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平成18年度定期大会決議

教育基本法改正に反対する決議

    1 現行教育基本法(以下「現行法」という)は,憲法と一体不可分となり,教育の憲法として,戦後の平和的で民主的な教育を支えてきた。現行法の理念は,前文に「われらは,さきに,日本国憲法を確定し,民主的で文化的な国家を建設して,世界の平和と人類の福祉に貢献しようとする決意を示した。この理想の実現は,根本において教育の力にまつべきものである。」と謳っているとおりである。

      この教育基本法に関し,政府は,第164回国会に教育基本法改正法案(以下「改正法案」という)を提出し,その後次期国会においても継続して審議が行われることとなった。

    2 しかしながら,改正法案は,以下のとおり,この憲法及び現行法の崇高な理念に真っ向から反するものである。

    (1) 改正法案は,柱書に引用した現行法の前文部分を削除し,憲法と現行法との連続性を断絶し,国と郷土を愛する態度を教育の目標とすることを法律の明文に定め,義務教育を通じて国家のための人づくりを行うことを目指していると解される。

      しかるに,改正法案が現行法の理念を前文から削除したことは,憲法との連続性を断絶するにとどまらず,現行法の教育理念を180度転換させる虞を含んでおり,ひいては憲法の理想を後退させる危険を孕んでいる。

      また,教育とは人間の内面的価値に深くかかわる文化的な営みであり,改正法案が掲げる「態度」や「資質」は人格の完成をめざす教育の自主的な営みの中で育まれていくべきものである。このような態度や資質の形成は,本来的に強制になじまない人間の内面や本質に関わるが,改正法案はこれを法律で強制する根拠となる危険性を含んでいる。そして,改正法案が義務教育を通じて国家のための人づくりを行うとしていることと相俟って,国が理想とする人格や思想の形成を強制する契機となりうるのである。これは明らかに「個人の尊厳」への不当な介入であり,「思想良心の自由」(憲法19条)の侵害である。

      憲法に由来する現行法の理念を転換させあるいは憲法により保障される価値や自由に介入する根拠となる危険性を有する本改正法案は,認めることができない。

    (2) 改正法案は,現行法の定める「(教育は)国民全体に対し直接に責任を負って行われるべきものである。」を削除し,新たに「(教育は)この法律及び他の法律の定めるところにより行われるべきものであ(る)。」を付け加え,政府及び地方公共団体に対して「教育振興に関する基本計画」の策定を義務づけている。

      しかるに,現行法は,教育に対する戦前の国家による過度な統制を反省し,教育の自主性尊重の見地から,教育に対する不当な支配や介入を抑止しようとした沿革を有する。

      改正法案は,この沿革を曖昧にし,教育について国民全体に対する直接責任を明文から削除して国の責任の内容を曖昧にしているばかりか,法律によりさえすれば国が教育内容に介入することができる規定となっており,国による支配につながる危険性を払拭することができない。

      このような,教育を通じた国による支配が行われる余地を残すような本法改正案は,認めることはできない。

    (3) そもそも,政府・与党は,これまで,「時代の要請にこたえる」という以外,教育基本法を改正すべき根拠も立法事実も説明していない。今我々に求められているのは,法改正ではなく,現行法の理念を実現させる努力である。

    3 よって,当連合会は,かかる現行教育基本法の理想を後退させ,教育の理念の転換を目指し,教育を通じた国による人格形成や支配につながる危険性を有する法改正には強く反対するとともに,現行教育法の理念を豊に発展させる努力と十分な国民的議論がなされることを求めるものである。

     以上,決議する。

    2006年(平成18年)7月28日

    北海道弁護士会連合会

     

 

この宣言をなすに至った理由は以下のとおりです。

    1 現行教育基本法(以下「現行法」という)は,憲法の理想を実現する源は教育の力にあることを宣明し,憲法と一体不可分となり,教育における憲法として,戦後の平和的で民主的な教育を支えてきた。この現行法の理念は,前文に「われらは,さきに,日本国憲法を確定し,民主的で文化的な国家を建設して,世界の平和と人類の福祉に貢献しようとする決意を示した。」と謳われているとおりである。

      この教育基本法について,今,改正の動きが強まっている。すなわち,政府・与党は,教育基本法改正法案(以下「改正法案」という)を閣議決定し,第164回国会に上程した。同国会では審議未了となったが,政府は,次期国会において継続審議し,成立させることを目指している。

      しかしながら,改正法案は,以下のとおり,この憲法及び現行法の崇高な理念に真っ向から反するものであるのみならず,憲法の基本原理である平和主義を空洞化する虞を含むものであって,改悪の誹りを免れない。

    2 改正法案は,現行法の理想を謳った前文を削除し,新たに前文で,公共の精神の尊重や伝統の継承あるいは文化の創造を謳っている。また,改正法案の第2条には「我が国と郷土を愛する態度」など,5つの「態度」を養うことを「教育の目標」として定めている。さらに,改正法案の第5条は義務教育の目的を「国家及び社会の形成者として必要とされる基本的な資質を養うこと」にあると定めている。改正法案は,一人ひとりの子どもを大切にすることよりも,義務教育を通じて国家のための人づくりを行うことを目指しているのである。

      教育とは,人間の内面的価値に深くかかわる文化的な営みである。改正法案に掲げられている「態度」や「資質」とは,この内面的価値と表裏一体のものである。改正法案は「愛国心」という表現は避けてはいるが,「我が国と郷土を愛する態度」と言い換えても,法を通して国が理想とする人づくりを行おうとする改正法案の本質は些かも変わりない。

      昨今,教育の現場では,国旗国歌法制定当時の政府の公式説明に反して,生徒や教師に対して,国を愛する心情を持つことを強制する動きが広がっている。文部科学省が学習指導要領に「国を愛する心情を育てるようにする」と記載したことに呼応して,通知表に愛国心の項目を設けて,ABCで評価する小学校すら存在する。

      人間の内面を法で縛ることはできない。内面は人格の完成を目指す自主的な営みの中で培われていくべきでものである。国が理想とする人格や理想の形成を強制する契機となりうる本改正法案は,「個の尊厳」への不当な介入の余地を残し,「思想良心の自由」の侵害につながる危険性を有する。

      このように,現行法の理念を転換し,憲法の保障する価値や自由に介入する契機となり得る本改正法案は,断じて認めることはできない。

    3 改正法案は,現行法第10条1項の「教育は,不当な支配に服することなく,国民全体に対し直接責任を負って行われるべきでものである。」のうち,「国民全体に対し直接責任を負って行われるべきものである。」の部分を削除している。そして,改正法案第16条で新たに「(教育は)この法律及び他の法律で行われるべきものであり」を付け加えているほか,改正法案第17条では政府及び地方公共団体に対して「教育振興に関する基本計画」の策定を義務づけている。

      現行法第10条は,戦前の教育に対する過度の国家統制を反省し,教育の自主性尊重の見地から教育に対する不当な支配や介入を抑止しようとした,歴史的な由来のある規定である。改正法案は,教育について国の国民全体に対する責任を明文から削除したほか,「不当な支配に服することなく」の文言は残してはいるものの,「教育は法律の定めるところにより行われるべきものである」という規定と相まって,法律によりさえすれば国が教育の内容に介入する余地を残すこととなる。このような,教育に対する国の支配を可能とする危険性を有する本改正法案を認めることはできない。

    4 ところで,改正法案の対案として,民主党は,日本国教育基本法案(以下「民主党案」という)を先の国会に提出した。しかるに,その前文には「日本を愛する心を涵養し,祖先を敬い」と規定されているなど,政府の改正法案よりも復古的な内容となっている。また,民主党案では現行法第10条の「教育は不当な支配に服することなく」という規定を削除しており,先に述べた現行法の成立経緯を顧みることなく,教育に対する国の介入を抑止するという現行法の準憲法的保障を放棄する内容となっている。このような,憲法及び現行法の理想と理念を大きく後退し転換させる内容の民主党案にも,到底賛成することはできない。

    5 そもそも,本改正法案は,2003年6月に発足した「与党教育基本法改正に関する協議会」での議論の結果をまとめた「与党最終報告」に基づいているが,そこでの議論は全て非公開であり,密室審議で行われた。

      「教育の憲法」ともいわれる教育基本法の改正という大問題は,各界各層の広範な意見をもとに,国民的な議論を経て慎重になされる必要がある。その意味で,改正法案には作成過程それ自体に重大な欠陥があると言わざるを得ない。

      また,政府・与党は,これまで,「時代の要請にこたえる」という以外,教育基本法を今改正すべき根拠も立法事実も説明していない。先に述べたような,改正法案が抱える様々な問題点に対して,国民が納得し得る十分な説明は行っていない。

      思うに,日本の子どもたちが抱えている諸問題は,国連子どもの権利委員会の勧告にもあるように,「高度に競争的な教育制度」に原因があると考えられるのであり,教育基本法に原因があると断ずるのは誤りである。そうであるなら,我が国がとるべき道は,教育基本法を改正することではなく,現行の教育基本法の理念をさらに活かすような施策と取組みを進める努力をすることにある。法改正の必要性が何ら示されず,国民的議論を欠いたまま,拙速な審議を行えば,国家百年の計といわれる教育を根本において誤らせることになりかねない。

      かりに,教育基本法の改正を検討するにしても,より幅広い視点から,子どもの養育に直接関わり,子どもの実態をよく知る専門家の意見を十分に聴いて慎重な検討を行うとともに,この問題についての国民的議論の深化をはかることが先決であると考える。

      拙速に改正が行われるようなことがあっては決してならない。

    6 よって,当連合会は,拙速な法改正手続に反対することはもちろん,かかる現行教育基本法の理想を後退させ,教育理念の転換を目指し,教育を通じた国による人格形成や支配につながる危険性を有する法改正に強く反対する。現行教育基本法の理念を豊に発展させる努力と,国民的なレベルでの十分な議論が行われるべきである。

    以 上

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