提案理由
1 すずらん基金とすずらん基金法律事務所
当連合会は、北海道の弁護士過疎・偏在問題を解消すべく、2004(平成16)年2月に、すずらん基金1を創設し、翌年の2005(平成17)年3月には、弁護士過疎地域において業務を行う弁護士の育成と確保のために、すずらん基金法律事務所(以下「すずらん事務所」という。)を設立した。以来、すずらん事務所は、すずらん基金による財政的な支援を受けながら2、北海道内の弁護士過疎地域に多くの弁護士を輩出してきた。すずらん事務所出身の弁護士は、現在までに合計40名程度が道内のひまわり基金法律事務所3(以下「ひまわり事務所」という。)の所長として赴任し、また、人口当たりの弁護士数が少ない弁護士偏在解消地区であった室蘭市及び登別市に独立開業するなどして、北海道の弁護士過疎・偏在対策に貢献してきた。そのことは、道内各自治体に対するアンケート結果においても、弁護士過疎地域で活動する弁護士の必要性・重要性が示されているところであり4、この20年間、すずらん基金及びすずらん事務所が北海道内の弁護士過疎地域で果たしてきた役割は、当該地域の側からみても大きいものといえる。
そして、すずらん基金は、すずらん事務所の支援以外にも、道内4弁護士会5が、弁護士過疎地域においてそれぞれ実施する法律相談事業等の弁護士過疎・偏在対策にも活用されている。このように、すずらん基金及びすずらん事務所は、これまで創設・設立当初の理念に従い、道内の弁護士過疎・偏在問題の解消に活用され、弁護士過疎地域に暮らす住民の司法アクセスを容易にし、憲法上保障された裁判を受ける権利の実現に貢献してきた。そうであるからこそ、すずらん基金制度の必要性及び重要性は、道内4弁護士会の共通認識のもと、20年間継続されてきたのである。
2 北海道における弁護士過疎・偏在問題は解決されていないこと
すずらん基金及びすずらん事務所により、北海道における弁護士過疎・偏在対策は大きく前進した。当連合会は、道内の弁護士会、日本弁護士連合会とともに、弁護士過疎・偏在対策の要ともいえるひまわり事務所を道内各地に設置してきた(合計20か所)。その結果、2011(平成23)年12月、旭川地方裁判所紋別支部の管轄区域にある紋別市に「流氷の町ひまわり基金法律事務所」が開設されたことにより、北海道内のいわゆる弁護士ゼロワン地域 は解消された。以来、北海道においては弁護士ゼロワン地域6が存在しない状況が維持されている。このこと自体、従前の北海道における弁護士過疎・偏在問題の深刻さと比較すれば大きな進歩といえる。
しかしながら、弁護士ゼロワン地域が解消されたことのみをもって、北海道における弁護士過疎・偏在問題が解消されたとはいえない。
北海道は、日本の国土の約22%に相当する約8.3万平方キロメートルにも及ぶ面積を有しており、この広大な土地に500万人以上の住民が生活している。そのため、北海道の各地家裁支部の管轄区域はそれぞれが広大な面積を有しているところ、2ないし3人程度の弁護士しかいない支部では、そこに居住する全ての住民に対し、弁護士数の多い都市部の住民と同程度の法的サービスを提供することは困難である。そして、2024(令和6)年4月1日現在、北海道には179の自治体が存在するものの、このうち弁護士が常駐している自治体はわずか40にすぎない。そのため、弁護士が近隣にいない地域に暮らす住民は、弁護士への依頼はおろか相談することすら、非常に高い障壁に阻まれている。
近年では、IT化が進んだことにより、ウェブ会議システムを利用した遠方での法律相談や裁判所の手続(訴訟や調停)が可能となったものの、IT技術に習熟していない住民にとっては、同システムを利用した法律相談等に高い障壁があることに変わりはない。かかる傾向は、特に少子高齢化が急速に進む北海道内の弁護士過疎地域において顕著である。今後、裁判手続のIT化がさらに進むことで、裁判所の支部機能が縮小され、弁護士過疎地域には、法的インフラともいえる裁判所すら存在しなくなるという事態も懸念されているところである。
道内4弁護士会では、弁護士過疎地域における法的ニーズに応えるべく、従前から弁護士過疎地域において法律相談会を積極的に実施するなどしており、当連合会も弁護士過疎・偏在対策の一環として、各弁護士会の活動に対し、すずらん基金を原資とする財政的支援を継続的に行っている。もっとも、巡回型の法律相談事業は必然的に相談を担当する弁護士を多数必要とする活動であるため、各弁護士会において実施可能な頻度等には自ずと限界がある。そのため、弁護士が常駐する自治体との比較において、当該地域の法的需要に対して十分に応えられているとはいいがたい。
このように、北海道における弁護士過疎・偏在問題はいまだ解決されていないのであるから、当連合会は弁護士過疎・偏在対策を継続しなければならない。それゆえ、北海道の弁護士過疎・偏在対策は当事者である当連合会及び道内4弁護士会が自らの責任と自覚をもって果たしてゆくべきという、すずらん基金創設当初の理念は、20年が経過した現在においても、損なわれていない。
3 将来にわたって~持続可能な弁護士過疎・偏在対策を目指して~
このように、北海道における弁護士過疎・偏在対策の財政的基盤を支えるものとしては、すずらん基金がある。しかし、弁護士過疎・偏在対策は、それを支える財政的基盤が充実するだけでは不十分であり、それに携わる弁護士の存在が不可欠である。全国的に、ひまわり事務所の所長弁護士への応募者が減少傾向にある。北海道でも、ひまわり事務所の所長弁護士への応募者が現れないという事態が生じているところであるが、今後も人材確保のためのあらゆる手段を講じて実践することが、将来にわたって持続可能な弁護士過疎・偏在対策につながることになる。
現在、当連合会では、法曹を目指している大学生や法科大学院生を対象として、弁護士過疎地域で活動する弁護士を訪問する企画を実施し、また、法科大学院において、弁護士過疎・偏在対策に携わる弁護士が弁護士過疎地域で活動することの魅力を伝えるなどして、弁護士過疎・偏在対策に従事する人材の確保・育成に努めている。
今後も、当連合会は、これらの企画等を含めてあらゆる方策を継続的に講じることで、弁護士過疎・偏在対策に携わる人材の確保・育成を行い、北海道の弁護士過疎・偏在問題の解消に向けた取組に励んでいく所存である。
4 結語
以上のとおり、北海道の弁護士過疎・偏在対策を将来にわたって持続可能なものとするためには、継続的に人材を確保することが必要不可欠である。
当連合会は、すずらん基金の創設から20年が経過したことを機に、北海道の弁護士過疎・偏在問題がいまだ解決されていないことを再確認するとともに、北海道に住む全ての住民が漏れなく法的サービスの提供を受けられるよう、将来にわたって弁護士過疎・偏在対策に引き続き尽力することを決意し、標記のとおり宣言する。
1 道内の弁護士会員から会費を集めて作られる基金
2 なお、すずらん事務所は、日本弁護士連合会からも、ひまわり事務所に赴任する弁護士を養成するための経済的支援を受けている(弁護士過疎・偏在対策事業に関する規則等)
3 弁護士過疎・偏在を解消するために、日本弁護士連合会等の支援を受けて弁護士過疎地域に開設・運営される法律事務所
4 「地元に法律事務所があることにより、専門職へ気軽に相談できる環境が整った」「管内に弁護士がいることで、相談のハードルが下がり、法的課題を抱えているケースに対して解決策を見いだすことができ支援の幅が広がった」など
5 旭川弁護士会、釧路弁護士会、札幌弁護士会、函館弁護士会
6 地方裁判所支部の管轄区域内に登録弁護士が不在、あるいは1人しかいない地域を総称して「弁護士ゼロワン地域」と呼んでいる