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声明・宣言

北海道における弁護士過疎問題の克服に向けた宣言

〜すずらん基金の延長に込めた我々弁護士・弁護士会の決意〜

当連合会は、2004年(平成16年)から開始した全道の弁護士が負担するすずらん基金特別会費の徴収期限を、2019年(平成31年)6月まで延長することを決議した。

すずらん基金は、道内の旭川・釧路・札幌・函館の4弁護士会で構成される当連合会が、2004年(平成16年)の定期弁護士大会において、「弁護士過疎解消に努め、道民に身近な司法の実現を目指す」ことを宣言するに当たり、弁護士過疎地域に派遣する新人弁護士の養成を目的として設立される、すずらん基金法律事務所の運営を支援するために創設したものであって、今日までに全道の弁護士が拠出したすずらん基金特別会費は、総額で約1億3000万円に上る。

そして、すずらん基金の支援を受けて運営するすずらん基金法律事務所は、これまで18人に上る新人弁護士を養成し、道内の弁護士過疎地域に送り出してきた。また、同基金は、法律事務所が存在しない市町村を対象として実施する全道一斉すずらん無料法律相談の事業費用に充てられ、道内4弁護士会が弁護士過疎地域において独自に行う法律相談事業にも活用されてきた。
この度の、すずらん基金特別会費の徴収期限延長決議は、道内4弁護士会及びその会員である全道の弁護士が、弁護士を取り巻く昨今の諸情勢が極めて厳しい中にあっても、弁護士過疎が憲法で定められた裁判を受ける権利や市民が弁護士にアクセスする機会の確保に関わる重大な問題であり、その克服に向けて弁護士・弁護士会が自ら積極的に取り組まねばならない責務があることをあらためて自覚し、道民の視点に立ってその責務を果たそうとする強い意欲を示したものである。

弁護士過疎問題は、まさに克服の途上にある。

当連合会は、すずらん基金を創設する以前から、道内4弁護士会が行う法律相談事業や刑事当番弁護士を遠隔地に派遣する事業などに対して財政支援を行ってきた。そして、道内4弁護士会は、それぞれの実情に応じて、市町村が行う法律相談会への弁護士派遣、弁護士過疎地域における巡回法律相談の実施、電話による無料法律相談体制の導入、法律相談センターの設置など、広大で多くの弁護士過疎地域を抱える北海道において、道民が弁護士にアクセスし易くするための方策を精力的に講じてきた。
また、当連合会及び道内4弁護士会は、日本弁護士連合会と協力して、これまで道内に18を数えるひまわり基金法律事務所を設置してきた。そして、先に述べたとおり、10年前にすずらん基金を創設した以降は、弁護士過疎問題を克服するための取組みを一層強化してきた。
しかしながら、日本全国の中でも、弁護士過疎の解消が最も困難な地域の一つである北海道にあっては、全市町村179のうち144市町村において、今なお法律事務所が存在しない。近年、弁護士数は飛躍的に増加したが、道内市町村の多くは人口が少なく法律事務所を運営することが極めて厳しいことから、弁護士数の増加が弁護士過疎地域の解消に直結しないのが実情である。しかも、道内の多くの市町村において過疎化が急激に進行している現状を踏まえると、これまで弁護士・弁護士会が行ってきたひまわり基金法律事務所の設置や弁護士定着化への取組みによって弁護士過疎を解消するには限度があり、新たな法律事務所の設置は多くは望めない。むしろ既設の法律事務所の存続が困難となって、再び元の弁護士過疎の状態に後戻りしてしまうおそれすらある。
もちろん、そのような後退は避けなければならないし、新たな法律事務所の設置が困難だからといって、弁護士過疎地域に暮らす道民が、身近に弁護士がいないことにより、適切な時期に法律相談を受け、すみやかに紛争の解決を図ることができない状態におかれたままであっては断じてならない。
だからこそ、我々北海道の弁護士・弁護士会は、これまで取り続けてきた弁護士過疎問題を克服するための活動を継続するとともに、時宜に適った対策へと常に深化させていく必要がある。

ここに、当連合会は、道民と手を携え、北海道及び道内の全市町村の意向を受け止めつつ相互に協力して、道内4弁護士会、そして900人に上らんとする全道の弁護士とともに、道民が司法による権利救済をあまねく受けることができることを目指し、これまでにも増して、北海道における弁護士過疎問題の克服に向けた活動を続けること、そしてその活動を通じて憲法が弁護士に求める職責を全うし、弁護士法第1条が定める、基本的人権の擁護と社会正義を実現するという、弁護士・弁護士会の使命を果たさんことを、ここに改めて決意した。

以上、宣言する。

2014(平成26)年3月15日
北海道弁護士会連合会
理事長 長田 正寛

宣言理由

  1. すずらん基金の創設と弁護士過疎対策
    当連合会は、本年3月15日に開催した理事会において、道内の全弁護士が負担するすずらん基金特別会費の徴収期限を、本年7月から、2019年(平成31年)6月まで5年間延長することを決議した。
    当連合会は、2004年(平成16年)2月に、弁護士過疎地域において弁護士業務を行なう弁護士の育成と確保を図ることにより、道民に等しく弁護士による法的サービスを提供することを目指して設立される弁護士法人すずらん基金法律事務所に対する経済的支援を行なうため、すずらん基金を創設し、同年7月から道内の全弁護士が1人当たり毎月2000円を負担する特別会費の徴収を開始した。
    それ以降、現在までに集められた特別会費の総額は1億3000万円に達しようとしている。
    そして、翌2005年(平成17年)に設立されたすずらん基金法律事務所は、これまでに18人に上る新人弁護士を養成して弁護士過疎地域に派遣し、中標津町、室蘭市、伊達市、北見市、登別市などに弁護士を定着させ、弁護士過疎問題の克服に向けて大きく貢献してきた。
    また、すずらん基金は、2010年(平成22年)以降、旭川・釧路・札幌・函館の道内4弁護士会が弁護士過疎地域において行なう法律相談や法律事務所が存在しない市町村を対象に当連合会が実施する全道一斉すずらん無料法律相談の事業費用に充てられており、弁護士・弁護士会が道内で展開する弁護士過疎対策全般における財政基盤として、重要な機能を果たしてきた。
    現在、北海道の弁護士数が約900人になり年間のすずらん基金特別会費は約2000万円に上るものの、他方において、すずらん基金から、すずらん基金法律事務所の運営費用として約2000万円、道内4弁護士会の法律相談事業費用として最大600万円、全道一斉すずらん無料法律相談の事業費用として約400万円を支出しており、これら弁護士過疎対策費用の総額は年間3000万円近くに達する。
    全国には52の弁護士会をブロック毎に分けた8つの弁護士会連合会があるが、このように弁護士過疎対策のための費用を、弁護士会連合会を構成する弁護士会の会員弁護士が負担する特別会費によって賄っているところは、当連合会しかない。
    そして、この10年の間に北海道の弁護士数が約900人に倍増した影響を受けて我々弁護士の経済基盤が大きく揺らぐ中で、なお今後5年間すずらん基金特別会費の徴収期限を延長したことは、道内の弁護士・弁護士会が弁護士過疎問題の克服に向けて活動を続けようとする、並々ならぬ決意を表すものである。
  2. 弁護士・弁護士会が行なう弁護士過疎対策の意義
    当連合会をはじめ道内の弁護士・弁護士会が積極的に費用を負担して行う弁護士過疎対策は、市民の裁判を受ける権利(憲法第32条)と密接に関連する。
    多くの市民は、法的トラブルに遭った際、適切な解決を図るために法律の専門職である弁護士の法的助言や助力を必要とする。このような弁護士にアクセスする機会(弁護士の法律相談において法的助言を受け、弁護士に事件処理を委任する機会)が十全に保障されることは、憲法上の要請である裁判を受ける権利を実質化するために必要不可欠な条件というべきである。さらに、市民が弁護士による法律相談を受けることを契機として多くの権利救済を受けている実態に照らすと、弁護士による法律相談は、権利救済に通じる入口ともいうべき基本的な役割を担っているということができる。
    したがって、弁護士による法律相談を受ける体制は、欠くべからざる社会的インフラの一つと位置付けられ、裁判を受ける権利を国民に保障すべき国には、国民が弁護士にアクセスする機会を保障することについて基本的責務がある(総合法律支援法第30条第1項第4号参照)。
    しかしまた、我が国は、弁護士法において弁護士を法律分野における高度の総合的な専門職とみなし、法律事務の独占を認め(弁護士法第72条)、かつ、このような職責を有する弁護士の登録・監督・懲戒などについて、弁護士会に高度の自治権を付与している。このことに照らすと、弁護士・弁護士会には、弁護士による法律相談を受ける体制を構築する上で果たさなければならない責務があるのであり、その責務は諸外国に類を見ないほど重いといわなければならない。
    ここに弁護士・弁護士会が弁護士過疎問題の克服に取り組むべき所以がある(日本弁護士会連合会 2012年定期総会「より身近で頼りがいのある司法サービスの提供に関する決議」参照)。
    だからこそ、当連合会は、長年に亘って精力的に弁護士過疎問題の克服を目指して様々な対策を講じてきたし、この度、すずらん基金特別会費の徴収期限を延長したのである。
  3. 当連合会の活動
    当連合会は、従前から積極的に、北海道における弁護士過疎問題の克服に取り組んできた。
    1996年(平成8年)から法律相談事業に対する援助を行なうようになり、道内4弁護士会が全道各地に開設する法律相談センターに資金を提供し、1999年(平成11年)からは、道内4弁護士会が刑事当番弁護士を遠隔地に派遣する事業について援助を開始した。
    2004年(平成16年)にすずらん基金を設立した後は、先に述べたとおり、弁護士過疎問題の克服に向けて、より一層の努力を重ねてきている。
    すずらん基金法律事務所では、18人の新人弁護士を養成し、日本弁護士連合会が運営費等の財政支援を行なって全国の弁護士過疎地域において展開するひまわり基金法律事務所のうち、稚内市、名寄市、留萌市、北見市、中標津町、伊達市、岩内町、浦河町、倶知安町、新ひだか町に開設された10事務所(これまで合計18事務所が設立され、そのうち所長として赴任した7人の弁護士が任期終了後当地において定着するなどしている。)に16人を所長弁護士として送り出したほか、2人の弁護士が室蘭市、登別市で法律事務所を独立開業し、現在も5人の新人弁護士を養成中である。
    また、2010年(平成22年)から開始した全道一斉すずらん無料法律相談では、北海道、道内市町村及び北海道町村会などの協力を得ながら、初年度は140、平成23年度は146、平成24年度は144、今年度は145の市町村という、道内にあって法律事務所が存在しない市町村のほとんどにおいて無料法律相談会を開催し、合計1500件を超える法律相談を行ってきた。
    さらに、同じく2010年(平成22年)からは、道内4弁護士会が弁護士過疎地域において独自に取り組む法律相談事業に対して財政支援を行っている。
  4. 当連合会の今後の取組みと展望〜弁護士過疎問題は克服途上
    当連合会は、ひまわり基金法律事務所への派遣弁護士養成や弁護士過疎地域における法律事務所開業支援などの方策は、これらの法律事務所が弁護士にアクセスするための重要拠点として機能していることに照らして、今後も、継続していかなければならない必須の取組みと位置付けている。
    しかし、北海道内にある179の市町村のうち、弁護士が常時執務する法律事務所があるのはわずか35市町にとどまり、その余の144の市町村には、今なお法律事務所は存在しない。そして、この法律事務所が存在しない144の市町村のうち、実に116の市町村は人口1万人未満である。このように人口が少ない市町村ではさらに過疎化が進む傾向が認められ、法律事務所を独立採算で運営していくことが困難であることから、弁護士過疎対策のすべてをひまわり基金法律事務所の設置や弁護士定着化などの展開に求めることには限度がある。
    したがって、当連合会としては、今後とも、弁護士過疎地域に展開するひまわり基金法律事務所へ派遣する弁護士の養成を継続し弁護士定着化を進める方策を取り続けるが、同時に、法律事務所が存在しない市町村における法律相談体制の構築に一層力を注いで行かなければならない。
    さらに、将来的には、過疎地域において遠隔医療が果たしている例などを参考に、過疎化が進行する中における法律事務所のあり方に工夫を凝らし、IT化社会に適合するような仕組みを開発するなど、時宜にかなった新たな方策を常時検討し深化させていくことが必要である。

    これが、弁護士過疎問題が克服の途上にあるということの意味である。

    当連合会が、年間3000万円の支出を伴う弁護士過疎対策を、このまま継続していくことは困難を伴う。弁護士の経済基盤が揺らぐ中で、すずらん基金だけに頼った弁護士過疎対策ではいずれ限界に達し、これまで継続してきたひまわり基金法律事務所に後任弁護士を送り出すことができずに事務所を閉鎖せざるを得ない事態も皆無とは言えず、現在、道内4弁護士会が積極的に取り組んでいる法律相談体制の構築にも支障が生じかねない。
    特に、広大な面積にあって179という全国一多い市町村が存在し、しかもその多くが過疎地域である北海道において、弁護士過疎問題は、我々北海道の弁護士・弁護士会の力だけでは到底克服することができないのであって、国はもとより、北海道及び道内市町村、並びに各地方議会、そして道民の協力が必要不可欠である。
    したがって、我々北海道の弁護士・弁護士会は、自らが弁護士過疎問題の克服に向けてこれまで以上に取り組むことを改めて確認するとともに、これからは、北海道及び道内市町村、並びに各地方議会、そして道民に、我々北海道の弁護士・弁護士会が取り組み続けている、この北海道における弁護士過疎対策の意義を十分に理解してもらい、今まで以上に親密な協力体制の下で新たな弁護士過疎対策を構築していかなければならない。
  5. 結び
    当連合会は、弁護士・弁護士会を取り巻く環境が一層厳しさを増し個々の弁護士の経済基盤が悪化する中にあっても、道民が弁護士にアクセスする権利を確保するために、弁護士・弁護士会が先陣をきって北海道における弁護士過疎問題を克服する活動を続けるべき責務のあることを確認し、その使命を果たしてゆくために、ここにすずらん基金特別会費の延長を決議した。
    当連合会は、その決意を明らかにするとともに、道民と手を携え、国、北海道及び道内市町村、並びに地方議会との一層の協力体制を築きつつ、弁護士過疎問題を克服したいと考え、今般、本宣言を行なうに至ったものである。

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