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平成18年度定期大会決議

憲法の基本原則に抵触する「憲法改正国民投票法案」の成立に反対する決議

    当連合会は,2005年(平成17年)7月22日に開催した定期大会において,政府与党が2004年(平成16年)12月3日に作成した憲法改正国民投票法案に関する「法案骨子」について問題点を指摘し,同法案の国会提出に反対したが,自民・公明両党(与党)と民主党は,去る5月26日,憲法改正に必要な手続を定めるいわゆる「憲法改正国民投票法案」を,それぞれ衆議院に提出し,6月1日の衆議院本会議で審議が開始され,同法案は継続審議となった。

     憲法改正国民投票は,主権者である国民が国の最高法規である憲法のあり方について意見を表明するという国民の基本的な権利の行使に関わる重大な問題であって,国民が「憲法改正」問題に関し十分に議論を尽し得る制度設計をすべきであり,国民の意見表明や運動は基本的に自由でなければならない。ところが,今回衆議院に提出された与党案と民主党案は,国民主権と基本的人権の保障という憲法の基本原理に照らして,以下のとおり重大な問題がある。

    (1) 与党案では,公務員等や教育者の「地位を利用」した国民投票運動を,さらに,裁判官,検察官,警察官については一律に国民投票運動を,それぞれ罰則付きで禁止している。

      しかし,公務員等も国民として憲法改正に関する意見を表明する等は基本的に自由でなければならない。与党案は,構成要件が広汎かつ不明確で罪刑法定主義に抵触する虞が大きく,「国民投票運動」と憲法改正に関する表現活動との厳密な区別が困難な中で,国民の意見表明や議論に対する著しい制約となりかねない。

    (2) 与党案では,組織的多数人買収及び利害誘導罪が規定され,これらの規定には罰則規定が設けられている。

      しかし,構成要件が「買収」に限定されず,各要件は極めて曖昧かつ不明確であり,(1)と同様,憲法改正問題をめぐるさまざまな国民の活動に対し萎縮効果を与える虞がある。

    (3) 与党案・民主党案ともに,「憲法改正案ごと」に一人一票と規定している。

      しかし,「改正案ごと」という文言が各条文ごとの趣旨であるのか明確でない。国民主権の原理からは,各条項ごとに個別に賛否の意思を問う発議方法・投票方法を原則とすることを明記すべきである。

    (4) 両党案とも,低い投票率でも有効投票数の2分の1(与党案)ないし全投票総数の2分の1(民主党案)の賛成があれば,憲法改正を承認したものと定める。

      しかし,これでは憲法が国の最高法規として一般の法に比して厳格な改正手続を定めている硬性憲法の趣旨が没却されることになりかねないため,最低投票率を規定すべきである。

    (5) 両党案とも,国民投票の期日について,憲法改正に関する国会発議から60日以降180日以内と定めている。

      しかし,国民が議論を尽すには同期間は極めて不十分であり,再検討されるべきである。

    (6) 両党案とも,国民投票無効訴訟の提訴期間を投票結果の告示の日から起算して30日以内とし,一審の管轄裁判所を東京高等裁判所に限定している。

      しかし,これは,通常の行政事件取消訴訟の出訴期間が6ヶ月であることと比較しても著しく短いうえ,地方に居住する国民の憲法改正に関する裁判を受ける権利を不当に制限するものである。

     以上から,当連合会は,憲法の基本原理に抵触する内容を含む与党・民主党のいずれの「憲法改正国民投票法案」についても,その成立に反対する。

     以上,決議する。

    2006年(平成18年)7月28日

    北海道弁護士会連合会

     

 

この宣言をなすに至った理由は以下のとおりです。

    1 当連合会は,昨年7月22日に開催した定期大会において,「憲法の基本原則に違背する憲法改正国民投票法案の国会提出に反対する決議」を行い,その中で政府与党が2004年12月3日に作成した憲法改正国民投票法案に関する「法案骨子」について,@投票方法の問題,A最低投票率の定めがないこと,B国民投票運動に関する広汎な制限禁止規定(公務員等・教育者の運動制限,外国人の運動の全面禁止,国民投票の予想結果の公表禁止,新聞・雑誌の虚偽報道の禁止等),C国民投票の期日までの期間,D国民投票無効訴訟の提訴期間と管轄裁判所等につき,憲法の国民主権と特に表現の自由の保障原理に違背する問題点を指摘して,同法案の国会提出に反対した。

      ところが,与党(自民党・公明党)と民主党は,本年度の通常国会において,去る5月26日,憲法改正に必要な手続を定める「憲法改正国民投票法案」(民主党は憲法改正に限定しない国民投票法案)を,それぞれ衆議院に提出した。与党と民主党は,共同での法案提出をめざして協議を続けていたが,合意に至らなかった結果,別々に法案提出に至り,去る6月1日から審議が開始されたが,国会の閉会とともに同法案は継続審議となった。

    2 しかし,与党案も民主党案も,違いはあるものの,いずれも国民主権や基本的人権の保障という憲法の基本原則に照らし,極めて重大な問題点を含んでいる。すなわち,憲法改正国民投票は,主権者である国民が国の最高法規である憲法のあり方について意見を表明するという国民の基本的な権利の行使に関わる重大な問題であって,国民が「憲法改正」問題に関し十分に議論を尽し得る制度設計をすべきであり,国民の意見表明や運動は基本的に自由でなければならない。ところが,今回提出された与党案では,いわゆるメディア規制は削除されているものの,これらの基本的な視点が著しく欠如している。

      具体的には,与党案では,国民投票運動に関する広汎な制限禁止規定を罰則付で残したほか,組織的多数人買収及び利害誘導罪(109条)という罰則規定を設けているが,いずれも構成要件が極めて不明確であり,罪刑法定主義に抵触する虞が極めて大きいうえ,与党案にも民主党案にも,昨年の決議で当連合会が指摘した上記@乃至Dの各点について,なお以下のような問題点が存する。

    (1) 与党案は,公務員等・教育者の地位利用による国民投票運動を禁止するとともに,裁判官・検察官・警察官による国民投票運動を一律的に禁止し,それぞれ禁固または罰金刑という罰則規定を設けている。

      しかし,「国民投票運動」と憲法改正に関する意見表明との厳密な区別は難しい。そもそも,憲法改正国民投票は,前述のとおり,主権者である国民が国の最高法規である憲法のあり方について意思を表明するという国民の基本的な権利の行使にかかわる国政上の重大な問題である。従って,公務員等や教育者,裁判官,検察官などにおいても,憲法改正に関する意見表明や運動は,基本的に自由でなければならない。特に教育者に関しては,例えば憲法学者が憲法に対する評価やあり方などに関して解説したり意見表明することすら「地位利用」「投票運動」と解釈され得る懸念がある。与党案のように,広汎かつ不明確な構成要件について,刑事罰の制裁付で上記の規制を課すことは,罪刑法定主義に抵触する虞が大きく,憲法改正に関する表現活動を萎縮させ,国民が充分な情報を得たり議論をすることが出来ないまま国民投票が実施されることになりかねない。

    (2) 与党案は,「組織による」多数の投票人に対する買収等と利害誘導罪を規定し,3年以下の懲役・禁固または50万円以下の罰金という罰則規定を設けている。

      しかし,同罪の構成要件は「公私の職務の供与をし」「申込み若しくは約束をし」「社寺,学校,会社,組合……に対する……債権,寄付その他特殊の直接利害関係を利用して……影響を与えるに足りる誘導をしたとき」などと極めて不明確で,広汎な規制を招きかねず,(1)と同様に罪刑法定主義に抵触するとともに,憲法改正に関わる国民の自由な表現活動を萎縮させる危険性がある。

      翻って,憲法改正国民投票に関する買収等や利害誘導につき,罰則で禁止することの是非についても十分検討されておらず,かかる罰則規定を設けること自体疑問がある。

    (3) 与党案も民主党案も,「憲法改正案ごと」に一人一票と規定されている。

      しかし,「改正案」が各条文毎にという趣旨であるかは必ずしも明確でなく,関連事項について一括投票となる可能性も否定し得ない。国民主権の原理に基づくならば,条項ごとに個別に賛否の意思を問う発議方法・投票方法を原則とすることを明記すべきである。

    (4) 与党案は,国民投票において,憲法改正案に対する賛成の投票数が有効投票総数の2分の1を超えた場合は,当該憲法改正について国民の承認があったものと定める。民主党案は,改正に賛成するときは○の記号を自書し,反対するときは何らの記載をしないで投票するとし,改正に賛成する者が全投票総数の2分の1を超えたときに承認があったと定め,与党案と比較すれば要件を厳格にしているが,いずれも最低投票率を規定していない。

      しかし,与党案・民主党案ともに,投票率が低い場合に,結果的に投票権を有する国民のごく一部の者が賛成するだけで憲法改正が可能となる。そうなれば,憲法改正の重要性に鑑み一般の法改正に比して改正手続を厳格にしている硬性憲法の趣旨が没却される虞があるため,最低投票率に関する規定を設けるべきである。

    (5) 与党案も民主党案も,国民投票の期日について,国会が憲法改正を発議した日から60日以降180日以内と定めている。

      しかし,憲法改正に関する議論が多くの国民に浸透し,十分な議論を重ねるためには,できる限り長い準備期間が必要であり,上記期間では極めて不十分である。全国的な規模で公聴会を開催する等の周知期間を確保するためにも,十分な期間を設けるよう再検討すべきである。

    (6) 与党案も民主党案も,国民投票無効訴訟の提訴期間を投票結果の告示の日から30日以内とし,一審の管轄裁判所を東京高等裁判所に限定している。

      これは,通常の行政事件取消訴訟の出訴期間が6ヶ月であることと比較しても著しく短いうえ,地方に居住する国民の憲法改正に関する裁判を受ける権利を著しく制限するものであり,再検討すべきである。

    3 憲法改正国民投票は,主権者である国民が,国の最高法規である憲法のあり方に関して意見を表明するものであり,国民の基本的な権利行使に関わる国政上の重大な問題である。

      従って,あくまでも国民主権の原理に立つものでなければならず,かつ,国民の基本的人権を不当に制約することは許されない。

     よって,当連合会は,憲法の基本原則に抵触する内容を含む与党案,民主党案のいずれの法案についても,その成立に反対するものである。

    以 上

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