第1 声明の趣旨

当連合会は、北海道のみならず日本全国における地域司法の基盤整備が急務であることを踏まえ、最高裁判所及び日本弁護士連合会に対し、地域司法の基盤整備に関する協議を再開するよう求めるとともに、同協議を経て、次の事項を実現するよう求める。

地域司法における人的基盤の拡充

裁判官を増員すること。少なくとも、裁判官非常駐の地方裁判所支部、家庭裁判所支部、独立簡易裁判所及び家庭裁判所出張所において開廷日の設定を柔軟に行うこと。

家庭裁判所調査官を増員し、全ての家庭裁判所支部及び家庭裁判所出張所において家庭裁判所調査官が常駐すること。

地域司法における物的基盤の拡充

全ての裁判所庁舎をバリアフリー化すること。

全ての家庭裁判所支部及び家庭裁判所出張所において児童室を設置すること。

前2項を実現するために裁判所予算を増大するよう共同して国に求めること。

第2 声明の理由

はじめに

最高裁判所(以下「最高裁」という。)及び日本弁護士連合会(以下「日弁連」という。)は、2014(平成26)年から2016(平成28)年にかけて、地域司法の基盤整備に関する協議を行ったものの、その後現在まで同趣旨の協議は行われていない。北海道のみならず日本全国では、地方の過疎化が進んでおり、何ら対策を取らない場合には、地方の住民に対する司法サービスの提供が現状のまま進展せず、都市部におけるそれとの差が大きくなる一方である。われわれ弁護士を含む法曹は、居住する地域に関係なく、全国民に対して等しく適切な司法サービスを提供しなければならない。

そこで、当連合会は、最高裁及び日弁連に対し、地域司法の基盤整備に関する協議を速やかに再開するよう求めるとともに、同協議では広大な面積を有する北海道という特殊事情にも配慮して、要望の趣旨に列記した事項を議題とし、実現に向けて尽力するよう求める。

以下、北海道における特殊事情を踏まえて、実現を求める事項について説明する。

北海道における地域司法の人的基盤拡充について

裁判官不足による審理期間の長期化の弊害の除去

北海道にある16の地方裁判所及び家庭裁判所(以下「地家裁」という。)支部のうち10の支部1 に裁判官(簡易裁判所判事を除く。以下同じ。)が常駐していない。また、北海道にある13の独立簡易裁判所(家庭裁判所出張所併設を含む。以下同じ。)の全てに裁判官が常駐していない(以下、地家裁支部及び独立簡易裁判所を合わせて「地家裁支部」という。また、裁判官非常駐の地家裁支部等のことを「裁判官非常駐支部」という。)。

これらの裁判官非常駐支部では、地家裁本庁が裁判官をてん補することによって、当該支部の開廷日を月数回(北海道では月3~4回程度)確保している。そのため、裁判や調停等の審理が次の期日に続行となった場合に、あらかじめ定められた開廷日に当事者や代理人弁護士の都合が合わない、あるいは調停室が不足しているため調停を実施できないなどの理由で、2か月後あるいは3か月後の期日となったという事例が複数報告されている。このような弊害は、裁判官非常駐支部の開廷日が限られていることが原因である。

特に家庭裁判所(以下「家裁」という。)で取り扱う事件数は年々増加しており、2022(令和4)年度の全国の家裁に申し立てられた事件総数は114万7682件であるところ、成年後見制度が開始した2000(平成12)年度の56万0935件の2倍以上の新受件数となっている(新受件数は最高裁事務総局の司法統計年報概要版から。)。この傾向は、当然、家裁支部及び家裁出張所(以下、家裁支部及び家裁出張所を合わせて「家裁支部・出張所」という。)でも同様である。

しかしながら、裁判官数は、2000(平成12)年度は2213人であるのに対し、2022(令和4)年度は2784人と1.25倍程度の増員に留まっている(人数は弁護士白書2022年版から。)。

そこで、このような弊害を除去するため、地家裁本庁はもちろんのこと裁判官非常駐支部を含めた全支部の裁判官を増員することによって、裁判官非常駐支部の開廷日を増やすべきである。また、仮に事件数などの事情により、裁判官非常駐支部の開廷日を増やすことができないとしても、例えばいったん開廷日を定めたとしても、当事者の都合に応じて柔軟に変更できるようにするなど、迅速な裁判所における手続を受けられるような体制を原則とすべきである。

家庭裁判所調査官の不足による弊害の除去

家裁は、夫婦や親族間の争いなどの家庭に関する問題や非行をした少年について処分する裁判所であり、法律的なことはもちろんのこと、紛争当事者の人間関係や家庭環境などを踏まえた適切な解決が求められている。家庭裁判所調査官(以下「家裁調査官」という。)は、このような家裁が取り扱う事件を適切に解決できるよう、紛争当事者の人間関係、家庭環境、少年が非行をするに至った経緯、生育歴などを調査することを職務とする。

上記⑴のとおり、家裁の新受件数は飛躍的な増加傾向にある。それにもかかわらず、家裁調査官の定員数は、2000年度は1528人であるのに対し、2022(令和4)年度は1598人とわずか70人の増員に留まっている(人数は同年度の一般会計当初予算から)。しかも、北海道に10ある裁判官非常駐支部2 、12ある家裁出張所3 には、家裁調査官が常駐していないとのことである(常駐の有無は、北海道の弁護士会員からの情報提供による。)。

そのため、子どもの親権や面会交流など高葛藤の事件であり、家裁調査官による調査が必要であるにもかかわらず、家裁調査官が関与しなかった事例や、家裁本庁を拠点とする遠方の家裁調査官が担当したことから、移動に長時間を要するといった事情のために日程の確保や調整が難航し、調査日がかなり先になったといった事例が報告されている。家裁に係属する事件は、養育費や婚姻費用など、日々の生活に直結する事柄が多いため、早期に着手し、迅速に処理することが要請されている。しかし、これらの事例では、その要請に十分に応えられていない。

このような弊害をなくすためにも、家裁調査官を速やかに増員し、全ての家裁支部・出張所に家裁調査官を常駐させるべきである。

北海道における地域司法の物的基盤拡充の必要性

裁判所庁舎における高齢者及び障がい者に対するバリアの解消

北海道内にある地家裁支部は、高齢者の多い地方に配置されていることが多い。当然、高齢者も裁判所での手続を受ける権利を有している。

しかしながら、エレベーターが設置されていない北海道内の裁判所庁舎は、16ある地家裁支部庁舎のうちの9庁舎4 、13ある独立簡裁庁舎のうちの9庁舎5 といずれも半数以上にのぼる(設置の有無は、北海道の弁護士会員からの情報提供による。)。エレベーターが設置されていない庁舎であるにもかかわらず、法廷あるいは調停室が2階以上の階にある場合には、車いすで移動しなければならない高齢者や障がい者は、法廷や調停室までたどり着くことが困難である。調停の場合には、1階にある会議室等を調停室として利用することにより対応することが可能であるが、当事者双方が車いす利用者の場合や、1階にある会議室等が不足していて調停室として代替できない場合なども想定され、期日を先に設定するなどで対応しなければならなくなる。

点字ブロック未設置の問題など、エレベーター以外にも高齢者や障がい者が裁判所庁舎を利用する際のバリアは多々あることから、速やかに裁判所庁舎のバリアフリー化を進めるべきである。

家裁支部の児童室未設置の解消

面会交流に関する事件では、裁判官の調査命令に基づいて、試行的面会交流が行われることがある。

しかしながら、児童室が設置されていない北海道内の裁判所庁舎は、16ある家裁支部庁舎のうちの10庁舎6 、12ある家裁出張所庁舎の全てと大多数にのぼる(設置の有無は、北海道の弁護士会員からの情報提供による。)。児童室が設置されていない家裁支部・出張所の場合、遠隔地にある児童室が設置された庁舎に移動して試行的面会交流を行うことになるため、当事者にかかる負担は大きい。

このような弊害をなくすためにも、速やかに全ての家裁支部庁舎、家裁出張所庁舎に児童室を設置すべきである。

人的物的基盤を拡充するための裁判所予算措置

これまで述べた地域司法の人的物的基盤の整備のためには、相応の予算措置が必要である。

しかしながら、2023(令和5)年度の裁判所予算は約3222億円であり(予算額は最高裁の令和5年度予算案の概要から。)、全国家予算約114兆3812億円のわずか0.282%にすぎない。このようなわずかばかりの裁判所予算で、これまで要望している人的物的基盤を拡充することなど困難である。

そこで、最高裁及び日弁連は、裁判所予算を大幅に増加するよう、共同して国会に働きかけていくべきである。

結語

よって、当連合会は、最高裁及び日弁連に対し、要望の趣旨記載のとおり、地域司法の基盤整備に関する協議を速やかに再開するとともに、同協議を経て、要望の趣旨記載の事項を実現するよう求める。

2024(令和6)年1月24日
北海道弁護士会連合会   
理事長  佐 藤 昭 彦


1 旭川地家裁(名寄支部、紋別支部、留萌支部、稚内支部)、釧路地家裁(網走支部、根室支部)、札幌地家裁(滝川支部、浦河支部、岩内支部)、函館地家裁(江差支部)

2 前掲1参照

3 旭川家裁(深川出張所、富良野出張所、中頓別出張所、天塩出張所)、釧路家裁(本別出張所、遠軽出張所、標津出張所)、札幌家裁(夕張出張所、静内出張所)、函館家裁(松前出張所、八雲出張所、寿都出張所)

4 旭川地家裁(名寄支部、紋別支部、留萌支部、稚内支部)、釧路地家裁(網走支部、北見支部、根室支部)、札幌地家裁(滝川支部、岩内支部)

5 旭川地裁管内(深川簡裁、中頓別簡裁、天塩簡裁)、釧路地裁管内(遠軽簡裁、標津簡裁)、札幌地裁管内(夕張簡裁、伊達簡裁)、函館地裁管内(八雲簡裁、寿都簡裁)

6 旭川家裁(名寄支部、紋別支部、留萌支部、稚内支部)、釧路家裁(網走支部、根室支部)、札幌家裁(滝川支部、浦河支部、岩内支部)、函館家裁(江差支部)