公聴会の内容
(1) 第1部(裁判員制度)
開会の挨拶の後、中山弁護士から裁判員制度の内容や問題点、現在の議論状況に関する説明、司法を考える市民の会代表の佐藤氏から同会での裁判員制度に関する検討状況等に関する発表があり、続いて公述人からの意見発表がありました。
公述人の顔触れは、非常にバラエティに富んだもので(高校生、大学生、会社員、弁理士、銀行員、牧師等)、それぞれの社会的経験等を踏まえた多様な意見の表明がありました。
裁判員・裁判官の数、被告人の選択権の可否といったポイントとなる論点に加え、裁判の現状を批判する声が多く上がりました。
休憩後、中山博之弁護士と中村憲昭弁護士によるディスカッションがありました。中村弁護士が会場からの質問票をもとに中山弁護士に制度の概要や問題点等を尋ねるという内容で、若い弁護士(中村弁護士)が裁判員制度のスペシャリスト(中山弁護士)に素朴な質問をぶつけることで、参加者にわかりやすく裁判員制度について説明しようと考えたものですが、この狙いはズバリ当たり参加者にも大変好評でした。
公述人の方の各意見内容(要旨)は以下のとおりです。
・江波友一(えなみゆういち) 高校生
「市民の善悪の判断を信頼せよ」
私は高校で授業の一環として行われた模擬裁判劇で陪審員として参加してから、裁判員制度に興味を持った。
現行の裁判制度は、「合理的疑い」など、市民が聞いても分からない専門用語が多い。私たち市民にも、物事の善悪を判断する能力がある。市民が主体的に裁判に関わっていくことによって、もっとわかりやすい裁判をめざすべきだ。
いま議論されている裁判員制度で問題なのは、職業裁判官の意見に全体が流されやすい、ということである。私も模擬裁判で自分の意見を述べたが、結局陪審員として参加していた教師の意見に押し切られてしまい、悔しい思いをした。同じことが裁判員制度でも起こることを懸念する。
・笠井佐知子(かさいさちこ) 大学生
「国民に対して適切な情報公開を」
今の議論で一番気になるのは、裁判員制度導入の大前提である「国民への情報提供」がなされていないことである。国民が裁判員制度をもっとよく知らなければ、関心を持てず、ある日いきなり裁判員として選任されても責任を伴う判断ができるはずがない。そもそも現在の選挙のように、選ばれた裁判員が参加しない危険性すらある。
中学・高校からの一貫した「法教育」が不可欠であるが、審議会ではこの点はほとんど議論されていない。もっと市民レベルで「法教育」に関して議論をしていく必要がある。
・滝田清輝(たきたせいき) 弁理士
「市民参加型社会の第一歩として、裁判員制度を育ててゆこう」
市民が直接決定を下さなければならない重要な社会問題が増えている。従来の官主導型社会から真の市民参加型社会への転換が必要である。裁判員制度は、まさに市民参加型司法制度の先駆けであり、形骸化することのないよう慎重な制度設計が求められる。
具体的には自白調書の非証拠化、公判証拠中心主義はいうまでもなく、裁判員の選定に関しても、定員の数倍の裁判員を無作為抽出した上で、弁護人・検察官が半数ずつ選定する制度にすべきである。裁判員の数は少なくとも裁判官の3倍以上、全体で6名以上とし、評決はあくまで裁判員のみで行い、裁判官は推定無罪の原則を崩さないように最終判断するにとどめるべきである。
・忠海久(ちゅうかいひさし) 司法を考える市民の会
「小さな事件にも市民社会の価値観を反映させよう」
私は以前交通事故の被害に遭い、自分で調停・裁判を行ったが、担当裁判官の事実認定・証拠選択がきわめて非常識で、落胆したことがある。この時は控訴審で自分の主張が認められたのでよかったが、そうでなければ泣き寝入りであった。
「困った裁判官」が現在でも多数存在するというのは、個人の資質というより、官僚システム自体の問題であって、マスメディアに報道されない小さな事件についても、市民の監視を徹底する必要がある。とすれば、裁判員制度の対象を重大事件に限定するのは疑問である。小さな事件にこそ市民の価値観が反映されるべきである。
・千相鉉(ちょんさんひょん) 牧師
「定住外国人にも司法参加の機会を」
日本も、定住外国人の増加に伴い、さらなる国際化の必要がある。しかし、現状では、出入国管理・難民認定法を初め、外国人は管理・監視の対象としか見られていない。外国人が犯罪を犯したとき、日本では本当に公平な裁判をしてくれるのか疑問を感じる。
現行の裁判員制度の問題点は、選挙人名簿に登載されていない定住外国人は、裁判員に選ばれる権利も与えられていない、という点である。外国人が積極的に政治参加して人権を保障していく制度作りが望まれる。
・石塚慶如(いしづかやすゆき) 高校生
「弱者の視点に立った裁判を」
私は、国民の司法参加そのものには賛成する。なぜなら、現在の民事・行政事件を見ても、職業裁判官は国や大企業などの強者に追随しがちであり、市民参加によってこうした現状を改善すべきだからである。
しかし、今回の裁判員制度では市民は1事件限定の選任にも関わらず、裁判官の合議に加わり法律問題まで審議することになっており、市民の法律知識では裁判官に対抗できるか疑問である。結局、現状の裁判員制度では、裁判官主導・強者追随の姿勢は改善されない恐れがある。
日弁連は、この裁判員制度を陪審員制度的運用にできるだけ近づけるべく努力すべきである。
・中村恵介(なかむらけいすけ) 大学生
「激情に流されない理性的な裁判を」
アメリカの陪審員制は「激情司法」と呼ばれることがある。今の裁判員制度についても、感情に流されて理性的でない事実認定、公平を欠いた量刑がなされるおそれはないだろうか。国民の司法参加そのものは賛成であるが、従来の精密司法にもそれなりの利点はあったのであり、市民の「良識」に絶対的な信用をおいてよいか疑問もある。
市民参加と裁判の適正を調和させるための方策を議論してゆく必要がある。裁判員に選定される市民も、少なくとも法律をきちんと勉強し、「刑罰の謙抑性」という言葉を理解して、審理を行うべきである。
・丸山泰司(まるやまたいじ) 銀行勤務
「合議の効用を信頼せよ」
裁判員制度は、多数の市民が自己の社会的経験を持ち寄り、異なる価値観の者同士が議論を尽くすことによって、結果的により偏見や誤りの少ない裁判が実現できる制度であると思う。裁判員個々人の多様性が確保されている限り、司法判断に市民の常識は反映されるはずであり、「能力」の点は問題ない。裁判官は、裁判員に「やる気」を起こさせるために、適切な説示、指導を行う役割をになうべきである。
裁判官の人数については、合議の効用を生かす工夫をすべきである。多様性を確保するために市民裁判員の数はできる限り多くし、裁判官も複数にする。具体的には、最高裁大法廷に準じて、総員は上限15名、市民裁判官は6名から12名、職業裁判官3名が妥当だと思う。
(2) 第2部(弁護士費用敗訴者負担制度)
冒頭で『ザ・ニュースペーパー』によるコントがありました。ニュースペーパー得意の時事風刺ネタに加え、医療過誤訴訟をテーマにしたコント(子供を医療過誤で亡くした父親と医者とのやりとりを通じて弁護士費用敗訴者負担制度について理解してもらうという内容)で、会場の大きな笑いを誘っていました。
続いて、浅井俊雄弁護士より、札幌弁護士会における裁判員制度に関する検討状況が報告され、その後公述人による意見発表が行われました。
北海道HIV訴訟、「アイヌ史資料集」訴訟、ジャパンエナジー豊羽鉱山じんぱい訴訟、たくぎん抵当証券訴訟、中国人強制連行事件といった訴訟の当事者や支援者の方、北海道中小企業道友会の方々からその発言がありましたが、その内容はいずれも敗訴者負担制度の問題点を鋭く指摘するものでした。
公述人の方の各意見内容(要旨)は以下のとおりです。
・井上昌和(いのうえまさかず) 北海道HIV訴訟原告
私は、いわゆる薬害エイズ訴訟の原告として裁判に関わりました。今では薬害エイズの問題は一般に知られていますが、当時はほとんど知られていませんでした。薬害問題を広く世間に知らせるためには、被害者が裁判を起こして国に責任追及をするしかなかったのです。
しかし、裁判をするには多額の費用がかかります。確実に勝つという見込みもないなか、もし国や企業の側の弁護士費用を負担させられるとしたら、恐らく裁判には踏み切れなかったでしょう。
薬害被害者にとって、裁判所は「人権の砦」でした。しかし弁護士費用敗訴者負担制度は、人権の砦にアクセスする権利を奪います。制度導入には、断固反対致します。
・北川しま子(きたがわしまこ) 「アイヌ史資料集」訴訟原告
私は、アイヌ民族です。アイヌは、北海道の先住者として永く大自然とともに暮らしてきましたが、国の政策によって住む場所も奪われてしまいました。現在、国の発行したアイヌ資料集にアイヌ差別の記載があるため、裁判で争っています。
正義が必ず勝つのであれば、法律が常に正しいことを認めてくれれば、あるいは弁護士費用敗訴者負担は公平にかなう制度なのかも知れません。しかし、現実はそうではありません。この制度は、社会的弱者が裁判によって日本社会の問題を正す機会をなくすものです。
日本はアイヌから、主権を奪い、土地を奪い、今度は裁判をする権利も奪うのでしょうか。弁護士費用敗訴者負担制度には、絶対反対します。
・鴫谷節夫(しぎたにせつお) 中国人強制連行北海道訴訟を支える会
私は、戦時中の中国人強制連行被害者が国に補償を求める裁判に関わっています。現在各地で同様の訴訟が提起されており、ようやく国の戦争責任が明らかになり始めたところです。
被害者は、中国本国の援助を受けられず、日本での裁判に現状打破の期待を強く抱いています。国の戦争責任を追及する方法は、政治ではなく裁判しかないのです。
戦争被害者が、戦争責任を追及する手段を奪う、弁護士費用敗訴者負担制度に、反対します。
・四宮守(しのみやまもる) ジャパンエナジー豊羽鉱山じんぱい訴訟原告団
じんぱいとは、鉱山労働者が鉱山で発生する粉塵を吸い込んで肺をやられてしまい、息もできなくなる病気です。私はじんぱい被害者原告として訴訟に関わってきましたが、相手方の国が必ず消滅時効の主張をしてくるので、長い期間苦しんできた患者ほど救済の道が閉ざされるという矛盾を味わってきました。その他、被害者が鉱山会社に就労していたことの客観的証明など、困難な問題があります。原告団の継続的な働きかけで、ようやく最近裁判所の理解が得られるようになりました。
そもそも、自分の勤務していた会社を訴えるなど、当初思いも寄りませんでした。訴訟に参加するまでには、いくつもの大きな障害があったのです。この上、会社側の弁護士費用を負担することになるとすれば、とうてい訴訟には踏み切れなかったでしょう。
被害者を裁判から遠ざける弁護士費用敗訴者負担制度に、強く反対します。
・西谷博明(にしやひろあき) 北海道中小企業家道友会経営政策局長
私は、北海道内の中小企業の経営問題に関わってきました。
弁護士費用敗訴者負担制度が導入された場合、例えば工業所有権侵害のケースで確実な勝訴の見込みがない限り訴訟できなくなるなど、各種の不都合な事例が考えられます。弁護士費用敗訴者負担制度に反対します。
・森田博子(もりたひろこ) たくぎん抵当証券被害者原告団事務局
私は、道内で約4,000人以上に渡る、たくぎん抵当証券の被害者に関わり、訴訟に参加しています。
被害者を説得して原告団としてまとめるまでにはさまざまな苦労がありました。もし弁護士費用の負担の問題が出れば、被害者をまとめることはもっと困難だったでしょう。
裁判への門戸は、基本的に広ければ広いほど好ましいのだと思います。勝つも負けるも自己責任という考え方では、経済的理由から裁判にアクセスできない被害者を増やすだけです。弁護士費用敗訴者負担制度に反対します。
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