1. 昨今の報道により、1997(平成9)年に兵庫県神戸市で発生した中学生による児童連続殺傷事件の事件記録(神戸家庭裁判所)や、2004(平成16)年に長崎県佐世保市の小学校で発生した小6女児殺害事件の事件記録(長崎家庭裁判所)が全て廃棄されていたことが明らかとなった。

2. 最高裁判所規則である「事件記録等保存規程」は、9条2項において「記録又は事件書類で史料又は参考資料となるべきものは、保存期間満了の後も保存しなければならない。」と定めている。

これを受けて1992(平成4)年に発せられた「事件記録等保存規程の運用について」(平成4年2月7日事務総長依命通達)では、第6、2(1)において、特別保存すべき記録又は事件書類の選定の指針として、以下のものを例示している。

「ア

重要な憲法判断が示された事件

重要な判例となった裁判がされた事件など法令の解釈運用上特に参考となる判断が示された事件

訴訟運営上特に参考になる審理方式により処理された事件

世相を反映した事件で史料的価値の高いもの

全国的に社会の耳目を集めた事件又は当該地方における特殊な意義を有する事件で特に重要なもの

民事及び家事の紛争、少年非行等に関する調査研究の重要な参考資料になる事件」

3. 児童連続殺傷事件や小6女児殺害事件の事件記録が2項特別保存の対象に当たることは通達に照らしても明らかであるが、結果的に保存されず、廃棄されてしまっている。

これまでの運用として、一部の家庭裁判所において、少年事件の記録保存への関心が低かったと理解せざるを得ない。

4. 言うまでもなく、一度廃棄されてしまった記録は、将来いかなる事情が発生しても、二度と検証・研究の対象とすることはできない。

少年事件記録は、全資料が裁判所に送致され、少年の生育歴等のプライバシー情報を多数含むという特殊性を有し、記録の閲覧等の手続きにあたっては特段の配慮が必要である。しかしながら、社会の耳目を集めた重大な少年事件の記録は、審理の問題性や法改正の要否・当否、被害者等に対する支援の方策を検証・検討するきっかけとなるものであり、「歴史的事実の記録である公文書」(公文書等の管理に関する法律第1条)としての意味を有し、国民共有の知的資源でもある。

5. 当連合会は、最高裁判所に対し、全国の家庭裁判所が現に保存している少年事件の事件記録につき、2項特別保存すべき事件を選定するためのガイドラインを策定するなどして、家庭裁判所が適正に2項特別保存の指定をするよう周知徹底することを強く求めるとともに、前記各事件を始めとした重大な少年事件に関する事件記録を廃棄した経緯を調査し、その結果を公表し、再発防止策を早急に講ずることを強く求める。

2022(令和4)年11月19日
北海道弁護士会連合会
理事長 坂口 唯彦