1 第164回通常国会において,「共謀罪導入のための法律案」が審議入りされた。同法案は継続審議とされ,本年秋に開催される予定の臨時国会にて改めて審議されることとなっている。
2 「共謀罪」は,犯罪が現に実行される以前であっても,関係者が犯罪を起こすことを合意した段階から処罰できるとするものであるが,次のとおり極めて重大な問題点が存在する。
(1) 共謀罪では,現行法上,殺人や強盗のような重大犯罪であっても,予備的な準備行為があってはじめて犯罪とされていたものが,準備行為をしていなくても合意してさえいれば犯罪となるものであり,犯罪行為が実行されて初めて処罰することを原則とする我が国の刑事法体系を大きく変貌させるものである。
しかも,与党側が提出した法律案では,共謀罪は,殺人や強盗だけでなく,軽微な窃盗など国際的組織犯罪の防止という立法目的と無関係な犯罪にも適用され,その数は600以上に及ぶのであって,処罰対象を飛躍的に拡大するものである。
(2) 処罰対象が「共謀」となることで,捜査機関は話し合い自体を証拠化するために尾行・盗聴などといった捜査手法を採る可能性を否定できず,その結果,市民生活が日常的に監視されることになりかねない。
(3) 実行着手前の自首に刑の減免を認めているため,捜査機関がスパイを送り込む危険性があるだけでなく,常に密告に対する疑心暗鬼を生みかねない。
(4) これらの危険性が日常の市民生活や表現の自由を中心とする市民活動に対する深刻な萎縮効果を来たす虞が大きい。
(5) さらに,本法案の提案理由が,国連越境(国際)組織犯罪防止条約の批准に伴う国内法化にあるとされているところ,同法案が同条約の目的の範囲を超えた内容となっていることも重大な問題である。
3 本法案について,与党側からは処罰の対象となる「団体」の定義を限定し,また処罰には「犯罪の実行に資する行為」が必要であるとの修正案が提出されているが,上記の問題点は合意の段階で処罰をするという「共謀罪」の本質から導かれるものであり,その点で「共謀罪」の危険は,いかなる修正が行われたとしてもなくなるものではない。
4 日本弁護士連合会や道内4単位会は,これまでリーフレットの作成,街頭宣伝,市民集会の開催など様々な取り組みを行い,このような共謀罪の危険性を広く訴えてきたところである。
当連合会は,従来正当な政治活動,表現活動として認められていた行為が積極的に刑事事件として立件されている昨今の情勢の中で,「共謀罪」導入後の社会が今以上に息苦しい世の中になること,そして本格的な監視社会の到来を招くことを大いに懸念する。
よって,当連合会は,我が国の自由と民主主義に重大な否定的影響を与える「共謀罪」は導入すべきでないと考え,「共謀罪導入のための法律案」に反対する。
以上,決議する。
2006年(平成18年)7月28日
北海道弁護士会連合会
1 「共謀罪」とは,今国会で審議されている「犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案」により,組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(以下「組織的犯罪処罰法」という。)の中の一犯罪類型として新設が提案されている犯罪であり,越境的組織犯罪の防止を目的とする国連越境(国際)組織犯罪防止条約批准のための国内法整備の一環とされている。法律案は過去すでに数回国会に上程されているが,成立せず,第164回通常国会においても継続審議となり,今日に至っている。
2 与党側より現在提出されている法律案による共謀罪の成立要件は,@長期(刑の上限)4年以上の刑を定める犯罪について,A団体の活動として,当該行為を実行するための組織により行なわれるものの,B遂行を共謀することである。そして共謀罪を犯した者は,原則として2年以下の懲役又は禁錮,死刑,無期,長期10年以上の犯罪の共謀については5年以下の懲役または禁錮に処せられるというものである。
3 しかしながら,「共謀罪」は,以下に述べるような多くの問題点を内包している。
第1に,実行されて初めて処罰することを原則とする我が国の刑事法体系を大きく変貌させ,処罰対象を飛躍的に拡大するものである点である。長期4年以上の刑を定める犯罪は,実に600以上もある。その中には殺人,強盗といった重大犯罪も含まれるが,国際的組織犯罪の防止という立法目的と無関係な犯罪,すなわち,軽微な万引や,不同意堕胎罪のような共謀の想定しにくい犯罪,さらには刑法犯だけでなく商法や消費税法,水道法,道路交通法など日常生活に直接関係のある法律の違反が広く含まれる。
第2に,共謀罪は,話し合い,合意そのものを処罰の対象とすることから,捜査機関としては話し合い自体を証拠化する必要があり,捜査手法の変容及びそれがもたらす監視社会の到来が懸念される。話し合い,合意は人々の会話や電話・メールの形でなされることから,今後,通信傍受法の適用範囲の拡大,室内盗聴の導入,メールのリアルタイム傍受といった範囲にまで捜査手法が拡大する可能性もある。
第3に,実行着手前の自首に刑の減免を認めているため,捜査機関がスパイを送り込む危険性があるだけでなく,常に密告に対する疑心暗鬼を生みかねず,市民が常に周囲の監視の目にさらされ,またさらされることに怯える社会が到来することである。
第4に,これらの危険性が日常の市民生活や表現の自由を中心とする市民活動に対する深刻な萎縮効果を来すことである。
さらに,本法案が国連越境(国際)組織犯罪防止条約批准のための国内法の整備であるとされているところ,法務省の見解によっても我が国における立法事実は存在しないとされていたこと,及び,にもかかわらず,本法案の内容が,越境的犯罪に限定されていないことなど条約の範囲を大きく超える内容となっていることなどの問題も存在する。
4 本法案については,すでに与党側からも幾つかの修正案が提示されているが,上記4つの問題点は合意の段階で処罰をするという「共謀罪」の本質から導かれるものであり,その点で「共謀罪」は,いかなる修正が行われたとしてもその本質的な危険がなくなるものではない。
なお,政府・与党側は,条約34条2項が,各国に,「越境犯罪性」とは無関係に条約上の犯罪を国内法化する義務を科していると主張している。しかし,条約34条では1項において各国の国内法は国内法の基本原則に従って行えば足りることが明確にされている。また,そもそも本条約が越境的組織犯罪の防止を目的としていること,34条2項が織り込まれた経過並びに本条約と一体となる「公的記録のための解釈的注」の本条項該当部分では,34条2項は「条約の適用範囲を変更したものではなく,越境性と組織犯罪の関与が国内法化の本質的要素ではないことを明確化したものである」とされていることから,同条項は,越境的性質を要件としない各国国内法も許容されるという意味に過ぎないことが明らかである。
さらに,政府は,国会に対し国連越境(国際)組織犯罪防止条約について留保を定めないで承認を求め,国会において承認がなされているとするが,留保は政府の行為であり,国会が留保を付さずに承認している条約についても,政府が国内法化の過程で必要と考えれば,留保は当然に可能である。
5 日本弁護士連合会や道内4単位会その他の各地方単位会は,共謀罪導入のための法律案について,これまで一貫して反対の声を上げてきており,各種市民集会や,リーフレットの作成,配布など精力的な活動を行ってきた。また,国民の中でも,「共謀罪」に対する懸念の声は,確実に広がりつつあるところである。
6 近時,従来は正当な政治活動,表現活動として問題とされてこなかった行為が犯罪として立件される傾向が見られるが,昨今では,東京都立川市の防衛庁宿舎で自衛隊のイラク派遣に反対するビラをまいて住居侵入罪に問われた立川テント村事件などに代表されるようにこの傾向が強まって来ており,微罪でも一定の目的のために処罰されるのではないかと考え得る事態が相次いでいる。
このような中,法文上非常に不明確で処罰範囲の広範な犯罪である共謀罪が制定されることで,「共謀罪」導入後の社会が今以上に息苦しい世の中になること,そして本格的な監視社会が到来することが大いに懸念される。
7 当連合会としては,次期臨時国会での成立が危惧される中,かかる我が国の自由と民主主義に重大な否定的影響を与える「共謀罪」について,強く反対するものである。
以 上