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道弁連大会

議案第3号(決議)

司法修習費用の給費制復活と司法修習の充実を求める決議

当連合会は、政府及び国会に対し、

  1. 司法修習費用の給費制を速やかに復活させるとともに、第65期・第66期・第67期司法修習生に対しても遡及的な救済措置を講じる立法措置をとること
  2. 「司法修習生に対する経済的支援」として実施されている兼業許可の運用を修習専念義務の空洞化につながらないよう速やかに見直し、司法修習生の地位・身分を明確化し、司法修習の充実を図ること

を求める。
以上、決議する。

2014年(平成26年)7月25日
北海道弁護士会連合会

提案理由

  1. わが国では、司法制度を支える人材たる法曹(裁判官、検察官、弁護士)の役割の重要性に照らし、質の高い法曹を養成する観点から、司法試験合格後、司法修習の過程を経て司法修習生考試に合格して初めて法曹資格を付与することとされている。そして、司法修習生には法曹に準じた守秘義務のみならず修習専念義務が課されている。このため、司法修習生はアルバイトその他の経済的利益を得るための活動を原則として禁止されてきた。
    この修習専念義務は、司法修習生が司法制度を支える法曹として国民の権利義務に深く関わる職責を担うための高い識見・倫理観と健全な常識を養い、法律に関する理論と実務を習得するために不可欠のものであって、厳格に守られるべき義務である。
    かかる意味において、司法修習期間中の給与等を支給する「給費制」は、司法修習生を修習に専念させるための制度的保障であって、司法制度を担う人材を国費で養成することは国の責務であるという理念に基づき、1947(昭和22)年の司法修習制度創設以来64年間にわたって維持されてきた制度である。そしてこの国の責務が果たされることによって、国民の基本的人権の保障や、社会正義の実現が図られることになる。
    そうであるにもかかわらず、2011(平成23)年11月、司法修習生に対する給費制が廃止され、これに代えて、必要とする修習生には司法修習費用を貸し付ける「貸与制」が開始された。

  2. 司法修習費用の給費制を廃止し、貸与制を導入する際、その理由として「給費制は国民の理解を得られない」というものが挙げられていた。多くが公務員でない弁護士になるにもかかわらず、司法修習生に国費を投入することについて、国民は納得するはずがないとの予断に基づく理由であった。
    当連合会は、従前より、政府が国民に対して司法修習費用の給費制について理解を求めたことはなかったことを指摘し、その根拠の薄弱さについて批判してきたが、むしろ、現在においては、以下の通り給費制について国民の理解が得られつつある。
    (1)まず、2013(平成25)年の当連合会定期大会決議でも触れたとおり、同年4月から5月にかけて実施された、法曹養成制度検討会議(以下「検討会議」という。)の「中間的取りまとめ」に対するパブリック・コメントにおいて、合計3119通もの意見が寄せられたところ、そのうち2421通が「法曹養成課程における経済的支援」に関するものであった。しかも、その圧倒的多数が司法修習費用の給費制を復活させるよう求める趣旨のものであり、現状の貸与制で良いとの意見はわずか8通であった。かかるパブリック・コメントの結果は、「給費制は国民の理解を得られない」との給費制廃止の前提理由と矛盾するものである。

    (2)また、昨年の10月から本年2月まで、日本弁護士連合会、司法修習生に対する給与の支給継続を求める市民連絡会及びビギナーズ・ネットは、共同で、
    ① 司法修習生の地位・身分を明確化すること
    ② 一旦廃止された給費制の復活,少なくともそれに準じた修習の実態に即しかつ充実した修習を可能とする給費を実現すること
    ③ なし崩し的な緩和を認めない厳しい修習専念義務下で,司法修習生が,より充実した司法修習を行うこと
     という3点を要請内容とする「司法修習生に対する給費の実現と充実した司法修習を求める団体署名」を実施し、当連合会及び道内の各弁護士会においても、この団体署名に精力的に取り組んだ。
    その結果、昨年10月21日から本年2月28日までの実施期間の間に、全国で1442の団体および714の個人からなる合計2156筆の賛同署名が寄せられた。なお特筆すべきは、日本医師会、日本歯科医師会、日本公認会計士協会、日本弁理士会、日本青年会議所及び全国農業協同組合連合会などわが国のインフラを担う主要な団体が名を連ねたことである。北海道内においても、北海道医師会、北海道歯科医師会、札幌市医師会、札幌歯科医師会、北海道薬剤師会、北海道看護連盟、北海道保険医会、札幌青年会議所及び帯広商工会議所など132団体から賛同が得られた。
    われわれは、これまで、これらの団体に対して司法修習生の給費制について理解を求める努力が必ずしも十分ではなかったことを反省し、このたびの団体署名の取り組みにおいては、各団体に対して給費制の意義と必要性について説明を尽くしたところ、各団体から理解と賛同を得ることができた。

    (3)これらはまさに、一般の国民からも、給費制の意義と必要性について十分に理解が得られることの証左にほかならない。
    冒頭で述べた「国民の理解が得られない」との給費制廃止の理由が誤りであることが明らかになったからには、給費制廃止という誤りを見直し、 速やかに給費制の復活を実現するべきである。

  3. 第65期・第66期の司法修習は既に終了し、第67期司法修習生は全国各地で分野別実務修習に従事しているが、貸与制の下で司法修習を受けることを余儀なくされた司法修習生の不平等感、将来に対する経済的不安感は深刻なものである。とりわけ、2018(平成30)年に返済が現実化し、一度でも支払を怠れば、遅延損害金も含めて一括返済を迫られかねない第65期司法修習生であった者達の経済的不安感、焦燥感は日に日に増している。
    また、貸与制が法曹志望者数の減少傾向に拍車をかける一因にもなっていることは、国会審議や法曹養成制度改革顧問会議の議論においてもつとに指摘されている。
    したがって、司法修習費用の給費制を復活させる立法措置がとられるに際しては、第65期・第66期司法修習生であった者達及び第67期司法修習生に対し、貸与金の返還免除等の遡及的な救済措置を速やかに講じることもまた必要不可欠である。 そして、かかる遡及的な救済措置は、貸与金の実際の返済をめぐる弊害が現実化していない現時点で実施してはじめて救済策としての十分な効果が得られるものであるから、貸与金の返済開始前の今だからこそ、速やかに救済措置が講じられなければならない。

  4. 「法曹養成制度検討会議取りまとめ」(以下「検討会議取りまとめ」という。)においては、あくまで貸与制を維持した上での司法修習生に対する「経済的支援」として、修習専念義務を維持しつつも兼業禁止についての従来の運用を緩和して「司法修習生が休日等を用いて行う法科大学院における学生指導をはじめとする教育活動により収入を得ることを認める」とされ、昨年11月から修習を開始した第67期司法修習生からかかる運用が実施されている。
    当連合会はこれまで、上記のような司法修習生の兼業許可に関する運用の緩和は、直ちに修習専念義務それ自体の事実上の緩和につながるものであり本末転倒であること、旭川、釧路及び函館の三弁護士会の管内には法科大学院が存在しないため、これら各修習地で実務修習を行う司法修習生は、そもそも休日等を利用しても法科大学院での学生指導などは事実上困難であることを指摘してきた。
    そもそも、兼業禁止についての従来の運用の緩和は、いわば自らの努力で生活費を得よというに等しく、国が実施する「経済的支援」の名に値しない。また、国の三権の一翼を担う司法制度の中で「国民の裁判を受ける権利を守ることのできる法曹」を育成するため司法修習生は修習に専念すべきとされている(修習専念義務)ところ、むしろ、修習中必要な生活費を工面するために平日の終業後ないし休日等にアルバイトを認めるということが、修習専念義務の理念に反することは明らかである。
    よって、かかる修習専念義務の空洞化につながる兼業許可の運用の緩和を見直し、司法修習を充実させることこそを求めるべきである。
    そして、充実した司法修習を実現させるためには、司法修習における修習生の地位・身分を明確化した上で、司法修習生が行う具体的な各修習について法的な根拠づけを与えるべきである。また、司法修習生の地位・身分を明確化することは、給与・各種手当(住宅手当等)の付与や、共済組合への加入などといった修習生に対する経済的支援を根拠づけるものともなるため、この観点からも司法修習生の地位・身分の明確化が必要不可欠である。

  5. 当連合会は、これまでも継続して、司法修習費用の給費制の維持ないし復活に向けた運動に取り組んできたが、この間、パブリック・コメントおよび団体署名に取り組む中で、司法修習費用の給費制を復活させることには、国民の理解と支持が得られるとの確信が年々増している。
    また、政治の場面においても、自由民主党司法制度調査会において、2014(平成26)年4月9日に「法曹人口・司法試験合格者数に関する緊急提言」が発表された後、司法修習生の経済的支援をめぐる問題についても議論が続けられている状況にある。また、公明党法曹養成に関するプロジェクトチームの「法曹養成に関する緊急提案」において、「司法修習生に対する経済的支援を充実させることは,法曹養成に対する国家の意思を明確に示すことになる」「司法修習生の地位・身分を明確化し,司法修習の充実を図るとともに,少なくとも研修医に準じてその経済的支援を行うべきである」との提言がなされている。このように、充実した司法修習を実現するために司法修習期間の生活を維持するに足る程度の一律定額給費を行う必要性について、与党においても前向きの議論がなされている状況にある。
    都道府県議会においても、「司法修習生への『給費制』が『貸与制』へ移行されたことで、新規登録時に多額の負債を抱える弁護士が多数生じる」ことへの懸念を示した北海道議会意見書(2013(平成25)年7月5日)や、「司法修習生の修習資金については、貸与制を廃止し、給費制を復活させること」を国に対して強く要望する静岡県議会意見書(同年10月17日)をはじめ、貸与制の弊害に言及し、あるいは給費制復活を求める等の意見書が各地で採択されている。

  6. 以上述べたとおり、国民及びその民意を基盤とする政党・地方議会において、司法修習の充実及び司法修習費用の給費制復活を求める声が上がっており、給費制の復活等の必要性に関する国民の理解は得られつつある。
    当連合会では、2009(平成21)年から2013(平成25)年までの間、合計4回にわたり、司法修習費用の給費制の維持ないし復活を求める大会決議を採択してきたが、法曹養成制度改革顧問会議において、司法修習制度及び司法修習生に対する経済的支援に関する問題が議論されている現在の状況下でこそ、政府および国会は、上記のような情勢の変化をふまえて速やかに必要な立法措置を講じなければならない。
    以上の理由から、本決議案を提案する次第である。

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