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声明・宣言

東日本大震災における復興計画実行に関する要望書
―北海道南西沖地震被災地である奥尻島青苗現地調査を踏まえて―

2011年12月19日
北海道弁護士会連合会

第1 はじめに
今回の東日本大震災による甚大な被害に対して,国の東日本大震災復興対策本部は,2011年7月29日「東日本大震災からの復興基本方針」を発表した。国交省は,同方針に基づいて,現在国主導のもと,基礎自治体ごとの復興計画の策定に着手している。すべての被災者が,安全で安心な生活基盤の回復を早期に図るために,被災地住民の意向を反映した,復興まちづくりの策定とその実施が早期に求められている。
しかしながら現在の復興計画の進め方には,問題点が少なくない。特に,被災地住民の意向を確認する方策が極めて拙速で,不十分である。
当連合会は,2011年7月31日から8月1日にかけて,奥尻町を視察するとともに,復興にかかわってきた奥尻町職員や当時の被災地住民から聴き取り調査を行った。
その聴き取り調査を踏まえ,当連合会は,奥尻町の経験を生かし,今回の東日本大震災における復興まちづくり計画において,国及び被災地域の各自治体に対し,できる限り被災地住民の意向を尊重した手続を進めるために,以下の点を強く要望する。

第2 要望の趣旨

  1. 被災地域自治体は,今回の東日本大震災における復興まちづくり計画の実行において,被災地住民の意向を十分に尊重した手続を進めるべきである。
    具体的には,①被災地住民の復興に対する要望・期待についてきめ細かく調査を行うこと,②被災地住民に対して,復興プラン等の情報をできる限り早く正確に提供すること,③そのうえで被災地住民に対して繰り返し内容のある説明会を実施すること,を強く求める。
  2. 国は,被災地域自治体が進める復興計画に関する被災地住民のニーズ調査から復興計画の決定及び実施までの全過程において,できる限りその費用を負担すべきである。
    とくに,被災地域自治体が行う土地区画整理事業,防災集団移転促進事業,地区改良事業等の復興事業の費用は,国が全額負担すべきである。
  3. さらに,国及び関係自治体は,このような復興手続を進めるにおいて,弁護士が震災直後から被災者に寄り添って相談を受けるとともに,正確な情報を提供し,さらに被災者の要望に応える立法・政策提言を行ってきた役割を十分踏まえ,社会的資源として活用していくべきである。

第3 要望の理由

  1. 要望の趣旨1について (1) 今回の東日本大震災による被害は,死者・行方不明者あわせて約2万人であり,津波による浸水地域は535平方キロメートルにも及んでいる。そして,被災者の多くは,いまだ応急仮設住宅等での生活を余儀なくされている。
    このような避難生活を早期に解消して,安心で安全な,生活基盤の回復を早期に図るために,被災地住民の意向を反映した,復興まちづくりの策定とその実施が,早期に求められている。
    国の東日本大震災復興対策本部は,2011年7月29日,「東日本大震災からの復興基本方針」を発表した。国土交通省は,同方針に基づいて,現在国主導のもと,基礎自治体ごとの復興計画の策定に着手している。
    (2) しかしながら,このような形で進められている復興計画の進め方には,問題点が少なくない。
    特に,被災地住民の意向を確認する方策について,十分検討されているとは言い難い。現在国は,基礎自治体独自では復興計画の策定ができないとの前提にたって復興計画の策定に着手している。国は,今回の復興を契機として,日本経済全体の活性化・発展を意図しているように見えるものの,被災地住民の意向を丁寧に聴取したり,被災地住民の様々なニーズに十分な配慮をする対応が,適切になされていないように思われる。とりわけ,様々な許認可制を届け出制にする等の大幅な規制緩和をともなう「東日本復興特区」制度については,被災地住民の利益を害する危険性も指摘されている。
    何よりも問題と思われるのは,被災地住民の意向を確認する方策として,現状でとられている住民説明会やアンケートの実施は,被災地住民がいまなお住居や収入の確保等目前の課題に対応することに精一杯であることや,専門的知識を持たないことに対する配慮が不十分なままの開催回数や内容にとどまっていることである。被災地自治体では,復興会議や市民委員会からの意見聴取も行っているが,そこにも弁護士は含まれていないことも含めて住民の意思を十分反映しているとは言えない。さらに被災地住民の中には,他の地域に避難している者がなお多く,地域全体としての意思形成も極めて困難である点ことを考えると,これらが住民間の意見交換や合意の形成の内実を備えているとは言い難い。
    このままでは,到底復興計画について,被災地住民の意思が十分尊重されないことが懸念される。
    (3) 当連合会は,1993年7月12日に発生した北海道南西沖地震によって甚大な被害を被った,北海道奥尻町青苗地区での復興計画における住民の意見や意思の集約,反映の仕方を,今回の東日本大震災での復興計画において大いに参考にすべきであると考える。
    当連合会は,2011年7月31日から8月1日にかけて,奥尻町を視察するとともに,復興にかかわってきた奥尻町職員や当時の被災地住民から聴き取り調査を行った。
    調査によると,当時北海道は,震災から約2ヶ月半後の段階で,奥尻町に対し,「青苗地区の土地利用構想案」を提示した。この構想では,青苗地区(住民1401名)の「全戸移転案」と,「一部高台移転案」(一部原地盤のかさ上げ)の2つの案が示された。
    被災地住民の意見は,当初怖い経験をしたから絶対に高台に住むという意見,住み慣れた低地部に住みたいという意見など様々なものがあり,必ずしも一致していなかった。
    そこで,奥尻町は,住民説明会等により被災地住民の合意形成をはかったが,そこでは以下のような点において,住民の意向を最大限尊重するように心がけていた。 ① 住民説明会を,1か月あたり2回程度のペースで,数回にわたり継続して行った。その規模は,最初は200人単位,次に30人単位,そして個別訪問と個別対話という手法を取り入れた。 ② 説明会の際には,あえて多数決を採用しなかった。 ③ 復興プランや義捐金の処理,土地の売買価格の検討等に関する情報については,できるかぎり早く正確に提供した。 他方,住民側からのまちづくりに関わる活動としては,被災から3か月後に「奥尻の復興を考える会」(結成当初105世帯,約200人)が結成された。この「奥尻の復興を考える会」は,まちづくりについての勉強会の開催,復興計画についての住民アンケートなどを行い,これらを通じて得られた住民の要望を行政に伝える活動を行った。
    青苗地区の復興については,当初は,全戸移転案が多数派であった。
    しかし,説明会を重ねる過程で,漁業従事者からは,海が見える土地が望ましいとの意見が出てきた。また,高齢者からも,住み慣れた地域に居住したいとの希望が出された。これらの意見を受けて,平成7年11月下旬に開催された「奥尻の復興を考える会」の総会においても,一部高台移転案が採用された。
    このような経過を踏まえて,奥尻町は,全戸移転について被災住民全員の合意を得ることは困難だと判断し,最終的には,一部高台移転と,防潮堤を設置した上でのかさ上げによる原地盤上の2箇所におけるまちづくり計画を実施することとなった。
    その結果,奥尻島全体としては,まちづくり復興計画に対して不満を持つ被災地住民はほとんどいなかった。また震災被害を原因とする人口流出現象もみられなかった。
    (4) 当連合会は,以上のような奥尻町の経験を踏まえ,今回の東日本大震災における復興まちづくり計画において,国及び被災地自治体に対して,できる限り被災地住民の意向を尊重した手続を進めることを強く要望する。具体的には,以下の通りである。 ① 被災地住民の復興に対する要望・期待について,被災者の現状を十分把握したうえで,コミュニティの形成等に十分配慮して意見聴取会やアンケート調査などをきめ細かく行うこと。 ② 被災地住民に対して,復興プラン等の情報を,プラン確定後にとどまらず計画予定の段階からできる限り早く正確に提供すること。 ③ そのうえで被災地住民に対して繰り返し内容のある説明会を実施し,住民の意見交換の場を確保しつつ,地域住民としての合意形成を心がけること。

2 要望の趣旨2について
奥尻町における復興に際しては,北海道から2年間の任期付き職員が派遣され,復興の最前線に立った。また,当時の北海道開発局や各省庁及びその外郭団体が,積極的に支援し,対応してきた。そして,それらの支援事業を支えてきたのは,多額の義捐金の存在であった。これによって災害復興基金も設置された。それでも奥尻町における事業費の負担は極めて大きく,震災後15年あまり,その負担が町財政にとって重荷となっていた。
これに対して今回の東日本大震災の被災地は,奥尻町とは比較にならないほど広範囲であり,そのために,各自治体において活用できる義捐金の額も限られている。このような状況下においては,様々な視点での国の支援が重要かつ不可欠である。
被災地自治体における復興事業の方式としては,土地区画整理事業,防災集団移転促進事業及び地区改良事業が予定されている。当該事業は,いずれも法律又は政令によって(土地区画整理法,防災のための集団移転促進事業に係る国の財政上の特別措置に関する法律,同施行規則,住宅地区改良法及び同施行令),国の費用負担は2分の1から4分の3とされ,その余の費用負担は自治体に委ねられている。しかし,このような負担は,奥尻町のように多額の義捐金を有しない被災地自治体にとっては,自治体の存続自体を揺るがしかねないほど極めて重い負担となる。これらについては,国が全額負担することで,はじめて被災地自治体の復興ができるものである。

3 要望の趣旨3について

(1) 国及び被災地自治体は,このような手続を進めるにおいて,弁護士の役割を十分理解し,それを活用すべきである。なぜなら我々弁護士は,震災直後から被災者に寄り添って相談を受けるとともに,正確な情報を提供し,さらに被災者の要望に応える立法・政策提言を行ってきた。このような弁護士の役割を,まちづくり復興計画に活用するべきである。
実際に日本弁護士連合会は,東日本大震災の被災者支援のため,地震発生当日に,東日本大震災・原子力事故等対策本部を設置し,各弁護士会等と連携しながら,法律相談等の様々な取り組みを行ってきている。道弁連においても,岩手県弁護士会の要請を受け,4月11日から7月末日までの間,三陸沿岸地域での避難所巡回相談にのべ433名という規模で支援に入った。それ以外にも各弁護士会において,無料電話法律相談や被災地からの避難者に対する支援活動を今もなお継続している。
(2) 弁護士は,阪神・淡路大震災における復興においても,建築士,土地家屋調査士等の他の専門家職種と連携して,①擁壁損壊近隣地区の共同復興,②マンション再建又は復旧,③倒壊市場の共同再建,④組合施行土地区画整理事業及び地区内街区共同再建事業,⑤広域被災地における細街路整備,境界画定におけるまちづくり等々の様々な復興支援活動を行った実績がある。
この実績と経験を踏まえると,弁護士には,今回の復興支援においても,具体的には,以下のような役割が期待できる。 ① 課題への相談,アドバイス
まちづくりにおいては私権の調整の問題が発生する。実際奥尻の場合にも,所有者が所在不明で,相続財産管理人の選任,失踪宣告,不在者財産管理人の選任等の手続が必要となった。それ以外にも境界確定や土地の合筆分筆,共同住宅建築等,課題が発生する。これに対して弁護士は,建築士等の専門家と連携しながら,相談に応じたり,有効なアドバイスをすることができる。
② 住民の合意形成に対する役割
弁護士は,都市計画,土地区画整理事業,防災集団移転促進事業,地区改良事業等の制度,さらには行政の復興計画についても,被災地住民にわかりやすい言葉で説明することができる。
また行政からの情報や資料は,弁護士が訪問してヒヤリングすることによって,より容易で正確に取得することが可能となる。
そして弁護士は,行政の意向を住民に伝え,逆に住民の意向を背景事情等とともに,行政に対してわかりやすく説明することができる。
このように,被災地住民の意向を尊重しつつ,被災地住民の適切な合意形成を促す上で,弁護士は重要な役割を果たしうる。
(3) このように弁護士は,まちづくり計画の専門家ではないが,被災地住民のもっとも身近で彼らの要望を受け止めてきた専門家である。真に被災地住民の自己決定権を確保するためには,被災地住民に寄り添った弁護士の声を,まちづくり計画に生かしていく必要性が大である。

4 まとめ
道弁連は,道内4単位会とともに,これまで以上に,被災者の視点に立って,東日本大震災の被災地・被災者の復興のために,全力を尽くす所存である。

以上

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