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声明・宣言

特定秘密の保護に関する法律の制定に反対する理事長声明

  1. はじめに
    2011年8月8日、「秘密保全のための法制の在り方に関する有識者会議」が「秘密保全のための法制の在り方について(報告書)」(以下「報告書」という。)を発表した。政府は、この報告書に沿った秘密保全法案を国会に提出する方針を固めた。
    当連合会は、報告書が提言している内容が、多くの憲法上の諸権利・原理に対する重大な侵害を含むものであることから、2012年7月20日に開催した定期弁護士大会において、かかる秘密保全法の制定に強く反対する決議を行った。
    しかし、政府は、2013年10月25日、その名称を「特定秘密保護法(案)」として閣議決定して同法案を本臨時国会に提出し、11月7日衆議院本会議で審議入りさせた。
    政府が法案の提出に先立って実施したパブリックコメントでは、わずか2週間の間に9万件を超える意見が寄せられ、その約77%が法案に反対した。また共同通信社が閣議決定後に行った世論調査においても、その過半数が法案に反対し、80%が法案の慎重審議を求めるものであった。このように、本法案提出は国民的議論がなされないままの拙速なものであって、暴挙そのものと言わざるを得ず、極めて遺憾である。
    本法案には、枚挙にいとまがないほど問題を孕んでいる。以下に、重要な問題点に限って指摘する。
  2. 本法案の問題点
    (1) 本法案は、「特定秘密」を「その漏えいが我が国の安全保障に著しい支障を与えるおそれがあるため、特に秘匿をすることが必要であるもの」と定義し、行政機関の長が、①防衛に関する事項、②外交に関する事項、③特定有害活動の防止に関する事項、④テロリズムの防止に関する事項の4分野で「特定秘密」を指定することとし、これを漏えいした者等に刑罰を科すものである。
    しかし、「特定秘密」の範囲は広範、かつ不明確であり、行政機関の長の恣意的な判断によっては違法秘密、疑似秘密が「特定秘密」に指定され、本来公開されるべき情報が統制・隠蔽されるおそれが極めて大きい。因みに、2002年の改正自衛隊法が定めた「防衛秘密」は2007年から2011年に約5万5000件が指定されたが、公文書管理法の適用外とされているため(公文書管理法第3条)保存期間を過ぎても国立公文書館に移管された文書は存在せず、また、秘密指定が解除されたのは一件のみでそれも廃棄されている。防衛省以外の官庁の「特別管理秘密」は、2012年は総数で約42万件とされている。この特別管理秘密がそのまま特定秘密に移行する可能性が高い。そして、指定された「特定秘密」は防衛秘密と同様、公文書管理法の適用外とされるため文書が闇に葬られてしまう危険が極めて大きい。
    (2) いったん「特定秘密」に指定されると、5年間の秘密指定の有効期間が経過しても、更新を繰り返して指定を延長することができるため、指定が恒久化されてしまう危険がある。政府は、秘密指定を原則30年と答弁しているが、それはあくまで原則に過ぎず、例外を認める以上は秘密指定期間の実効性は無いに等しい。 (3) 本法案は、故意又は過失による漏えい行為のほか、漏えい行為の未遂や共謀、独立教唆及び扇動、並びに「特定秘密」の取得行為とその共謀、教唆、扇動までを処罰する点において処罰範囲が極めて広範である。戦前の治安維持法下と同様な言論統制社会を招くことや、監視社会の横行が危惧される。刑罰の有する萎縮効果からすれば、報道・取材の自由、ひいては国民の知る権利を侵害する現実的危険が容易に想起されるのである。
    本法案第21条は「国民の知る権利の保障に資する報道又は取材の自由に十分配慮しなければならない」と規定するが、これは単なる抽象的な訓示規定に過ぎず、これにより報道又は取材の自由が担保される保証は何もない。
    また同条2項で「出版又は報道の業務に従事する者の取材行為については、専ら公益を図る目的を有し、かつ、法令違反又は著しく不当な方法によるものと認められない限りはこれを正当な業務による行為とする」と規定したが、「専ら公益を図る目的」の有無は捜査機関側が判断することであって、いかようにも解釈が可能である。しかも「著しく不当な方法」は抽象的、かつ不明確な文言であって、どのような行為が「著しく不当な方法」と評価されるのか、事前に予測することは困難である。すなわち、恣意的な解釈、運用によって取材行為が捜査対象となることに変わりはないのである。このように「正当業務」に該当するか否かの予測可能性が担保できないものである以上、そのことだけで取材行為に対する萎縮効果は計り知れないものとなる。更に、「出版又は報道の業務に従事」しない一般市民や市民運動家等には適用されないのであるから、不合理な差別となっている。
    (4) 本法案は、適正評価を経た者に「特定秘密」の取扱をさせることとしている。対象者は、特定秘密を作成・取得する業務、あるいはその作成・取得の趣旨に従い特定秘密の伝達を受ける業務に従事する者等であり、行政機関職員のみならず独立行政法人、地方自治体、民間事業者・大学に勤務する者も含まれる。これらの対象者の適正を評価するための調査は、単なる人定事項に止まらず、学歴・職歴、外国への渡航歴、犯罪歴、我が国の利益を害する活動(暴力的な政府転覆活動、外国情報機関による情報収集活動、テロリズム等)の関与、懲戒処分歴、信用情報、薬物・アルコールの影響、精神の問題に係る通院歴、秘密情報の取り扱いに係る非違歴等、広範に及んでいる。これら調査では、行政機関の恣意的判断によって、個人の政治活動や組合活動、更に思想・信条にまで踏み込んだ調査がなされる危険を孕んでいる。 (5) 本法案は、国会の最高機関性を規定する憲法第41条以下の規定や国会法との関係で重大問題を有している。
    行政機関の長は、国会の秘密会、両院委員会の秘密会、参議院調査会の秘密会において、「我が国の安全保障に著しい支障を及ぼすおそれが無いと認めたときに限り」特定秘密を提供することができるとしている(第10条)。そして、当該特定秘密を利用し、又は知る者の範囲を制限することができるとする。つまり、秘密会にすることが特定秘密を国会に提供するための条件の一つとされるため、秘密会以外には特定秘密を使わせないということになっている。従って、秘密会に参加した国会議員は、特定秘密を政党に持ち帰って検討する余地が無いに等しいことになる。また、行政機関の長の判断ひとつで当該特定秘密を国会に提供しないことも可能であり、これは国会が行政をコントロールする議院内閣制の仕組みや、国会の最高機関性、その他憲法や国会法で与えられた国会議員の権能が否定されることになり、特定秘密を握った行政機関の暴走を国会は止めることができなくなる。まさに国会議員の権限や国会の地位を行政機関より下位に置くことになってしまうのであり、三権分立を崩壊させかねない。
  3. 結語
    政府は、今国会に国家安全保障会議(日本版NSC)設置法等の改正案を提出した。この法案は、既存の安全保障会議のなかに、外交・防衛・安全保障に関する基本方針と重要事項を審議する4大臣会合を新たに設置して司令塔とするとともに、内閣官房に国家安全保障局を設置して各省庁の情報を集中させ、平時から有事までの重要な外交・軍事の政策を官邸主導で決定しようとするものである。改正後の国家安全保障会議の目的は、特定秘密保護法案の成立を前提とし、国家安全保障を国の最優先事項と位置付け、国民に国家安全保障政策に協力すべき責務を課して国民を総動員することを企図する国家安全保障基本法案の成立を図り、もって集団的自衛権等の行使を容認することに他ならないのである。拙速な秘密保護法案提出の背景を踏まえるならば、この法案の有する危険性は明かであろう。

    よって、当連合会は、多くの憲法上の基本原理に対する重大な侵害を含む特定秘密保護法の制定には断固反対する。

2013(平成25)年11月19日
北海道弁護士会連合会
理事長 長田 正寛

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