ホーム >> 声明・宣言 >> 消費生活相談推進員体制の早急な廃止に反対する意見書

声明・宣言

消費生活相談推進員体制の早急な廃止に反対する意見書

2012(平成24)年1月30日

北海道知事 高橋はるみ 殿

北海道弁護士会連合会
理事長 房川 樹芳

第1 意見の趣旨

  1. 北海道が、各振興局に配置している消費生活相談推進員体制を、平成24年3月をもって廃止することに反対する。
  2. 北海道は、各地域における消費生活相談体制や市町村支援体制のあり方を、市町村の実情や北海道の広域性に即して抜本的に検討すべきである。

第2 意見の理由

  1. 北海道における消費生活相談推進員体制の廃止の動き
    北海道は、道内各振興局(石狩振興局を除く。)に設置された消費生活相談推進員体制を、平成24年3月をもって廃止する意向であり、平成23年9月7日開催の北海道消費生活審議会でそうした報告がなされ、各市町村や各消費生活相談推進員に対してもそのように伝えられている。
    ちなみに、平成19年度にも、北海道は、消費生活相談推進員体制を廃止することを計画したことがあるが、北海道消費生活審議会や道議会において強い反対意見が出され、最終的には廃止を断念したことがある。
    北海道弁護士会連合会(道弁連)は、平成17年7月開催の道弁連大会において、「北海道の支庁消費生活相談窓口の廃止に反対し、地方における消費者相談体制の強化を求める決議」を採択した経緯があり、以下の理由から、北海道の消費生活相談推進員体制の廃止に強く反対する。
  2. 消費生活相談推進員体制の現状 (1) 平成18年4月以降、石狩を除く各振興局(旧支庁)に、それまで設置されていた消費生活相談窓口体制が廃止されたことに伴い、消費生活相談推進員(以下、「推進員」という。)が配置されることになった。
    推進員は、それまでの相談窓口体制と異なって、市町村相談体制の整備支援を目的とし、①消費者からの直接相談は受けない、②あっせんは行わない、③そのため外部から直接電話を受けることはなく、広報も行わない、という扱いになった。
    その結果、推進員は、各市町村を巡回したり、各市町村の相談窓口担当者から問い合わせを受けて助言するなどの支援を主な業務とすることになった。しかし、実際の業務内容は、各推進員の力量によって大きな差が出ているのが現状であり、振興局によっては、各市町村からの利用が少なく日々行うべき業務があまりないという例も生じている。
    他方で、推進員が、直接相談を受けたり、あっせんも行ったりするなど、各市町村の相談窓口担当者から積極的に活用されている振興局もある。これにより、事実上、各振興局(旧支庁)での相談体制が存続しており、市町村相談窓口の脆弱さを補完している地域もある。
    (2) 推進員の力量や利用状況に差が出ることについては制度的な問題もある。現状の推進員は、週に1~2回の非常勤勤務であり、研修に参加することができる機会も限られている。資格(国民生活センターによる消費生活専門相談員資格認定制度など)の有無も問われず、逆に資格保有者だったとしても、その分の手当が加算されるわけでもない。日当は交通費込みの低額なものに抑えられている。
    また、基本的に、推進員は直接相談を受けず、あっせんも行わないことから、事件処理を通じたノウハウを蓄積する機会が不十分であり、推進員自身が新たな知識を得たり、経験を蓄積したりすることが難しい面もある。
    その結果、推進員の人材確保にも支障を来さざるを得ない状況となっている(北海道が提示している今後の課題としても、「過疎、高齢化等による相談員(推進員を含む)の後継者・人材不足」が指摘されている。)。
  3. 北海道が消費生活相談推進員体制を廃止しようとする根拠の問題点 (1) 北海道が廃止しようとする根拠の一つは、市町村相談体制の整備支援を担ってきた推進員の役割の終了である。その理由として、(a)各市町村に対する消費生活相談の処理状況に関するアンケート調査の結果で、全179市町村のうち165市町村(92.2%)、人口カバー率で98.4%の市町村が「概ね処理できる」と回答していること(平成24年3月31日時点における見込み)、(b)各市町村における消費生活相談推進員の利用状況は、平成22年度において、「利用なし」が107市町村と全体の60%を占め、「利用あり」とする市町村においても年間の利用回数は「1~6回」が58市町村であり、「利用あり」と回答した72市町村のうちの81%を占めていることを挙げている。
    しかし、そのアンケート調査自体が自己申告のものであり、その処理能力が客観的に担保されているものではない。実態としても、各市町村の相談窓口は、商工観光課や住民課などにおいて兼務されている場合も多く、しかも、数年ごとの配置換えもあり、一定の能力を身に付けることができる体制とはなっていない。また、相談窓口を商工観光課が担っているような場合には、何らかのイベントが始まってしまうと手が回らなくなる実情にある。
    しかも、前述のとおり、推進員が今もって大きな役割を担っている振興局もあり、そのような地域で推進員体制が即時廃止された場合には、当該地域の各市町村における相談処理に著しい影響を及ぼすことは必然である。
    (2) 廃止のもう一つの根拠として、道立消費生活センターにおける市町村バックアップ機能の強化構想が挙げられている。その構想の概要は、①苦情対応支援(専用電話・専任体制による市町村への助言、市町村での処理困難案件を連携して処理、現地処理が必要と認められる場合には現地に職員等を派遣)、②人材育成支援(市町村の状況に応じた研修の実施による資質向上支援、相談員資格保持者「登録制度」の創設や道立消費生活センターでの「実習生受入制度」の導入による後継者確保支援)、③情報提供(被害情報、研修実施情報、啓発情報などを提供)となっている。
    そして、実施に当たっては、市町村のレベルに合わせた支援方法や本道の広域性などを考慮するものとされている。
    しかし、この構想についても慎重な検討を要する。北海道の構想では、広域な北海道における全市町村の相談窓口支援体制を札幌市にある道立消費生活センターに一極集中させるということになるが、果たして十分な支援が実際に可能なのかどうか、以下のとおり疑問がある。 (a) 札幌一極集中ということになれば、実際の支援体制は、道立消費生活センター
    が専用電話回線などを通じて、各市町村の相談窓口の担当者にアドバイスするということになるが、相談者との直接のやり取りは、すべて各市町村の担当者が行うということにならざるを得ない。
    しかし、それでは各市町村の担当者の能力の差が、相談処理の質に如実に反映しかねない。また、各市町村の担当者による聴き取りが十分なのか、相談者はどのような人なのかといったことをすべて電話等で確認して、判断するということになれば、アドバイスする側にとっても大きな負担である。
    (b) 札幌市のように大規模であればともかく、人口規模の小さな市町村においては、役場の担当者と顔見知りということも少なくなく、それ故に相談をためらうことも珍しいことではない。そのような場合、かつて相談窓口が設置されていた振興局(旧支庁)こそが適切な相談の拠点となっていたものであり、地元市町村の他には、札幌の道立消費生活センターしか相談場所がないというのでは、消費者にとってあまりにも遠い存在になりかねない。
  4. 消費生活相談推進員体制の廃止は時期尚早であること (1) 北海道が提示する廃止の根拠は、各市町村の相談窓口の現状や道立消費生活センターによる支援のいずれの面においても、廃止を是とする十分な根拠にはなり得ないと言うべきである。
    また、推進員による支援の継続を求めている市町村があることも現実である。
    北海道は、継続性のある支援体制とするために、道立消費生活センターの中で専任体制を組み、各市町村からの電話に対応する担当者は固定化させることを提示しているものの、現地において直接、アドバイスや相談、あっせんの援助を行うこともできる現在の推進員とは質的に異なるという点は無視し得ない。
    また、北海道が、各市町村の相談窓口担当者に配布するものとして「消費生活相談マニュアル」や「聴き取りチェックシート」などを作成していることは、相談処理の方法や聴き取るべき事項が一定程度明確になるという意味において評価し得るとしても、すべての消費生活相談がマニュアルどおりに対応し得るとは限らず、むしろ個々の相談処理を通してノウハウを身に付けていくものであることを考えると、マニュアル等の作成によって事足りるものではない。
    しかも、各市町村の窓口では、基本的に、担当者が数年で配置換えになることが多いため、継続的に処理能力を向上させていくことは困難である。北海道が行った各市町村に対するアンケート調査において、消費生活相談を「概ね処理できる」という回答をしていても、担当者が配置換えになれば新たに未経験者が担当することになるのであるから、額面どおりに受け止めることはできない。
    (2) このように、消費生活相談推進員体制の廃止の是非については、各市町村の相談窓口の実情と北海道の広域性を踏まえた検討が求められる。少なくとも、平成24年3月をもって消費者生活相談推進員体制を一律に廃止し得るような状況には未だ至っていないというべきである。
  5. 地域における消費生活相談体制のあり方を抜本的に検討すべきこと (1) 前述したとおり、現在の消費生活相談推進員体制は、外部に向かった広報がなされておらず、また非常勤として週1~2日の勤務となっているため、事件処理を通じて新たな知識を得たり、経験を蓄積したりする機会を十分に得ることができないものとなっている。また、各振興局に1名のみが配置され、後任者を養成していくことができるようなシステムになっておらず、これを確保することが困難な状況でもある。
    しかし、振興局によっては、個人の力量によるところが大きいとはいえ、推進員が直接相談を受けたり、あっせんも行ったりしており、各市町村の相談窓口担当者から積極的に活用されているところもある。このことは、振興局単位においても、実のある相談体制、市町村への支援体制が築かれるならば、それに対するニーズは十分にあることを示している。
    (2) 現在の消費生活相談推進員体制を見直すべきことはそのとおりであり、将来的には、これに代わる新たな制度を構築する必要がある。例えば、以下のようなことも考えられる。 (a) 振興局単位では利用件数等の面から費用対効果に乏しいとすれば、これを別の効率的なブロック(複数の振興局で1つのブロックとするなど。)に再編し、そこに相談窓口及び市町村支援の拠点を作ること。 (b) 振興局又は上記ブロックを拠点にする場合、これまでの推進員のような民間委託の形では人材の確保が困難であるとすれば、例えば道職員を配置するなど工夫すること(道職員には、消費者行政に携わった経験者も相当数おり、道職員の活用という点からも検討に値すると思われる。)。 (c) 道立消費生活センターの機能を強化するのであれば、札幌に一極集中させるのではなく、上記ブロックなど地域毎に相談室(支部センター)設けるなどして相談窓口及び市町村支援の拠点とし、それに必要な予算も拡充すること。 (3) 以上のとおり、まずは地域における相談体制、市町村支援体制のあり方を抜本的に検討し、新たな制度の設計に取りかかるべきである。現行の消費生活相談推進員体制の廃止は、その新たな制度の構築に伴ってなされるべきものである。

以上

このページのトップへ