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声明・宣言

「テロ等組織犯罪準備罪」いわゆる共謀罪制定に反対する声明

  1.  政府は,本日,テロ等組織犯罪準備罪(以下,「テロ等準備罪」という。)の新設を目的とする組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律の改正案を閣議決定した。
  2.  新たに創設される「テロ等準備罪」とは,①組織的犯罪集団の構成員が,②特定の犯罪の実行に関する合意がなされ,③右合意に基づき準備行為がなされた場合,犯罪が成立し,処罰されるというものとされている。
     この「テロ等準備罪」の眼目は,犯罪実行の合意をもって,処罰対象としようとするものであるため,その本質は,過去3度廃案となった共謀罪とその危険性・問題点を同一にするものである。
  3.  そもそも,現行刑法は,犯罪行為の結果発生に至った「既遂」の処罰を原則としつつ,例外的に,犯罪の実行行為には着手されたが結果発生に至らなかった「未遂」について処罰する(刑法第44条)ことを定め,「未遂」の前段階である「予備」(犯罪の実行行為には至らない準備行為のこと),さらにその前段階である「陰謀」(2人以上の者が犯罪の実行を合意すること)が処罰の対象とされる場合もあるが,これら「予備」や「陰謀」は各罪の中でごく例外的に処罰対象とされているにとどまる。
     これは,犯罪に関する合意であっても,内心にとどまる限り,内心の自由の保障(憲法第19条)の対象となるとの憲法の要請に基づくものである。
     また,現行刑法は,どのような行為が犯罪になるかを事前に明確に規定しなければならないとする罪刑法定主義に基づくものであるが,合意を処罰対象とすると、処罰対象が不明確となり,罪刑法定主義に反することにもなる。
     そのため,犯罪の結果が発生することはおろか,その準備行為すらない段階での処罰を認める共謀罪の創設は,憲法及び近代刑法の大原則である罪刑法定主義に反するものであり,かつ,処罰範囲を不明確にし,冤罪等の不当な人権侵害を招来することになりかねない。
  4.  政府の説明等によると,「テロ等準備罪」は,過去に廃案となった共謀罪に比べ,その成立要件を厳しくするなどしたため,一般人が処罰対象とされることはないとして,①対象を「団体」から「組織犯罪集団」に変更,②単なる共謀では足りず「準備行為」の要件を加重,③対象犯罪は600以上になるが絞り込み可能との3点が挙げられているという。
     (1) しかし,このうち「組織的犯罪集団」であるか否かは,あくまで犯罪の共謀を行った時点で判断されるという。
     したがって,適法な活動を目的とする市民団体や労働組合等であり,過去に犯罪行為,違法行為を行ったことがない団体であっても,ある時点で違法行為を計画したと疑われた場合には,その時点で法の定義する「組織的犯罪集団」となったと解釈されうる。
     しかも「組織的犯罪集団」か否かの判断を,第1次的には警察が行うことを考えあわせると,恣意的な運用の危険性は大きく,一般市民が取締りの対象とされない保証には全くならない。
     (2) 次に問題となるのは,単に共謀があっただけでは足りず「準備行為」が必要であるとされている点である。これに関して資金又は物品の取得が例示されていることから分かるように,「準備行為」自体は,法益侵害の危険性を帯びるものである必要はなく,共謀内容が外部に現われた行為であると判断されれば足りるという。
     そのため,例えば,「共謀」に参加したと疑いをもたれた者が,実際には生活費のためATMで現金を払い戻しただけでも,犯罪実現のための資金の「準備行為」と判断される危険が払拭されない。
     よって,この点も,一般市民が取締りの対象とされないことを保証しない。
     (3) さらに,「テロ等準備罪」の対象犯罪は,長期4年以上の懲役・禁固刑を含む犯罪であり,現行法上,600以上の犯罪に上るとされていた当初の報道内容から公職選挙法違反などテロ犯罪と無関係なものまで含まれており,対象があまりに広範すぎるとの批判を受け,近時,対象犯罪を277に絞り込まれるとの報道もなされている。
    仮にそれが事実であるとしても,277という対象範囲が依然として極めて広範なものであることに変わりがないのであって,一般市民が取締り対象とされないための歯止めにならないだけでなく,過去の共謀罪法案において対象犯罪の絞り込みはできないとしていた政府説明と矛盾する。
  5.  今般の政府の説明によると,「テロ等準備罪」創設の目的は,東京オリンピック・パラリンピック開催のためなどのテロ対策にあるという。
     しかし,日本は,既に,テロ対策のための条約を多数締結しているほか,テロ行為等を未遂に至らない段階から処罰するための国内法も整備しており,現行法でいかなる不都合があるのか明らかではない。
     過去3回,共謀罪法案が提出された際に,政府は,「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約」(以下,「越境組織犯罪防止条約」という。)の締結のために共謀罪が必要と説明してきた。
     しかし,同条約が対象とする「組織犯罪」とは,経済犯罪であり,テロ犯罪等は明確に対象外とされている。そうすると,そもそも本法案の目的が越境組織犯罪防止条約批准にあるのか,テロ対策にあるのかが不明であって,対象団体,対象犯罪の範囲及び対象行為などを定めた各条項が,目的に合致しているか否かの判断すらできない。
  6.  また,このような「テロ等準備罪」が成立すると,その捜査手法としては,会話,電話,メール等の情報等を収集することとなる。
    既に通信傍受(電話盗聴)による捜査が行われているところ,「テロ等準備罪」の捜査のためとして,新たな立法により,更なる通信傍受の範囲の拡大,会話傍受,更には行政盗聴まで認めるべきであるとの議論につながるおそれがある。
    このような捜査手法が合法化されると,市民団体や労働組合等の活動を警察が日常的に監視し,行き過ぎた行動に対して,「テロ等準備罪」に該当するとして立件するおそれもあり,表現の自由に対する萎縮効果を生じさせるおそれが高い。
  7.  以上,政府が提案するとされている「テロ等準備罪」=共謀罪が,近代刑法の大原則に照らし,危険性が極めて高いという本質に変わりがなく,また「テロ等準備罪」を創設しなければならない理由は何ら明らかとされていない一方,これまでの共謀罪法案からの修正点とされている政府説明等に何らの実効性もないことは明らかである。
     よって,当連合会は,「テロ等準備罪」を創設する法案に強く反対する。

以上

2017年3月21日

北海道弁護士会連合会
理事長  太田 賢二

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