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道弁連大会

議案第3号(決議)

4会共同提案

国選弁護に対する報酬の大幅増額を求める決議

決議の趣旨

憲法第34条、第37条第3項は、弁護人依頼権を国民の基本的人権として定めている。この権利は、単に個々の被疑者・被告人の人権であるということにとどまらず、これまでの長い歴史の反省に立ち、国民が将来にわたって、国家権力、特に捜査機関等からの権利侵害を受けることを排除すべく、憲法第31条に定める適正手続の保障という崇高な理念の一環として定められたものである。特に、第37条第3項後段は、被告人が自ら弁護人を依頼できない場合には国がこれを付すとして、国選弁護制度を定め、弁護人依頼権を実質的に保障している。

我々の刑事弁護活動は、この国民の基本的人権を実質化する活動であり、我が国の刑事司法に欠くことのできない重要な要素となっている。そして、国選弁護事件は刑事事件の圧倒的多数を占めることから、国選弁護人の役割こそが、我々の刑事弁護活動の中心的活動となっているのである。

我々は、これまでこの国民の基本的人権及びこれを支える崇高な理念に奉仕する刑事弁護活動に、弁護士としての責任と誇りを持ってきたし、今後とも全うしていく覚悟である。

しかし、このような弁護人依頼権という国民の極めて重要な基本的人権のための活動の中心に位置する国選弁護に対する報酬は、余りに低額であるため弁護士の業務として成り立っていないのが現状である。

刑事司法は、今、激動の制度改革の最中にあり、この制度改革の中で弁護人の役割が大きく変化し、これに伴って刑事弁護活動の中核である国選弁護制度を支える弁護士の責任と負担が飛躍的に増大することが確実である。

我々は、このような国選弁護活動の持つ国民の基本的人権の実質化という重要な責務及び刑事司法制度改革に伴う弁護人の責任と負担の大幅な増加に照らし、国選弁護に対する報酬が、これを担う法律専門職者たる弁護士の業務に対する正当な対価といえる程度に、大幅に増額されるよう強く求める。

決議の理由

  1. 我々は、国選弁護に対する報酬及び費用(以下「国選弁護報酬」という)が低額であるとして、これまで数度に渡って決議を挙げて来た。しかし、昨年10月から国選弁護事務が日本司法支援センターに移行した後の国選弁護報酬は、少なくとも通常事件においては明らかに引き下げられており、法律専門職者たる弁護士に対する報酬としては余りに低すぎるといわざるを得ない。
  2. ことに、新たな制度として2005年11月から公判前整理手続きが導入されたが、2009年からはいよいよ裁判員制度が実施されることになる。同制度が実施されると、裁判員の負担を軽減するとの理由から、集中審理をはじめとする迅速化の要請が色濃く打ち出されることになる。この結果、弁護人の業務の密度を飛躍的に濃くすることとなり、それだけ弁護人の負担が増大することを意味する。
    また、2009年10月からは、被疑者国選弁護の対象事件が必要的弁護事件に拡大することから、弁護士業務に国選弁護が占める割合は急増することが予想され、その負担は弁護士の肩に一層重くのしかかってくる。
    さらに、先の国会では2008年末までに犯罪被害者の訴訟参加や損害賠償命令制度が導入されることになり、弁護人としての公判活動に一層の負担と困難を伴うことは容易に予想されるところである。
  3. 我々弁護士は、刑事被疑者・被告人に対する弁護活動が、国民の基本的人権擁護という弁護士の本質的役割の重要な要素であることを強く自覚すると同時に、かかる役割を担えることに弁護士としての誇りを持っている。
    即ち、弁護人は、個別の被疑者・被告人の事件においては、無辜の不処罰を実現し、間違っても無実の者が有罪判決を受けることがないように、また罪を認める者との関係では、他方で被告人に対して真の反省を促すなど再犯の防止に努めつつ、有利な情状を有効適切に示すことで、適正な量刑判断を求めるなどの任務を負う。それと同時に弁護人は、当該被疑者・被告人に対する最善の弁護活動を通じて、違法捜査の抑止と適正な手続による裁判という将来の国民に対して正当な刑事手続を確保するという普遍的な価値を実現するための任務を負っている。
    日本国憲法は、長い歴史の中で、国家権力、特に捜査機関による人権侵害とそれに伴う誤判が繰り返されてきたことへの強い反省から、人間の叡智を傾け、第34条、同37条第3項に弁護人依頼権を規定するとともに、刑事訴訟法においても、憲法を具体化するべく様々な部分での弁護人の役割を規定したのである。
    そして、これら弁護人の任務は、基本的には弁護士以外の者が就任することは認められておらず、弁護士固有の任務とされているのである。
    我々は、被告人や国民の憲法上の基本的人権や刑事訴訟法上の重要な権利を実効性あるものとさせる役割を全て委ねられる地位にあることを誇りに思うと同時に、その重い責任を全うする決意を有してきたし、将来においても、弁護人の任務が如何に過酷になろうとも、これまでと同様に担い続けていきたいと考えている。
    このため、裁判員制度に関し、これまでの弁護活動のあり方を根本的に見直すべく、各単位会においても研究及び研修を重ねており、また被疑者国選対象事件拡大に対する体制作りに全力を傾注しているところである。
  4. しかし、このような重要でかつ負担の大きい国選弁護報酬が余りにも低額であることはいまさら述べるまでもない。当連合会は、これまでも数度にわたり、その増額を求めてきたところである。
    ところが、昨年10月に、国選事務が日本司法支援センターに移行した後の国選弁護報酬は、少なくとも、通常事件決(第2回公判で判決言い渡し)においては、明らかに低くなっている(地裁事件 裁判所基準82,845円+日当6,000円、法テラス基準73,000円=岡山弁護士会調べ。しかも、法テラス基準では、200枚までの謄写費用が含まれている。)。
    これまでの裁判所基準ですら、低額であることが明白であったが、弁護活動が濃密になり、弁護人の負担が一層重くなってきているにも関わらず、20%近い大幅な減額の下で、我々は国選弁護を行っているのである。
    この低額化は、被疑者国選から引き続き被告人国選まで行った場合も全く変わることはない。被疑者国選から引き続き被告人国選まで行った場合の、標準モデル事件における国選弁護報酬は142,000円であり、従来から存在する被疑者援助+従来の被告人国選報酬と比較すると、単位会によって上乗せされる被疑者援助金額相当がほぼそのまま減少する。このため、結果において、重い犯罪である被疑者国選対象事件の報酬が、軽微な犯罪である被疑者国選非対象事件よりも低額であるという歪な結果を生じている。
  5. 我が国の国選弁護報酬額が低額であることは、欧米各国等の国選弁護報酬と比較しても明らかである。
    日弁連の調査に基づき各国の国選弁護報酬を比較すると、標準モデル事件においては、日本142,000円、アメリカ(連邦)377,300円、アメリカ(ニューヨーク州)314,440円、英国333,085円、カナダ313,180円、オーストラリア242,048円となっている。
    これを時給換算で比較すると、日本4,057円、アメリカ(連邦)10,780円、アメリカ(ニューヨーク州)8,984円、英国11,113円〜14,774円、カナダ7,954円〜9,943円である。
    もちろん、各国によって刑事法制度が異なることから、単純な比較はできないものの、概ね各国とも弁護活動に要する時間は大差がないようであることなどから、我が国の国選弁護報酬の低さは際だっていることは間違いない。
  6. さらに、我が国の国選弁護報酬には、単に報酬額が低額であるというだけでなく、多くの問題が存する。
    すなわち国選弁護に関する費用関係では、(1)謄写費用が200枚までは不支給、(2)私的鑑定費用が支払われない、(3)証人や鑑定人などとの打合せなどの調査費用が支払われないほか、(4)遠距離交通費も不十分である。
    国選弁護報酬の体系に関しては、(1)不起訴、起訴猶予、認定落ち、無罪、執行猶予などについて特別成果加算がない、(2)被疑者段階での接見報酬が一定回数を超えると付加されず、被告人段階では接見報酬がない、(3)捜査官との面談・交渉が報酬対象にならない、(4)被疑者から被告人までを継続受任すると報酬が減額されるなどの問題がある。いずれも、弁護人としての実際の弁護活動に鑑みれば、承服しがたい問題である。
  7. 冒頭に述べたように、今後の刑事弁護活動は、一層かつ飛躍的にその負担の増加が必至である。にもかかわらず、基本となる国選弁護報酬がこれほど低額である中で、誠実な弁護活動を行おうとすれば、確実に採算を割り込むことは明かである。
    国選弁護人の制度が、国民にとって必須の制度でありながら、これを担う弁護士に対する報酬が適正を欠くということは、国家の制度としての不完全性を意味すると言わざるをえない。
    また、2009年10月から、被疑者国選対象事件が必要的弁護事件に拡大し、重要事件は裁判員裁判となる。これら制度改革は、圧倒的多数の弁護士の参加によって初めて達成しうるものである。我々弁護士は、弁護人としての任務を誇りに思うと同時に、引き続き、この任務を担い続けていきたいと考えている。しかし、弁護士は基本的に自営業者であって、一方で事務所経営を確保することが大前提となっている。そうである以上全く採算の合わない国選事件を多数受任することが求められるとするならば、高い志を持つにもかかわらず国選弁護の舞台から退く決断をせざるを得ない弁護士が少なからず生ずる危険がある。その場合、当連合会を構成する各単位会において、国選弁護を完全に遂行することができないという事態に陥りかねない。このようなことは絶対にあってはならない。
  8. 繰り返しになるが、我々は、刑事事件における弁護人の意義を十分に理解しているし、その任務に誇りを持っており、全力を挙げて国選弁護活動を行っていくことに強い使命感を持っている。我々が求めているのは、過分な報酬ではなく、費やした時間と労力にふさわしい報酬を求めているに過ぎない。大規模な刑事司法の変革は、国民のためにあるはずである。そうであれば、国は、かかる制度を担う弁護士に対し、正当な報酬は惜しむべきではない。
    そこで、我々は、国民の基本的人権に資する法律専門職者たる弁護人の業務に対する正当な対価といえる程度まで、国選弁護報酬が大幅に増額されるよう強く求めるものである。

以 上

2007(平成19)年7月27日

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