提 案 理 由
第1 はじめに
1 現代社会における多文化共生と基本的人権との関係
現代社会は、国際化の進展に伴い、国境を越えた人の移動が格段に増加し、多様な国籍や文化的背景を持つ人々との日常的な交流も一層拡大した。
こうした現代社会において、多文化共生社会の実現は、外国人を受け入れる日本国内においても、また外国に出ていく日本人にとっても、達成されるべき重要な課題である。
「多文化共生」とは、例えば総務省が2006(平成18)年3月に公表した「多文化共生の推進に関する研究会報告書」においては、「国籍や民族などの異なる人々が、互いの文化的ちがいを認め合い、対等な関係を築こうとしながら、地域社会の構成員として共に生きていくこと」と定義されている。
こうした多文化共生社会の実現が求められる法的な根拠としては、市民的及び政治的権利に関する国際規約(自由権規約)、人種差別撤廃条約があり、日本国憲法においても13条、14条などが挙げられる。その根幹にあるのは、全ての人に基本的人権が保障され、個人として尊重されるということである。
日本では、日本以外の様々な文化的背景を持つ人々が社会を構成している。もちろん、北海道の先住民族であるアイヌも固有の文化を有している。かかる日本社会において、全ての人に基本的人権が保障されるためには、多様な文化が尊重され、異なる文化を背景とする人々が対等な関係を築ける社会を実現することこそが不可欠の前提となる。
2 新たな課題としての排外主義的な潮流の拡大
多文化共生社会の実現は、今なお道半ばと言わざるを得ないが、とりわけ、近年は新たな課題が生じている。すなわち、各種の選挙における排外主義的な喧伝やSNS等による排外主義的な言説の扇動と拡大が、地域社会の中に監視と排除を生み出し、深刻な人権侵害を惹起している。
排外主義とは、例えばオランダの政治学者カス・ミュデによる定義では、「国家は国民だけのものであり、外国に出自を持つ(とされる)集団は国民国家の脅威であるとするイデオロギー」とされている。
近年、日本では、排外主義的な潮流が拡大し、これに起因する様々な事象が発生しているが、かかる事態を基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする弁護士・弁護士会が看過することはできない。
第2 外国にルーツを持つ人々の現況について
1 日本全体の現況
日本における在留外国人数は、2025(令和7)年6月末時点で395万6619人に達し、過去最高を更新した。これは日本の総人口のおよそ3%に相当する。また、このほか非正規滞在者は7万4863人(2025(令和7)年1月1日時点)が在留している。
在留カードや特別永住者証明書に記載されている国籍・地域の数は196(無国籍者を除く)に上り、在留外国人の国籍・地域は極めて多様化している。日本国籍を取得した人や外国籍の親から生まれた日本人を含めると、日本には様々なルーツを持つ人々が暮らしている。
このように、日本は今や、多民族・多文化の人々が現実に生活する社会となっている。
この20年間の推移を見ると、リーマンショック、東日本大震災、新型コロナウイルス感染症の拡大期には一時的な減少が見られたが、在留外国人は、総じて増加傾向にあり、近年は年間数十万人規模のペースで増えている。
外国人労働者数に着目すると、外国人雇用状況の届出制度が始まった2007(平成19)年は48万6398人であったが、2025(令和7)年10月末には257万1037人に達し、約5倍に増加している。外国人労働者は全雇用者の約4%を占めるまでになっている。
国立社会保障・人口問題研究所が発表した「日本の将来推計人口(令和5年推計)」によれば、日本の総人口は2070年には8700万人にまで減少し、65歳以上の人口の割合は38.7%まで上昇すると推計される。
今後、少子高齢化が進み生産年齢人口が減少する中で、労働力を確保するために、外国人の受け入れは更に拡大していくことが予想される。
2 北海道の現況
北海道の2024(令和6)年12月末時点の在留外国人数は6万7484人であり、全国で15位に位置する。在留外国人数は東京、大阪、愛知などの大都市圏が突出しているものの、北海道は2021(令和3)年以降、20%を超える高い増加率を示しており、全国でもトップクラスで推移している。
在留外国人の人口比率に目を向けると、赤井川村35.3%、倶知安町21.1%、留寿都村19.7%、ニセコ町18.9%と高い割合を示す自治体も現れている(2025(令和7)年住民基本台帳人口。ただし、これらは1月1日現在の比率であり、スキーリゾートが集中するこれらの地域で冬季に就労する外国人が住民登録する時期と重なっているため、通年での比率はこれらを下回る。)。また、一次産業への技能実習生の増加に伴い沿岸部や農村部における在留外国人数も増加しており、居住地域が広域に分散する傾向が強まっている。
北海道においても外国人の受け入れは更に拡大していくことが見込まれ、都市部以外の自治体においても外国人住民の増加が進むことが予想される。
3 小括
以上のとおり、日本全体、そして北海道においても、外国にルーツを持つ人々は既に私たちの社会の一員として生活している。
ただし、ここで改めて確認されるべきは、多文化共生の理念は、私たちの社会を維持する労働力確保のためのものではなく、あくまで人権上の要請に基づくものであるということである。
第3 排外主義的な潮流の拡大
上記のように外国にルーツを持つ人々が増加し、社会の多様化が進む一方で、こうした変化に対する不安・戸惑いを背景として、次のとおりこれを煽り便乗する排外主義的な潮流が急速に拡大している。
1 選挙における排外主義的言説の拡大
2025(令和7)年7月の第27回参議院議員選挙において、複数の政党が外国人に対する排外主義的な政策や姿勢を競う傾向が見られた。選挙戦では「外国人は優遇されている」「外国人犯罪が増加している」「不法滞在者が野放しにされている」等の言説が根拠もなく、また事実を著しく歪曲して流され、看過できない状況であった。しかも、このような排外主義的な潮流から発生した言説は、一般市民による投稿も含めてSNS等を通じて広く拡散された。
2 全国で相次ぐヘイトクライムと排斥運動
2021(令和3)年8月、在日コリアンが集住する京都府宇治市のウトロ地区において、在日コリアンに対する偏見を動機とする放火事件が発生し、7棟が全半焼、ウトロ平和祈念館の展示予定物も焼失した。裁判所は、犯行動機について、「特定の出自を持つ人々に対する偏見や嫌悪感等に基づく、誠に独善的かつ身勝手」なものであり、「民主主義社会において到底許容されるものではな」く、「相当に厳しい非難が向けられなければならない」と批判した。
埼玉県川口市・蕨市では 2000年代から集住するクルド人住民に対し、2023(令和5)年夏頃を契機に排外主義的な言説が急速に拡散し、差別的なデモや街頭宣伝活動が繰り返し行われる事態となった。クルド人住民の子どもが学校で孤立し、外出を控える人々が出ており、「日本から出て行け」等の脅迫文も届いている。
イスラームに対する排外主義的な言説も広がりを見せている。神奈川県藤沢市ではモスク建設計画に対し、「『イスラム教』による侵略」等の言説を叫ぶ街頭宣伝活動が行われ、建設予定地での嫌がらせも報告されている。
このように、排外主義的な攻撃の対象は、在日コリアン、クルド人、イスラーム教徒等の広範に及んでおり、特定の民族・国籍にとどまらない。
3 排外主義的な潮流を助長しかねない政策の展開
⑴ 「不法滞在者ゼロプラン」
政府は、2025(令和7)年5月23日、「国民の安全・安心のための不法滞在者ゼロプラン」を公表した。同プランは「ルールを守らない外国人により国民の安全・安心が脅かされている社会情勢」という認識を前提とし、退去強制命令が確定した外国人の帰国未実現を2030(令和12)年末までに半減する等の数値目標を設定している。
日本弁護士連合会は、同プランに対し、2025(令和7)年7月22日、反対声明を発表し、「不法滞在者はルールを守らない外国人で、国民に不安を与えている」との前提が「実態に反している」と批判した。声明は、非正規滞在者の中には人身売買やDVの被害で在留資格を失った者等、保護されるべき人々が多数含まれていること、入管庁が難民認定しなかった者が後の裁判で難民と認められた事例があること等を指摘し、同プランが「保護されるべき外国人の人権を侵害するおそれが高く、国際人権法に反する」と述べている。
⑵ 経営・管理ビザの厳格化
政府は、2025(令和7)年10月16日、在留資格「経営・管理」に係る上陸基準省令を改正し、事業規模の要件として定められていた資本金等の下限額を、従来の500万円以上から3000万円以上へと大幅に引き上げた。あわせて、日本人・永住者等の常勤職員1名以上の雇用義務化、経営管理経験3年以上又は修士相当以上の学位の取得、日本語能力等の新要件も導入した。
この改正の目的は、いわゆるペーパーカンパニーを設立し実態のない「経営者」として在留資格を不正取得するケースへの対処といわれている。しかし、問題は、この改正が不正取得とは無関係の多数の適法な外国人経営者に過大な負担を課すものとなっていることである。すなわち、日本において、従前の資本金要件を満たし、何ら違法な活動を行うことなく適法に事業を営んできた外国人経営者の中には、飲食業、小売業、サービス業等の中小規模の事業者が多数含まれており、こうした事業者に資本金3000万円を要求する合理的な根拠は見いだしがたい。
こうした外国人経営者は、長年にわたって地域社会に根付き、地域住民とともに生活し、その国籍・文化的背景に由来する多様な食文化、祭礼、言語、職業等をもって地域社会の文化的多様性を形成してきた人々であるにもかかわらず、在留資格の更新が認められず、帰国を余儀なくされ、生活基盤を失う事態が現に生じかねない状況にある。また、その外国人から生まれ育った子どもたちは日本での生活体験しかなく過酷な結果となる。
このように、現在、在留している外国人にも実施する当該施策は、「違法行為を行う外国人の排除」という名目のもとに、長年にわたり適法に事業を営み地域社会の多文化共生の担い手となってきた人々を実質的に排斥しかねないものである。
⑶ 生活保護制度の外国人適用の見直し
政府は、2026(令和8)年1月23日、「外国人の受入れ・秩序ある共生のための総合的対応策」を公表した。同対応策においては、生活保護制度の運用適正化が掲げられ、マイナンバーとの連携等により受給する外国人の国籍・在留資格情報を把握する体制の整備が明記された。
しかしながら、外国人に限って生活保護制度の運用を従前より厳格化することは、外国人に対する差別的取扱いというほかない。外国籍であろうと在留資格のある者に必要に応じて生活保護を受給させることは、人道上も当然のことである。
この点、厚生労働省の関係者は、「外国人を排除するような対応は行わない」と述べているものの、具体的な根拠もなく外国人の受給状況のみを特に把握・管理する施策は、外国人の生活保護受給を特別な問題として可視化する効果をもたらす政策であると言わざるを得ない。
4 北海道における事象
⑴ 倶知安町内における大規模住宅建設問題
ニセコエリアに位置する倶知安町では、地元に本社を置く外資系の不動産会社により、リゾート地区や新幹線等の公共工事で働く労働者向けの共同住宅約30棟(最大約1200人収容)の建設計画が進められた。計画地は町中心部に位置し、小学校・住宅が集まる生活圏であった。
住民からは、町人口の約1割に相当する異例の規模であること、通学路・交通・治安への影響、住民説明会の不十分さ等を理由に反対の声が上がった。倶知安町農業委員会は、2025(令和7)年7月31日、全会一致でこの計画の農地転用に反対する意見書を北海道知事に提出したが、北海道知事は2025(令和7)年10月に農地転用を許可した。
本件においては、住民と事業者との間で対話が重ねられ、地元町内会と事業者との間において、協定が締結されるに至った。これは、当初は対立的な構図にあった住民の生活上の懸念と事業者の事業遂行との間に、対話を通じて具体的な合意が形成されたことを示すものである。
他方、この問題は、札幌市中心部における北海道知事のリコールを求めるデモに発展し、本来の住民の生活上の懸念を超えて、排外主義的な運動に利用された側面がある。これについては、メディア報道の問題も指摘される。計画の報道において「外国人住宅街」「外国人1200人」が強調されたが、住宅は日本人も含めた従業員全般を対象としており、「外国人」を殊更に強調する報道がSNS等での排外主義的な反応を増幅させた面がある。
本件は、正当な住民の生活上の懸念と、メディアの報じ方や当該事象を排外主義的な運動に利用しようとする動きとが絡み合った多面的な事案であり、地域住民の生活利益の保護を目指す正当な活動と、外国人排斥を目的とする排外主義とを峻別することの難しさと重要性を示すものである。現に、反対意見のうちには、町民の約1割に相当する人数が一箇所に集中することによる生活上の問題や通学児童等への交通安全上の影響、当初の住民説明会が形式的で地域合意が形成されていないこと等が懸念として挙げられており、反対意見が直ちに排外主義的な言動と結びつくものではないことを示すものであった。大規模開発に対して住民が意見を述べ、適正な行政手続を求めることは民主主義の正当な営みであり、これを排外主義と同一視してはならない。むしろ、正当な住民の懸念に対しては、多文化共生を目指し、相互の理解を構築していくことこそが大切であることを示したといえる。現に本件では、対話を通じて住民と事業者との間で協定が締結されるに至っている。対話と相互理解が、こうした事案を建設的に解決する道の一つであることが、本件によって示されたといえる。
⑵ 旧常盤小学校インターナショナルスクール計画
札幌市は、2021(令和3)年に閉校した札幌市南区の旧常盤小学校の跡地の売却について、シンガポールに本部を置く会社を優先交渉権者として選定し、これに基づきインターナショナルスクールの開設計画が進められた。
これに対し、SNS上で「インド人専用学校になる」「日本を崩壊させる移民政策」等の根拠のない情報が拡散された。2025(令和7)年9月の住民説明会では、地元住民以外の者が多数参加し、「移民反対」等の怒号が飛び交い、警察が出動する事態となった。札幌市は「特定の国籍の生徒を対象にした学校や外国人労働者の研修施設ではない」と明確に説明しており、「インド人専用学校」との情報は事実に反する。また、札幌市議会においても計画に反対する陳情を全会一致で不採択としている。本件もまた、誤情報がSNSを通じて拡散され、地域外からの排外主義的な介入を招いた事例といえる。
⑶ 江別市におけるパキスタン人住民への攻撃
江別市角山地区では、約200人のパキスタン人住民が中古車の解体・輸出業に従事して生活している。2025(令和7)年、「パキスタン人の違法建築を市や警察が放置している」という趣旨の動画が投稿された。この投稿を契機に、SNS上で「強制送還すべきだ」、「テロリストの拠点にされる」等の過激で中傷的な言説が拡散した。江別市が公表した市内全域の市街化調整区域における違法建築物について、その大半が日本人による違法建築であるにもかかわらず、その全てがパキスタン人によるものであるかのような誤情報もSNS上で流された。
これがエスカレートし、2025(令和7)年10月には、パキスタン人が経営する中古車販売店に対し、複数の車で乗りつけた者たちがロケット花火を撃ち込む事件が発生した。こうした嫌がらせは一時期、連日のように続き、パキスタン系住民の中では子どもへの危害を恐れて通学を見合わせるケースも生じた。
さらに、事態は一層深刻化する様相を呈している。江別市角山地区においては、2026(令和8)年2月15日から約2週間の間に、パキスタン人が経営する中古車販売会社の事務所兼宿舎、イスラーム教礼拝所(モスク)、別の自動車解体会社の建物外壁の焼損と、狭い範囲で合計3件の火災が相次いで発生した。いずれもパキスタン人が経営・管理する施設である。仮に、これらの火災が、ウトロ地区放火事件と同様、外国にルーツを持つ人々を標的とした故意の犯罪であるとするならば、極めて重大な事態である。
本件は、違法建築に対しては、本来は国籍に関係なく行政指導等で対処すべき問題であるにもかかわらず、外国人の属性と結びつけられ、誤情報の拡散も加えられた上、建物への花火の打ち込み等の深刻な嫌がらせ行為に発展した事例である。
第4 排外主義的な潮流の拡大に反対し、多文化共生のための相互理解を目指していくべきこと
1 排外主義的な潮流に対する向き合い方
こうした排外主義的な言説の吹聴、嫌がらせ及び犯罪等の発生は、外国にルーツを持つ人々の基本的人権と尊厳を根底から脅かすものであって、憲法13条、14条、人種差別撤廃条約、ヘイトスピーチ解消法等及びその趣旨に照らして、決して許されるものではないことをまず確認する必要がある。
他方で、第3で述べたとおり、近年の排外主義的な潮流の拡大が複合的な原因に根差していることもまた直視しなければならない。
第2で述べたような日本における在留外国人の増加に加え、外国人観光客の急増等により、一般市民の生活において外国にルーツを持つ人々と接点を持つ機会がこれまでになく増加している。外国人による犯罪報道がなされれば、それだけで外国人に対する不安・戸惑いを抱くということがあり得る。生活環境の激しい変化に一般市民が不安・戸惑いを感じること、またそうした不安・戸惑いを表出すること自体は責められるべきことではない。
しかし、こうした一般市民の中における不安、戸惑いの広がりを利用して、SNS等において不安・戸惑いを更に扇動して増幅し、さらにはこれを憎悪へと変化させるような排外主義的な言説が多く現れ、拡散されるようになった。こうした事実に基づかない、あるいは明らかな悪意に基づく排外主義的な言動は決して許されてはならない。
社会に求められるのは、こうした排外主義的な言動の基礎とされる事実について、正確な事実関係とデータに基づいて検証した上で、誤解は解消するとともに、悪意による誹謗中傷やデマを流布する行為に対しては、国や自治体、私たちが毅然と対応することである。この責務は、まずもって行政が率先して担うべきものである。
2 多文化共生実現に向けた相互理解と互助への努力
同時に、こうした不安・戸惑いに対して、社会として真摯に向き合うことも求められる。外国にルーツを持つ人々の増加が地域社会にもたらす変化は現実であり、これに伴う課題(例えば、言葉の壁、生活習慣の違い、行政手続の煩雑さ、地域コミュニティへの参加のあり方)は、当事者である外国にルーツを持つ人々にとっても、地域住民にとっても、解決されるべきものである。もっとも、「コミュニティのルールを守らない」といったような外国人像は、多分にイメージが先行したものともいえるのであって、一般的にコミュニティでの摩擦等は、国籍を問わず大なり小なり生じ得る問題であることに留意する必要がある。
大切なのは、こうした課題を「外国人の問題」として排除の根拠とするのではなく、地域社会がともに取り組むべき課題として共有することである。そのためにこそ、正確な情報と事実に基づく対話の場が必要であり、国・自治体・地域コミュニティが連携した施策が求められる。
私たちには、多文化共生を目指す中で、相互理解と互助を進めることが求められている。
第5 採るべき施策等について
1 国及び自治体の責務であること
以上で述べたとおり、排外主義的な潮流の拡大を抑止し、多文化共生社会の実現を目指すことが日本社会における喫緊の課題と位置づけられる。
先頭に立ってその役割を担うべきは、国及び自治体である。
国及び自治体は、排外主義的な言説について、正確な情報を説明することで誤解や偏見の解消をすることに率先して尽力すべきである。
また、それと並行して、外国にルーツを持つ人々が地域社会の中で共に生きていけるように、宣言の趣旨に掲げたような各種の施策を採るべきである。
2 多文化共生のための体制を整備すべきこと
総務省は、2006(平成18)年に地域における多文化共生推進プランを策定したものの、同プランは、施策の実現が自治体に委ねられており、国が責任をもって実現を図るものではなく、実現するための財政的裏付けも欠いている。他方で、上記プラン以前から、外国人住民を多数受け入れている自治体は、必要に迫られて独自の施策を進めてきており、多くの自治体で国際交流協会と連携した機動的な施策が展開されているものの、その内容は、自治体により大きな差がある。以上の実情を踏まえ、外国にルーツを持つ人々が共生する社会を構築するための施策の推進を国と地方自治体の責務として定めることが必要である。
加えて、これらの共生のための施策を担当する国の機関を見ると、教育や医療、労働、差別の解消等のそれぞれの分野について、複数の省庁が分散して所管しており、外国にルーツを持つ人々全体が社会で共生するための総合的施策を推進する体制とはなっていない。このため、外国にルーツを持つ人々と共生する社会を構築する政策の立案・実施を所管する省庁の設置が必要である。
また、外国にルーツを持つ人々の増加に伴い、例えば、交通安全・生活ルールの周知等の面で新たな行政課題が生じていることもまた事実であり、冬道の運転に不慣れな外国人ドライバーによる事故増加は地域住民の不安の一因となっている。こうした課題は、外国人という属性に着目して排除の根拠とするのではなく、行為・事象そのものに着目した解決策によって対処されるべきである。外国にルーツを持つ人々の生活課題に対応するための施策は、社会全体の包摂性と暮らしやすさの向上にも直結する。例えば、ピクトグラムや平易な日本語による情報提供は、外国人のみならず認知機能が低下した高齢者や子ども等にも恩恵をもたらす。このように、外国にルーツを持つ人々への対応は、誰もが暮らしやすい社会の基盤整備ともなるものであり、多文化共生施策は社会全体の課題解決にも有効である。
さらに、地域住民と外国にルーツを持つ人々が生活上の課題を共有し、互いの理解を深めるための対話の場を積極的に設けることが重要である。国及び自治体は、住民と外国人住民が直接交流し、日常的な課題を共同で解決する場の設置を支援すべきであり、当連合会もその担い手として積極的に関与していく所存である。
3 日本語教育の推進と母語・継承語及び固有の文化の保護
外国にルーツを持つ人々が地域社会に根ざして生きていく上で、日本語の習得は不可欠の基盤である。政府が2026(令和8)年1月に取りまとめた「外国人の受入れ・秩序ある共生のための総合的対応策」においても日本語教育の充実を重点施策に位置づけており、来日前・来日後の日本語講習の整備、外国人児童生徒への初期支援の検討、登録日本語教員の確保・処遇改善等が盛り込まれている。こうした日本語教育機会の保障を国の責務として実施することは重要である。
しかし、同対応策における日本語教育の推進は「Ⅱ 国民の安全・安心のための取組」の文脈に位置づけられ、日本語学習プログラムへの参加・理解度を在留審査の考慮要素とすることを検討するとも記述されている。日本語教育を在留資格と結びつけるこうした発想は、外国にルーツを持つ人々の日本語習得を支援するためではなく、管理・選別のための手段として位置づけるものであり、多文化共生の理念とは相容れない。
さらに、日本語教育の推進は、外国にルーツを持つ人々が固有の言語・文化・アイデンティティを維持する権利と両立するものでなければならない。自由権規約27条は民族的少数者がその言語を使用し自己の文化を享有する権利を保障しており、日本語教育の推進に関する法律3条7項も、日本語教育の推進はその者の家庭において使用される言語の重要性に配慮して行われなければならないと定めている。
外国にルーツを持つ子どもにとって、日本語を習得する機会と母語・継承語(「継承語」とは、外国にルーツを持つ人々の家庭において親世代から子世代に受け継がれる言語を指す。)及び固有の文化を学ぶ機会とはいずれも欠かすことができないものである。国は、日本語教育を推進するに当たっては、外国にルーツを持つ人々の母語・継承語及び固有の文化を尊重し、その学習機会の確保について配慮した内容の施策とすべきである。
4 差別禁止の法整備と人権救済制度を確立すべきこと
2017(平成29)年に法務省が公表した外国人住民調査では、日常生活の多くの場面で外国人が様々な差別的取扱を受けている実態が報告されている。国はいわゆるヘイトスピーチ解消法を制定し、その前文において不当な差別的言動は許されない旨を宣言しているものの、それでもなお第3で述べたとおり、排外主義的言説が急速に拡大してしまっている現状がある。
以上の実情を踏まえ、国及び自治体は、人種差別を禁止するための法整備を行い、ヘイトスピーチを含む排外主義的言動を解消するため実効的な対策を取るとともに、差別禁止と多文化理解に向けた人権教育等の施策を進めるなどして、差別の根絶に向けて積極的に取り組むべきである。
あわせて、日本弁護士連合会定期総会において2010(平成22)年5月28日付けで採択された「わが国における人権保障システムの構築及び国際人権基準の国内実施を求める決議」、当連合会において2013(平成25)年3月23日付けで発出された「個人通報制度の早期導入及び国内人権機関の設置を求める決議」等にあるとおり、権利救済をより実効的にするため国内人権機関の創設及び人権諸条約の個人通報制度の実現を重ねて求めるものである。
5 社会全体での取組が必要であること
排外主義的な潮流との対峙及び多文化共生社会の実現は、国及び自治体のみで行うべきものではなく、企業、報道機関、教育機関、有識者等を含めて私たちの社会全体として取り組むべき課題である。
その担い手には、法律の専門職であり基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする我々弁護士も当然に含まれるものであり、我々は積極的にこの役割を担っていく決意である。
ここで改めて確認すべきは、多文化共生は、外国にルーツを持つ人々が日本社会にとって有用であるから推進されるべきものではないということである。その根拠は、そこに生きる全ての人が個人として尊厳を持ち、人権を尊重される存在であるということに求められなければならない。各種の施策もまた、外国にルーツを持つ人々の社会参加と自己実現を支えるために保障されるべきものであって、管理・選別のためや社会発展のための手段として位置付けられるものであってはならない。
第6 結語
当連合会は、2016(平成28)年定期大会において「ヘイトスピーチの根絶に向けての宣言」を採択し、ヘイトスピーチをはじめとする不当な差別と偏見のない社会を実現するため積極的な役割を果たしていくことを誓った。
こうしたこれまでの活動も踏まえて、当連合会は、排外主義的な潮流の拡大に強く反対し、国籍、民族等にかかわりなく、誰もが人権を尊重され差別されることなく平和に暮らせる多文化共生社会の確立に向けて、全力を挙げて取り組むことを宣言する。
以上