1 昨日、東京高等裁判所第2刑事部は、いわゆる「袴田事件」の第二次再審請求事件について、2014(平成26)年に静岡地方裁判所が行った再審開始決定を支持し、検察官の即時抗告を棄却する決定をした。

2 袴田事件は、1966(昭和41)年6月30日未明、旧清水市(現静岡市清水区)の味噌製造会社専務宅において、一家4名が殺害・放火された強盗殺人、放火事件である。
 同年8月に逮捕された袴田巌氏は、当初から無実を訴えていたが、過酷な取調べを受けた結果、犯行を自白して起訴され、1980(昭和55)年12月に死刑判決が確定している。

3 第一次再審請求は、1981(昭和56)年の申立てから27年を要したものの、最高裁判所で特別抗告が棄却されて終了した。
 第二次再審請求は、姉の袴田ひで子氏が請求人となって、2008(平成20)年に申立てを行ったものであるが、裁判所の勧告によって多数の検察官手持ち証拠が開示された。そのなかには、袴田巌氏の無実を示す重要な証拠が多数含まれていたこともあり、静岡地方裁判所は、上記のとおり、2014(平成26)年3月27日、再審開始を決定するとともに、死刑及び拘置の執行を停止する画期的な決定も行い、袴田巌氏は釈放されるに至った。
 しかし、検察官の即時抗告に対し、東京高等裁判所は、再審開始決定を取り消して再審請求を棄却した。
 これに対し、特別抗告を受けた最高裁判所は、2020(令和2)年12月22日、東京高等裁判所の上記決定を取り消し、本件を東京高等裁判所に差し戻す決定を行った。
 昨日の東京高等裁判所の即時抗告棄却・再審開始維持決定は、この差戻審による決定である。

4 事件からは56年、第二次再審請求からは15年、静岡地方裁判所の再審開始決定からは既に9年が経過している。袴田巌氏は現在87歳であり、袴田ひで子氏も90歳といずれも高齢であるから、その救済に向けて、一刻の猶予もない。検察官の不服申立てに伴う、これ以上の手続遅延は決して許されないというべきである。
 再審開始決定は、裁判をやり直すことを決定するにとどまり、有罪・無罪の判断は再審公判において行うことが予定され、そこでは検察官にも有罪立証をする機会が与えられている。昨日、東京高等裁判所において、静岡地方裁判所の再審開始決定を維持する決定がなされたのであるから、これ以上の手続遅滞を避けるべく、直ちに再審公判への移行がなされるべきである。
 よって、当連合会は、検察官に対し、昨日の決定を尊重して特別抗告を行うことなく、本件を速やかに再審公判に移行させるよう求める。

5 当連合会は、速やかに「袴田事件」の再審開始が確定し、再審公判において袴田巌氏の無罪が確定することを切望するとともに、袴田事件において、上記のとおり証拠開示が重要な役割を果たしたことに鑑み、再審請求審における全面的証拠開示手続規定の創設と検察官の不服申立禁止規定の創設を含む、えん罪防止のための再審法改正の実現を目指して、引き続き全力を尽くす決意である。

2023(令和5)年3月14日
北海道弁護士会連合会
理事長  坂 口 唯 彦