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声明・宣言

裁判所関連予算の大幅増額と司法基盤の整備、支部機能の強化を求める理事長声明

  1. わが国の裁判所関連予算は、平成26年度予算では3,111億円で、一般会計予算の歳出総額95兆8,823億円のうちわずか0.32%にとどまっており、しかも、この割合は年々減少傾向にある。
     裁判所は国の三権の一翼を担い、様々な紛争を公正かつ適正に解決する機能とともに、社会正義を実現し、少数者・弱者の権利擁護の最後の砦としての役割を担う機関であるにもかかわらず、このように裁判所関連予算が低水準に抑制されていることによって、様々な問題が生じている。
  2. 第1に、裁判官をはじめとする裁判所職員が圧倒的に不足している。
    もともとわが国の裁判官数(簡裁判事を除く)は、平成25年で2,880名と、平成3年比で約900名増加したが、同じ期間に弁護士数が約1万4千名から約3万3千名まで増加したのに比べて微々たる増加にとどまっており、人口比で見れば欧米諸国と比べて3分の1を下回っている。このような傾向は道内の裁判所においても顕著であるのみならず、むしろ裁判官の数が減少した裁判所も少なからず存在する。
    これに対し、地方裁判所の民事第一審訴訟事件新受件数は、平成元年の約12万件に対し、平成21年には過払金返還請求訴訟の激増を背景に約26万件に達したが、その後は減少傾向に転じたものの、平成25年は約17万件と平成元年の件数に比べて増加している。さらに、家庭裁判所の家事事件新受件数は、平成元年の約34万件に対し平成21年は約80万件(人事訴訟や成年後見を含む)、その後も増加が続き平成25年は約92万件にも達している。
    また、複雑・高度化した社会を反映して、裁判所が取り扱う事件も知的財産や医療過誤、建築紛争等々専門化が進んでおり、司法制度改革の下で裁判員裁判や労働審判という国民参加の新しい制度も創設された。
    このため、1人当たりの裁判官にかかる負担は一向に軽減されず、証人尋問や鑑定、検証の実施率も平成3年以降顕著に低下し続けているなど、裁判官が充実した審理を行い当事者にとって説得的な判決を出す上での阻害要因になっていることがつとに指摘されている。
    さらに、特に家庭裁判所においては、新受件数の増加が続いているため調査官や書記官が多忙を極めており、調査官立会いのための期日に遅れが出る等の影響が生じている。
  3. 第2に、裁判官等の不足ともあいまって、裁判所支部等の機能が低下している。
    (1) すなわち、ただでさえ不足している裁判官等の裁判所職員を大規模庁に集中するため、全国の地方・家庭裁判所支部203か所のうち48か所、北海道内では支部16か所のうち実に10か所が、裁判官が常駐しない非常駐支部であり、さらに非常駐の家裁出張所も10か所ある。
    そして、道内の非常駐支部のうち半数は、月に2~3日の連続した日(家裁出張所では1~2か月に1日)にしか裁判官が来ないため、その日にあらゆる事件の期日が集中してしまい、十分な審理時間が確保できないことや、当事者間の都合が合わないとか冬期間の悪天候のために次回期日が何か月も先になってしまうことや、裁判官が証人尋問を中断して調停成立に立ち会わざるを得ないことも少なくない。刑事事件では、勾留決定等に対する準抗告申立書を、裁判官が合議を組める本庁まで持参しなければならないとか、身柄事件が本庁に起訴されるため弁護人は接見や記録謄写のため長距離移動を強いられ、近親者の接見や差し入れも困難になるといった弊害が生じている。
    こうした非常駐支部や家裁出張所の管轄地域は広大であり、かつ、JRやバス等の公共交通機関も限られているので、その住民が、裁判所の手続全般を利用できる地・家裁本庁まで出向くため100km、200kmもの長距離移動を余儀なくされると、特に冬期間においては裁判所の利用そのものを断念せざるを得ないこととなってしまう。
    さらには、ただでさえ不足している裁判官等の裁判所職員を大規模庁に集中させる運用がいっそう強化されることによって、このような裁判所支部等の機能低下がさらに進行することが危惧されている。
    こうした現状に対し、平成23年3月には、北海道議会で「北海道内のすべての裁判所に裁判官の常駐を求める意見書」が、道内10か所の非常駐支部全ての地元市・町議会で「裁判官を常駐させることを求める要望意見書」が採択されたのに続き、北海道議会では平成25年7月にも「司法制度改革推進計画が予定していた裁判官及び検察官の増員を行い、裁判官の非常駐支部の解消を確実に図ること」等を求める意見書が採択されたことは、非常駐支部の解消を求める道民の要望が強まっていることの証左にほかならない。
     (2) また、時代の要請に応えて創設された制度である裁判員裁判や労働審判が、ごく一部の大規模庁を除き、地方裁判所の支部では原則として実施されていない。
     とくに労働審判は、利用者にとって、地方でも頻発する労働紛争を迅速かつ適切に解決できる点では訴訟に比べても満足度が高い制度であり、中小企業の労使関係に労働法の規律が浸透する効果も高く、特に支部においてこそ、地域の労使紛争に関する知識と経験を有する労働審判員が大きな役割を発揮できる効果が期待できることが、東京大学社会科学研究所による利用者調査の結果によって明らかにされている。
     にもかかわらず、道内においては、例えば釧路地方裁判所の帯広支部と北見支部(管内人口はそれぞれ約35万人と約26万人)では労働審判が実施されていないため、これらの支部管内に住む労使の当事者が釧路地裁本庁(管内人口は約32万人)への長距離移動、特に冬期間は宿泊を伴う移動を強いられており、そのアクセスの悪さから労働審判の申立てを見送ったり、いったん申し立てた後も期日を重ねることを避けるため不本意な妥協を余儀なくされるといった事例が報告されている。
     帯広・北見の両支部管内では、労使双方の労働審判員の確保は十分に可能であり、かつ、労働審判を実施するために必要な予算もさほどの規模とは思われない。
     また、平成26年9月から12月にかけて、帯広支部管内の全市町村議会と、北見・網走支部管内のほとんどの市町村議会において、両支部での労働審判の実施を求める意見書が採択されるなど、両支部での労働審判の実施を求める機運が高まっている。
  4. こうした問題をこのまま放置することは、国民が憲法で保障された「裁判を受ける権利」(第32条)を実質的に侵害するものであって、事件数が少ないからという理由でこれが正当化されるものではない。
    司法制度改革審議会意見書(平成13年)が「当審議会としては、司法関連予算の拡充については、それを求める世論がすでに国民的に大きな高まりを持つに至っていることを確信しており、政府に対して、司法制度改革に関する施策を実施するために必要な財政上の措置について、特段の配慮をなされるよう求める」とうたってから14年も経過している。にもかかわらず、政府や最高裁がこれに応えようとしないことは、由々しき事態である。
  5. そこで、当連合会は、
    (1) 最高裁判所に対し、平成28年度予算から大幅な裁判所関連予算の増額を要求すること、並びに、地方・家庭裁判所の支部や家裁出張所の機能を強化し、できるだけ多くの地裁支部で労働審判を実施すること
    (2) 政府に対し、平成28年度予算から大幅な裁判所関連予算の増額を行うことを強く求めるものである。

2015年(平成27年)3月17日
北海道弁護士会連合会
理事長  中 村   隆

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