1.最終処分法における調査と候補地区選定との関係性について

調査と候補地選定に関する最終処分法の規定の概要は以下のとおりとなっている。

第6条第1項

機構(原子力発電環境整備機構(NUMO)のこと、以下、「機構」という)は、概要調査地区を選定しようとするときは、最終処分計画及び当該機構の承認実施計画に従い、次に掲げる事項(省略)について、あらかじめ、文献その他の資料による調査(文献調査)を行わなければならない。

第6条第2項

機構は、前項の規定により文献調査を行ったときは、その結果に基づき、経済産業省令で定めるところにより、当該文献調査の対象となった地区のうち次の各号のいずれにも適合していると認めるものの中から概要調査地区を選定しなければならない。

当該文献調査対象地区において、地震等の自然現象による地層の著しい変動の記録がないこと

当該文献調査対象地区において、将来にわたって、地震等の自然現象による地層の著しい変動が生ずるおそれが少ないと見込まれること。

その他経済産業省令で定める事項

第7条第1項

機構は、精密調査地区を選定しようとするときは、最終処分計画及び当該機構の承認実施計画に従い、次に掲げる事項(省略)について、あらかじめ、当該承認実施計画の第5条第2項第3号の概要調査地区を対象とする概要調査を行わなければならない。

第7条第2項

機構は、前項の規定により概要調査を行ったときは、その結果に基づき、経済産業省令で定めるところにより、当該概要調査の対象となった概要調査地区のうち次の各号のいずれにも適合していると認めるものの中から精密調査地区を選定しなければならない。

当該対象地層等において、地震等の自然現象による地層の著しい変動が長期間生じていないこと。

当該対象地層等が坑道の掘削に支障のないものであること。

当該対象地層等内に活断層、破砕帯又は地下水の水流があるときは、これらが坑道その他の地下の施設に悪影響を及ぼすおそれが少ないと見込まれること。

その他経済産業省令で定める事項

第8条第1項

機構は、最終処分施設建設地を選定しようとするときは、最終処分計画及び当該機構の承認実施計画に従い、次に掲げる事項(省略)について、あらかじめ、当該承認実施計画の第5条第2項第3号の精密調査地区を対象とする精密調査を行わなければならない。

第8条第2項

機構は、前項の規定により精密調査を行ったときは、その結果に基づき、経済産業省令で定めるところにより、当該精密調査の対象となった精密調査地区のうち次の各号のいずれにも適合していると認めるものの中から最終処分施設建設地を選定しなければならない。

地下施設が当該対象地層内において異常な圧力を受けるおそれがないと見込まれることその他当該対象地層の物理的性質が最終処分施設の設置に適していると見込まれること。

地下施設が当該対象地層内において異常な腐食作用を受けるおそれがないと見込まれることその他当該対象地層の化学的性質が最終処分施設の設置に適していると見込まれること。

当該対象地層内にある地下水又はその水流が地下施設の機能に障害を及ぼすおそれがないと見込まれること。

その他経済産業省令で定める事項

上記のとおり、最終処分法においては、文献調査であれ、概要調査であれ、精密調査であれ、「調査」が行われた場合には、「次の各号のいずれにも適合しているものの中から」との条件設定はなされているものの、法的には、文献調査を行った場合には概要調査地区の選定(上記②)、概要調査を行った場合には精密調査地区の選定(上記④)、及び精密調査を行った場合には最終処分施設建設地の選定(上記⑥)を、それぞれしなければならないと規定されている。調査地区が選定された以上、当該調査が行われることは必然とされていると言えるところ、かかる調査を行うと次の段階の地区選定が法的に義務付けられるという構造になっており、それが繰り返される形となっている。このように、調査と候補地区選定の規定内容については、一旦、上記①の文献調査に着手した場合には、事実上、次の②以降の規定が順次適用される構造となっている。

このような条文構造については、そもそも調査が行われ要件に適合すれば、地区選定が義務化されていることが果たして相当なのか、調査を行った段階でも、調査の内容次第では、調査だけで手続を中止ないしは終結する制度を導入すべきではないか、といった議論が当然にあり得るところではあるが、それは置くとしても自治体が上記①の文献調査に応募するに当たっては、現状が上記のような制度であることを踏まえて、その当否を慎重に検討する必要がある。

また、②の概要調査地区の適合要件はもとより、④の精密調査地区の適合要件においても、当該地区に活断層、破砕帯、地下水等が存在したとしても、「悪影響を及ぼすおそれが少ない」との「見込」があれば地区選定が可能な規定になっていることに留意が必要である。

2.地元自治体の意見の取り扱いについて

最終処分法では、経済産業大臣は、概要調査地区等の所在地を定めようとするときは、「当該概要調査地区等の所在地を管轄する都道府県知事及び市町村長の意見を聴き、これを十分に尊重してしなければならない。」と定められている(最終処分法第4条第5項)。

かかる規定内容に照らせば、少なくとも法律上は、都道府県知事及び市町村長(以下、「自治体首長」という)の意見を「十分に尊重」しなければならないにすぎず、自治体首長が地区選定等に反対しても、次段階の調査の対象地区や最終処分施設建設地に選定されないという法的保障はないし、また調査・選定手続が中止ないしは終了するという構造にもなっていない。

この点、政府は、地元の理解等が得られず、当該自治体首長が概要調査地区等の選定につき反対の意見を示している状況においては、当該意見に反しては、概要調査地区等の選定は行われないものと考えているとしているが、最終処分法上は、「意見に反して先へ進むことはできない」との制限は規定されていないのである。

以上のとおり、最終処分法については、調査と候補地区選定との関係性や地元自治体の意見の取り扱いという極めて重要な事項について、改善すべき問題点が内在しているものと認められる。したがって、文献調査への応募の判断については、以上のような法の規定構造を正確に理解し、かつ地域住民にも十分に情報提供を行った上で、公正、透明な手続にて行われる必要がある。

とりわけ北海道では「特定放射性廃棄物の持込みは慎重に対処すべきであり、受け入れ難いことを宣言する。」と明記した「北海道における特定放射性廃棄物に関する条例」が制定されている。同条例は、「北海道は、豊かで優れた自然環境に恵まれた地域であり、この自然の恵みの下に、北国らしい生活を営み、個性ある文化を育んできた。」「私たちは、健康で文化的な生活を営むため、現在と将来の世代が共有する限りある環境を、将来に引き継ぐ責務を有して」いるという北海道民の思いを体現したものであることに留意しつつ、自治体での合意形成が行われることを求める。

2020年(令和2年)10月6日
北海道弁護士会連合会
理事長  樋川 恒一