、本法律の制定と決議という形で結実したものである。
 2018年から始まった全国各地の旧優生保護法違憲国家賠償請求訴訟提訴から本法律制定による解決まで6年以上が経過した。1996年に旧優生保護法が廃止・改正されてから約28年であり、訴訟を起こした原告は高齢で、原告のうち6人が最高裁大法廷の勝訴判決を見ることなく亡くなられた。
 当連合会は、これまで「札幌高等裁判所の旧優生保護法国家賠償請求訴訟の判決を受けて、国に対し、上告をせず、速やかに全ての被害者に対する全面的救済を求める理事長声明」、「旧優生保護法下で実施された優生手術等に関する全面的な被害回復の措置を求めるとともに、優生思想に基づく障害者差別を繰り返させないことを求める決議」において、補償制度の見直し及び早期解決を求めてきた。第一審でも憲法違反を認める判決が多く、旧優生保護法自体の違憲性が明白であったにもかかわらず、これほどの年月がかかったことは遺憾に堪えない。
 一方で、本法律の制定により、訴訟を提起していない被害者・遺族についても被害回復が図られるのは望ましいことである。
 また、本法律の内容については、憲法違反である旧優生保護法の立法及び執行に関する国会及び政府の責任と謝罪を明記したこと、優生手術を受けた本人に1500万円の補償金の支給を認めたこと、その配偶者に対しても500万円の補償金の支給を認めたこと、人工妊娠中絶を受けた本人に対して一時金として200万円の支給を認めたことなど「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律」の不十分な点を改めている。
 当連合会は、前記の決議の中で、「国は、一時金支給法につき、一時金の金額、配偶者が支給対象外であること及び人工妊娠中絶を受けた者が支給対象外であること等を抜本的に見直した上で、支給期限を延長すること。」を求めてきたところ、本法律で、補償金額や対象を広げた点に関しては評価できる。
 今後、政府は、補償金及び一時金支給の認定手続を柔軟かつ適正に行っていくとともに、相談窓口を拡充して、被害者・遺族への周知を行うべきである。前記道弁連決議でも求めたとおり、行政が把握し、あるいは更なる調査等により把握し得る被害者・遺族個人に対して、プライバシーに配慮した個別通知を行うなど、受給権がある被害者・遺族への一時金・補償金の周知を行うことを求める。
 旧厚生省の統計によれば、旧優生保護法に基づき、強制的な不妊手術が行われた人数は、全国で1万6475人とされるが、このうち2593人が北海道で実施されている。北海道の手術件数は、全国の都道府県で最多であり、かつ、全国の手術件数の約6分の1を占め、2番目に手術件数が多い宮城県の1406人をはるかに上回る人数であった。
 北海道は、全国最多の被害を引き起こしたことを重く受け止め、上記の被害者・遺族への個別の周知に全力を尽くす責務がある。既に他県では個別通知に向けた調査等が行われるとされており、北海道においても個別の通知に向けた調査、そして北海道で最多となった経緯や原因、優生思想に基づく差別・偏見等の再発防止に向けた検証が早急に進められる必要がある。
 国及び北海道は、取り返しのつかない被害を引き起こしたことを深く反省し、優生思想に基づく差別・偏見に基づく人権侵害が二度と生じないよう、効果的かつ適切な人権教育及び再発防止策を計画的に実践・拡充すべきである。
 本法律に基づく新たな補償制度では、被害者・遺族の補償申請を弁護士会等が支援することが想定されている。当連合会としても、道内4弁護士会とともに、被害者・遺族に十分な支援を提供することができるよう真摯に取り組むとともに、今後北海道が検証を行う際には、全力を挙げて尽力する所存である。

2024(令和6)年11月9日
北海道弁護士会連合会
理事長  清 水   智