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憲法の基本原則に違背する憲法改正国民投票法案の国会提出に反対する決議

 憲法改正国民投票法案に関し、政府与党は次期通常国会での成立を目指している。法案の内容は、2004年12月3日、国民投票法等に関する与党協議会の実務者会議において、2001年11月に発表された憲法調査推進議員連盟の日本国憲法改正国民投票法案に若干の修正を加えて日本国憲法国民投票法案骨子(案)(以下「法案骨子」という。)を策定し、この「法案骨子」を基に法案化するとのことである。
 しかしながら、この「法案骨子」には、国民主権、基本的人権の保障という憲法の基本原則からして、以下の重大な問題がある。

  1.  憲法の複数の条項について改正案が発議された場合に、全部につき一括して投票しなければならないのか、あるいは条項ごとに個別に投票できるのかについて明らかにしていない。
    この点については、国民主権の原理に則り、条項ごと又は問題点ごとに個別に賛否の意思を問う発議方法および投票方法がとられるべきである。
     
  2.  国民投票運動について、広範な制限禁止規定を定め、不明確な構成要件により刑罰を科すものとなっている。その主なものを挙げると、@公務員の運動の制限、A教育者の運動の制限、B外国人の運動の全面禁止、C国民投票の予想結果の公表の禁止、D新聞・雑誌の虚偽報道の禁止、E新聞・雑誌の不法利用の禁止、F放送事業者の虚偽報道の禁止等である。
     しかし、国民投票にあたっては、表現の自由が最大限保障されるべきであり、国民投票運動は基本的に自由でなければならない。上記のような規制が設けられるならば、憲法改正国民投票という主権者が最も強く関与すべき事項について、主権者に充分な情報が伝わらず、また国民の間で自由な意見交換がなされないまま国民投票が実施されることになるおそれがある。「法案骨子」の制限禁止規定は、表現の自由、報道の自由及び国民の知る権利を著しく制限するものであるといわなければならない。
     
  3.  国民投票の期日については、国会の発議から30日以降90日以内の内閣が定める日とされている。
     しかし、国民が的確な判断をするために必要かつ十分な期間が確保されなければならず、この期間はあまりにも短い。
     
  4.  憲法改正に対する賛成投票の数が有効投票総数の2分の1を超えた場合に国民投票の承認があったものとする。また、国民投票が有効に成立するための投票率に関する規定を設けていない。
     しかし、少なくとも改正に賛成する者が、全投票総数の過半数を超えたと きに、改正についての国民の同意があったとされるべきであり、投票率に関 する規定も設けるべきである。
     
  5.  国民投票無効訴訟について定めているものの、提訴期間を投票結果の告示の日から起算して30日以内とし、一審の管轄裁判所を東京高等裁判所に限定している。
    しかし、この提訴期間は憲法改正という極めて重要な事項に関するものとしては短かすぎるし、管轄の限定も国民の裁判を受ける権利を制限するものであって不当である。 
     いうまでもなく、憲法改正国民投票は、主権者である国民が、国の最高法規である憲法のあり方について意思を表明するという国民の基本的な権利の行使にかかわる国政上の重大な問題である。従って、憲法改正国民投票法は、主権者である国民の意思が十分に反映されるように、国民主権の原理に立脚し、かつ表現の自由等の基本的人権が最大限保障されたものでなければならない。
     しかるに、「法案骨子」には、上記のとおり、国民主権の原理に反するばかりか、国民の基本的人権を侵害し、ひいては最高法規たる憲法を保障する制度として重要な意義を有する国民投票制度の趣旨そのものを没却させるという重大な問題点が存在するものであるから、このような法案が国会に提出されることは到底容認することはできない。
     よって、当連合会は、かかる憲法の基本原則に違背する憲法改正国民投票法案が国会に提出されることに強く反対するとともに、広く国民の間で、真に国民主権に根ざした憲法改正国民投票法のあり方について十分な議論がなされることを求めて、活動していくものである。

  以上のとおり決議する。

2005年(平成17年)7月22日
北海道弁護士会連合会

 

この宣言をなすにいたった理由は以下のとおりです。

  1.  政府与党は、憲法改正国民投票に関し、次期通常国会には法案を提出して、その成立を目指している。
     与党が成立を目指す法案の骨子は、2004年12月3日の与党協議会の実務者会議で合意された「法案骨子」であるが、その内容は2001年11月に発表された憲法調査推進議員連盟の日本国憲法改正国民投票法案に若干の修正を加えたものである。
     ところが、この「法案骨子」には、国民主権や基本的人権の保障という憲法の 基本原則に抵触する重大な問題点が含まれている。
     
  2.  日本弁護士連合会は、2005年2月18日、「憲法改正国民投票法案に関する意見書」を公表したが、その中で、「法案骨子」の問題点について指摘した。
     この意見書も踏まえ、「法案骨子」の問題点を指摘すると、以下のとおりである。
    (1) 「法案骨子」では、憲法の複数の条項について改正案が発議された場合に、全部につき一括して投票しなければならないのか、あるいは条項ごとに個別に投票できるのかについて明らかにしていない。
     しかし、仮に一括投票をとった場合には、一部賛成、一部反対の意見を有する投票者にとっては、どのように投票すべきかの判断が困難となり、投票者の意思が投票結果に正確に反映されなくなり、国民主権の原則から重大な問題がある。従って、条項ごと又は問題点ごとに個別に賛否の意思を問う発議方法および投票方法がとられるべきである。
    (2) 「法案骨子」は、国民投票運動について、広範な制限禁止規定を定め、不明確な構成要件により刑罰を科すものとなっている。例えば、@公務員の運動の制限、A教育者の運動の制限、B外国人の運動の全面禁止、C国民投票の予想結果の公表の禁止、D新聞・雑誌の虚偽報道の禁止、E新聞・雑誌の不法利用の禁止、F放送事業者の虚偽報道の禁止等が定められ、これに違反したときは刑罰を科すとされている。
     しかし、国民投票にあたっては、何よりも、投票者に十分な情報が提供され、広く国民的議論がなされることが必要である。そのためには、表現の自由が最大限保障されるべきであり、国民投票運動は基本的に自由でなければならない。ところが、Dだけ取りあげても、新聞記事が虚偽かどうかを取り締まる側が逐一チェックできる仕組みを作り上げるものであり、報道に対する重大な制約となる。「法案骨子」の制限禁止規定は、国民投票運動に甚だしい萎縮効果をもたらし、表現の自由、報道の自由を著しく制限するものというべきである。
    (3) 国民投票の期日について、「法案骨子」では、国会の発議から30日以降90日以内の内閣が定める日とされている。
    しかし、発議から投票までの期間としては、国民が十分に議論をして問題点を認識し、改正をするか否かについて的確な判断をするために必要かつ十分な期間が確保されなければならない。この点から、「法案骨子」が定める期間は、あまりにも短く、不当である。
    (4) 「法案骨子」は、憲法改正に対する賛成投票の数が有効投票総数の2分の1を超えた場合に国民投票の承認があったものとする。また、国民投票が有効に成立するための投票率に関する規定を設けていない。
     しかし、国民投票は、国の最高法規たる憲法の改正という極めて重要な問題を国民に問うものであるから、すくなくとも改正に賛成する者が、全投票総数の過半数を超えたときに、改正についての国民の同意があったとされるべきである。また、投票率が一定の値に達しなかったときは、憲法を改正するかどうかについての国民の意思が十分に反映されたとはいえないのであるから、投票率に関する規定も設けられるべきである。
    (5) 「法案骨子」は、国民投票無効訴訟について定めているが、提訴期間を投票結果の告示の日から起算して30日以内とし、一審の管轄裁判所を東京高等裁判所とすると定めている。
     しかし、この提訴期間は憲法改正という極めて重要な事項に関するものとしては短かすぎるし、管轄の限定も国民の裁判を受ける権利を制限するものであって不当である。
     
  3.  札幌弁護士会は、2005年5月11日に、緊急シンポジウム「憲法改正国民投票法案と表現・報道の自由を考える」を開催し、「法案骨子」に関し、問題点を参加者に報告し、その後、作家、マスコミ関係者及び弁護士のパネリストにより、特に表現の自由、報道の自由という観点からの問題点につきパネルディスカッションを行い、市民とともにこの問題につき考える機会をもった。
     パネルディスカッションでは、国民投票は、主権者である国民の憲法のあり方に関する意思を決定する重要な制度であるから、国民投票運動の自由は最大限保障され、国民の間で憲法改正について自由な意見の交換がなされなければならないにもかかわらず、「法案骨子」は、国民が自由に意見を表明することを禁じ、マスコミに萎縮効果を及ぼして報道の自由を制約し、さらに、公務員、教育者、外国人の投票運動も禁ずることにより、「密告社会」、「監視社会」を到来させ、権力者のキャンペーンだけが大手を振って国民に浸透していくということになりかねないといった指摘がなされた。
     
  4.  もとより、憲法改正国民投票は、主権者である国民が、国の最高法規である憲法のあり方に関して意見を表明するものであり、国民の基本的な権利行使にかかわる国政上の重大な問題である。従って、あくまでも国民主権の原理に立脚したものでなければならず、国民の基本的人権を不当に制約するものであってはならないことは、いうまでもない。 
     ところが、「法案骨子」には、上述のような重大な問題点が存するのであり、かかる法案が国会に提出されることは、到底容認できない。
     よって、当連合会は、かかる憲法の基本原則に違反する憲法改正国民投票法案が国会に提出されることに強く反対するとともに、広く国民の間で、真に国民主権に根ざした憲法改正国民投票法のあり方について十分な議論がなされることを求めて、本決議案を提案するものである。

以 上

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