ホーム >> 道弁連大会 >> 25年定期大会決議 >> 議案第4号(決議)

道弁連大会

議案第4号(決議)

4会共同提案

犯罪被害者等に対する経済的支援の拡充のため、現行の犯罪被害給付制度を抜本的に改革し、新たに犯罪被害者補償制度の創設を求める決議

生命身体に対する犯罪による被害者及びその遺族(以下「被害者等」という。)には、十分な経済的支援が必要である。
被害者等の多くは、事件後に稼働困難となって失職したり、転職を余儀なくされて収入が激減したりするなど、経済的に逼迫した状態に陥りがちである。
被害者等の救済等を定める犯罪被害者基本法(以下「基本法」という。)では、「個人の尊厳が重んじられ、その尊厳にふさわしい処遇を保障される権利」が認められているところ(基本法第3条1項)、その尊厳にふさわしい処遇には、経済的支援を受ける権利も含まれている。その一方で、国は、「犯罪被害者等のための施策を総合的に策定し、及び実施する責務」を有している(基本法第4条)。
かかる基本法の下、現行の犯罪被害給付制度として、「犯罪被害者等給付金の支給等による犯罪被害者等の支援に関する法律」(以下「犯給法」という。)に基づく犯罪被害給付制度が存在する。
しかしながら、同法は、見舞金的性格ないし損害の早期補填という性格が強く、重傷病給付金の中で治療費は休業損害と合わせても120万円までしか支給されない等、完全補償ではない。また、介護費用、付添看護費、カウンセリング費用、自宅改造費等の医療関係費は全く補償されていない。しかも、一時金が一回支払われるのみで、事件後の収入減に対する補償はない。
現行犯給法は、基本法に定める被害者等の経済的支援を受ける権利を実現しているとは、到底いえない。
そこで、当連合会は、国に対し、上記権利を実質的に保障するために、犯給法を抜本的に見直し、次のとおり、経済的に困窮している被害者等に途切れることなく十分な補償がなされ、かつ、被害を受ける前の平穏な生活を取り戻すことができる生活保障型の新たな犯罪被害者補償制度の創設を求める。

  1. 被害者等には経済的補償を受ける権利があることを踏まえ、給付金を、見舞金的なものではなく、完全補償型の補償額とする。
  2. 治療費のほか、通院交通費、付添看護費、カウンセリング費用、リハビリ費用等の緊急性の高い医療関係費を、全額無償かつ現物給付として迅速かつ完全な補償とする。
  3. 住宅や自動車の改造等の環境整備費、車いす・義足等の装具費を、必要性が認められる限り、全額補償する。
  4. 被害者等が完治するまでの間又は症状が固定するまでの間に休業したときは、全額休業補償する。
    また、被害者に相当級以上の後遺障害が残った場合は、事件前の収入額に回復するまでの間、年金を支給する。
  5. 親族関係等による一律の支給制限を設けない。
  6. 過去の犯罪事件による被害であっても、現に経済的に困窮している被害者等に対し、遡及して相当な範囲で補償する。

以上、決議する。

2013年(平成25年)7月26日
北海道弁護士会連合会

提案理由

  1. 被害者等の実情 犯罪被害者(生命身体等を保護法益とする故意犯の被害者)及びその遺族(本決議において「被害者等」という。)に対しては、経済的支援が必要であるが、特に、凶悪犯罪によって生命が奪われ、家族を失い、傷害を負わされ、財産を奪われた被害者等については、被害が深刻であり、十分な経済的支援が特に必要である。
    すなわち、高額な医療費の負担や収入の途絶等により、経済的に困窮することが少なくない。さらに、自宅が事件現場の場合や加害者から逃れる必要がある場合には、住居を移す必要も生じ、移転のために多額の費用が掛かる。
    犯罪被害に対する周囲の配慮は十分ではなく、刑事裁判手続に関与する時間的、経済的負担についても理解が乏しく、近隣関係ばかりか、雇用関係の維持にも困難を来たすことが少なくない。
    2011年(平成23年)1月に開催された全国犯罪被害者の会(あすの会)の大会では、凶悪犯罪に遭われた被害者等が、経済的困窮の実態を赤裸々に語っている。
    ① 子どもが重傷を負い、病院に緊急搬送されて入院治療が開始されたが、親にお金がなく、付き添いのベッドを借りられずに椅子に座ったまま寝ざるを得ず、また、医師から退院は早すぎると止められたが、入院費が支払えなくなる心配から早めに退院したところ、子どもの傷口が開いてひどく出血して、再度病院に戻ることになった。
    ② 駐車場で若者グループと口論になり、殴られて転倒して後頭部を地面に打ち付け、意識不明のまま病院に搬送され、緊急手術を受けて命は取り留めたが、重い後遺障害が残った。失業して収入はゼロ。
    犯給金の支給では、被害者本人にも落ち度があるとされて、支給額が3分の1の419万円に減額され、生活保護も預貯金が10万円以上あるということで、受給できない。3か月の入院費用は姉が立て替えてくれたが、治療代、薬代、交通費のほか付添人費用も掛かり、もっと通院治療を続けなければならなかったのに、経済的理由から治療を止めざるを得なかった。
    ③ 隣人同士のトラブルの末、散弾銃を持つ男に妻が撃たれて重傷を負い、緊急入院。右手は痺れがひどく、左手は全く機能せず、左目は義眼、現在も通院中。入院費用は400万円。介護保険の申請をしたが対象外と言われた。自宅に戻ってからはバリアフリーの改造費、車いすの費用、車の改造費、義眼、義足の費用を自費で支払った。給付金では到底足りない。夫は、妻の介護のために仕事を辞めざるを得なかった。
    このように、被害者等は、人間としての尊厳が守られているとはいえない生活状況に追い込まれている。被害者等は、基本法により、尊厳にふさわしい処遇を保障される権利が認められ、その内容として、経済的補償を受ける権利があるはずであるが、実情はこの理念と程遠いものである。

  2. 補償の基本理念 被害者等は、個人の尊厳が重んじられ、尊厳にふさわしい処遇が保障される権利を有する(基本法第3条1項)。また、被害者等のための施策は、被害を受けたときから再び平穏な生活を営むことができるようになるまでの間、必要な支援等を途切れることなく受けることができるよう、講ぜられるものであり(同法第3条3項)、国は、この基本理念にのっとり、被害者等のための施策を総合的に策定し、実施する責務を有する(同法第4条)。さらに、給付金の支給に係る制度の充実については、国及び地方公共団体は、被害者等が受けた被害による経済的負担の軽減を図るため、被害者等に対する給付金の支給に係る制度の充実等、必要な施策を講ずるものとするとされた(同法第13条)。
    以上の基本理念の下、2005年(平成17年)に閣議決定された第1次犯罪被害者等基本計画では、被害者等の損害回復・経済的支援等への取り組みが重点課題とされ、2008年(平成20年)には犯給法の改正等の支援の拡充がなされた。その後、2011年(平成23年)に閣議決定された第2次犯罪被害者等基本計画でも同様に、重点課題としての取り組みが確認されている。
    国が被害者等に対して補償を行う根拠は、国民の誰もが被害者等になり得るため相互共助の精神から被害者等に補償を行うべきとする考え方と、国は犯罪から国民を保護する義務を負っているにもかかわらず、かかる義務に違反して被害者等に犯罪被害が及んだために補償するという考え方がある。いずれにしても、基本法により被害者等にその尊厳にふさわしい処遇が保障されている以上、被害者等には国に補償を求める権利があり、国は直接被害者等に対し、経済的補償をする義務を負っているというべきである。
    かかる被害者等の権利は、個人の尊厳を保障する憲法第13条に基づくものであり、最大限尊重されなければならない。そして、被害者等が個人の尊厳を取り戻すためには、その前提として、経済的に救済されることが必要不可欠である。
    現行の犯給法の基本理念は、加害者にまず一義的な責任があるとし、国は社会連帯共助の精神から給付金を支給して、被害の軽減を図るというものである。したがって、給付金は、見舞金的なものとして低額であるほか、損害の一部しか補?されないものになっている。 しかし、被害者等は国に対して補償を求める権利を有し、国は被害者等に対する補償義務を負うと考えるならば、現行の犯給法の基本理念とは相容れない。もはや現行の犯罪被害給付制度の見直しではなく、基本法に基づく、被害者等のための新たな補償法を制定すべきである。

  3. 日本弁護士連合会等の取り組み
    日弁連は、2003年(平成15年)の人権大会において、「犯罪被害者の権利の確立とその総合的支援を求める決議」を採択し、被害者等が大きな打撃から立ち直り、憲法によって保障された幸福な生活を追求することができるようにすることは、国と社会の責務であるとし、国に対し、犯罪被害者基本法の制定のほか、生命・身体に対する被害を受けた被害者等が、十分な経済的支援を受けられる制度を整備することなど、合わせて5つの施策を求めた。また、2006年(平成18年)11月、「犯罪被害者等に対する経済的支援拡充に関する意見書」により、基本法による新たな被害者補償の基本理念を踏まえ、現行の犯給法を改め、新たに犯罪被害者等補償法を制定すべきであるとする意見を表明している。さらに、2010年(平成22年)10月、「第2次犯罪被害者等基本計画(仮称)案骨子に対する意見書」により、給付金の支給に係る制度の充実等につき、犯罪被害給付制度の改正や運用の改善によるのではなく、新たに犯罪被害者補償制度を制定し、被害者等に補償を受ける権利があることを明示した上で、補償請求手続の簡易迅速化、補償の項目や支給額の改善を図るべきであると表明している。
    加えて、日弁連は、被害者等を支援する制度の創設に関し、2012年(平成24年)3月、「被害者法律援助制度の国費化に関する当面の立法提言」を表明し、日弁連が日本司法支援センターに委託して実施している被害者法律援助事業について、無料法律相談制度の創設、国費による援助制度等、事業内容を整備し、援助費用については全面的に国費負担とするべく、総合法律支援法をこれに沿って改正すべきであるとした。
    道弁連においても、2000年(平成12年)7月28日に旭川市で開催された定期大会において、「犯罪被害者の権利の確立を求める宣言」を採択し、被害者等の権利を明記した基本法制定の必要性を指摘するとともに、医療費や休業補償の算定項目もなく、極めて不十分な補償しかなされないでいる犯給法の問題点を指摘するなどして、経済的に困窮する被害者等を救済するための被害補償制度の充実を訴えたが、12年を経過した現在もなお、被害者等に対する経済的補償は極めて不十分なままである。

  4. 必要とされる具体的な施策
    基本法の基本理念に基づき、被害者等に経済的負担を与えずに、十分な医療を受けることができるようにするとともに、事件前の平穏な生活を取り戻すことができるよう、新たな生活保障型の補償制度を創設すべきである。具体的には、
    (1)医療費、カウンセリング費用、リハビリ費用、通院費等の医療関連費用については、必要性が認められる限り、無償かつ現物給付とすることで、迅速かつ完全な補償がなされるべきである。また、介護費用についても全額補償すべきである。
    (2)住宅・自動車改造等の環境整備費、車いす・義肢等の補装具の費用、転居費用、事件現場清掃費用
    等についても、必要性が認められる限り全額補償すべきである。車いす・義肢等の補装具については、現物給付が望ましい。
    (3)性犯罪については、妊娠等の検査費用、緊急避妊費用、性病治療費等を全額補償する。
    (4)葬式費用については、200万円を限度に補償すべきである。遺体搬送費用は、全額補償する。
    (5)死亡の場合、一時金のほかに、被害者と生計を共にしていた家族に対し、事件前の生活を取り戻すことができるまでの期間、年金を支給すべきである。後遺障害の場合は、一時金支給のほか、相当級以上の後遺障害を被ったときは、事件前の収入額に回復するまでの期間、年金を支給すべきである。
    (6)重傷病は、その程度に応じて、一時金を支給する。
    (7)被害者が完治するまで、又は症状が固定するまでの間に休業したときは、全額休業補償する。

  5. また、制度の構想に当たり、被害者等には補償を受ける権利があることを前提にして、次の手続的事項が検討されるべきであろう。例えば、
    (1)支給制限
    現行の犯給法は、主に通り魔事件を念頭に置いているため、親族関係や取引関係等、一定の人的関係があるときの犯罪については、不支給ないし減額の措置が採られる。しかし、殺人事件等は一定の人間関係があるところに発生することが事例としては多いことから、支給することが社会的に相当でないと認められる場合を除き、このような制限をするべきではない。
    (2)遡及効
    現に経済的に困っている被害者等がいるのに、新制度の施行後の被害者等しか救われないというのは正義に反することから、緊急性の高い、年金・医療関係費の現物支給や休業補償に限り、過去の被害者等にも将来に向かって支給すべきである。
    (3)手続の簡易化
    現行の犯給法は手続が煩瑣であり、支給決定まで相当期間を必要とする。新たな制度の導入にあたっては、被害者等にとって利用しやすいものにするため、補償請求手続の簡易迅速化が図られるべきである。

  6. 内閣府において、学者や弁護士等の有識者で構成される「犯罪被害給付制度の拡充及び新たな補償制度の創設に関する検討会」を立ち上げ、新たな犯罪被害者補償制度の創設に向けて、2011年(平成23年)6月8日から現在に至るまで、既に十数回の検討会を開催して協議を重ねられているが、立法に当たっては本決議の内容が十分に織り込まれるよう強く求める。

  7. 以上の理由から、本決議案を提案する次第である。

このページのトップへ