1. 罪を犯していないにもかかわらず犯罪者として人を罰する冤罪は、冤罪被害者の人格を否定するのみならず、人生をも破壊する。
 冤罪は、刑事司法の正当性を根底から失わせるものであり、決してあってはならないことであるが、万一誤りがあった場合は速やかに救済されなければならない。

2. 冤罪被害者を救済するための制度として、再審請求手続がある。再審請求手続は、無実の人が救済される最後の砦である。
 しかし、その手続を定めた現在の法律(刑事訴訟法第四編「再審」)には、再審請求手続の審理のあり方に関する規定がわずか19条であり、かつ、この再審請求手続に関する規定部分は、約1世紀もの間改正が行われないまま、現在に至っている。
 このように、長年にわたり、いわば「再審のルール」がほぼ存在しない状態であることから、再審請求手続の審理の進め方は、事件を担当する裁判官によって区々となっており、再審請求手続の審理の適正さが制度的に担保されず、公平性が損なわれている。

3. 中でも、とりわけ再審における証拠開示の問題は重要である。過去の多くの冤罪事件では、警察や検察庁といった捜査機関の手元にある証拠が再審段階で明らかになって、それが冤罪被害者を救済するための大きな原動力となっている。
 冤罪被害者を救済するためには、捜査機関の手元にある証拠を利用できるよう、これを開示させる仕組みが必要であるが、現行法にはそのことを定めた明文の規定が存在せず、再審請求手続において証拠開示がなされる制度的保障はない。
 そのため、裁判官や検察官の対応いかんで、証拠開示の範囲に大きな差が生じている実情があり、このような格差を是正するためには、速やかに証拠開示のルールを定めた法律を制定することが不可欠である。

4. また、再審開始決定がなされても、検察官がこれに不服申立てを行う事例が相次いでおり、冤罪被害者の速やかな救済が妨げられている。
 例えば、大崎事件(1979年10月12日に鹿児島県で発生した殺人事件で、主犯格とされた被告人に懲役10年の判決が下され、確定した。現在95歳の元被告人は長年にわたって無罪を訴え続けている。)では、即時抗告審を含め、これまで3度にわたり再審開始決定が言い渡されたが、いずれも検察官による即時抗告及び特別抗告により、再審開始決定が覆されてしまう状況が続いている。
 しかし、再審開始決定は、裁判をやり直すことを決定するにとどまり、有罪・無罪の判断は再審公判において行うことが予定され、そこでは検察官にも有罪立証をする機会が与えられている。一度でも再審開始決定がなされたのであれば、直ちに再審公判に移行すべきであるから、速やかに再審開始決定に対する検察官の不服申立てを禁止する法改正を行うべきである。

5. 当連合会は、国に対し、刑事訴訟法中の再審請求手続に関する部分を速やかに改正し、再審請求手続における証拠開示のあり方を根本的に見直すとともに、再審開始決定に対する検察官による不服申立制度を廃止し、無辜の冤罪被害者が、誤った判断から一日でも早く救済されるための抜本的な改正を強く求める。

2023(令和5)年2月21日

北海道弁護士会連合会
理事長  坂 口 唯 彦