ホーム >> 道弁連大会 >> 23年定期大会決議 >> 議案第3号(決議)

道弁連大会

議案第3号(決議)

司法修習生の修習費用給費制の存続を求める決議

  1. 2010(平成22)年11月26日,司法修習生に対する修習費用の給費制に代えて修習資金を国が貸与する制度(貸与制)の施行を,本年10月31日まで停止し,その間,暫定的に司法修習生に対して給与を支給するという「裁判所法の一部を改正する法律」が可決成立した。その際の衆議院法務委員会での付帯決議に基づき,本年5月13日には,「法曹の養成に関するフォーラム」が設置され,同フォーラムでは本年8月末までに給費制の存廃につき一定の結論を出す見込みであり,今まさに給費制が維持されるかどうかの瀬戸際にある。
  2. そもそも司法制度は,民主主義国家としての根幹となる制度の1つであり,日本国憲法上にも位置づけられている社会インフラの1つである。したがって,その整備は当然ながら国の責務であるが,司法制度の主たる担い手が法曹であるからには,その養成も司法制度の基盤整備の1つに他ならないのであって,国は法曹養成に必要な国費を投じる責務があると言うべきである。
    また,法曹養成の過程である司法修習においては,兼業禁止をはじめとする厳格な「修習専念義務」が課されており,個々の修習生の実務修習地が本人の希望に沿わない遠隔地に指定されることもままある。修習専念義務そのものは緩和すべきではなく,これを課したまま給費制が廃止されれば,修習生は,経済活動の自由や居住移転の自由という憲法上の基本的人権が制約される一方,何らの代償措置もなく生活費等の自弁という経済的自己犠牲を強いられることになる。たとえ貸与制が導入されたとしても,かかる自己犠牲を強いられる点に変わりはない以上,これは給費制の代替措置にはなり得ない。
  3. 仮に貸与制が導入された場合,司法修習生の収入は「0」となる。司法修習生は,実務修習の開始時までに自らの実務修習地に赴任しなければならないが,収入が「0」では住居を賃借することすらままならないし,労働による収入の道が閉ざされているのに修習期間中の社会保険料の負担を余儀なくされる。このため,給費制の廃止によって,特に経済的に恵まれていない者にとっては,法曹という進路を目指すことがますます難しくなることが強く懸念される。

    また,現に予定されている貸与制においては,2名の保証人を立てることが要求されるが,かかる保証人が用意できない修習生は,否応なく特定の金融業者との間で保証委託契約を締結して自ら保証料を支払わなければならなくなるのである。これでは,国が司法制度の基盤整備にかかる責務を果たしているとは到底いえない。貸与した修習資金の回収コストについての検証が十分なのかどうかも甚だ疑問であるなど,貸与制それ自体に大きな問題がある。
  4. 法科大学院においては,近時,その志願者数の低下傾向が顕著である。これは,新司法試験の受験資格である法科大学院の修了までに,学費や生活費のための奨学金等の借り入れ額が高額に及ぶ例が少なくないためばかりでなく,司法修習生の就職難が年を追うごとに深刻化し,若手弁護士を中心に収入減などの経済的不安が急速に広がっている現状が大きな要因となっていることは疑いない。かかる状況下で,さらに給費制を廃止して貸与制に移行することは,法曹を目指して法科大学院に志願する者の数をいっそう減少させ,ひいては,わが国の司法制度そのものを弱体化させる危険すら包含しているといっても過言ではない。
  5. 本年3月11日,東日本大震災と,これに続く東京電力福島第一原子力発電所の重大事故により,未曾有の被害が発生しつつある。今なお多くの被災者の方々が住居や収入の途を失って避難所等での生活を余儀なくされるなど,苦悩の日々を送っており,迅速かつ適切に対応することが求められている。これに対し,当連合会を構成する4単位会とその会員は,日本弁護士連合会や被災地の単位弁護士会と連携をとりながら,無料電話相談や出張相談,被災地への弁護士派遣などの被災者支援活動に取り組んでいる。

    文字通り戦後最大の国難を乗り越えようとしている今,当面の被災地復興支援等のための緊急的な財政措置を講じることが焦眉の課題ではあるが,あるべき国の姿を検討し,その中で司法制度及び法曹が果たすべき役割を見据えた冷静な制度設計もまた必要不可欠である。少なくとも,太平洋戦争直後の1947(昭和22)年以来60年以上にわたり給費制が維持されてきたという歴史的事実は決して軽視されるべきではない。
  6. 当連合会は,給費制が,司法修習生やその大多数の進路となる弁護士に個人的な便益を与えるための制度ではなく,前途有為かつ多様な人材が法曹を目指しやすい環境を整備することによって,将来的には国費で養成された法曹が司法制度を支え,国民の基本的人権の擁護と社会正義を実現するための制度的担保となるべき制度なのであって,給費制維持は国民のためにも必要であると私たちは確信している。

    よって,当連合会は,ここに改めて,司法修習生の修習費用給費制の存続を強く求めるものである。
    以上,決議する。

2011(平成23)年7月22日
北海道弁護士会連合会

提 案 理 由

  1. 貸与制の施行予定時期,法曹養成フォーラムの開催
    司法制度改革審議会は,2001(平成13)年6月12日付の最終意見書において,司法修習生に対する給費の支給(給費制)の在り方を検討すべきであることを示した。これを具体化する過程において,司法制度改革推進本部法曹養成検討会は,2004(平成16)年9月,司法修習生の給費制の廃止及び修習資金の貸与制の実施に関する意見を打ち出した。これを受けて,国会は2004(平成16)年12月,給費制を廃止し,修習資金の貸与制を実施することを内容とする裁判所法の改正を可決成立させた。

    これに対し,日本弁護士連合会は給費制対策本部を設置して給費制の維持を求める運動を展開し,ほぼ全ての単位会が給費制の堅持を求める決議や声明を出した。その結果,当初は2006(平成18)年11月1日から貸与制への移行が予定されていたものの,裁判所法改正の段階では,これより4年間も貸与制への移行が延期された。

    貸与制への移行を目前に控えた昨年,日本弁護士連合会及び全国の単位会では,給費制の維持を求める運動に精力的に取り組んだ結果,いったん改正裁判所法が施行された後の11月26日,貸与制への移行をさらに延期し,その実施予定日を本年11月1日とする法律が国会で可決成立した。これに際し,衆議院法務委員会においては,昨今の法曹志望者が置かれている厳しい経済状況にかんがみ,それらの者が経済的理由から法曹になることを断念することがないよう,政府及び最高裁判所に対し「①平成23年10月31日までに個々の司法修習終了者の経済的な状況等を勘案した措置の在り方について検討を加え,その結果に基づいて必要な措置を講ずること。②法曹の養成に関する制度の在り方全体について速やかに検討を加え,その結果に基づいて順次必要な措置を講ずること」について格段の配慮をすべきであるとの附帯決議がなされた。

    かかる附帯決議を踏まえ,本年5月13日,内閣官房長官,総務大臣,法務大臣,財務大臣,文部科学大臣及び経済産業大臣の申し合わせで「法曹の養成に関するフォーラム」が開催されることが発表された。同フォーラムにおいては,司法制度改革の理念を踏まえるとともに,2010(平成22)年7月6日付「法曹養成制度に関する検討ワーキングチーム」の検討結果(取りまとめ)及び同年11月24日付衆議院法務委員会決議(上記)の趣旨を踏まえつつ,(1)個々の司法修習終了者の経済的な状況等を勘案した措置の在り方,(2)法曹の養成に関する制度の在り方,の2点につき検討がなされることとなった。特に,給費制の存廃に関しては,本年5月25日から8月30日までのべ5回にわたる会議を経て,「第一次取りまとめ」として一定の結論が出される見込みである。
    したがって,今まさに,給費制が維持されるか,貸与制に移行してしまうかどうかが決せられる瀬戸際にある。
  2. 司法制度の位置づけについて
    そもそも「司法」とは,立法・行政と並ぶ国家の三権の1つであり,「司法制度」とは,この司法権という国家作用を発動するための制度であるから,これはわが国の社会インフラの1つにほかならない。そして,司法権こそ,日本国憲法がその基調とする国民主権,基本的人権の尊重,平和主義の原則にとっての最後の砦ともいえるものであるから,司法制度とは,わが国の社会インフラの中でも民主主義国家としての根幹として位置づけられるべき制度の1つなのである。

    かかる司法制度の担い手の中心は,法曹有資格者である裁判官,検察官,そして弁護士である。このうち,弁護士は,国家公務員として当然に公共的性格を持つ裁判官や検察官とは異なり,民間事業者として位置づけられてはいるものの,これが法曹人口の大多数を占めている。そして,刑事裁判は,弁護士が被告人の弁護人となることが日本国憲法そのものの要請であること,民事裁判では,一部の例外はあるものの,弁護士が当事者の代理人となって訴訟提起,追行することによって機能していることから見ても,弁護士は,司法制度において欠くことのできない重要な位置を占めているのであり,その意味において,他の民間事業者とは異なる公共的性格を有している。

    したがって,法曹三者いずれの立場にあろうとも,国民の権利義務に深く関与して基本的人権の尊重に寄与し,かつ,司法制度という憲法上の社会インフラの基盤となっているのであり,その意味において公共的性格を有する存在である。

    このように,司法制度が憲法上の社会インフラとして位置づけられているからには,これを整備する責務は当然ながら国にあるが,司法制度の担い手の中心が法曹である以上,その養成は司法制度の基盤を整備することに他ならないから,国は法曹養成に必要な国費を投じ,司法制度を整備する責務を果たさなければならないのである。
  3. 修習専念義務について
    言うまでもなく,司法修習制度は,司法制度の基盤ともいうべき法曹を養成する制度である。同制度は,いずれ法曹三者としてわが国の司法制度の運営に携わることとなるであろう司法修習生に対し,国民の権利義務に深く関わる職責を担うための高い識見と円満な常識を養い,法律に関する理論と実務を習得させることを目的としている。
    そして,かかる司法修習の目的を達成するため,司法修習生には,厳格な修習専念義務(司法修習の期間中,その全力を用いてこれに専念する義務)が課されている。

    その具体的現れとして,司法修習生は,司法修習期間中においては,兼業が禁止され労働による収入確保の道が閉ざされており,その意味において経済活動の自由が奪われている。また,司法修習を行う修習地については,司法研修所長が指定する全国各地の地方裁判所所在地で行うものとされていることから,司法修習生の希望に沿わない遠隔地での修習が強いられることもままあり,その意味において,司法修習生は,居住移転の自由も大幅に制約されている。

    かかる修習専念義務は,司法修習生をして司法修習に専念させ,もって司法修習の目的を達成するための不可欠の前提であって,いささかも緩和すべきではない。

    しかしながら,仮に司法修習生に修習専念義務が課されたままに給与制が廃止されることになれば,それは,司法修習生が,1年間にもわたる司法修習期間中,経済活動の自由や居住移転の自由という憲法上の権利を制約される一方で,何らの代償措置が取られることもなく,その間の生活費や移動費用等を一切自弁するという自己負担を強いられることに他ならない。仮に,給費制に代わって貸与制が導入されたとしても,貸与金の返済が義務づけられている以上,かかる基本的人権の制約に対する代償措置とは言えず,司法修習生に自己負担を強いることに変わりがない以上,貸与制はおよそ給費制の代替措置にはなり得ない。

    このように,修習専念義務の内容と,これを司法修習生に課すべき必要性,その結果司法修習生が受ける基本的人権の制約の程度に鑑みれば,修習費用の給費制は今後とも維持されて然るべきである。
  4. 貸与制導入の弊害について
    もしも貸与制が導入された場合,司法修習生の収入は「0」となってしまう。

    司法修習生は,最高裁判所の辞令により,司法研修所長の決めた実務修習地に赴任しなければならないが,収入が「0」では,実務修習地での住居を賃借することすらままならない。実際のところ,いったん貸与制への移行が行われた時点で,新64期司法修習予定者が民間住宅の賃借を断られたというケースや,貸与申請ができない事情を抱える修習生が遠隔地の修習地という辞令を受けて修習を辞退したというケースも報告されている。のみならず,給費制が廃止されると,司法修習生は裁判所共済組合にも加入できなくなり,労働による収入の道が閉ざされているにもかかわらず,修習期間中の社会保険料の自弁を余儀なくされる。

    このような理由から,特に経済的に恵まれていない者にとっては,これまで以上に法曹という進路を目指しにくくなることが強く懸念され,ひいては,法曹を目指す者が,一定以上の経済的基盤を持つ階層に属する者に集中し,法曹の輩出母体の固定化につながる危険をもはらんでいる。
    さらに,貸与制それ自体にも大きな問題がある。

    第1に,現に予定されている貸与制においては,自然人2名を保証人とすることが要求されるが,そもそも保証人を立てられない者も相当数存在するはずであり,そのような者が修習資金の貸与を受けようとする場合,否応なく最高裁判所の指定する特定の金融業者との間で保証委託契約を締結し,司法修習生自ら保証料を支払うという制度設計になっている。かかる制度設計の下では,修習資金という法曹養成上の重要なコストを国が最終的に負担しない構造になっており,国が司法制度の基盤整備の責務を果たしているとは到底いえない。

    第2に,貸与された修習資金の回収コストについての検証が十分なのかどうかも甚だ疑問である。仮に,今後とも司法試験の合格者数が2000人程度で推移するとすれば,最大で,年間3万人(=2000人×(据置期間5年+返済期間10年))程度の債権管理が必要となるが,これに要するコストがどの程度であると試算されているのか,そのコストを新たに負担してでも給費制を廃止することによる弊害を上回る財政的メリットが発生するのか,未だ明らかにはされていない。
  5. 法科大学院志望者数の減少傾向について
    現行の法曹養成制度においては,法科大学院の修了が新司法試験の受験資格とされているが,当の法科大学院においては,近時,その志願者数の減少傾向が著しい。すなわち,法科大学院が創設された2004(平成16)年度においては,志願者数(複数校志願者の重複を含む)は7万2800人であったが,わずか4年後の2008(平成20)年度には3万9555人,2009(平成21)年度は2万9714人,そして2010(平成22)年度は2万4014人まで落ち込んでいる。それとともに,法科大学院における社会人入学者の割合の減少もまた顕著である。
    すなわち,現状は,多様で有為な人材を幅広く集めようとした今次司法制度改革の方向性とは逆行した現象が生じつつあると言わざるを得ない。

    これは,法科大学院の修了までに要する学費や生活費のための借り入れが高額になっていることのみならず,この間の急激な弁護士人口増員のため,司法修習生の就職難が深刻化し,若手弁護士の間にも経済的不安が広がっていることが一般に周知されたため,法曹を志す者の心理に大きな影響を与えていることは疑いない。

    かかる状況の下,さらに司法修習費用の給費制を廃止して貸与制に移行するならば,法科大学院の学生は,学部生時代から最短でも約7年(=大学4年間+法科大学院既習コース2年間+司法修習約1年間),最長だと13年(=大学4年間+法科大学院未習コース3年間+司法試験受験期間5年間+司法修習約1年間)の間,学費や生活費等の工面ができなければ法曹になれない,ということになってしまい,さらなる志望者数の減少を招くことが容易に予想される。

    また,今次の司法制度改革が目指していたところの,多様な社会的背景を持った有為な人材が法曹界に参入するようになるためには,そもそも,多数の社会人経験を有する者が法科大学院に進学し,新司法試験,司法修習を経ることが必要不可欠であるところ,社会人は,学生と比較しても,現在の仕事を辞めることによる収入獲得手段の喪失というリスクをさらに背負っている。にもかかわらず,給費制を廃止して貸与制に移行すると,司法試験に合格してもなお,再び収入を得られるまでさらに1年を要することになるので,このリスクは一層大きなものとなり,結果として,社会人の法科大学院志願者数の減少傾向に拍車をかけることは疑いない。

    このように,給費制の廃止と貸与制への移行は,法科大学院の志願者,なかでも社会人経験者のさらなる減少を招く危険が大きく,今次司法制度改革の目指す方向からますます遠ざかるおそれが強いものと言わざるを得ない。
  6. 東日本大震災との関係
    本年3月11日,東日本大震災と,これに続く東京電力福島第一原子力発電所の重大事故により,未曾有の被害が発生しつつある。今なお多くの被災者の方々が住居や収入の途を失って避難所等での生活を余儀なくされるなど,苦悩の日々を送っており,迅速かつ適切に対応することが求められている。かかる未曾有の国難とも言うべき現状からすれば,できる限り復興予算を優先すべきであって,給費制の維持などもってのほか,という異論があるかも知れない。

    しかしながら,東日本大震災の発生直後から,当連合会を構成する4単位会とその会員は,日本弁護士連合会や被災地の単位弁護士会と連携をとりながら,無料電話相談や出張相談,被災地への弁護士派遣などの被災者支援活動に取り組んでいる。給費制を今後とも維持することは,間接的ながらもかかる公益的活動の制度的保障になるものである。

    文字通り戦後最大の国難を乗り越えようとしている今,当面の被災地復興支援等のための緊急的な財政措置を講じることが焦眉の課題ではあるが,他方で,あるべき国の姿を検討し,その中で司法制度及び法曹が果たすべき役割を見据えた冷静な制度設計もまた必要不可欠である。非日常的な問題の処理方法を出発点として,この国の司法制度のあり方を決するような議論はすべきではない。少なくとも,太平洋戦争直後の復興が始まったばかりの1947(昭和22)年に創設され,その後60年以上にわたって給費制が維持されてきたという歴史的事実は,決して軽視されるべきではない。
  7. おわりに〜給費制の維持は国民のためにも必要である
    確かに,給費制の維持によって第1次的に利益を享受するのは,司法修習生である。

    しかしながら,給費制は,司法修習生やその大多数の進路となる弁護士に個人的な便益を与えるための制度ではない。既に述べたとおり,給費制は,前途有為かつ多様な人材が法曹を目指しやすい環境を整備するために必要不可欠な制度であり,将来的には,国費で養成された法曹が司法制度を支え,国民の基本的人権の擁護と社会正義を実現するための制度的担保となるべき制度なのである。
    かかる意味において,給費制の維持は国民のためにも必要であると私たちは確信している。

    以上のとおり,私たちは,私たち法曹に課せられた責務としての公益的活動の重要性に思いを至しつつ,これからの司法制度を担う前途有為かつ多様な人材を法曹として養成するため,本年11月1日に迫りつつある貸与制への移行に強く反対するとともに,日本弁護士連合会や他の弁護士会連合会,単位会との連携を図りつつ,給費制の維持を目指す取り組みを継続する決意を新たにしつつ,本決議案を提案するものである。

以 上

このページのトップへ