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声明・宣言

特定秘密の保護に関する法律の廃止を求める理事長声明

当連合会は、2012年7月20日の定期大会において、政府の秘密保全法案の制定に強く反対する決議を行い、また、国民的議論がなされないまま「特定秘密の保護に関する法律案」と名称を変え拙速に臨時国会に上程された同法案について、2013年11月9日、同法案の制定に断固反対する理事長声明を行った。しかし、国会は、同年11月26日に衆議院本会議で、その僅か10日後の12月6日に参議院本会議で採決を強行し、これを成立させた。同法は、同月13日に公布され、1年以内に施行されることになっている。
本法は、当連合会がこれまで指摘してきたように、以下のとおり、憲法上看過できない重大な問題を内包している。
第一に、国民の知る権利を侵害し、ひいては国民主権原理を蔑ろにする点である。
国民の知る権利は、国民主権を実現するためには必要不可欠である。そして、そのためには、情報公開が十全に行われることが必要である。ところが、本法は、特定秘密の範囲を広範かつ不明確にしたまま制定され、その結果、行政機関の長の恣意的な判断によって違法秘密、疑似秘密も「特定秘密」に拡大指定され、本来公開されるべき情報が、統制・隠蔽される余地を残した。また、その秘密指定の有効期間も最長30年間という原則に大幅な例外を加え、秘密指定の半永久化を許容した。
第二に、刑罰の広範化・重罰化による国民・メディアに対する萎縮効果と罪刑法定主義の根幹をなす原則に背馳する点である。
本法の処罰規定は、犯罪とされる行為を、既遂、未遂、過失行為ばかりか、共謀、独立教唆、扇動まで含めており、極めて広範に及んでいる。また、このように実害の発生しない段階においても犯罪として捕捉し処罰するものであるにも拘わらず、全体に法定刑は重罰となっている。処罰の対象も、公務員ではない国民やメディア関係者を除外していない。
このような処罰の範囲拡大化、重罰化は、国民を秘密から遠ざけるだけではなく、内部告発をも躊躇させる萎縮効果を生み出し、国民による国政の監視・統制を麻痺させ、ひいては国民主権の原理を空洞化させることになる。
また、何が特定秘密に指定されているかは一般市民には知らされないため、どのような行為がどの時点で犯罪になるのか予測が困難である。本法は、別表で何が特定秘密に指定されうるかを一応示してはいるものの、極めて曖昧であり、多分に拡大指定の余地を残している。このような処罰規定のあり方は、罪刑法定主義の根幹をなす明確性や内容の適正の原則に背馳している。
さらに、このような秘密指定の対象の曖昧さは、捜査機関による国民やメディアへの恣意的で不当な介入(逮捕・捜索・押収)を容易にする危険性を孕む。たとえ処罰によらずとも、捜査自体が事実上の制裁効果を有することは否定できないのであって、メディアの取材・報道の自由はもとより、国民の表現の自由、集会・結社の自由、学問の自由など憲法上の権利に対する萎縮効果は極めて大きい。
第三に、国民のプライバシー、思想・良心の自由を侵害する危険を有する点である。
特定秘密取扱者を選別する適性評価制度は、単なる人定事項に止まらず、特定有害活動及びテロリズムとの関係、犯罪・懲戒歴、薬物の乱用又は影響に関する事項、精神疾患に関する事項、飲酒についての節度に関する事項、信用状態等といった機微にわたるプライバシー情報を調査するものである。これらの調査では、行政機関の恣意的判断によって、個人の政治活動や組合活動、更に、思想・信条にまで踏み込んだ調査がなされる危険を孕んでいる。しかも、適性評価の対象は取扱者本人にとどまらず、その家族などにも及ぶのであって、人的範囲としても広範な権利侵害を招く危険がある。
第四に、被疑者・被告人の防御権及び裁判を受ける権利を侵害する危険を有する点である。
本法違反被告事件について、政府答弁は、特定秘密の内容を明らかにしない「外形立証」をもって実質秘性を立証するという。しかし、これが認められるとすれば事実上挙証責任が被告人に転換されることになりかねず、無罪推定原則は形骸化してしまうから、そもそもこのような立証活動では有罪にはできないはずである。万一このような立証で足りるとされる場合、被告人側において実質秘性の反証を行うことになるが、特定秘密の内容を知らない被告人がなしうるのは外形的事実に関する反証に限定されてしまうので、防御権の行使は著しく制約されてしまう。さらに、本法は、公判前整理手続における証拠提示命令による特定秘密の提供を規定しているが(第10条1項1号ロ)、行政機関の長が「我が国の安全保障に著しい支障を及ぼすおそれ」を理由に提示を拒否できる。そのため、刑事訴訟において、「特定秘密」の内容が明らかにされないまま、有罪とされてしまうおそれも否定できず、被告人の防御権及び裁判を受ける権利(憲法第31条、32条、37条、82条)を侵害しかねない。
第五に、国会の最高機関性を規定する憲法第41条以下の規定や国会法との関係で重大な問題を有する点である。
行政機関の長は、国会の秘密会、両院委員会の秘密会、参議院調査会の秘密会において、「わが国の安全保障に著しい支障を及ぼすおそれ」が無いと認めたときに限り、特定秘密を提供することができるとしている。これでは、議院の国政調査権(憲法第62条)や議員の質問権(国会法第74~76条)を制約する。更に、国会議員が秘密会で知得した「特定秘密」に関する情報を政党に持ち帰って検討する余地もないし、処罰の対象にもなる。これでは、国会が行政をコントロールする議院内閣制の仕組みや、国会の最高機関性、その他憲法や国会法で与えられた国会議員の権能が否定されることになり、特定秘密を握った行政機関の暴走を国会は止めることができなくなる。

結語
よって、当連合会は、多くの憲法上の基本原理に対する重大な侵害を含む特定秘密保護法を廃止することを強く求める。

2014(平成26)年3月15日
北海道弁護士会連合会
理事長 長田 正寛

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