提案理由

1 刑事手続における情報通信技術の活用のあり方に関する議論状況

法務省法制審議会刑事法(情報通信技術関係)部会(以下「部会」という。)においては、刑事手続における情報通信技術の活用のあり方について議論が行われてきたところ、法制審議会(総会)は、2024(令和6)年2月15日、部会の取りまとめに基づき、情報通信技術の進展等に対応するための刑事法の整備に関する要綱(骨子)(以下「本件要綱(骨子)」という。)案を採択し、直ちに、本件要綱(骨子)が小泉龍司法務大臣に答申された。

本件要綱(骨子)には、電磁的記録による令状の発付・執行等に関する規定の整備、留置施設・刑事施設(以下「留置施設等」という。)との間における映像と音声の送受信による勾留質問・弁解録取の手続を行うための規定の整備及び映像と音声の送受信による裁判所の手続への出席・出頭を可能とする制度の創設等が盛り込まれる一方、これまで検討されてきた留置施設等にいる被疑者及び被告人(以下「被疑者等」という。)と弁護人又は弁護人となろうとする者(以下「弁護人等」という。)との間の映像及び音声の送受信により行う接見(以下「オンライン接見」という。)については取り上げられなかった。

2 オンライン接見実現の必要性

しかしながら、憲法第34条前段は、「何人も、・・・直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない。」と規定し、同第37条3項前段は、「刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる。」と規定して、弁護人の援助を受ける権利を保障している。これを受けて、刑事訴訟法第39条1項は、「被告人又は被疑者は、弁護人又は・・・弁護人となろうとする者と立会人なくして接見・・・することができる。」と規定している。このように、被疑者等は、弁護人等と対面で接見する権利が保障されているが、弁護人等の援助を十分に受けることができるようにするためには、それに加えて、オンライン接見が権利として保障される必要がある。

弁護人等による接見は、身体を拘束された被疑者にとって、被疑者の正当な権利行使の手助けをしたり、外部との交通を遮断された被疑者の孤独や不安を解消したりするために重要な役割を果たす。なかでも、逮捕直後の初回の接見は、身体を拘束された被疑者にとって、弁護人等の助言を得る最初の機会であり、憲法上の保障の出発点を成すものであるから、速やかに行うことが被疑者の防御の準備のために特に重要である(最判平成12年6月13日民集54巻5号1635頁)。また、公判準備及び公判の段階でも、勾留されている被告人が証拠を検討し、防御を尽くすために、弁護人との充実した接見の機会が保障されなければならない。

しかし、弁護人等が留置施設等を訪問しない限り接見することができない現状においては、被疑者等は迅速かつ充実した弁護人等の援助を受けることができず、防御上の不利益を被っている。

3 北海道におけるオンライン接見の必要性

こうした被疑者等が被る不利益は、留置施設等が弁護人等の法律事務所から遠く離れている場合に、特に深刻なものになる。もとより、オンライン接見は、広く全国において導入されなければならないが、とりわけ北海道においては、その導入が強く求められるところである。

当連合会は、2021(令和3)年11月8日、北海道内の四弁護士会とともに、「司法過疎地域における刑事弁護をより充実化させるための制度設計及び法令改正を求める共同声明」を発出し、同共同声明において、今後予定されている刑事手続におけるITの導入においては、オンラインでの接見の実施や準抗告申立て等のオンライン化等、被疑者及び被告人の防御権の向上に資するものとすることを求めた。そして、2023(令和5)年5月27日には、「オンラインを活用した接見交通の実現を求める理事長声明」を発出し、改めて、オンライン接見の実現を強く求めたところである。

これらの声明においても明らかとしたところであるが、北海道は、広大な面積を有し、特に冬期間は暴風雪が生じるなど厳しい自然的環境下にある。このような地理的、自然的に過酷な環境にあることが、弁護人等が被疑者等に迅速かつ充実した接見を行うことの妨げとなり、被疑者等の防御権に重大な影響を与えるものとなっている。

また、昨今、小樽拘置支所の収容業務停止や室蘭拘置支所の廃止が相次いでいるが、このことが、弁護人等と被疑者等の接見をより一層困難なものとしている。

弁護人等が被疑者等と接見するための具体的な距離及び時間については、例えば以下のとおりである。

弁護人等の事務所所在地 接見場所 距離(片道) 片道の時間(自家用車)
旭川市 稚内警察署 約250km 約5時間
稚内市 名寄拘置支所 約170km 約3時間
網走市 釧路刑務支所 約150km 約3時間
旭川市 紋別警察署 約140km 約2時間30分
札幌市 伊達警察署 約140km 約2時間
札幌市 静内警察署 約130km 約2時間
根室市 釧路刑務支所 約120km 約2時間
倶知安町・岩内町 札幌拘置支所 約100km 約2時間
八雲町 函館少年刑務所 約80km 約1時間30分

以上は一例であるが、地方裁判所本庁所在地に事務所がある弁護士が地方裁判所支部の管轄区域内にある警察署に赴く場合、支部管轄区域内に事務所がある弁護士が本庁所在地にある拘置支所に赴く場合のほか、同じ支部の管轄区域内であっても遠方の警察署に赴く場合にも、接見のための移動に多くの時間を要している。

冬期間となれば、接見のための移動に要する時間は更に増すことになる。また、悪天候による交通途絶や移動に伴う危険を理由として、目的地に到着すること自体を断念せざるを得ない場合や、地域によっては大型野生動物との衝突の危険もある。公共交通機関を用いる場合であっても、運行頻度の減少により長時間の待機を余儀なくされる場合があるほか、悪天候等を理由に遅延・運休となることも少なくない。

このように、北海道内においては、接見に赴くだけでも多大な時間と労力を要し、かつ悪天候での移動に際しては生命及び身体に対する危険を伴う場合も多く、このことが、被疑者等の防御権に悪影響を与える状況となっている。

オンライン接見は、以上のような接見に伴う困難を克服し、被疑者等に対して、より迅速かつ充実した接見の機会を保障するものである。

4 オンライン接見の実現に向けた課題

オンライン接見の具体的な方法については、弁護人等が最寄りの警察署又は拘置所等の留置施設等に赴き、当該留置施設等に設置された端末を用いて、被疑者等が所在する留置施設等に設置された端末にアクセスし、被疑者等と音声及び映像を送受信する方法にて接見を行う方式が現実的である。当連合会も、当該方式によるオンライン接見の実現を求めるものである。

これに対し、一部の留置施設等においては、現在、電話を用いた外部交通が行われており、この運用を、テレビ電話を用いて外部交通ができるようにする方法に拡大していく方向での議論がある。しかしながら、当該方法については、当連合会が求めている権利としてのオンライン接見とは異なり、あくまで運用にすぎない上、留置施設等の職員が聴取しうる状況で行われており、弁護人等と被疑者等との会話について秘密が保障されているものではない。また、利用時間にも制限がある。そのため、事務的な連絡に用いることはできたとしても、事件内容にかかわる打合せに用いることはできない。

被疑者等が適切に防御権を行使し、裁判に向けて充実した準備を行うためには、弁護人等と被疑者等とが、打合せ内容を他者に見聞きされることのない環境において、証拠等の資料を確認しながら打合せを行うことが欠かせない。

従って、現在一部の留置施設等で行われている電話を用いた外部交通の拡大を行うことでは全く不十分なのであって、オンライン接見の導入にあたっては、接見の秘密が保障された、刑事訴訟法第39条1項に位置付けられるものとして実現されなければならない。

このようなオンライン接見の実現に対しては、設備を導入するための経済的負担や人員配置の負担を指摘する意見もある。

しかしながら、本件要綱(骨子)においては、令状をタブレット端末で示す方法のほか、検察庁にいる検察官が、留置施設にいる被疑者からオンラインで弁解録取を行う方法や、裁判所にいる裁判官が、同じく留置施設にいる被疑者に対しオンラインで勾留質問を行う方法について答申がなされている。

このように、新たな設備の導入は、令状手続のオンライン化をはじめとする刑事手続のIT化全般に必要なのであり、オンライン接見の場合にのみことさらに経済的負担を問題視することは不合理である。

加えて、刑事手続のIT化は、捜査機関の利便性の向上のみならず、刑事手続の当事者である被疑者等の防御権の向上に資するものとされなければならないところ、オンライン接見は、上述の接見に伴う地理的、自然的困難を克服し、憲法第34条前段に定められる弁護人依頼権をより実質化するために必要不可欠であるから、設備導入による経済的負担や人的配備の負担を理由にこれを導入しないことは本末転倒である。

オンライン接見については、刑事訴訟法第39条1項に規定される権利と位置付けることにより、設備や人的配備を行うための十分な予算措置を講じることも可能となるし、仮に一斉に導入することが困難であれば、例えば、弁護人等の事務所所在地と被疑者等が所在する留置施設等の距離が離れている地域から導入し、順次、人員の拡大を図ることも考えられる。

以上から、設備の導入による経済的負担、人員配置の負担の問題は、オンライン接見の導入を否定する理由とはならない。

なお、オンライン接見が導入されることは被疑者等の防御権の行使に資するものであるが、これが導入されることをもって拘置支所の廃止や集約がなされることはあってはならない。

弁護人等と被疑者等との接見については、対面によって行うことにより相互の信頼関係が醸成されるほか、弁護人が非言語的な情報を得たり、円滑なコミュニケーションを図ることが可能となったりするのであり、オンライン接見が実現したとしても、対面による接見の重要性はいささかも揺らぐものではない。また、被疑者等の精神状態の安定や、更生に向けた環境調整のためには、弁護人等以外の家族や支援者等との一般面会も重要であり、被疑者等が生活の根拠を置く場所の近くに収容場所があることが必要である。当連合会は、改めて拘置支所の業務停止や廃止に反対するものである。

5 オンライン接見を求める世論の高まり

今後予定されている刑事手続におけるITの導入においては、オンライン接見は必ず制度化されなければならないが、前述したとおり、本件要綱(骨子)においては、オンライン接見についての事項が盛り込まれず、その実現が危ぶまれる状況にある。

しかしながら、オンライン接見については、2024(令和6)年5月末日時点で、日本弁護士連合会、全国の50の弁護士会、6つの弁護士会連合会においてその実現を求める声明等が発出されている。

加えて、北海道内においては、オンライン接見の実現を求める意見書を採択した自治体もある。当該意見の中では、「広大な面積、多雪、寒冷という地理的、自然的な要因により、弁護人が被疑者等と接見する機会が都市部と異なることはあってはならない」こと、「刑事手続におけるIT化の議論は、捜査の利便性の向上のみならず、被疑者等を含む国民の権利を保障する観点を重視して進められなければならない」ことが指摘されるとともに、接見の秘密が保障される態様でのオンラインを活用した接見交通が実現されることを強く求めている(2023(令和5)年6月22日倶知安町議会採択)。

オンライン接見については、弁護士会はもとより、議会が代表する民意によってもその実現が強く求められているものである。

6 結論

以上から、当連合会は、改めて、今後予定されている刑事手続における情報通信技術(IT)の導入において、刑事訴訟法第39条1項に規定される「立会人なくして接見」する権利としてのオンライン接見の速やかな実現を強く求め、標記のとおり決議する。