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声明・宣言

地方消費者行政の一層の強化を求める理事長声明

第1 声明の趣旨

  1.  地方消費者行政推進のための交付金の継続
     国は、地方公共団体の消費者行政の体制・機能強化を推進するための特定財源である「地方消費者行政推進交付金」の実施要領が2017年度(平成29年度)までの新規事業に適用を限定している点を2018年度(平成30年度)以降の新規事業を適用対象に含めるよう改正し、その実施のために必要となる平成30年度における予算措置を直ちに講じるとともに、同交付金の適用対象を消費者行政の相談体制、啓発教育体制、執行体制等の基盤拡充に関する事業にまで含めるよう改正し、同交付金を少なくとも今後10年程度は継続すべきである。
  2.  国の事務の性質を有する消費者行政費用に対する恒久的財源負担
     国は、地方公共団体が実施する消費者行政機能のうち、消費生活相談情報の登録事務、重大事故情報の通知事務、違反業者への行政処分事務、適格消費者団体の活動支援事務など、国と地方公共団体相互の利害に関係する事務に関する予算の相当部分について、地方財政法第10条を改正して国が恒久的に財政負担する事務として位置付けるべきである。
  3.  地方消費者行政職員の増員と資質向上
     国は、地方消費者行政における法執行、啓発・地域連携等の企画立案、他部署・他機関との連絡調整、商品テスト等の事務を担当する職員の配置人数の増加及び専門資質の向上に向け、実効性ある施策を講ずべきである。

第2 声明の理由

  1. 声明の趣旨1について
    1.  近年、全国の消費生活センターに寄せられる消費者被害等に関する相談件数は、毎年90万件前後と高水準で推移している。しかも、高齢者についてのこの10年間の相談件数の推移を見ると、年齢が高い層ほど増加傾向が強く、判断力が低下した高齢者を狙った悪質商法や詐欺商法による被害が深刻さを増している。しかし、実際に消費者被害に遭った人の中で消費生活センター等の行政の相談窓口に相談・申出をした人はわずか7.0%にとどまる(消費者庁「平成28年版消費者白書」98頁)。年間90万件に上る相談件数はあくまでも氷山の一角に過ぎない。また、消費者庁の推計によれば、潜在的な被害を含む消費者被害の合計額は、2015年(平成27年)は約6.1兆円に上る(同白書135頁)。
    2.  このように消費者被害の実態が深刻さを増す中で、被害の発生を未然に防止し、また、事後的に救済するために、地方消費者行政の一層の充実が求められている。特に、消費者被害はその性質上、悪質業者等の連絡先が不明であったり、資力に乏しかったりして、いったん発生した被害の回復が困難な場合も多いため、被害の未然防止の施策が重要となる。中でも、高齢者は悪質業者等から狙われる存在となっているが、国や地方自治体が単に情報提供や注意喚起を行うだけでは被害予防に十分な効果を発揮しない。消費者行政部門だけではなく、高齢者と接する機会の多い行政の高齢者福祉部門、社会福祉協議会、地域包括支援センター、民間介護事業者等の高齢者の周囲にいて一定の人的関係にある者らによる見守りのネットワークが構築され、被害の兆候にいち早く気付き被害を予防するような体制づくりが求められている。
    3.  上記の実現のためには、地方消費者行政の体制を維持していく上で財政基盤を確保することが極めて重要であるところ、現在の地方消費者行政の財政基盤は、地方消費者行政推進交付金等の国の支援により支えられている。しかし、同交付金の適用対象は、2017年度(平成29年度)までの新規事業に限定されている。また、地方消費者行政推進交付金の2017年度(平成29年度)交付額が61.6億円であったところ、消費者庁は平成30年度予算において30億円の予算要求しかしておらず、かつ補正予算要求もしないとしたうえで、地方公共団体は自主財源化に向けて努力すべきという態度を示している。
    4.  しかし、税収の乏しい小規模な地方公共団体ほど、一般財源の中からあえて地方消費者行政のために財源を確保するという判断はしにくいことが予想される。この様な状況下では、地方消費者行政の体制確保が後退するとともに、比較的税収に余裕のあり一般財源の中から予算の確保がしやすい都市部の大規模な地方公共団体とそうではない地方の小規模な地方公共団体との間に消費者行政の充実の程度について格差が発生・拡大していく恐れがある。地方の小規模な地方公共団体ほど高齢化率が高い現状に鑑みると、これらの地方公共団体の消費者行政が後退する事態は、高齢者の消費者被害防止の要請にも逆行するものと言わざるを得ない。
    5.  実際にも、各地における地方消費者行政の充実の程度に関する格差は発生し始めている現状が見て取れる。
       例えば、北海道においては、札幌市において消費生活サポーター制度が、平成28年度から開始されている。これは、見守りの担い手を拡充するために、地域で活動するさまざまな企業や団体、個人がそれぞれの日常の活動の中で、見守り活動や啓発活動を行い、高齢者等の見守りを推進する制度である。
       また、同じく札幌市においては、地域包括支援センターが主導的な役割を果たし、消費者協会や警察、弁護士会や民間介護事業者などを一堂に会した上で情報交換をするようなネットワークが地域ごとに複数存在する。
       行政以外の機関でも、例えば北海道弁護士会連合会では、独自に「訪問取引お断りステッカー」を作成し、地域包括支援センター等と連携の上で既に1万5000枚の配布実績がある。
      これらの活動は、消費生活サポーターの養成、各機関の情報交換の実施、ステッカーの配布実績という目に見える成果だけではなく、地方消費者行政の職員が市民や他の機関の人間と交流し、顔の見える関係が構築されることでその後の協力・連携がしやすくなるという副次的な成果も上がっている。
       以上の通り、特定の地方公共団体や特定団体の消費者保護のための活動は、一定の成果を上げつつあるが、他方でこれらはあくまでも一部の地域や一部の機関による成果でしかない。つまり、既に、税収に比較的余裕がある地方自治体や消費者保護に関心・意欲のある機関が関わることができる地域とそうではない地域とに格差が発生しつつあるといえる。
    6.  そこで、国は、地方公共団体の消費者行政の体制・機能強化を推進するための特定財源である「地方消費者行政推進交付金」の実施要領が2017年度(平成29年度)までの新規事業に適用を限定している点を2018年度(平成30年度)以降の新規事業を適用対象に含めるよう改正し、その実施のために必要となる平成30年度における予算措置を直ちに講じるとともに、同交付金の適用対象を消費者行政の相談体制、啓発教育体制、執行体制等の基盤拡充に関する事業にまで含めるよう改正し、同交付金を少なくとも今後10年程度は継続すべきである。
  2. 声明の趣旨2について
    1.  現在、地方公共団体が担っている消費者被害の防止・救済に関する事務の中で、消費生活情報のPIO-NETへの登録事務や違反業者への行政処分事務、消費者安全法に基づく重大事故情報の通知事務、適格消費者団体への支援事務等については、日本国内の消費者被害情報を集約し、広域的被害を防止するという意味合いを持つ。これらの事務は、国と地方公共団体相互に利害関係がある事務であり、消費者被害防止・救済のために全国的な水準を向上させる必要が大きいため、国が恒久的に財源を負うべきである。
    2.  そうしなければ、やはり、一般財源の中から予算確保がしやすい都市部の大規模な地方公共団体とそうではない地方の小規模な地方公共団体との間に消費者行政の充実の程度に格差が発生・拡大することになる。
       北海道における取組の格差については前述の通りであり、消費者被害からの防衛の手助けが特に必要な高齢者が多い地域ほど、悪質業者等にとって活動しやすい環境が作出される結果を招きかねない。特定の地域での消費者被害に厳しく対応できても、他の地域での対応が甘ければ結局被害が他の地域、特に高齢者が多い地域に被害が移転するだけの結果に終わるだけであることが予想され、我が国全体としての消費者被害撲滅の観点から、本質的な解決に結びつかない。
    3.  そこで、国は、国と地方公共団体相互の利害に関係する事務に関する予算の相当部分について、地方財政法第10条を改正して国が恒久的に財政負担する事務として位置付けるべきである。
  3. 声明の趣旨3について
    1.  これからの消費者行政には、消費生活相談、消費者被害情報の収集、違反事業者に対する法執行・行政処分、消費者向けの啓発・教育の他、前述の通り高齢者の見守りネットワークの構築といった役割も期待される。
       そうした役割を担うこと、特に見守りネットワークを構築し他との連携を図るためには、消費生活相談員及び地方消費者行政担当職員が適正数をもって配置されることが、必要不可欠である。また、単なる職員の増加のみならず、適切な研修や、適切な教材による学習を通じた各職員の専門的資質の向上も重要な課題である。
       また、前述の北海道における地方消費者行政に関連する活動のように、国全体の水準の向上のために参考にすべき事案も既に多く存在するところである。
    2.  そこで、国は、地方の成功例等も適切に調査しつつ、消費生活相相談員及び地方消費者行政担当職員の配置人数の目安を示したり、適切な研修や教材提供などの充実をさせたりするなど、各職員の専門的資質向上のために実効性のある具体的な施策を講じるべきである。

 

2018年(平成30年)3月2日

北海道弁護士会連合会
理事長  愛須 一史

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