ホーム >> 声明・宣言 >> サンルダムの建設継続方針に対する理事長声明

声明・宣言

サンルダムの建設継続方針に対する理事長声明

平成24年11月12日、国土交通省は、天塩川水系サンルダムの建設継続を最終決定した。これは、同年9月25日に北海道開発局が建設継続の方針を決定して国土交通省に報告し、国土交通省の「今後の治水のあり方に関する有識者会議」が同年10月29日に建設継続の方針を了承したことを受けたものである。

もとより、治水事業が目的とする人命や財産の被害防止が重要であることは言うまでもない。しかし、国や、地方公共団体である北海道ともに、その財政が極めて厳しい現状において、治水事業をはじめとする公共事業への多額の支出は、あらゆる意見を集約し公正な議論を経たうえで、必要性や合理性が認められ、国民や道民が納得できる説明がなされなければ、行うべきではない。

この点、サンルダムの建設費用は約528億円(うち約301億円は平成24年度末までに執行見込み)とされているが、このうち約80億円は北海道の負担であり、我々北海道民一人一人の税金が費やされることになる。また、サンル川は、天塩川水系の名寄川の支流であるが、天塩川河口からサンル川の上流までの約200キロもの距離を毎年1000~3000尾ものサクラマスが遡上して自然産卵をするなど、海と山を結ぶ極めて貴重な生態系が残されている。このような多額の建設費負担や道民の財産とも言うべき貴重な生態系の保全の重要性に鑑みれば、サンルダム建設については、北海道民が十分納得できる必要性や合理性が認められなければならないところ、サンルダム建設計画には、かねてより、治水や利水の目標設定の不合理性や、当該目標に対するサンルダムの有効性・合理性、さらにサクラマスなど河川生態系への重大な悪影響など、様々な問題点が指摘されている。ましてや、北海道開発局が平成10年に行った地域住民へのアンケート調査では、「洪水対策として具体的に進めて欲しいこと」との質問に対して「ダム建設を進めて欲しい」とする回答が7%しかなく、地域住民が総意として建設を希望していると考えるには大きな疑問がある。

また、手続的にも、サンルダム建設計画の策定は環境影響評価法の施行前であったことから、同法による環境影響評価ではなく、昭和59年の閣議決定によるアセスしか行われていない。そのため、環境影響評価法所定の方法書の作成(事前手続)すらなされておらず、また求環境庁長官意見もなされなかったために同長官意見も提出されていない等、環境影響評価面においても十分な手続とはなっていない。また、サンルダム建設計画の実施に至るまでには、河川法に基づく流域委員会が発足したほか、平成22年度の事業凍結後には関係地方公共団体からなる検討の場が設けられた。しかし、流域委員会については、その人選は実施主体である開発局が行い、その結果として開発局出身の学者が委員に就任するなど公平とは言い難い人員構成となっていた。さらに、検討の場では、そもそも建設推進の立場の自治体首長らが構成員となっていたため、推進以外の意見は出ることはなかった模様であり、その後に開催された「今後の治水のあり方に関する有識者会議」に至っては、短時間の1回での議論で結論が出された模様である。このように、サンルダム計画に付随する意思決定手続については、必ずしも十分に公正な議論の場が提供されたとは言えない。

加えて、サンルダム建設に当たっては、近年問題となっている、ダムの決壊や大雨時の緊急放流などで、かえって下流の町村集落などに水害を引き起こすいわゆる「陸の津波」を生むおそれが指摘されているところである。

このように、サンルダム計画については、大小様々な問題点や疑問点が指摘されているが、これらを具体的に指摘した個人や団体からの質問やパブリックコメントについては、開発局からも国からも、未だ十分な回答がなされているとは言い難い。ダム建設計画は、改正河川法や住民参加の観点からも慎重にその是非を判断すべきであり、推進・反対両立場からの公正かつ十分な議論を経なければならず、計画に疑問を呈する意見にも真摯に対応し、これに答えられるものでなければならない。

公共事業に対しては最近でも、自治体が国の補助を受けて整備した下水道施設のうち約80施設(建設費約450億円)が、人口増加の見込みが外れて使われておらず無駄になっているという会計検査院の指摘や、漏水のため当初計画のわずか4%の貯水量しか得られないにもかかわらず、総事業費は当初予定の約2倍である395億円に膨らみ、なおも建設が続行されようとしている富良野市の東郷ダムの事例のように、計画の前提となる数値の妥当性や計画自体の合理性が疑われる例が散見される。このような、建設そのものが目的だったと思われてもおかしくない計画に、貴重な税金が大量に投入されていることをあらためて自覚する必要がある。サンルダム計画についても、適正な手続の中において、いま一度あらゆる角度から計画を厳しく吟味しなければならないものであり、疑問に十分答えられていない中での国土交通省の建設再開の決定は誠に遺憾である。

サンル川は、河川工作物が殆どなく山と海とを結ぶ健全な原生自然を残す貴重な河川であり、このような自然を生かし後世に受け継ぐことこそが現世代の我々の使命である。したがって、当連合会は、この度のサンルダム建設計画続行についての国土交通大臣の決定に懸念を表明するとともに、この問題についてはあらためて十分かつ公正な議論を行う場を設定し、いま一度道民が納得できる天塩川水系治水計画を検討し直すよう求める。

2013年(平成25年)1月26日

北海道弁護士会連合会
理事長 山﨑 博

このページのトップへ