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道弁連大会

行政などとの連携によって高齢者に対する消費者被害などの防止及び被害回復に尽力することの宣言

  1. 昨今、高齢者に対する訪問販売・電話勧誘販売などによる消費者被害事案や、「振り込め詐欺」・「オレオレ詐欺」などの特殊詐欺事案(以下、併せて「消費者被害など」という。)については、一向に減る兆しのない状況が続いている。
    高齢者は在宅の場合が多いため、訪問販売や電話勧誘販売などによる消費者被害に遭いやすい環境にあり、特に、独り暮らしの高齢者は、「金銭」「健康」「孤独」などといった不安につけ込まれやすい傾向にある。
    また、特殊詐欺案件についても、特に高齢者は判断能力の低下と相まって、いわゆる「劇場型詐欺」などに対して適確に対応することが困難なため、やはりかかる被害に遭いやすい傾向にある。
    今後、高齢化社会がますます進行する中で、高齢者に対する消費者被害などの発生を防止することが急務であることは論を待たない。
    また、高齢者に対する消費者被害などは、誰にでも起こりうるものであり、現在における被害の発生を防止することは、将来における被害を未然に防止することにもつながるものである。
  2. 上記のとおり高齢者に対する消費者被害などの発生は、今になって始まったものではない。そのため、国は、訪問販売などに対する規制のほか、特殊詐欺に使用される金融機関口座や携帯電話に対する規制など数々の法整備を行ってきたものの、今なお十分な方策が講じられているとは言えない状況にある。このような中において、地方自治体である北海道は、高齢者に対する消費者被害などを防止する観点から、北海道立消費生活センターをはじめとした消費者センターを中心として、消費者被害の防止や被害回復を実現するため尽力してきた。さらに、悪質な業者に対しては、積極的に行政指導や行政処分を科すなど、新たな被害発生の防止にも努めてきたものである。また、昨今、北海道が推奨する「訪問販売お断り」のステッカーを玄関先など貼付するという施策も、上記のとおり北海道による積極的な行政指導や処分と相まって、その効果の上がることが期待されている。そのため、訪問販売の規制に対して消極的な姿勢に終始していた国(消費者庁)においても、最近になって、あらかじめステッカーなどにより「訪問販売お断り」の意思を示した消費者宅への勧誘を原則禁止するなどの規制強化の検討を開始した。
    かかる北海道の施策を後押しするためにも、国には、電話勧誘販売や訪問販売に対して、海外で広く実施されている「電話勧誘拒否登録制度(Do-Not-Call制度)」を速やかに導入することや、上記における「訪問販売お断りステッカー」など訪問販売の事前拒否に明確な法的根拠を与え、これを無視して勧誘することを禁止する「訪問勧誘拒否制度(Do-Not-Knock制度)」を速やかに実現するための施策を講じることが求められる。
    また、北海道警察は、金融機関の窓口段階において特殊詐欺事案による被害の発生を防止するため、金融機関に対し、高齢者による一定額の以上の引き出しや送金について、全件通報を要請すると共に、金融機関との特殊詐欺防止に関する協定締結を通じて相互連携の強化を図るなどの取組を精力的に行っている。
    このような北海道及び北海道警察による施策や取組は、国による一律の規制に止まらず、独自の対策として実施されているものである。そのため、当連合会もかかる施策や取組を高く評価するものであるが、北海道には、高齢者に対する消費者被害などを防止するため、なお一層、その施策を充実することが求められる。
  3. 北海道における消費者行政については、各振興局に設置されていた消費生活相談推進員体制が廃止され、道立消費生活相談センターに一極集約されることとなった結果、地域における消費者支援体制が手薄となったことは否定し得ない事実である。当連合会が「地方消費者行政の強化を求め、消費者被害の撲滅と救済のために尽力することの宣言」(2012年(平成24年)7月20日)において求めてきたように、特に地方における高齢者の身近な相談先としての窓口や相談体制の充実が必要である。そして、そのためには、一定の予算を確保した上で、速やかに必要な体制を整備することが行政の役割である。
    また、特殊詐欺事案を撲滅するためには、高齢者に対する日常的な支援体制の確立が必要である。都市部では、既に地域のコミュニティが機能しておらず、高齢者の孤独化を招いているが、高齢化社会を迎えている今こそ、行政の役割の充実が必要とされている。
    4 当連合会は、社会問題化している高齢者に対する消費者被害などの現状を踏まえ、北海道のほか道内各地方自治体に対し、引き続き、必要な提言や要請を行うとともに、地方自治体との協議などを通じて、高齢者に対する消費者被害などの防止や被害回復のため尽力することを誓い、ここに宣言する。

2015年(平成27年)7月24日
北海道弁護士会連合会

提案理由

  1. 高齢者に対する消費者被害などの防止が急務であること
     高齢者に対する消費者被害などが一向に減る兆しを見せないのは、我が国の総人口に占める高齢者の割合が増加していることだけが原因ではなく、昨今の悪質商法や特殊詐欺における手段の巧妙化や多様化などを通じて、そのターゲットが特に高齢者に絞られているという現状によるものである。
     国民生活センターに寄せられている高齢者(70歳以上)に関する相談件数は、2004年(平成16年)度に10万件を超え、2013年(平成25年)度には約21万件と、相談件数全体の約22%を占めるに至り、格段に増加している。
     また、その態様についても、電話勧誘販売が5万1240件(24.6%、1位)、訪問販売が2万5830件(12.4%、2位)と、いずれも高い割合を占めている。
     特殊詐欺被害についても、2012年(平成24年)度の統計では、70歳以上の被害者が5割以上、60歳以上の被害者では約8割を占めている。その中でも、「オレオレ詐欺」、「還付金など詐欺」及び「金融商品などを名目にした詐欺」については、統計上も、明確に高齢者が主たるターゲットとされていることが見て取れる。

  2. 訪問販売や電話勧誘を拒否する制度的処置をとるべきこと
    (1) このような中で、北海道は、独自の施策として、「訪問販売お断り」のステッカーを玄関先に貼付するという試みを開始した。
    従来、かかるステッカーを貼付することには、自分が「対面では容易に断ることのできない消費者である」ことを表明してしまうという意味合いがあるとして、かえって訪問販売を招く危険があるとも言われてきた。
    しかしながら、北海道は、敢えてこの施策を推進した。すなわち、北海道は、このステッカーの貼付による表示を「消費者による断りの意思表示」とみなし、これを無視して訪問販売を行うことは、北海道消費生活条例における「不当な取引方法」(同条例第16条(1))に該当するとして、これを禁止した。かかる北海道の施策は、顧客あるいは潜在的顧客の同意などを得ていない状況で行われる勧誘を禁止するという「不招請勧誘の禁止」が具体的に立法化されていない現状下においては、極めて画期的なものであり、高く評価されている。
    「不招請勧誘の禁止」が喫緊の検討課題であることは論を待たないが、さらに、国には、立法政策として、「訪問販売お断りステッカー」など訪問販売の事前拒否に明確な法的根拠を与え、これを無視して勧誘することを禁止する「訪問勧誘拒否制度(Do-Not-Knock制度)」を速やかに実現するための施策を講じることが求められている。そして、その実効性を確保するためにも、これに違反する行為に対しては、刑罰や行政処分の対象とすることが不可欠である。
    金融商品、先物取引などについては、従来、あまりの被害の深刻さを背景に、「不招請勧誘の禁止」が実現しているにもかかわらず、商品先物取引については、金融庁が省令の改正という方法により、その規制の一部が緩和されるに至っており、極めて不当な処置である言わざるを得ない。
    (2) 電話勧誘販売についても、これによる被害を防止するためには、海外で広く実施されている「電話勧誘拒否登録制度(Do-Not-Call制度)」を速やかに導入するための施策を講じる必要がある。これは、電話勧誘を受けたくない者が、その電話番号の登録を行い、これをリスト化し、登録された番号への電話勧誘を法的に禁止する制度である。そして、これに違反する行為に対しても、同様に、刑事罰や行政処分の対象として対処することが必要である。

  3. 特殊詐欺事案に対する北海道警察の対応
    北海道警察は、特殊詐欺事案による被害防止を目的として、金融機関に対し、高齢者による一定額の預金引き下ろしや送金について全件通報を要請している。これまで、金融機関の窓口において、その職員の対応により、特殊詐欺が未然に防止された例は決して少なくない。しかしながら、特殊詐欺事案による被害発生をより防止する観点からは、職員個人の判断能力に大きく依拠せざるを得ないという方法では不十分と言わざるを得ない。そのため、北海道警察は全件通報という網羅的方法を実施したものである。
    もっとも、これに対する各金融機関の対応には相違があり、特に預金者らから預金の引き下ろしまでに時間がかかり過ぎるとのクレームの生じることを懸念していると聞く。他方で、金融機関は、預金業務や送金業務を担う立場として、特殊詐欺を防止するための第一次的な役割が期待されている。そこには、かかる預金業務などに携わるプロの立場として、不審な引き下ろしや送金を見抜く技量も求められているといえよう。
    このような中で、北海道警察による取組は、各金融機関に対し、全県通報を一斉に要請するというものであり、金融機関において等しく協力体制を取ることが求められている。また、利用者においても、預金の引き下ろしまでに一定の時間を要することも特殊詐欺を事前に防止するためであるという理解が求められるところである。

  4. 消費者行政の強化が求められていること
     北海道における消費者行政は、札幌市に拠点を置く道立消費生活センターへの一元化が実施されたことにより、従来、振興局に配置されてきた消費生活相談推進員制度は廃止された。
    北海道内の各地方自治体には「消費生活相談窓口」が設置されていることとなっているが、地方自治体の規模などによりその対応能力に差の生じているのが実情である。北海道内では、広域相談体制が確立されている地域もあるが、これはごく一部にすぎない。消費者行政の中核は、「相談体制及び被害回復のための体制」整備・強化にあるが、このような実効力ある体制の整備・強化は、一朝一夕に実現できるものではなく、むしろ、現在における地方の市町村規模からすると、かかる体制を構築すること自体が非常に困難であると言わざるを得ない。そのため、北海道こそが消費生活相談の中核を担う必要がある。
    当連合会としても、北海道に対し、「地方消費者行政の強化を求め、消費者被害の撲滅と救済のために尽力することの宣言」(2012年(平成24年)7月20日)を通じて、一定の予算処置を講ずるとともに、相談体制の強化を従来から要請しているが、未だにこれらが実現されていないことは甚だ遺憾である。
    上記のとおり北海道における先進的な施策を実効的なものとするためにも、相談体制の充実は一刻も早く実現されなければならない。

  5. 高齢者を孤立させない行政による支援が求められていること
     地方における高齢化の進展は著しいものがある反面、地域としてのコミュニティが存在しているため、地方自治体によっては、訪問販売などに対し、地域ぐるみで対処しているという取組を行い、成果を上げているところもある。他方で、札幌市のような都市部においては、このようなコミュニティは十分に機能しておらず、高齢者の孤立化が問題視されているが、悪質商法や特殊詐欺は、まさにこのような高齢者を取り巻く状況につけ込むというものである。
     そのため、従来のコミュニティをどのようにしたら復活することができるかという観点も重要ではあるものの、現実には、行政による高齢者の孤立化防止策を直ちに実施すべきという要請が強く、行政が率先して高齢者に声を掛け高齢者から相談ができる仕組みを整備することや、周囲の者が高齢者の被害に気付くことのできる仕組みを整備することこそが最優先に検討されなければならない。
     また、福祉等に携わる地方自治体職員において、訪問先の高齢者に異変が生じていないか、「プロの目で見極める能力」をいかにして身に付けることができるかということも求められている。
     これらを実現するには相応のコストが必要とされる反面、高齢者に対する消費者被害などを防止することができれば、それ以上の経済的効果を期待できるものである。
  6. 弁護士会、弁護士の役割  日本弁護士連合会はもとより、当連合会も、消費者被害に関しては、従来から多くの立法提言や政策提言を行ってきた。すなわち、当連合会は、行政や国会(議会)に働きかけを行い、その結果、実現された立法や政策により、消費者被害の防止を実現してきたものである。例えば、先物取引や金融商品における「不招請勧誘の禁止」を実現し、被害を大きく減少させたほか、訪問販売法や割賦販売法の改正によって、高齢者に不必要な商品を次々と売りつける次々商法もほぼ消滅するに至っている。
     また、当連合会は、平成22年8月から電話相談事業として「北海道弁護士“ホッと”ライン」を開始し、高齢者や障害者本人やその家族のみならず、地方自治体職員である地域包括支援センター職員や、サービス事業所職員などの社会的支援者からの相談も受け付けている。  このような継続的な取組の結果、社会的支援者からの相談件数は、2012年度(平成24年度)には全相談件数163件中14件、2013年度(平成25年度)には同197件中29件、2014年度(平成26年度)には同264件中44件と年々増加するに至っている。このように、当連合会は、高齢者本人への直接的支援と併せて、社会的支援者に対する法的支援を拡充しているものである。
     さらに、当連合会は、「北海道消費者被害ネットワーク」に参画し、地域包括ケアシステムの中核を担う地域包括支援センターとの連携も模索中である。今後、法律専門職として地域ケア会議などへ積極的に参加することで、より充実した地域包括ケアシステム構築の一助となることを希求している。
     そして、かかる当連合会における一連の取組は、まさに、弁護士会、弁護士に与えられた責務を果たすことに他ならないものである。
  7. 以上から、当連合会は、今後とも、立法提言、政策提言及び各種事業などを通じて、行政(及びその関連団体・組織)などと連携し、高齢者に対する消費者被害の防止や被害回復のために尽力することを誓うものである。

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