1 札幌高等裁判所は、2023(令和5)年3月16日、旧優生保護法に基づく不妊手術を強制された被害に関し、国に被害者に対する損害賠償を命じる判決を言い渡した。

2 旧優生保護法は、1948(昭和23)年、現行憲法の下で制定され、1996(平成8)年に母体保護法へと改正されるまでの48年間に、同法に基づき、遺伝性疾患、ハンセン病、精神障害がある人等に対して、優生手術及び人工妊娠中絶が実施された。優生手術だけで約2万5000人、人工妊娠中絶も含めると約8万4000人もの人が被害を受けた。とりわけ北海道では、北海道衛生部北海道優生保護審査会が1956年に「優生手術(強制)千件突破を顧りみて」を発刊するなどし、統計上の数値だけでも全国の都道府県で最も多い2593人に優生手術が行われた。

3 旧優生保護法は、「優生上の見地から不良な子孫の出生を防止する」(第1条)ことを目的として掲げ、障害のある人等の生存そのものを否定した。しかし、憲法13条が「すべて国民は、個人として尊重される」と定めているように、この世界に一人として「不良」な人間や「不良」な子どもは存在しない。また、憲法14条は「すべて国民は法の下に平等」であると定め、憲法24条2項は「家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して制定されなければならない」としている。旧優生保護法は、これらの憲法の規定に反する明らかに違憲の法律であった。しかしながら、国は、憲法13条、14条、24条2項に明らかに違反する法律を作りながら、約50年にもわたって人権侵害を継続し、その後も被害回復の措置をとることなく、放置してきた。国が、国家政策として、長年にわたり、多くの障害のある人等に対し重大な人権侵害を行ってきたことは、もはや自明の事実である。

4 これらの被害救済のため2019(平成31)年4月24日に成立した「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律」(以下「一時金支給法」という。)は、旧優生保護法の違憲性に言及せず、被害者への補償も不十分であること、被害者への個別通知が明記されなかったことや、支給の対象に人工妊娠中絶を受けた者が含まれていないことなど、十分な内容とは言えないものである。

5 全国の被害者が国に対し提起した旧優生保護法に基づく国家賠償請求訴訟において、2022(令和4)年2月22日には大阪高等裁判所が、同年3月11日には東京高等裁判所が、いずれも国に損害賠償を命ずる判決を下し、また、各地方裁判所においても、2023(令和5)年1月23日には熊本地方裁判所が、同年2月24日には静岡地方裁判所が、同年3月6日には仙台地方裁判所が、それぞれ国に損害賠償を命ずる判決を下している。
 この度の札幌高等裁判所の判決も、多くの全国の裁判例と同様に、旧優生保護法の違憲性を明確に認め、請求の一部を認容したものである。

6 国はこれまで、全国の認容判決に対し控訴・上告を繰り返している。しかしながら、裁判の原告を含む多くの被害者が高齢であり、迅速な全面解決が必要である。被害者が国家賠償請求を行うには多大な時間的、精神的負担を伴い、実際に国家賠償請求を行っている者が少数にとどまっていることからしても、立法による解決が不可欠である。

7 当連合会は、国に対し、優生政策の誤りや旧優生保護法による被害に真摯に目を向け、本判決に対して上告せず、一刻も早く本判決を確定させるよう求めるとともに、改めて一時金支給法を抜本的に見直し全ての被害者に対して被害を償うに足りる補償金を支払い、被害者救済のための制度を確立することを強く求める。

2023(令和5)年3月20日
北海道弁護士会連合会
理事長  坂 口 唯 彦