1.はじめに

当連合会は、2017(平成29)年7月28日開催の北海道弁護士会連合会定期大会にて「修習給付金制度の円滑で継続的な運用と谷間世代に対する速やかな不公平是正措置等を求める決議」を採択し、政府、国会及び最高裁判所に対し、同決議第3項において「3.新65期司法修習から70期司法修習までの間に司法修習を経た者(いわゆる谷間世代)に対する経済的支援策を直ちに実施すること」を求めました。

しかし、決議から5年を経過した現在まで、谷間世代に対する経済的支援策は実施されていません。

当連合会は、あらためて、谷間世代に対する一律給付の実現を直ちに行うよう、強く求めます。

2.司法修習制度の歴史と意義

司法は、三権の一翼として、法の支配を実現し国民の権利を守るための重要な社会インフラであり、法曹(裁判官、検察官、弁護士)はこの司法の担い手として公共的使命を負っています。

国は、高度な技術と倫理感が備わった法曹を国の責任で養成するために、現行の司法修習制度を、1947(昭和22)年、日本国憲法施行と同時に発足させ運営してきました。この制度の中で、司法修習生は、国からの給費を受けながら、修習専念義務(兼職の禁止)、守秘義務等の職務上の義務を負い、裁判官・検察官・弁護士になる法律家の卵として、全ての分野の法曹実務を現場で実習し、法曹三者全ての技術と倫理を習得してきました。

つまり、司法修習制度と司法修習生に対する給費制度は一体のものとして、我が国における法曹養成制度の根幹をなしてきたのです。

3.給費制の廃止と修習給付金制度の創設、谷間世代の出現

この司法修習生に対する給費制は、2011(平成23)年11月に突如廃止されました。それ以降に司法修習を受けた新第65期以降の司法修習生は、無給での司法修習を強いられ、司法修習中の生活費等を必要とする者は貸与制の下での貸与を受けるほかありませんでした。

この給費制度の廃止に多くの批判の声が上がり、2017(平成29)年4月19日に、裁判所法が改正され、第71期以降の司法修習生に対する修習給付金制度が創設されました。しかし、給費制の廃止後、修習給付金制度が創設されるまでに司法修習を受けた谷間世代に対しては、何らの経済的手当もなされず、谷間世代は極めて不平等・不公平な状態で取り残されたままの状態が続いています。

谷間世代の法曹の人数は約1万1千人であり、全法曹の実に4分の1を占めています。谷間世代は、修習専念義務を課されての司法修習という、他の4分の3の法曹と全く同じ司法修習をしていながらも、無給での司法修習を強いられました。

4.谷間世代救済の必要性

谷間世代の法曹にとっての経済的負担と不平等・不公平感は、決して無視できるものではありません。谷間世代の法曹も、前後の世代の法曹と同じく、法の支配の実現に寄与する司法制度の担い手であることに変わりはないからです。

近年、各地で繰り返される大規模自然災害やコロナ禍等により困難を抱えた人々のための献身的活動など、谷間世代の中にも、社会の役に立ちたいという志を持ち、既にそれぞれの職務において現に実力を発揮している者も多く存在します。また、日本弁護士連合会が創設した「若手チャレンジ基金」制度では先進的ないし公益的取組みとして多数の谷間世代の会員が表彰されるなど、基本的人権の擁護と社会正義の実現にかける意欲は全く他の世代と同様です。

全法曹の約4分の1を占める谷間世代には、これからの司法の中心的な担い手として、より一層、社会の不公正や権利侵害に立ち向って法の支配を実現し、国民のための力強い司法を体現することが強く期待されています。

しかしながら、志があるにもかかわらず、不平等・不公平な経済的負担が障害となって、その能力を思いどおり発揮できないことは、法的救済を求めている司法サービスの利用者(国民)にとっても、社会にとっても、大きな損失です。日本弁護士連合会が2019(令和元)年に実施した谷間世代に対するアンケートでは、多くの谷間世代の弁護士が、経済的困難が解消されれば、活動範囲を広げ、社会のために更に役に立ちたいと考えていることが明らかになりました。

谷間世代が抱える経済的・精神的足かせを国による一律給付の実現により是正することは、谷間世代の法曹の活躍の分野の拡大や活動量の増加・司法機能の強化につながり、国民にとって大きな利益や救済に結び付くものであることは明らかです。

5.名古屋高等裁判所判決の指摘

名古屋高等裁判所は、2019(令和元)年5月30日、給費制廃止違憲訴訟判決において「従前の司法修習制度の下で給費制が実現した役割の重要性及び司法修習生に対する経済的支援の必要性については、決して軽視されてはならないものであって、いわゆる谷間世代の多くが、貸与制の下で経済的に厳しい立場で司法修習を行い、貸与金の返済も余儀なくされているなどの実情にあり、他の世代の司法修習生に比し、不公平感を抱くのは当然のことであると思料する。例えば谷間世代の者に対しても一律に何らかの給付をするなどの事後的救済措置を行うことは、立法政策として十分考慮に値するのではないか」と言及しました。国及び関係機関は、この判決を真摯に受け止め、谷間世代への不平等・不公平を一律に解消するための抜本的な是正策を速やかに行う必要があります。

6.最後に

様々な社会問題に加え、昨今のコロナ禍等による新たな問題にも直面している現代において、谷間世代を含む法曹は、これらの諸問題に一丸となって立ち向かい、社会的経済的弱者の救済をはじめとする人権擁護活動に尽力することにより、法の支配を実現しなければなりません。

特に、全法曹の約4分の1を占める谷間世代には、これからの司法を担う中核的な存在として、積極的な活動を行っていくことが期待されています。

谷間世代に対する不公平、不公正を是正し一律給付を実現することによって、谷間世代の法曹がより活動の幅を広げ、社会的、公益的な役割を果たしていくことが、市民のための力強い司法を実現するために必要とされています。

当連合会は、改めて国による谷間世代法曹への新給付金相当額又はこれを上回る金額の一律給付を実現することを強く求めます。

2022(令和4)年10月15日
北海道弁護士会連合会
理事長 坂口 唯彦