ホーム >> 道弁連大会 >> 22年定期大会決議 >> 議案第2号(決議)

道弁連大会

議案第2号(決議)

「子どもの貧困」を解消しすべての子どもが健やかに成長・発達できる社会を実現するための決議

子どもは、権利の主体であるとともに、成長・発達していく存在である。子どもの健やかな成長・発達が、子どもの未来をつくり、社会の未来をつくる。子どもの権利は、社会全体でまもるべきものである。

子どもは、権利の主体として、幸福追求権(憲法13条)や法の下の平等(同14条)、生存権(同25条)、教育を受ける権利(同26条)を憲法上保障されており、当該社会において求められる生活レベルを下回るような生活によって、本来子どもに保障される権利が侵害されてはならない。

1989年(平成元年)国連で採択され、1994年(平成6年)に日本が批准した子どもの権利に関する条約においても、子どもの最善の利益をはかること(同条約3条)を基本として、子どもの生存権及び発達の権利(同6条)を保障した上で、子どもの身体的、精神的、道徳的及び社会的な発達のために相当な生活水準についての権利(同27条)が規定されているところである。

しかしながら、政府の2009年(平成21年)10月の発表では日本の7人に1人の子どもが経済協力開発機構(OECD)の定義による「貧困線」未満の水準の生活を強いられ、さらにひとり親世帯ではその割合は半分以上の子どもに及ぶというものであった。

実際、保険料の滞納により、十分な医療を受ける機会を奪われる子どもがいることや、学費が負担できず高校退学を選択せざるを得ない子どもや大学進学を断念せざるを得ない子どもがいることが取り上げられるなど、家族の経済的困難、社会的脆弱性と関わる子どもの貧困問題が表面化し、深刻化している。

特に、北海道においては、経済的理由により私立高校を退学する子どもの割合が全国の中でもとりわけ大きいことなどがわかってきており、道内における「子どもの貧困」はより深刻な状況となっている。

近時の調査・研究によれば、「子どもの貧困」が子どもの学力、健康に影響を及ぼすこと、虐待や非行との関連があることが明らかになっている。

しかも、「子どもの貧困」は子ども時代のみにとどまるものではない。子ども時代に十分な教育機会が得られなかったことにより、就労する年齢となっても、雇用機会に恵まれず、低所得のもとでの生活を強いられるなど、様々な形をとって、生涯にわたってそのリスクが継続・拡大していく。さらに、世代間を通じても影響を及ぼし、「子どもの貧困」がさらなる「子どもの貧困」を生み、貧困の連鎖が続くおそれが大きい。

このような「子どもの貧困」は、子どもの成長と発達の基盤を失わせるばかりでなく、子どもの将来への希望すら奪うものである。「子どもの貧困」の解消なくしてはいかなる子どもの権利保障も実現しない。また、子どもの貧困による社会的格差の存在が、子どもと親を無力にし、安定性と統合性を欠いた社会となる恐れすら生じる。その結果、実質的な民主制が損なわれた社会となりかねず、社会自体の未来すらも失ってしまうことになる。

したがって、貧困についてなんら責任のない子どもに不利益を被らせることがないよう、すべての子どもが健やかに成長・発達することが可能な社会を実現することが喫緊の課題である。

そこで、「子どもの貧困」に対する社会の認識が不十分な現状においては、社会の中にある「子どもの貧困は、親を含めた個人の責任である」との意識を改め、社会全体の問題であるとの認識を共有するための活動が必要である。

また、「子どもの貧困」は、いわゆる非正規・不安定雇用等により困窮する家庭が増加している中で、子どものいる家庭に教育費等の過大な負担が求められていることなどにより、子どもの生活環境・教育環境に必然的に格差が生じていることが大きな要因である。特に、日本では、税金等が未成年の子ども達を養育する保護者に適切に還元されず、所得再分配後の子どもの貧困率が再分配前より上昇するなど、現在の社会状況において制度的にも不十分な状況が続いていた。

したがって、家庭の経済状況による格差自体を是正することや、すべての子どもが健やかに生活するため、十分な生活環境・教育環境の整備のための諸政策が必要である。

当連合会は、すべての子どもが有利不利なく健やかに成長・発達することができるよう、「子どもの貧困」の実態を多角的かつ広範囲に調査・把握し、その解消のための包括的な諸政策の実施と利用しやすい政策の必要性を国及び地方自治体に訴えていくとともに、市民とともに「子どもの貧困」の解消に向けて活動し、子どもの権利救済のために全力で取り組む決意である。

以上、決議する。

2010年(平成22年)7月23日
北海道弁護士会連合会

提 案 理 由

  1. 「子どもの貧困」とは
    「子どもの貧困」というときの「貧困」とは、生活するために必要な食料や医療を欠くことで生命・身体に影響を及ぼすような「絶対的貧困」ではなく、当該社会において求められる生活レベルを下回るような「相対的貧困」を意味する。未来に向かって成長・発達する子ども期にあっては、教育、医療はもとより、余暇、レクリエーション活動、文化的生活、芸術活動についても、発達の諸段階を通じて平等に機会が提供されなければならず、経済的・社会的格差によって、本来受けるべき社会的な諸利益が奪われ、それが後の人生に影響を及ぼすようなことがあってはならない。
  2. 「子どもの貧困」の問題
    子どもが貧困であるということは,与えられるべきものが「与えられている子ども」と「与えられていない子ども」が存在し,未来ある子どもが生まれながらにして,自らに何らの責任のない理由によって,同じスタートラインに立って同じコースを走れないということを意味している。この与えられるべきものが「与えられていない」とは,単に物質的・経済的な意味ばかりでなく,本来得るはずであった種々の恩恵が得られなくなるということである。貧困下の子どもは,そのような恩恵を受ける機会を失い,基本的信頼や自尊感情を形成できなかったり,教育の機会が限られることで低収入の仕事にしか就けず,生活水準が低くなるというリスクが増大することになる。そのことは,当該子どものさらに子どもにも,「与えられるべきもの」を与えることができないことに繋がり,いわゆる貧困の連鎖が出来あがることになる。
    「子どもの貧困」という子ども間の格差は,子どもの学力や健康に影響を与えたり,子どもに対する虐待や少年の非行の原因の一つとなって現れるなど多方面に影響を与えている。そして貧困の影響が子ども期のみにとどまらず成人に達した後も続き,世代間を通じても影響を及ぼして貧困の連鎖が生じる。この貧困の連鎖は,子どもの将来への希望を奪い,民主主義を阻害し,社会における人材の欠乏をもたらし,社会の活性化の阻害はもとより,社会の維持発展の意欲を失わせるものであって,社会全体にとっても深刻かつ重大な問題といえる。
  3. わが国における貧困の現状
    従来,教育を始めとした子どもの問題は,子ども自身の自覚の問題であるとか,親の責任の範囲であるといわれていた。しかし,他国との比較による数字,あるいは各地方,機関からの報告をみると,以下のとおりこの問題が極めて深刻であって社会全体で取り組まなければならないことがわかる。
    日本の子ども達の貧困を知る上で,経済協力開発機構(OECD)が,基準を定める貧困率がある。OECDは,世帯所得を世帯人員数で調整した値が社会全体の中央値の50パーセントとなるラインを貧困線とし、それ未満の世帯を「貧困」と定義し,各国の貧困率を割り出している。日本政府がこの基準に基づいて算出した日本の子どもの貧困率は14.2パーセント(2007年)であり,これは,子どもの貧困政策の先進国であるといわれるフィンランドやスウェーデン,デンマークといった5パーセント以下の北欧諸国の数字を大きく上回るのはもちろん,他のヨーロッパ諸国の多くや隣国の韓国などよりも高い数字である。しかも,その割合は2004年時の13.7パーセントから増加している状況にある。
    また,日本の「子どもの貧困」問題の特徴に再分配の逆転現象がある。貧困率を考える上で基礎となる世帯所得は,収入から税金と社会保険料を差し引き,児童手当や年金などの社会保障給付を加えた再分配によって変化するところ,OECDの調査によれば,先進国中,唯一日本だけが再分配前よりも再分配後の貧困率が増加している。本年6月より始まった子ども手当の支給により,その逆転現象が解消される可能性もあるが,それのみによって子どもの貧困を根本的に解決するに足る再分配に至るとは言えない。
    さらに,日本の現状を分析してみると,「子どもの貧困」問題の背後に,母子家庭問題,保育所問題,教育費問題,進路問題,高校中退問題,若年親の問題等が見えてくる。 (1) ひとり親世帯
    子どもの貧困率を家族構成別でみると,「両親と子のみの家庭」と「三世代世帯」では11パーセントであるのに対して,父子世帯では19パーセント,母子世帯では66パーセント(厚生労働省「国民生活基礎調査2004年版」)と割合が高い。母子世帯の貧困率は,OECD諸国(30ヶ国)の中でも第2位に位置する。
    さらに問題なのは,母子世帯の母親の就労率が84.5パーセントありながら,貧困率が66パーセントもあるということである。諸外国の貧困が失業を原因としている場合が多いのに比較して,日本では,いわゆるワーキングプアの状態,つまり,働いても貧困から脱出できていないことを示している。女性の平均賃金は男性の66.9パーセント(「2007年度賃金構造基本統計」)であり,1人親世帯,特にその親が女性であった場合に,子どもの貧困の問題が深刻化している。
    また,父子世帯は,所得が高いと思われがちであるが,子育てと仕事を両立させることが困難になって収入が減少するなどの問題が発生する一方で,母子世帯に比べて行政的支援が弱いなどの問題が生じている。
    (2) 保育所問題
    近時,保育所入所のための待機児童の大幅な増加に対して(10年間で20パーセント増)認可外保育所の活用等が進められたが,本来行うべき認可保育所の整備が怠られ,認可保育所は微減から微増(10年間で2.5パーセント)に転じたにとどまっている。「子どもの貧困」対策の観点からすれば,就学前の時点においても,保育の質の確保は非常に重要であるにもかかわらず,その点に対する施策は十分なされていない。
    (3) 低年齢児童,若年親
    子どもの年齢が低いほど貧困率は高く,全体で13.7パーセントであった貧困率が,0〜2歳の子どもでは17.6パーセントとなっている。また,親の年齢が若い場合も子どもの貧困率は高く,父親が20歳〜24歳の子どもの貧困率も48.15パーセントである(国民生活基礎調査2004年版)。これは,若年親の雇用状況(収入)が芳しくない事が理由であるが,若年親の収入が低いことが,子どもが貧困に陥ることの理由となってはならない。
    (4) 学歴格差及び教育について
    ア OECDによるPISA(生徒の到達度の国際的調査)の結果によると,日本の母親の学歴を①初等・前期中等教育層,②後期中等教育層,③高等教育層に3分類し,①初等・前期中等教育層と9眦教育層の読解・数学・科学の点数を比較した場合,親の学歴が子どもの教育水準を大きく左右する傾向を示しており,日本における平均点差はいずれもOECDの平均を上回っている。しかも,2003年と2006年を比較すると,数値はいずれも増加しており,近時その格差は拡大傾向にあることも示されている。もちろん,親の学歴は,子どもに責任のある問題ではない。 イ 貧困の連鎖を断ち切るには,子どもに教育が保障されていなければならないが,日本においては,その障害要因として,各家庭における教育費の負担が大きいという特徴がある。
    2008年度「子どもの学習費調査」によれば,全国における学習費(学校教育費,学校給食費,学校外活動費)は,公立高校でも51万6186円,私立高校では98万0851円にもなっている。OECD(30ヶ国中)の調査諸国の中には,大学教育を無償としている国が15か国ある中で,高校が無償でないのは,日本を含めた4か国のみであった。
    近時,ようやく公立高校の授業料が無償化となることで,多少の改善が期待されることとなったが,諸外国に比較して教育,ひいては「子どもの貧困」問題に対する認識が十分でなかったことは疑いがなく,無償となる範囲についても,十分であるかはなお議論のあるところである。
    日本は,アメリカ等と並んで高等教育の学費が極めて高いうえに,奨学金制度は大部分が無償の供与ではなく貸付であるなど,使い勝手が悪く利用率の低い制度となっており,貧困の連鎖を断ち切る有用な手段となり得ていない。
  4. 北海道の現状
    (1) 母子家庭
    北海道においては,母子家庭の「子どもの貧困」問題はより深刻である。2007年の札幌母子寡婦福祉連合会の調査では,80パーセントの母親が就労しているが,その69パーセントが非正規雇用である。2003年の同様の調査では59パーセントが非正規雇用であり,その割合は増加している。道内の母子家庭世帯の平均収入は,全国平均よりも少なく,100万円から200万円の世帯が最も多く,200万円以下の世帯が70パーセントを占めている。全国の子どものいる世帯の年収718万円(国民生活基礎調査2006年)に比べると,かなり低い年収である。
    (2) 教育について
    道内には全日制の公立高校が208校,私立高校が53校設置されている(2010年5月1日現在)。私立高校に進学する生徒の中には,学力やいじめが原因で公立高校に進学できず,経済的余裕はなくても私立を選択せざるを得なかった生徒も多くいる。
    そのような中では,当然,数多くの経済的な理由による授業料の滞納,中退の問題が発生することになる。
    全国私立学校教職員組合連合の2010年の調査によれば,道内の9校の回答だけでも,経済的な理由で,授業料を3ヶ月以上滞納している者が94名(全体の1.54パーセント),中途退学者13名,修学旅行に参加できなかった生徒が36名いたと報告されている。全国の経済的理由による退学率は0.09パーセントであるのに対して,北海道の退学率は0.22パーセントと高い割合を示した。実際,道内において,授業料未納のために卒業式に出席ができないとされた子どもが卒業式当日,親の雇用保険の給付金を持参して卒業式に出席した事例などが報告されている。また,企業の採用面接に行く交通費もない,免許取得費用を捻出できないため近時増加している運転免許保有を条件とする企業の受験のチャンスさえないなどの事例が報告されるなど,高校卒業後の就職にも影響を与えている。
    本年4月から授業料については私立高校生にも就学支援金が支給されることになり,道も年収250万円未満の家庭については私学でも授業料が無償になるように一定の対応は取られつつある。しかし,それでも,年収が350万円以上の家庭を例にとると授業料の公私間格差は年間24万円もあり,家計に与える影響には大きな差がある。
  5. 対策
    「子どもの貧困」問題については親や子どもの自己責任を問う声が依然として存在する。しかし,「子どもの貧困」は社会全体の問題であり,親や子どもの自己責任で片付けられるものではなく,社会制度や政策によって,根本的な構造から解決していかなければならないものである。
    そこで,次のような対策を検討し実施すべきであると考える。 (1) 多角的かつ広範囲な調査の実施
    近年,ようやく我が国においても「子どもの貧困」が重要な課題として認識されつつある。しかし,具体的な統計資料はまだ少なく,国及び地方自治体が早急に多角的かつ広範囲な調査・分析を行い,「子どもの貧困」の実態や原因を把握する必要がある。
    (2) 包括的な施策の実施
    「子どもの貧困」は,出生から経済的自立までのあらゆる段階,あらゆる分野で問題となることから,以下のような施策を含め,国及び地方自治体が包括的かつ総合的な政策を実施する必要がある。 ア 子育て世帯に対し,給付による所得移転のみならず,税制優遇や社会保険料の減免も含め,実効的な所得再分配政策を構築すること。 イ 母子家庭を中心とするひとり親世帯に対する多方面にわたる支援を強化すること。 ウ 保育の質を確保しつつ量的な拡大を進め,無償化を含めた保育料の負担軽減を図ること。 エ 真に格差を是正するため,授業料以外の教育関連費用を含めた負担軽減を図ること。また,無償の奨学金制度や就学援助の拡大を含め,子どもが無理なく大学進学を選択できるよう支援を強化すること。 オ 就労期の子どもに対しても,職業訓練費や就職活動費の支援を行うこと。 カ 「子どもの貧困」問題に取り組むための専門チームを作り,緊急対策を検討するとともに,長期的な施策についても検討すること。
    (3) 利用しやすい政策の必要性
    貧困に苦しむ親や子どもは,日々の生活に疲弊している上,情報弱者である場合が多い。また,親や身近な大人による援助が期待できない子どもも存在する。そのため,政策へのアクセスが容易であることは重要である。したがって,各種政策を各関係機関に周知徹底すると共に,親や子どもにとって身近な相談窓口を設け,たらい回しにされることなくワンストップで各種政策にアクセスできる相談支援体制を構築する必要がある。
  6. 当連合会は,2006年釧路市で開催された日本弁護士連合会第49回人権擁護大会で生活保護を中心として貧困問題に取り組み,本年5月に札幌弁護士会は「子どもの育ちと貧困を考えるパート供廚搬蠅靴董∨槐7月に釧路弁護士会は「子どもたちの夢や希望は平等〜貧困の連鎖を断つ〜」と題して、それぞれ市民参加のプレシンポジウムを開催する等、「子どもの貧困」問題に対する取り組みをはじめた。
    「子どもの貧困」問題は,親や子どもの自己責任を問うものでなはく,子どもの成長・発達権の侵害の問題であるとともに,社会全体に危機をもたらす問題である。
    弁護士及び弁護士会は,今後も,「子どもの貧困」の問題性を真摯に受け止めて研究,研鑽し,子どもの貧困の連鎖を断ち切るべく国や地方自治体に対しすべての子どもが健やかに成長・発達できる社会を実現するための諸政策の実施を求めるとともに,子どもがそのライフステージ全般にわたって適時に適切な援助を得ることができるように,諸団体及び他機関との連携を強化しながら相談及び支援体制を充実させて一層の活動をすることを決意するものである。

以 上

このページのトップへ