宣言の理由

1.地域の消費者被害防止ネットワークを充実させる必要性

(1)高齢者・障がい者等の被害

2021年(令和3年)1月1日現在の北海道住民基本台帳人口は519万0638人であるところ、そのうち65歳以上の人(以下「高齢者」という。)の割合は32.1%(166万7095人)に達した。そして、国立社会保障・人口問題研究所の公表資料では、2045年には北海道の人口が約400万人に減少し、ここに高齢者が占める割合は42.8%(約171万人)に上ると推計されている。

人は、高齢になるにしたがい健康面や経済面への不安が増し、判断力が低下するものであるが、このような「弱み」につけ込む悪質商法が後を絶たず、今後ますます進む我が国の社会全体、北海道全体の高齢化に伴い、消費者被害も増加することが懸念される。

また、認知症等の高齢者や障がい者等の被害では、自ら被害に気付くことが難しい。全国の消費生活相談センターに寄せられる相談件数のうち、本人からの相談は、認知症高齢者では2割、障がい者では4割にすぎず、家族や介護担当者など、周囲の人間が見守っていくことが被害防止に重要である。

(2)消費者被害防止ネットワーク

2014年(平成26年)に改正された消費者安全法では、高齢者、障がい者、認知症等により判断力が不十分となった者の消費者被害を防ぐため、地方公共団体及び地域の関係者が連携して見守り活動を行う「消費者安全確保地域協議会」を設置できることが規定され、福祉関係者、医療・保健所関係者、警察・司法関係者、教育関係者、事業者等が被害を早期に発見し、消費生活相談センターにつないで解決に導く取組みが全国で進められている。

北海道では、これより早く2003年(平成15年)から各地に「消費者被害防止ネットワーク(以下「地域のネットワーク」という。)」が設立され始め、2021年(令和3年)10月時点では道内約70箇所に地域のネットワークが存在し、このうち14箇所が既に「消費者安全確保地域協議会」となっている。とはいえ、現実には人材や予算の不足から活動が停滞しがちな地域のネットワークや、構成員自身が高齢化して将来の活動に不安を抱える地域のネットワークも存在するため、今一度、地域における連携の必要性を確認し、既に存在する地域のネットワークの活性化を図ることが必要であり、さらには未設置地域においても新たに地域のネットワークを設立し、消費者被害の防止、潜在的な被害の発見と救済への連携を始めるべきである。

よって、我らは、道内各市町村及び各地域に対し、地域のネットワークの設立や活動に必要な人材と予算の確保を、国及び北海道に対しては、そのための支援を充実させるよう求める。そして、弁護士及び弁護士会は、北海道内各地において先駆的な取り組みを進める地域のネットワークに協力し、さらにその情報を他の地域に発信、交換、共有するなど、消費者被害の防止と救済に向けた各地の活動と積極的に協働すべきである。

2.不招請勧誘規制の重要性

(1)書面電子化による被害増加の懸念

令和3年6月9日、特定商取引法及び預託法における契約書面等について、消費者の承諾を条件に電磁的交付(以下「電子化」という。)を許容する改正法が成立したが、これにより消費者被害の増加が懸念されている。すなわち、一覧性のある紙の契約書面等には、内容を消費者に確認させる機能、契約を踏みとどまらせる警告機能、無条件解約する権利(クーリング・オフ)を告知する機能、後日の紛争に備える証拠保全機能などがあるところ、契約内容を膨大な量のデータとして受信すると一覧性がなく、確認、警告、告知機能が著しく減殺されてしまうほか、機器の故障や紛失、ウイルス等によりデータが毀損・消失すれば証拠保全機能も失われ、後日の被害救済が困難となる。

同改正法では、消費者の承諾を条件として電子化を許容するものであるが、その承諾が真意に基づく保証はない。特に、消費者が望まない不意打ち的な勧誘(以下「不招請勧誘」という。)を受け、断り切れずに契約に至ることが多い訪問販売や電話勧誘販売では、電子化についての承諾も同様となる可能性が高い。

特に高齢者の被害では、これまでは家族やヘルパーら介護担当者が不審な契約書面を発見し、消費生活相談センターにつないで救済することもできたが、高齢者のスマートフォン内にデータが送信されても誰も被害に気付けず、デジタル機器の操作に不慣れであれば、契約者本人でさえ受信した契約内容を確認できない場合も生ずる。

(2)不招請勧誘規制による被害防止

書面の電子化は、訪問販売及び電話勧誘販売でも導入されるが、国民生活センターの統計によれば、認知症等の高齢者の場合、この2類型による相談が全体の約半数を占めている。

高齢化や単独世帯の増加、日中の在宅率の高さや書面の電子化導入等の事情を踏まえるに、不招請勧誘による訪問販売や電話勧誘販売を事前に拒否し、高齢者や障がい者を中心とした弱い立場の消費者を保護する方策を整えることは喫緊の課題といえる。

北海道消費生活条例・同施行規則は、玄関に貼付された「お断りステッカー」を無視して勧誘する訪問販売を「不当な取引」の一例として明示しており、これまで多くの市町村や地域のネットワークのほか北海道弁護士会連合会においても、それぞれ「お断りステッカー」を作成・配布し、不招請勧誘の拒絶に活用することを周知してきた。北海道は、「お断りステッカー」を無視して勧誘に及んだ事業者に指導を重ね、2020年(令和2年)には全国初の行政処分にもつながり、「お断りステッカー」が、弱い立場の消費者を保護するために有効であることが実証された。

また、電話勧誘販売による被害を防ぐため、道内自治体の中には予算を確保して「迷惑防止機能付き電話機」を導入した例もある。

我らは、訪問販売や電話勧誘販売における不招請勧誘規制が今後ますます重要となる現実を踏まえ、国及び北海道に対しては特定商取引法の執行強化や北海道消費生活条例による行政処分の強化を求め、道内各市町村及び地域のネットワークに対しては「お断りステッカー」のさらなる活用や「迷惑防止機能付き電話機」の導入と、これらの施策に伴う予算確保を求める。

3.成年年齢引下げ

(1)若年者の消費者被害拡大

民法第5条第2項に規定される未成年者取消権は、悪質事業者が若年者の思慮浅薄に乗じて不当な取引に巻き込まないよう抑制しており、実際にも、「全国の消費生活センター等に寄せられた若者の相談件数(平均値)」では、契約当事者が20~22歳の相談は18~19歳の相談と比べて1.4~1.9倍多くなり、成人した途端に消費者トラブルや被害に遭いやすいことが指摘されている。

また、上記のとおり、特定商取引法及び預託法において契約書面等が電子化されることに伴い、デジタル機器に慣れ親しんだ若年者は、契約というものの重要性を考えず安易に電子化を承諾し、データで受信した契約内容を確認せず放置することや、データファイルを削除してしまうことも予測される。実際のところ詐欺的な定期購入問題では、膨大な広告情報がデジタル画面を埋め尽くすため、複数の注文が義務付けられ高額となる実態に気づきにくい仕組みとなっており、ダイエット食品等による被害者には若年者も多い。

(2)附帯決議の早急な実現

民法の成年年齢を20歳から18歳に引き下げる「民法の一部を改正する法律」が2022年(令和4年)4月に施行される。同法律が成立した際には、参議院法務委員会において全会一致で附帯決議がなされ、知識、経験、判断力の不足など消費者が合理的な判断をすることができない事情を不当に利用して勧誘し契約を締結させた場合における消費者の取消権(いわゆるつけ込み型不当勧誘取消権)を創設すること、若年者の消費者被害を防止し救済を図るために必要な法整備を行うこと、マルチ商法等への対策について検討して必要な措置を講ずることのほか、消費者教育の充実を図り、18歳、19歳の若年者への周知徹底や社会的周知のための国民キャンペーン実施を検討すること、施行日までに措置の実施、効果、国民への浸透について検討し、その状況を公表することなどが求められた。

しかし、成立から3年を経過した現時点においても、つけ込み型不当勧誘取消権は導入されておらず、マルチ商法等への対策や若年者への消費者教育は不十分というほかなく、附帯決議の内容はほとんど実現されていない。

我らは、半年後に迫る施行を前に、あらためて、国、北海道及び道内各市町村に対し、若年者の消費者被害防止と救済のための各施策の早急な実施を求める。また、弁護士及び各弁護士会が、各種学校や地域のネットワークにおいて行われる消費者教育に積極的に協力し、若年者の消費者被害の防止・救済に尽力すべきことを確認する。

4.結語

以上のとおり、超高齢化社会・デジタル社会において、若年者から高齢者まであらゆる消費者被害の拡大が懸念される中、我らは、国、北海道及び道内各市町村に対し、特に重要かつ緊急性の高い施策の早期実施を提言するとともに、弁護士及び弁護士会が積極的に関与・協働することで、悪質商法等に騙されることなく、商品やサービス等を適切に消費し、安心して暮らせる社会の実現を目指すことを宣言する。

2021年(令和3年)11月8日
北海道弁護士会連合会 理事長 砂子 章彦
旭川弁護士会 会長 飯塚 正浩
釧路弁護士会 会長 伊藤明日佳
札幌弁護士会 会長 坂口 唯彦
函館弁護士会 会長 平井 喜一