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道弁連大会

修習給付金制度の円滑で継続的な運用と谷間世代に対する速やかな不公平是正措置等を求める決議

 当連合会は、政府、国会並びに最高裁判所に対し、

  1. 2017年(平成29年)4月19日に成立した改正裁判所法第67条の2に定める修習給付金の支給を71期司法修習から円滑に実施するとともに、司法修習生に対する一律の給付制度を継続的かつ安定的に運用すること
  2. 前項の修習給付金の金額を司法修習生が経済的負担なく安心して司法修習に専念するために必要な額とすること
  3. 新65期司法修習から70期司法修習までの間に司法修習を経た者(いわゆる谷間世代)に対する経済的支援策を直ちに実施すること

を、求める。

 以上、決議する。

2017年(平成29年)7月28日
北海道弁護士会連合会

提案理由

  1. 2017年(平成29年)裁判所法改正に至る経緯
    (1) 給費制の時代
     司法修習生に対する給費制は、1947年(昭和22年)以降、司法修習生が経済的な不安を持たずに司法修習に専念するための制度的基盤として、長年にわたり継続され、社会のあらゆる階層・分野における有為で多様な人材を法曹界に確保することを可能ならしめてきた。
     そもそも、司法制度は、三権の一翼として、法の支配を社会の隅々まで行き渡らせ、市民の権利を実現するために社会に不可欠な基盤である。法曹は、その司法制度を担う重要な役割を担っているところ、司法修習は、法曹としての実務に必要な能力や高い見識・倫理観等を習得するために必要不可欠な制度である。国には、司法制度を担う人的インフラである法曹を養成するため、公費をもって司法修習制度を行う責務がある。
     また、司法修習生には、兼業禁止をはじめとする厳しい修習専念義務を課されており、経済的負担なく充実した司法修習を行うためには、まさに経済的支援としての給費が必要不可欠である。  給費制は、以上のような前提のもとに、60年以上にわたり続けられていた制度であった。
    (2) 無給制への転換
     国会は、2004年(平成16年)12月、給費制を廃止して無給とし、修習資金の貸与制を実施することを内容とする裁判所法改正案を可決した。改正された裁判所法は、同法成立時に施行を予定されていた2010年(平成22年)から1年延長された後、2011年(平成23年)11月に施行された。これにより、平成23年7月に採用された旧65期までの司法修習生に対しては給費が支給されていたのに対して、平成23年11月に採用された新65期以降の司法修習生に対しては無給での司法修習が実施されることとなり、無給制となって以降、ほとんどの司法修習生は修習資金の貸与を受けて司法修習を行った。
    (3) 2017年(平成29年)改正裁判所法の成立
     国会は、2017年(平成29年)4月19日、新65期以降無給で実施されていた司法修習について、司法修習生に一律に修習給付金を支給することを内容とする裁判所法の改正案を可決した(以下、可決成立した同法を「改正裁判所法」という。)。改正裁判所法は、2017年(平成29年)11月に施行されることとなっており、71期司法修習生から修習給付金が支給されることとなった。
     修習給付金の具体的内容は、今後、最高裁判所規則で定められる予定であるが、すでに行われている法務省の発表によれば、基本給付として一律月額13万5000円、住宅給付として上限月額3万5000円、修習先への移転費用として旅費法の定めに準拠した金額がそれぞれ支給される予定である
  2. 司法修習生に対する一律の給付制度の継続的かつ安定的な運用の必要性
     今般の改正裁判所法による修習給付金の支給は、後記の通り課題が残されているところではあるものの、従前の無給制と比較すると、司法修習生に対する一律の給付が実現し、司法修習生の経済的困窮が緩和されることとなった点において、司法修習生に対する経済的支援として前進したものと評価することができる。改正裁判所法は、市民団体及び消費者団体等の各種団体の協力並びに各政党及び国会議員等の支援のもとに成立したものであり、当連合会としても、深く感謝する次第である。
     ただ、法改正により成立した制度も、円滑に実施され、継続的かつ安定的に運用されてこそ、制度趣旨を全うすることができるものである。したがって、改正裁判所法において定められた修習給付金制度は、71期司法修習より円滑に実施されるべきであり、司法修習生に対する一律の給付制度については、今後も、継続的かつ安定的に運用されるべきである。
  3. 修習給付金の金額を司法修習に専念するために必要な額とすべきこと
    (1) 前述の通り、司法修習制度は、高い見識と円満な常識を養い、法律に関する理論と実務を身につけ、裁判官、検察官又は弁護士にふさわしい品位と能力を備えることを目的とし、同目的の実現のために司法修習生に修習専念義務を課しており、その一方で生活を保障することで修習専念義務の履行を担保していた。そのため、従前の給費制のもとでは、国家公務員に準ずる者として、2009年(平成21年)時点で、給与として月額約20万円強を支給されていた。
    (2) これに対し、2017年(平成29年)に採用される71期司法修習生以降の修習生に支給される修習給付金は、月額13万5000円であり、従前の給費制の下で支給されていた金額とは月額約7万円もの差異が生じている。
     さらに、修習給付金は税務上給与ではなく雑所得と取り扱われる予定であり、修習給付金による収入は給与所得控除を受けることができない。また、司法修習生は裁判所共済に加入できず国民年金及び国民健康保険に加入せざるをえず、修習給付金の中から同社会保険料を支払う必要がある。したがって、現状予定されている修習給付金の額を支給したとしても、手取金額は、月額約10万円となることが予想される。
     そして、多くの司法修習生は、大学学部・法科大学院等への奨学金の返還義務を負っているところ、これらの奨学金の返済を考慮すると、司法修習生が実際に生活に充てられる金額はごくわずかとなる可能性が高い。このような少額の手取金額では、司法修習生が安心して修習に専念するために必要十分であると評価することは到底できない。
     なお、修習給付金制度のもとでは貸与制も金額を見直した上で併存することとされているところ、貸与制が併存するという事実自体が、現在予定されている金額の修習給付金の支給のみでは安心して修習に専念するために必要十分とはいえないことの何よりの証左である。
    (3) 仮に、修習給付金として、従前の給費制下で支給されていた月額約20万円を支給し、司法修習生の人数を1500人とした場合、年間では約36億円を要することとなる。
     今般の改正裁判所法の審議の際には、政府から、法曹となる人材の確保の推進等を図ることが同法の目的であると説明されていたところ、同目的を実現するためには、上記の金額を支出することには十分な意義が存するものである。他業種における養成制度として医師の養成制度における義務研修が存するが、同研修のための医師臨床研修費補助金として、平成29年度予算として約88億円が計上されている。前述の通り、司法修習は、市民の権利実現のために社会に不可欠な基盤たる司法制度を担う人的インフラの養成制度であって、医師の養成制度と同様の社会的重要性が存在するものであるから、上記医師臨床研修費補助金の額と比較しても、修習給付金として年間約36億円の支出は過大であるとはいえない。
    (4) 以上より、修習給付金の金額は、司法修習生が経済的不安なく安心して修習に専念するために必要十分な額とすべきであり、現在予定されている給付額から増額されるべきである。
  4. 新65期から70期までの間に司法修習を経た者(いわゆる谷間世代)に対する経済的支援策を講ずべきこと
    (1) 改正裁判所法によって修習給付金の支給を受けられるのは、前述の通り、2017年(平成29年)に採用される71期司法修習生以降の修習生である。
     2010年(平成22年)から2016年(平成28年)までに採用された新65期から70期までの司法修習生は、無給での司法修習が強いられていたが、今般の改正裁判所法においては、この期間に司法修習生であった者に対する措置が何ら講じられていない。
    (2) 前述した従前の給費制の時代、無給制の時代、そして71期以降の修習給付金の時代においては、いずれも、司法修習生に修習専念義務が課されていることに変わりは無く、また、修習期間中に習得が求められる能力・素養も基本的には同様のものである。
     特に、修習給付金が支給される2017年(平成29年)前後を比較した場合には、その前後における司法修習には何らの質的量的な変化は生じていないのである。同一の内容の司法修習を行っているにもかかわらず、71期以降の司法修習生に対しては修習給付金が支給され、新65期から70期までの司法修習生には何らの給付金も支給されなかったという著しい不公平について、その理由を合理的に説明することなどできようもない。
    (3) 2017年(平成29年)以前に修習した者であろうと2017年(平成29年)以降に修習する者であろうと、司法修習終了後にはそのほとんどの者が法曹となるなど、今後長期間にわたって社会的インフラである司法制度を支える人的基盤となることに変わりはない。
     新65期から70期までの司法修習を経た者たちは、現在では司法修習を終えてそのほとんどが既に法曹となっており自ら収入を得ているが、かかる事情は、これらの者が司法制度を支える人的基盤であることを否定するものではない。むしろ、これらの者に対する経済的支援策を実施することによって、前記の著しい不公平を解消するとともに、同経済的支援をもってこれらの者がさらに法の支配の確立のために邁進することが、より強固な司法制度の確立につながるものである。
    (4) 以上より、71期以降の司法修習生と新65期から70期までの司法修習生であった者との間の著しい不公平の是正と、司法制度の基盤強化及び強固な司法制度の確立のため、新65期から70期までの司法修習生に対する経済的支援策を講じるべきである。
  5. 結語
     よって、当連合会は、政府、国会及び最高裁判所に対し、①2017年(平成29年)4月19日に可決成立した改正裁判所法第67条の2に定める修習給付金の支給を71期司法修習から円滑に実施するとともに、司法修習生に対する一律の給付制度を継続的かつ安定的に運用すること、②修習給付金の金額について、司法修習生が経済的負担なく安心して司法修習に専念するために必要な額とすること、③新65期司法修習から70期司法修習までの間に司法修習を経た者に対する経済的支援策を直ちに実施することを求める次第である。

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