1. 防衛省は、本年4月10日、2020年1月から3月にかけて、米海兵隊の垂直離着陸輸送機オスプレイ(MV-22)が参加する日米共同訓練(「米軍再編に係る訓練移転(回転翼機及びティルト・ローター機等の沖縄県外への訓練移転)」。以下「今回の訓練」と言う。)を、北海道内の陸上自衛隊北部方面隊を中心に実施すると発表した。

オスプレイが参加する共同訓練は、北海道内では、2017年8月に初めて行われ、このときはオスプレイの整備拠点を米軍三沢基地(青森県)とし、北海道大演習場(北海道恵庭市、千歳市、北広島市、札幌市)と上富良野演習場(北海道富良野市、中富良野町、上富良野町)が使用された。

2018年9月に予定された2回目の共同訓練は、オスプレイ6機が参加し、整備拠点を陸上自衛隊帯広駐屯地の十勝飛行場にし、新たに矢臼別演習場(北海道別海町、厚岸町、浜中町)も訓練地に加える計画だったが、北海道胆振東部地震(9月6日)のため中止となった。

今回の訓練の概要は、本年12月12日、防衛省及び陸上幕僚監部より発表された。それによれば、2020年1月22日から2月8日までの期間、場所を「北海道大演習場と矢臼別演習場、帯広駐屯地及び航空自衛隊千歳基地」とし、米軍機の整備は、オスプレイは「航空自衛隊千歳基地」を、AH-1(Attack Helicopter 1 攻撃ヘリコプター1型)等は「帯広駐屯地」を使用予定とされている。

新聞報道によれば、国内での米海兵隊との共同訓練としては過去最大の約4100人が参加し、オスプレイが道内の自衛隊基地を拠点に飛来するのは初めてのこととされる。

2. 北海道には、もともと自衛隊基地・演習場が集中しており、日米安全保障条約第6条に基づく日米地位協定第2条4項(b)により、その多くが米軍との共用となっている。その数は、18施設・区域、344,573千㎡に及び、面積では全国980,402千㎡の35.1%を占め、沖縄県の米軍、自衛隊の33施設・区域、187,082千㎡(19.1%)を大きく上回っている(2019年3月時点)。沖縄県内の基地は、日米地位協定第2条4項(a)に基づく米軍専用基地が大半を占めるが、米軍が使用できる施設、区域という意味では、北海道が日本で最も多くを抱えている。

そして、北海道内の基地は、「広大な演習場が存在し・・訓練も目的や部隊規模に応じた各種訓練を行なうことが可能な恵まれた訓練環境を有している。自衛隊が島嶼部に対する攻撃をはじめとする各種事態に的確かつ迅速に対応するためには、・・北海道の恵まれた訓練環境をよりいっそう活用していくことが必要である」とされ(平成26年版防衛白書350頁)、2015年4月に合意した「日米防衛協力のための指針」や同年9月成立の安保関連法などにより、米軍と自衛隊の一体化、訓練強化が進められている。

3. ところで、オスプレイは開発段階から重大事故を繰り返している。国内では、2016年12月13日、普天間飛行場所属のオスプレイが沖縄県名護市安部の沿岸に墜落し、岩礁上で機体が大破した事故は記憶に新しく、海外でも、同年8月5日、在沖縄米海兵隊所属のオスプレイがオーストラリア東部沖に墜落して隊員3人が死亡する事故が発生し、これを受けてオスプレイの佐賀空港への配備が見送られた経緯がある。そして、2017年6月には普天間飛行場所属のオスプレイが伊江島補助飛行場と奄美空港に相次いで緊急着陸し、同年8月には岩国基地から普天間飛行場に向かう途中の同オスプレイがエンジントラブルにより機体から白煙と炎を上げ大分空港に緊急着陸、同年9月にはエンジンオイルの漏れにより同オスプレイ2機が相次いで新石垣空港に緊急着陸した。2018年2月9日には沖縄県うるま市伊計島で同オスプレイから落下したエンジンの空気取入れ口のカバーが見つかった。

米海軍安全センタ-が、2016年1月に公表した「海兵隊航空機に関する事故報告書」によれば、米海兵隊がアフガニスタンに配備しているオスプレイの2010~2012米会計年度のクラスA~Dの事故は、90.4時間に1件発生し、同国に配備された海兵隊の全航空機による事故の発生割合が3746.8時間に1件であることと比べて、約40倍と突出している。

また、米空軍が公表した2019年度会計年度統計によれば、米軍横田基地に配備されたオスプレイのクラスAの事故率(10万飛行時間当たりの発生件数)が2017年度4.05、2018年度5.84、2019年度6.22と上昇し続け、米空軍が使用する機材の中で最多である。クラスBの事故率も40.42で、2番目に多いB1戦略爆撃機の18.60と比べ突出している。

4. 以上のように、深刻な事故やトラブルが相次ぐオスプレイが、住宅街や保育園・幼稚園、学校,病院、福祉施設、公園、スポ-ツ施設などの公共的施設が近接する飛行場を補給拠点とし離発着することは、周辺住民の生命・身体・財産等を重大な危険にさらすことになる。

また、オスプレイは、もともと米軍特殊作戦部隊の輸送を主な任務としており、夜間・低空飛行訓練を行うことが想定されており、すでに普天間飛行場では日米で合意した運用ルールや騒音防止協定に違反した飛行訓練が多数発生し、社会問題となっている。

この点で、十勝飛行場には、1984年7月に、帯広市長が札幌防衛施設局長(当時)、陸上自衛隊北部方面総監と締結した「環境保全に関する協定書」(「三者協定」と言われる)があり、これに基づいて騒音対策など、帯広市民の安全性や生活環境に対する施策が実施されてきた経緯がある。

しかし、日本は米軍に対して、日米地位協定に基づく航空特例法等により訓練や演習を規制することができず、航空機事故が起きても調査権限を行使することもできない。このような下では、三者協定は米軍との関係では適用されず、周辺住民の生活により甚大な被害を生じさせることが懸念される。

5. 今回の訓練では、オスプレイの補給拠点として十勝飛行場が有力視されていたが、これは避けられ、航空自衛隊千歳基地が使用されることになった。しかし、航空自衛隊千歳基地は住宅地に隣接する空港であり、住民の安全性に対する重大な懸念は些かも変わらない。

それだけでなく、航空自衛隊千歳基地の東側にある誘導路で接続している新千歳空港は、わが国有数の輸送量をほこる国際空港(2018年の年間利用客数は2330万人で国内第5位、1日当たり着陸回数211回で同第6位)であり、北海道の産業、観光等の拠点であるが、航空自衛隊千歳基地とは一体運用され、航空自衛隊千歳管制隊が民間機の航空管制業務も行なっている。すなわち、実質的に、国内有数の巨大民間空港にオスプレイが乗り入れするに等しいのである。

従って、多数の民間航空機の離発着があることや、降雪・吹雪等の悪天候があることを考えると事故の危険性がいっそう増すとともに、もし事故が起きたならば、北海道の運輸・交通、産業、観光等に重大な被害を生ずることになる。

6. 以上のとおり、今回の訓練によりオスプレイの補給拠点とされた飛行場周辺の住民には、生命・身体・財産等に対する重大な侵害の危険が生じる。これは日本国憲法が保障する周辺住民の幸福追求権(13条)を侵害するとともに、平和のうちに生存する権利(憲法前文、9条、13条等)の精神にも反するものであり、安全性の確保されないオスプレイが運用されること自体、問題があるといわなければならない。

こうした懸念に対して、政府・防衛省は、訓練の概要を直前に発表するにとどまり、周辺自治体・住民に対する具体的な説明もなく、安全確保への対策も示されていない。このような状況で一方的にオスプレイを飛来させることは到底容認できない。

よって、当連合会は、政府・防衛省に対して、2020年1月22日からの道内自衛隊基地をオスプレイが使用する訓練に強く反対し、中止を求める。

2019年(令和元年)12月16日
北海道弁護士会連合会
理事長  八木 宏樹